ゆうくんとノンノ
ゆうくんは3才の男の子。
ゆうくんには大事な大事な、たからものがあります。
川のちかくでひろった、まるくてぴかぴかの石?
こうえんでひろった、キラキラしてきれいなトンボのはね?
ううん、それもすてきなたからものだけど。
そんなたからものたちをひろったときも、いつもいっしょにいたノンノがいちばん大事なたからものです。
ノンノは、ちゃ色のあったかくてやわらかくって……ちょっとヨレヨレの毛布。
ゆうくんがあかちゃんのころから、ねんねするときにつかっていた毛布です。
ゆうくんが「ねんね」をうまくいえないかったときに「のんの」っていったからなのか、いつのまにかその毛布は「ノンノ」とよばれるようになりました。
ゆうくんはいつもノンノといっしょ。ねているときも、ねていないときも。
どこにいくのにもノンノをつれていこうとするので、ゆうくんにひきずられてばかりいたノンノは、あちこちがボロボロで穴もあいています。
「もうノンノはサヨナラしようか。あたらしい毛布をかってあげるから」
パパやママにそういわれても、ゆうくんは首をふっていいます。
「ぜったいに、だめ! ノンノはサヨナラしちゃだめ!」
だってヨレヨレなノンノをなでると、とってもスベスベでやわらかくって、ゆうくんは安心するんです。あたらしい毛布なんていりません。
◆◇◆
ある日、しょうこおばちゃんがゆうくんの家にあそびにきました。
しょうこおばちゃんは、チョコちゃんという犬をかっています。今日はそのチョコちゃんもつれてきました。
「ほら、ゆうくん、ワンワンよ」
「こわくないからなでてごらん」
ふわふわで黒い目がかわいいチョコちゃん。ゆうくんはちょっとだけ、チョコちゃんにさわってみたかったのですが、ちかづいてみると……やっぱり、こわい!
ゆうくんは、ノンノをギュッとにぎりしめ、はしってママの後ろにもどろうとしました。
ひきずられたノンノは、チョコちゃんのまえでひらひらとゆれます。
チョコちゃんはそれを見て、ゆうくんがあそんでくれるのかとかんちがいをしました。
「わふっ」
「あっ!」
チョコちゃんはノンノをつかまえました。パクりとかみつき、まえあしのツメはノンノのボロボロの穴にひっかかっています。
「やめてっ!」
あわてたゆうくんがノンノをつよくひっぱると、
びりっ! びびーーーーっ!!
大きなおとがしてやぶれてしまいました。
「……」
ゆうくんは、手の中のノンノを見つめます。なんど見てもまっぷたつになっています。ゆうくんの目からなみだがこぼれました。
「わあああーーーー!! ノンノがしんじゃったーーーー!!!」
ゆうくんは大ごえで泣きました。ママもパパも、しょうこおばちゃんもあやまったりなぐさめたりしましたが、なみだはとまりません。
たくさんたくさん、しゃっくりがとまらなくなるまで泣きました。
◆◇◆
次の日のあさ。
ゆうくんはめがさめるとあわてました。
「ノンノがいない!」
どこをさがしてもノンノがいません。きのうの夜は、ふたつになったノンノをぎゅっとだきしめて泣きながらねたのに。
パパがいいました。
「もうノンノはしんじゃったからサヨウナラだよ」
「ウソだよ! ノンノはしんでないもん!!」
ゆうくんの目から、またなみだがこぼれてしまいます。
「パパもママも、おばちゃんもわんわんも、みんなみんな大きらい!! ノンノをかえしてー!!」
ママはこまったかおをしてだまっていましたが、しばらくしていいました。
「ごめんね、ゆうくん。そうだねノンノはしんでないよ。でも大ケガをしちゃったから、びょういんにいったんだよ」
「びょういん!?」
びょういんはこわいところです。だってとってもいたいちゅうしゃをしたり、にがいおくすりをのんで下さいっていわれたりするからです。
