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第4話 我、あっかんべー

《負けちゃってるっていう事は、もう終わり?》

《早過ぎんよ》

《さすがにこれだと、次もう一個動画みたいなー》

《まあまて、一応まだシュノーバンは生きている》

《それに、画面に少し見える小さな人影。アレがシュノーバンをやった奴だろ?》

《なおさら駄目じゃん。とどめ刺されちゃうでしょ》

《そこは強キャラムーブで見逃したりしてはくれんかね》

《相手にもよるだろ》

《人型っぽいし、話をできる可能性》

《ゴブリンやオークも人型範疇やで》

《くっころ案件や》

《シュノーバン、中の人男じゃん。お呼びでないわー》

《ふふふ》

《やべえ奴わいてるじゃん》

《そもそもモナダンジョンは、グロはあってもエロはない……はず》

《だといいなぁ》



 コメントが流れているあいだに、倒れたシュノーバンのそばにたった人影があらわになる。

 それは(くく)り袴に水干姿小柄な人影で、平安時代の稚児衣装のような出で立ちだった。

 頭には薄衣を(かづ)き、それを左手で押さえており、顔立ちは様として知れず、男女の別もつかない。

 ただ、その右手には刀が抜かれ、切っ先は倒れたシュノーバンに向けられていた。


「さてさて、威勢よく飛び出してきて僕の邪魔をしただけのことはあって、多少は手こずらせてくれたけど……、うーん、五条の荒法師ほどじゃあなかったね」


「ぐ……」


 落胆の声で語りかける人影に、シュノーバンはうめきつつも顔を上げる。

 それを見た人影の、薄衣から垣間見える口元がにんまりと上がる。


「へぇ、いい顔をするじゃあないか。このままとどめを刺そうかと思ったけどやっぱりやめようか。そうだなあ……」


 悩むそぶりで刀を払い納めた。


「よし決めた。君には仲間を呼んで貰うことにしよう。君のスキルにはそういうものもあるんだろう? さあ早く、仲間と共にもう一死合しようじゃあないか」


「だ……、れが、そんな……ことを……。殺さば……ころ……せ」


 シュノーバンの出す必死の声を後ろに聞きながら、人影はしのび笑う。


「折角、僕を倒せる機会をあげてるのになあ。それをふいにするなんて……。あ~あ、そうなるとこの階層にいる人間みんなを斬りに行かなくちゃならなくなる。

 ……9、10、11人と言ったところかなあ。面倒だけど君が相手をしてくれないんじゃあ仕方がないよねえ」


「ぐ……、ひ、きょう、な……」


「何を言ってるんだい。卑怯もなにも君たちを倒すことが僕の仕事なんだから当然だろうに。こう見えて僕は仕事熱心なことに定評はあるんだよ。熱心すぎて兄上に殺されるくらいにはね」


 最後の言葉に暗い感情を見せる人影だったが、舞台の欄干にたどり着き、振り向いたその時には口元に元の笑みを取り戻していた。

 そうして人影は腰に差していた笛を手に取る。


「さあて、僕を楽しませてくれたお礼に一曲お耳に入れようか。これを冥土の土産にするかどうかは君次第だ。君は死んでも生き返るだろうけど、次また会えて死合えるかどうかはわからないからねえ。

 僕としては、今すぐ仲間を呼んで挑戦してほしいものだよ。

 では、曲が終わるまでは一分と少々……。じっくりと考えるといい」


 影は、その艶やかな唇に笛をつけた。

 そうして流れ出た旋律は、高く冷たく高台に響き渡る。



《再戦のチャンスだ。仲間呼べよシュノーバン》

《仲間なんていたか? 奴もぼっちだったろ?》

《いや、この間SNSに仲間ができたって書いてたぜ》

《ほえー、そうなんや》

《他にも近況色々書き込んでて面白いぞ》

《ほーん、フォローしてみるか》

《ダンジョン攻略の話と交互に、農作業の手伝い写真あげてるの、ある意味シュールだけどな》

《仲間できたんか。ぼっちじゃなくなったんだな》

《あーあ、ぼっちの会から人が減っちゃったじゃん。どうするよ、名誉会長》



「だから我は、ぼっちの会名誉会長などではないと言っとろうが!」


 コメントに反応して、モナが肌を紅潮させて叫ぶ。



《今回は会長=モナモナとは言ってないんだよなぁ》

《自覚あんじゃん》

《いや、そりゃあれだけ何度も言われてたら……》

《黙れノマルン》

《まあでも自覚が芽生えてきたのは確かだ》



 流れるコメントを歯がみしながらモナは見つめていた。


「……ぐぬぬぬぬ」



《はい、今日の初ぐぬぬ頂きました》

《今日は時間がかかったなぁ》

《まあまあ、モナをいじるのはこれくらいにしておこうぜ。今日は母上もいることだし》

《おっとそうだな》

《じゃあ話戻すけど、仲間呼んで勝てるの? 奴に》

《どうなんだろうな。強キャラ感すごい感じだし》

《ていうか、あの敵なに?》

《あの平安風稚児衣装に「五条の荒法師」とか言う台詞、牛若丸かな?》

《あー、ありそう》

《五条の荒法師、つまりは弁慶に出会った後なら遮那王かな》

《?? 遮那王?》

《教えて博雅えも~ん》

《遮那王は牛若丸、つまりは源義経の稚児名だね~。稚児ってのはお寺で働く頭をそってない子のことね。つまりは義経が鞍馬寺で働いてた時のお名前のことだよ~》

《賢さが1上がった》

《すげーなお前、賢さ二倍になってんじゃん》

《……ん?》

《元がwww》

《ついでに言うと~、弁慶と義経の戦いは五条大橋が有名だけど、清水寺だという話もあったりするんだよ~。よーし、今日は記念に京都のお酒をあけちゃおっかな~》

《なんの記念だよ!》

《でも博雅んのおかげで、戦いの舞台がお寺の高台なのはわかったな》

《まるっきり清水の舞台っぽいもんな》

《舞台が用意されてるっていう事は、あの遮那王ってボス的存在なわけ?》

《ん~? フィールドうろついてぶっ殺す発言してたし、ボスじゃなくてレアモンスター?》

《でも、ボスでもないのにこんな舞台用意するか?》

《そこら辺どうなんだろうな、もなちん教えて?》



「ふんじゃ。そんなの知らんもん」


 モナは唇をとがらし、いじけていた。

 そんなモナの頭をウスベニが、ヨシヨシとなでているが機嫌が直る様子はない。


「たとえ知ってたとしても教えんし。べーなのじゃ」


 どころか、画面に向けてあっかんべーをしてくる始末だった。



《あーあ、すねちゃってるじゃん。どうすんのこれ》

《かわいい、スクショ案件》

《相変わらず謎パワーでスクショ取れないんだよなぁ》

《私はスクショしたぞ。スキルのおかげで保存できるようになったからな》

《もしかして母上か? ダンジョン攻略的にはどうなんだ? そのスキル》

《私的には満足さ。いや、今日は支部に残ってた甲斐があったな》

《お姉ぇに付き合ってこの時間までダンジョン支部にいるアタシの身にもなって欲しいかなー》

《妹ちゃん……》



 そうこうしている間に、舞台を映す画面に変化があった。

 笛の音が鳴り響く中、倒れたシュノーバンのそばに黒と白の二人の人影が現れたのだ。

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