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分からないシリーズ

俺は彼女が分からない

作者: 水鳥聖子

俺の彼女は良く寝る。朝待ち合わせ場所に行くと、基本電柱に寄りかかって寝ている。


通学中もフラフラしている。授業中も寝ている。


お昼時間、お弁当を食べながら、気付けば俺の肩に寄りかかって寝ている。


放課後、机に突っ伏して寝ている。


学校が終わり、俺の家に彼女を連れて来て、一緒に居るし、気分が高まってそのままやっちゃうこともあるけど、そんな行為の最中でも普通に寝ている。


おかげでいつも睡姦になってしまう。何かに目覚めさせようとしてる?


いわく「気持ちよくって寝ちゃってた」らしい。俺との行為はひなたぼっこかよ。


本当に俺のことが好きなのか疑問に思う事もあったけど、毎日一緒にお弁当を食べる為に作ってくれている。


ちなみにテストの成績はなぜか常に上位をキープしている。寝ているのに。


俺の横で寝るのが、何処で寝るよりも気持ちが良いらしい。俺は枕か抱き枕なのだろうか。


付き合って、彼女になってから早くも3カ月。


多分起きている時間で言えば、1週間満たって居るかは分からない。声も寝言を聞いていることの方が多い気がする。


「もっと甘えて欲しい」


そんなことを言ったら、なぜか頭を撫でられた。


違う、俺が甘えたいんじゃないくて、お前に甘えられたいんだけど……。


そんな彼女に「そんな無防備だったら、俺がお前を襲ったらどうするんだ?」とも聞いた事ある。


「………? いや、他の男の人ならともかく、彼氏が彼女とやりたいの普通じゃない?」


と正論を返された。


と言うか、それを普通と思っているなら、頼むからもう少し起きてくれよ、とも思う。


それに加えて「もう少し起きてくれないなら、別れちゃうかも?」って言った事がある。


「それはない。私は貴方が好きすぎだし、貴方も私が好きすぎるから」と返された。その時のとろんとした表情は寝起きの表情にしても色っぽくて、俺は顔を真っ赤にして顔を背けてしまう。


どうやら彼女には分かっているらしくて、しばらく別れられそうにない。


別れる気も無いけれども。


そんなこんなで、だからこそ俺と彼女の想い出日記はコピペで何も記載が出来ない。


ねむるって名前、可愛いけど、そんなに名は体を表さなくても良いんじゃないのか?」

「寝る子は育つって言うし、実際育ってるじゃん?」

「寝る子は育つ……」

「んふふ、えっちだなー」


視線が彼女の胸元に行くことに、直ぐに指摘される。


身長は160cm超え、胸囲は一般女子生徒よりもある。


ブレザーというそこそこ厚みのある服の上からでも分かるその主張、何度か触ったこともあるがよく育ってくれている。


基本的に彼女は寛大だ。彼女が怒っているところは見たことが無い。


勿論、安眠を妨害されて拗ねている所は何度も見ているが。


「眠って、どう言う時に怒るの?」

「怒らせたいのかなー?」

「そうじゃないけど、あんまり怒っているところ、見た事無いなと思って」

「まー、怒るの疲れるし、私を怒らせる人も居ないしね~。基本的に寝てるし」


確かに眠を怒らせるのは起きているのが前提条件になる中で難しいかも知れない。


合わせて恥ずかしがる姿も見た事無い。と言うか、表情は今の表情と寝顔以外は見た事が無いかも知れない。


「デート中も基本的に寝てるしなー」

「君が寝かせてくれるからね~」

「………」


そんな時、俺は面白い事を思い付いて、一先ず別れた。あ、帰り道を別れたって意味で、彼氏彼女として別れたわけじゃない。


いつもの帰り道、俺は買い物があると言って眠と別れようとする。


案の定、眠気眼をこすりながら一緒に来てくれる。そんな眠と夕飯用の買い物をしていると。


「偶然だね! お買い物? 私もー!!」


と別の学校の制服を纏った女子にばったり出会い、俺の左側から猛烈スキンシップを行って来る。


自ら胸を腕に押し当てたり、腕を組んで一緒に商品を見たり、傍から見ればどっちが彼女か分からない。


これは嫉妬をするだろう。もしかしたら喧嘩になるかも知れない。


おいおい、俺で争わないでくれ。


「仲良さそうだね~」

「え? あぁ、まぁな」

「仲とっても良いですよ! ね~!!」

「ふ~ん?」

「あ、もしかして彼女さんでした!? 私空気読めなくて、ごめんなさ~い!」

「いや~、仲が良くて良いと思うよ~?」


お、これは嫉妬しているのか? 


