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3-5.我、知らんぞ……

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

評価ポイント3000越えました。ホントにありがとうございます。


前話の「青い影」→「黒い影」に変更しております。

 黒い人影は男性だ。行者装束を摸したようなスーツを着ている。だがその色は白ではなく黒で、何より同じく黒に彩られた狼面も相まって異彩を放っている。

 白の人影は女性だ。顔は被り傘に覆われて様として知れないが、鏡をいくつも貼り付けた白のスーツを押し上げる胸部がその性別を主張していた。


「山刺渤滅グヒン」


 黒の狼面が見得を切り、


「月夜白塗オシロイバーバだよ~」


 白の被り傘が可愛くポーズを取る。

 だがそう見得を切ってすぐにグヒンはぼやく。


「くそっ、なんでポーズまで取らなきゃならないんだよ」

「仕方ないでしょ、それがお約束なんだから。それに、陸君だって満更じゃないんでしょう? 格好いいポーズ研究してたもんね~」

「シ、シロ!? 何でそれを。てか名前で呼ばないでよ。この格好の時は――」

「うんうん、グヒン君だよね~」


 頭をなでようとするオシロイバーバの手をうっとうしがりながらも、グヒンは払いのけない。


「てか、いきなりこんな所に転移したって事はおっちゃんが呼び出したんだろうけど……。一体どこに――、っておっちゃん!!」


 倒れているシュノーバンに気づいたのか、グヒンとオシロイバーバは慌てて駆け寄った。



《気づくのが遅すぎるんよ》

《イチャイチャしすぎな件について》

《爆ぜろ!》

《もげろ!》

《これだからソロ活動してる奴らは……、余裕が足りないな》

《ああん?》

《なに余裕ぶってんだ?》

《貴様には想像力が足りない。グヒンって奴あのたわわを独り占めできるんだぞ、それを想像して見ろ》

《…………許されない》

《安定の手のひら返しである》

《男とはすべからくおっきなものにひかれるのです》

《無いのは罪》

《ほほう》

《命がいらないらしい》

《処す》

《しまったーー、今日は母上がいたんだった》

《色々と敵に回してしまったな》

《ちっぱい好きの俺、高みの見物》

《なるほど、この二人がシュノーバンの新たな仲間なのか》

《この事態に動じないお前……、好きだぜ》

《やめろよ、照れるだろ》

《みんな好き勝手しすぎだろうが……》

《陸君って言ってたよな。もしかして竹切狸に首を斬られた彼か?》

《ならもしかして、オシロイバーバはあのたわわなお姉さんか》

《なるほど……、既視感があると思ったら、そうかなるほど……》

《さっき、シロって呼び捨てにしてたよな。距離縮まってね?》

《ほほう、なるほど。ほほう……》



 コメント欄がわちゃわちゃと雑談しているあいだにも事態は進行していく。

 狼面のグヒンは、未だに笛を吹く水干姿の少年に槍を突きつけていた。


「アンタがおっちゃんをやったのか」


 その言葉に少年は笛から口を外し、艶めく唇をにぃとあげる。


「うん、そうだよ。でもちょっと物足りなかったからね。仲間を呼んで貰ったんだ。……次の相手は君って言うことでいいんだよね」


「……ああ、やってやるよ。おっちゃんは恩人なもんでな、きっちり片はつけさせて貰う。シロ、おっちゃんは頼んだ」


「うん、任せて」


 オシロイバーバは懐からうがい茶碗を取り出し刷毛を手にとる。すると茶碗の中には水が湧き出で、白い粉がくるくると茶碗の中に舞い降りた。


「シチナンカクシ」


 そうつぶやくと、茶碗の中にできあがった白粉を刷毛ですくい、シュノーバンに向かって刷毛をなで上げる。

 白粉はシュノーバンに張り付き、スーツを、そして身体を少しずつ癒やしはじめていた。


 それを見て少年が感心したようにつぶやく。


「へえ、そこの女は治療師という訳か。ならまずはその女から始末しないといけないね」


 ついとオシロイバーバに向けられた少年の視線をグヒンが体でもって遮った。

 構えた槍を少年へと向けて彼は言う。


「シロに手出しはさせねぇ。俺が相手だ」


 それを見て少年は楽しそうに笑う。


「ははっ、当然そうなるよね。だけど――」


 ――シッと少年が刀を走らせる。


 カランというかわいた音。

 気づくとグヒンの狼面の下半分が落ち、年若い男の、少年と言ってもいい顔が覗いていた。


「なっ」


「だけど君の未熟な腕1つじゃあ僕を止めることはできないよ。それにグヒンと言ったね。確か木っ端にも及ばない天狗の総称だったかな? それがこの牛若の、鞍馬の大天狗の元で修行した僕の相手をしようだなんて、さすがに力不足ではないだろうか」