ゆうくんは、自分がびょういんにいくような気もちになってこわくなりました。
「そうよ。このままじゃしんじゃうから、しゅじゅつとにゅういんをしてるのよ」
「しゅじゅつ……?」
しゅじゅつってなんのことかわからないけど、きっととてもいたくってこわいことのような気がします。
「ノンノもがんばってるから、ゆうくんもがんばってノンノがかえってくるまでまとうね」
「……うん……」
ゆうくんは、なんだか不安になりました。だって。
「おい、ママ……」
「しっ」
パパとママが、ゆうくんのほうを見ながらこそこそばなしをしていたからです。
◆◇◆
それから何日もゆうくんはまちました。
ノンノがいないと夜は安心してねむれません。ゆうくんはママにくっついてなんどもききました。
「明日、ノンノはかえってくる?」
「もうちょっとまとうね」
ママはいつもそういうだけです。
ゆうくんは、ママはほんとうのことをいっているのかなと思いました。でも、ママのことを信じないとノンノはかえってこない気がします。
「……うん、ぼく、いいこでまってるよ」
◆◇◆
ある日の夜。
ゆうくんはゆめを見ました。
「あ! ノンノ!」
ゆめのなかのノンノはやぶれていません。もとどおりの、スベスベしていてやわらかい毛布です。
「しゅじゅつ、おわったんだね! よかったねぇ!」
ゆうくんはうれしくなってノンノにくるまりました。でも。
「わふっ」
「あっ!」
気がつくと、よこにチョコちゃんがいてノンノにかみついていました。
「やだ! やめて! わんわん大きらい!!」
ゆうくんは泣いてチョコちゃんからにげようとしました。
「ゆうくん、そんなこといわないで」
「えっ?」
ゆうくんにやさしいこえがきこえました。そのこえは……
「ノンノ?」
ノンノがしゃべっています。ゆうくんはとてもビックリしました。
「ゆうくん、わんわんはあそんでほしいだけなんだ。ぼくとあそぶみたいにわんわんとあそんであげて」
「どうやって?」
「いつもぼくにやってるみたいに、なでてあげればいいんだよ。わんわんのあたまとか、せなかとか」
ゆうくんはちょっとこわかったけれど、ゆうきをだしてチョコちゃんのあたまをなでました。チョコちゃんはうれしそうにしっぽをふります。
「わあ、スベスベだ! ノンノみたい!」
「ゆうくん、もうわんわんはこわくないね?」
「うん!」
ゆうくんはゆめのなかでにっこりしました。
◆◇◆
「あれ?」
ゆうくんのめがさめると、手の中にはノンノはいませんでした。ガッカリしてまた泣きそうになるゆうくん。
でも、おへやにパパとママがはいってきました。大きなハコをもっています。
「ゆうくん、おはよう!」
「ハコをあけてみて」
ゆうくんがハコをあけると、中には犬のぬいぐるみがはいっていました。ちゃ色で、ちょっとチョコちゃんににています。
ゆうくんはぬいぐるみをさわってビックリしました。だってとってもスベスベして、やわらかかったんです。
「これ、ノンノだ!!」
パパとママがいいました。
「ごめんねゆうくん。もうノンノはボロボロだったから、毛布にはもどせなかったんだ」
「だからしゅじゅつして、ぬいぐるみにしてもらったのよ」
「いいよ! ぼく、わんわん大すきだもん!」
「おや、そうか」
パパとママはホッとしました。ゆうくんはぬいぐるみをギュっとだきしめます。
ゆうくんの大事な大事な、たからもののノンノ。
ちょっとかたちはかわってしまったけれど、毛布のときとおんなじ、スベスベして安心するノンノです。それにもう、どこかにつれていくときにもひきずるしんぱいもありません。
「これからも、ずっといっしょだね!」
ゆうくんはゆめのなかでしたみたいに、ノンノのあたまをなでて、そしてにっこりしました。
お読み頂き、ありがとうございました!