表情や言葉の端々からは全く感情が読み取れない。


……うん、嫉妬のかけらも感じられないんだけど、どゆこと?


「眠、勘違いしてるかもだけどな?」

「え~? もうネタバラシ~? 別に、怒ってないけど」

「それはそれでどうなの? 嫉妬しないの? え、眠って俺の彼女だよね?」

「ここで怒ったら、これから私の義妹さんになるのに失礼でしょ~」

「え、義妹って、気付いてたの?」

「はい、逆ドッキリ~。彼女が側に居るのに問答無用で来るから、狙ってる人かなとも一瞬思ったけど、そこまでのスキンシップして付き合ってないの逆に不自然だし~、それに名前も呼んでなかったしね~」

「相変わらず洞察力凄いな……。いや、もしかしたら俺中学でモテモテだったかもしれないじゃん」

「中学でモテモテなのに、私を選んでくれたんなら~、それはもう正妻の余裕だよね~」


彼女の事が何一つ分からないけれども、彼女は俺のことが何一つ分かっているようだ。




高校2年の春。教室の入れ替えがあって、隣の席が眠だった。


それが彼女の常なのだが、初めて彼女が隣の席で眠っている姿を見て、俺は彼女にブランケットを掛けてあげていた。


あとは、翌日には電池式の加湿器。家で余っているものを持って来ただけだが、なんだか彼女のことが気になって仕方が無かった。


その時は普通にお礼をされたし、普通の会話しかしないけど、それでも妙に彼女の事が気になって世話を焼いてしまっていた。


お昼の時にも寝ていることが多かったから、寝起きでも食べれる様にサンドイッチを置いてたし、勉強に関しては眠の方が上だから力に成れなかったけど、そんな日々がゴールデンウィークまで続いた。


