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転生魔王の国家建国!  作者: 日暮悠一
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荒野の正体

ルクスが転生を果たした荒野より更に北。

どこなのかも分からない暗闇の中に、複数の人影があった。


一人は黒いフードを目深に被っており、顔はおろかマントで身体の一部すら見ることができない。

音も無く、滑るように黒フードは移動し、下げられた椅子に腰を下ろした。


その円卓に座っているのは四人。

白い髪の男に紫髪の女、それに仮面をつけた人物である。

今の黒フードで招待された人数は満たしたらしく、何でできているのかも分からない巨大な扉が閉まり中にはその四人だけが残される。


重苦しい空気が部屋の内部を満たす中、白い髪の男が口を開く。


「クライアの奴は来てないのかよ?まあ仕方ないか....」

「........メルビアナは呼んでないの?」


それを無視して紫髪の女が発言し、場の雰囲気は緩和される。黒フードと仮面を付けた人物は無言を貫いたままだ。


「ああ?アイツなんざ呼んだら俺の食糧庫が空っぽになっちまうだろうが.......って来てない奴らの事はどうでもいいんだよ。それで?ジートルデ、今回収集をかけたのはお前だろ。何を議論するつもりだ?」


メルビアナという者が来ていないことに落ち込む紫髪をスルーし、この会合の真意を問う。円卓に集まった全員の視線が仮面の人物に集まるも、当の本人はたじろいだ様子も見せない。


「我が師、アルシオンについての事だ。数週間前、第二世界ーー精神世界に滞留していた彼の残留思念が跡形も無く消滅した」


この話を知っていたのか、これを聞いて驚く者は一人もいなかった。その反応が彼らの情報収集能力の高さを物語っている。


「私が精神世界へ干渉する方法を知る研究をしていたことは知っているだろう。アレは自然消滅するほど生易しい物ではない。誰か、消滅に関する情報を持っている者はいないか?」


その声にはここに来てから初めて、感情が乗っていた。焦燥、というよりは怒りの感情。自分が探し求めていたアルシオンの精神へと語りかける方法を見つけていた者、いや、彼を消滅に至らしめた者への怒りがそこにはある。


「あの残留思念が消滅したのは確かに知っている。だが、それが何者かによって為された事だと?」

「ああ、間違いない。詳しい根拠は言えないが絶対だ」


白髪の男がそう質問するも、ジートルデと呼ばれた人物はそれに即答する。まるでそれが予定されていた回答だというように。


「ふむ.....悪いが、俺は何も知らないな。なにせ今他者による出来事だと知ったんだ。お前はどうだ?ゼナ」

「.........私も知らない。でも今まで怪しい反応は無かった」

「.....っそうか、ならいい。次の議題に行こう、ヴィクトル」


二人の回答は全て真実である。

そう分かっているからこそクランセルは引き下がった。ここで食い下がっても、望んだ答えは得られない。ヴィクトルは下らない嘘は吐かないし、ゼナはそもそも虚偽を述べない。

自分の思いを無闇に吐露するほど、クランセルは未熟者ではないのだ。


「オーケー、ならまずは聖光教会の件についてーー」


その会合が終わるまで、ついぞ黒いフードの人物は一言も発することは無かった。











俺が儲けた期間は一週間。


現実的な数字ではないが、ここで重要なのは確実さではなく意外性だと判断した。

彼らの信用を得るために、俺はこの一週間を全力で過ごさなければならない。


寝る間も惜しんでーー睡眠は必要ないが、俺は魔物を探すことと自分の能力を高めることに専念する。

遊びじゃ済まされないし、これが魔族の運命を左右すると言っても過言じゃないのだ。


だからと言って時が過ぎるのが遅くなるわけでもなく、刻一刻と時間は無くなっていった。






そして来たる一週間後。


俺がいるのはゴブリン達の集落から少しの場所。

ゴブリンから俺が啖呵を切ったことを聞きつけたのか、オークの姿も見える。

群れの中から、一体のオークが俺の前に現れた。それはあの時、俺に命を差し出したオーク。ここに来ていたとは驚きだ。

まあ食料問題を解決するなんて言えばオークの方も無視はできないってことか。


「おヒさしブリでス。オークの長 アイグと申しマス、どうカお見知りオきヲ」


お前、長だったのかよ!