 再度グヒンに向け光が走る。


 ――ギィン。


 その剣閃はグヒンの戻した槍で弾かれた。


「ふふ、構えていればなんとか防げるようだね。じゃあどこまで防げるか試してあげよう。そーらそら――」


 少年、いや牛若は縦横無尽に舞台を跳ね、そのたびに剣閃が右へ左へと走る。

 グヒンはそれをなんとか防ぎつつも、その場を動けないでいた。


 しばしの剣戟。が、ふっと牛若が立ち止まる


「……つまらない。亀のように縮こまっちゃって、これじゃあ木人を打っているのと変わらない。もっと僕を飽きないようにしないと、後ろを狙いに行くよ」


「させるかよっ」


 一歩後ろに下がった牛若に対し、グヒンは槍を突き出す。

 鋭く突き出された穂先。牛若はそれをくるりと前に舞ってかわし、勢いのままに間合いを詰めると持った刀を切り上げる。


 ――シッ。


 グヒンはそれをかわしきることができず、伸ばした腕に血が舞う。


「ぐっ」


 顔をしかめるグヒンを見て、牛若は楽しそうに笑う。


「ははは。ま、不用意に手を出すとこうなるんだけどね」


 血を払い再度牛若は刀を振るう。それを今度はなんとかしのぐグヒン。


「またそうやって縮こまる。グヒンじゃなくて、シバテンやエンコウに名前を変えた方がいいんじゃないかい」


「はあ? 何言ってやがんだ」


「ふふ、わからないならそれでもいいけどね。ただの猪武者で終わりたくなければそれくらいの教養は身につけておいたほうがいいよ。特に自分にまつわるものならね」


 数合の打ち込み。その後、牛若はすっと舞台を横に滑る。

 自身の背後には行かせまいとグヒンは槍を大きく振るうが、待ち構えていたように振るわれた刀がまたもグヒンを切り裂く。


「おいおい、こんな見え見えの陽動に引っかかっちゃあ駄目じゃないか。怪我が増えるだけだよ」


 呆れるような牛若に対し、グヒンは苦しげにつぶやく。


「……何言ってやがる。手ぇ出さなきゃシロを斬りに行ってただろうが」


「あはは、ご明察。その程度の勘働きはあるって事か。でもこのままだとじり貧ってものさ。折角満を持して呼び出されたんだ。奥の手の一つでも見せてみてよ。ほぉら、いくよ」


 剣戟が続く。

 たんったんっという音と共に牛若は跳びはね、そのたびに白の刃と黒の槍が弾ける。時折混ざる赤い線はグヒンの血だ。

 そのグヒンの背をシロはじっと見続けている。

 シュノーバンの治療をする手は一切止まらない。だがその左手は硬くなる程椀を握りしめていた。



《牛若君、ドSすぎるんよ》

《癖になりそう》

《お、俺も……》

《おい、戻ってこい。そっちの道はディープすぎる》

《中性的な少年に言葉でなじられる。はぁはぁ》

《言葉の刃どころか、物理的に斬られるんだぞ。やめておけって》

《…………本望です》

《そうか、手遅れだったか》

《ダメ与えるために挑発してるっぽいけどな。牛若丸だし戦術的なポーズなんじゃねえの》

《あー、戦略家として有名だもんな。虎の巻の語源だし》

《それでもいい。騙しきってくれるなら》

《お、おう……》

《ホントに手遅れだった……》

《まあ、頭いい的な発言してたもんな、牛若丸》

《オレ達の知能じゃ追いつけない発言もいくつかあったし》

《何となく雰囲気はわかるけどな》

《博雅えモン、教えてー》

《なんだろ~。どの発言かわかんないから適当に書き込んじゃうぞ~。グヒン=下級の天狗、地方によってはすごくエライ。シバテン=芝天狗、河童に近い天狗。エンコウ=河童みたいなもの、シバテンが川に入ってエンコウになるらしいよ~》

《情報量おおっ》

《ていうかちょっと待て。こいつって鞍馬山にいる義経だから遮那王じゃなかったの? どういうことよモナちゃん!》



「え!?」


 そのコメントにモナはぽかんと口を開けた。


「我、そんなこと言っておらん。ぬしらが勝手に言い合ってたんじゃろうが。それに名前をつけたのも我じゃないし……」


 そこまで言って、はてと首をかしげる。


「そもそも我、あのようなユニークモンスターを設定したのかの。自動で呼び出される奴にしては強いような気もするが……。まあよいか。それよりも見てみよ。反撃に移るようじゃぞ」



 シュノーバンの手が動く。その手はシロの腕を握りしめていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 続き読みたいなぁ
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