「いやー、君って私のこと、よく面倒見てくれるよね~。どうして?」

「理由なんか無ぇよ。ただ、気になって」

「気になる?」

「……それに、いつも寝顔見せてくれるからお礼だな」

「そう?」

「でも、そう言う無防備な姿はあんまり他の人に見せて欲しく無いかな……」

「実際無防備だし、寝てる間は気を付けれないからね~」


明日からゴールデンウィーク、しばらくはこの日々とはお別れだ。


それが少し寂しくもある。そんなことを考えたら、彼女がスマホを取り出した。


「連絡先交換しない? それで、明日、お礼も兼ねて一緒に遊びに行けたらな~なんて」

「お、おう……」


周防すおう眠、その名前が登録されたことが嬉しくて、その日の夜は眠れなかった。


そして迎えたゴールデンウィークの初日。


残念ながらその日は大雨だった。流石にこれでは遊びに行けそうにない。


二度寝をしようかと思っていたスマホに、一通の通知が届いた。


『おはよ~。今日雨凄いから、きっと遊びに行けないしキャンセルだろう、二度寝をしようかなとか思ったでしょ?』


エスパーかよ。あと、普段の喋り方間延びしてるのは知ってたけど、通知も間延びするのかよ。


『私も五度寝しようかと思ったから一緒だね』


いつから寝てたんだよ。あと、寝ぼけて記憶にない数数えたら、多分5回じゃ済まないと思うぞ。


『もしよければ、私の家に来ない? 今日家に誰も居ないから、どうせお昼寝するなら一緒にお昼寝しようよ』


その文面、その一行を俺は10回以上見直していた。


まだ初めて会ってから1ヶ月にも関わらず、眠は……いや、この時の俺は「周防さん」と呼んでたけど、眠は俺を家に招待した。


メールに添付されていた地図通りに足を運べばそこそこの大きさの2階建ての家に辿り着いた。


インターフォンを鳴らし、出迎えてくれた眠の私服姿に目を奪われた。


青を基調としたワンピースに薄いカーディガン。髪型はいつもと変わらない手入れされていないウェーブ掛かった髪型だけれども。


「お、お邪魔します……」

「どうぞ~」


眠の部屋に通された俺は、つい彼女の部屋をマジマジと見渡してしまう。


眠の部屋の中とか何一つ想像付いて居なかったから。けれども部屋は綺麗に片付いていて、本棚には難しい本がいっぱい入っている。


学校指定の制服は壁に掛かっており、それ以外は特に目立って何かがあるわけではない。


「お待たせ~。麦茶で良い?」

「ありがとう、周防さん。それにしても、難しい本がいっぱいあるね」

「よく眠れるよ~」


想像の斜め上の返答が返って来た。確かに俺が読んでも良く眠れそうだ。


「周防さん、いつも私服はそんな感じなの?」

「ううん、お休みの日はいつもパジャマだよ」

「周防さんらしいな。でも、今日は流石にパジャマじゃないんだ」

「んふふ~。見たかった? 残念、それはまだ早いよ」

「まだ? じゃぁ、いつか見せてくれるのかな?」

「そんな日が来れば良いね~」


上手くはぐらかされたけど、それでも、この時パジャマじゃなくて私服姿が拝めただけで良かった。


それから眠は静かに目を閉じて、そのまま壁に凭れ掛かって眠っていた。


深窓の令嬢と思える程の姿に、俺は思わず見惚れてしまう。


寝顔なんか、いつも見ている筈なのに。




「………ん?」


気付けば午後3時。どうやら結構眠っていたらしい。


眠は気付けばそのまま横になっており、腕を枕にして眠っていた。


布団からブランケットを取り出して、そっと彼女に掛けてあげ、さてこれからどうしたものかとスマホに手を伸ばす。


『1件の通知があります』


なんだろうと思い通知を開く。そこには無防備に寝ている俺の姿、そして……。


「なっ、は!?」


と、一緒に隣で寄り添って、無防備な姿のまま眠っている眠自身の姿を自撮り?(この場合は二人で撮ったことになるのか?)した写真が送られて来ていた。


「んふふ~、良く寝てたよ~」

「これ、勘違いされるし、しちゃうだろ!?」

「私は最初から『どうせお昼寝するなら一緒にお昼寝しよう』って言ってたけど?」

「そうだけど、そうだけど!!」

「これからも、私と一緒に寝てくれる~?」


今にして思えば、これはある意味でプロポーズだったのかもしれない。


彼女からの告白。全く照れてないし、全く雰囲気も無かったけど、いつの間にかひなたぼっこやお昼寝という名のデートを繰り返していた。




「なぁ、お前って周防さんと付き合ってるの?」


そんな質問をされたのはゴールデンウィーク明けから1ヶ月。


よく眠にべったりだったから、友達からそんなことを言われた。


けれども、確かによく眠の家や近くの大きな公園で一緒に寝て居るけれども、付き合っているかと言われればNoである。


勿論、あの時告白とかプロポーズと微塵も思わない、額面通りの言葉で受け取っていたから未だにただの友達だと思っていた。


「彼女ではないな。告白してないし、されてないし」

「でも、お前等いつも一緒に居るよな」

「これをいつも一緒に居ると言うなら、お前も一緒に居るだろう」


視線を少しずらして、昼休みにお昼寝をしている眠の寝顔を見る。


同じ場所に友達も座ってるのだから、これを一緒に居ると換算するなら多分俺とコイツの一緒に居る回数は同じタイだろう。




そんな昼休みの会話を、フラフラしながら話を聞いている眠に言ってみる。


すると、半眼眼はんがんまなこを向けながら、視線を今度は上に向ける。


それから再び視線を俺の方に向けると、途中で立ち止まる。


何事かと思って振り返ると、いつも通り目を擦っている眠が「今日の夕食は何?」くらいの感覚、勢いで「じゃぁゴールデンウイークから付き合ってることにする?」とか言い出して「何言ってるのコイツ?」みたいな顔を返してしまった。


「いやー、思い返せば家に招いて毎週お昼寝に付き合ってもらってるのって、それってもうデートだなーと思って」

「まぁ確かにそうかも知れないけど」

「だから、良いんじゃない?」

「いやいやいや! え、彼氏彼女ってそんな簡単な感じで作っちゃって良い物なの!?」

「シチュエーション拘る派? じゃー……私、いつも貴方のことを想うとドキドキして眠れないの……。貴方が私以外にも優しいのは知ってるけれども、その優しさを私以外に向けて欲しくない……。私、我儘なの、だから、こんな私でも良ければ、付き合って下さい!!」

「凄い演技派だな!? ドキドキして眠れないって寧ろ眠ってばかりだし、なんか嫉妬している風に聞こえるけど寧ろ「他の人にもう少し優しくして上げたら?」って前言ってたよね!?」

「お気に召さなかったかー」

「だから、周防さん。いや、眠。本当の告白って言うのを、俺が見せてやるよ」


そう言って俺が行った告白も見事に穴だらけで、洞察力の高い眠に突っ込まれまくった。


けれども結局、ここで俺達は付き合うことになった。


いつから付き合ってるの? という質問はゴールデンウイークからということになり、それを友達に言えばメッチャ質問攻めにあう事になると分かっていたから隠す事にする。


と言いながら、結局傍から見ていてバレバレだから、うっかり「付き合ってる」と言っても「だろうな」しか返って来なかったが。


まだ付き合って3カ月。これから俺は眠のことをどれだけ分かる様になるのだろうか。


今の俺はまだ、彼女が分からなかった。

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