だからあの時話しかけてきたのか。でも子供を守るために自分の命を差し出すなんて、普通に良いリーダーだよな。仲間からも慕われているようだし、俺もぜひ仲良くしたい所ではある。


「ああ、俺はルクスという。こちらこそよろしく」


こういう時に大事なのは笑顔だ。

笑顔とは恐ろしいもので、使える奴が使えば無敵の武器となり得る。ニコリと笑えば警戒心を解けるし、一緒に笑えば共感を得られる。笑顔とは自分が友好的だということを示す方法なのだ。

なので俺も早速実践、ニコッ!


「はイ、よろシクお願いしマス。それデ、ルクス殿はこれカラ何をするオツもリで?」


スルーされた。あれ?おかしいな....。


「ん?それは見てからのお楽しみ、だな。もしかしたらお前らにも手伝ってもらうことになるかもしれん」


あ、でも内容知らないのに手伝えとか無理な話か。ゴブリンの方からは協力を取り付けてあるけど、オークの方はちょっと欲張りだったかな。


「.........もシ、ルクス殿を手伝ウことにヨッテ飢餓を防ゲるのならば、我々は全面的に協力シマしょウ」


やはり、今の状況は馬鹿にならない。俺みたいなポッと出の怪しい奴にも頼らざるを得ない所まで追い込まれている。

失敗したらどうしよう、なんて考えている場合ではないようだ。何としてでも成功させなければならない。


「その返事が聞けて良かった。いざという時は頼むよ」

「ハ、もちロンでゴざいまス」


うん、これで準備は万端。あとは彼ら全員が納得できるように説明しながら原因を取り除くだけだ。

ここまでくれば腹は決まった。いざとなれば俺一人だけでも成し遂げて見せるさ。元よりそのつもりだ。


俺はゴブリン、オークが集まったところで岩の上に登って声を張り上げる。


「俺は今からこの荒野で、植物が育つようにしてみせる!そうすれば、食料問題、ひいては種族間の諍いも収まるだろう!だから、そこで見ていろ!この荒野を作り出した全ての元凶を!」


やば、手汗が止まらない。俺は元々発表とか得意なタイプじゃないんだよ。めちゃくちゃ緊張した.....。

もう二度とやりたくはない。でもエラルガに頼まれたからな。出来れば意思表明をして彼らを安心させてやって欲しい、と。

俺一人だったら絶対にやらなかった。


さて、ここまでやったんだ。

後には引けない。全力を尽くすのみ、かな。


食料問題にもパッと思いつく解決方法は二つある。

魔物を狩るのと、食べられる植物を育てることだ。魔物を狩るのにはゴブリンだけでは戦力が足りないし、オークだって無傷では済まない。

だからといって彼らを鍛えるのにも時間がかかり過ぎる。訓練が終わる頃には絶滅してるんじゃなかろうか。

つまり、今現在可能なのは植物の栽培だけということになるのだ。


まず、俺は地面に手をつけ、土魔法を唱える。

唱えるとは言っても詠唱なんてしないけど。だってあれ恥ずかしいじゃん。いい大人が「火よ!」とか言ってんのマジでやばいから。


土を変形させようとするも、手に変な感触があるだけでどれだけ魔力を流し込んでも結果は出なかった。

やっぱりこれが反魔力反応か。

注入したそばから魔力が別の物に吸い取られている。恐らく、エラルガ達が作物にやった栄養分もソレに吸い取られたのだろう。だからこの地では植物が育たないのだ。


だから、俺は更に魔力を込めた。

この一週間で魔力は完璧に操れるようになり、【魔力操作】【魔力感知】というスキルまで手に入れた。

それらを全力で発動し、持てる魔力を注ぎ込んでいく。


俺はエラルガに植物が育たないという話を聞いた時から、この地面に目をつけていた。

だが、成分的には恐らく何の問題もこの土自体には存在しない。これはいたって普通の乾燥した土でしかないのだ。


ならば何が問題なのか?

俺は考えた。自然的な問題でないのならば、考えられるのは魔物の影響。俺は転生前、アルシオンからいくつかの魔物の話を聞いていた。ただの興味本意だったのだが、その中でこの現象を引き起こせるものがいた事に気づいたのだ。


そこらの土が隆起し、地面が揺れる。

段々とそれは強まっていき、ゴブリン達は立っているのも難しくなって来た時——


ソイツは姿を現した。


空高く伸びたミミズのような身体。顔と呼べるような部位はなく、唯一牙の連なった口が確認できるくらいだ。


「やっと出て来たか。これが、荒野の正体だ!」


その名はサンドワーム。

地中に住まう帝王が、遂に姿を表したのだった。

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