とあるモブが探索者の免許を取る話 後編-3
やばい。戦闘まで行き着かなかった。
本編じゃダンジョンの外の情景を書くことがないからと言って、書きすぎた気がががが
どうして、どうしてこうなった……。
僕は今、支部の地下にいる。まあこれは仕方ない、ダンジョンの入り口は地下にあるからね。それに元々クラス取得の講習を受けるためにここに来たんだし。
だけどまあ、当然というかなんというかキトラとイッカも一緒にここにいる。
ていうか、あの後なし崩し的にこの三人で講習を受けることになっちゃったんだよ。うぅ、NOと言えない日本人であることが恨めしい。
しかも職員さんが、教官役が今出払ってるから時間かかるかもっていってた矢先に、横から変なおっちゃんが名乗りを上げてきた。後はもうトントン拍子に話が進んで今に至る、と言う訳なのさ。
「そんじゃあまあ説明していくが、まずお前らの目の前にある玄関くらいの広さの真っ暗な空間。そいつがダンジョンの入り口だ」
僕たちの後ろから声をかけてきたのがそのおっちゃん。名前は標陰広というらしい。
うぬぬ。このおっちゃんが現れなければここまで話は進まなかったというのに……。いや、別に悪い状況じゃないんだけどさ。なんというか、流されるのがいやで探索者になろうとしたのに、初っぱなから流されるままになっているのがこう、…………もやもやするんだよな、ちくしょう。
「なんだよ、そんなに熱い視線を向けてきて。さぁすがに八鳥君は守備範囲外だぜ。そんな目で見られても期待にゃあ答えられない。妻も子供もある身なんでね。いや、おじさん困っちゃうわ」
は? 何言ってんの、このおっちゃん。イッカも「まぁ!?」みたいに口押さえんなさ。二人とも威嚇するぞ、がーぐるるー。
「はぁ……、コイツで遊ばねぇでくれねぇかな、教官さんよ。それよりちゃっちゃと説明続けてくれや」
「あれだぁね、津江月君は見た目に似合わず真面目だねぇ。…………はぁいはい、わかったって、それじゃあ続けるよ」
キトラの言葉におっちゃんはひらひらと手を振って説明を続ける。こっちは無視かい! ふしゅー。
「とりあえず、だ。クラスを得ていない今の状態だと、同じ入り口で一分以内に入った奴らは、ダンジョン内で同じ場所に出現する。定員は四名。ま、ここら辺は昨日の講習でも習ったわな」
それは覚えてるな。なにせ自己採点時にハナから指摘を受けたところだからな。つまりは、まあその……、間違った場所だ。
「装備に関しては、この講習時のみ無料での貸与も受けられるんだが、お前らは……」
おっちゃんは、ぐるりと僕らを見回した。
キトラは鉄棒? と長方形の盾を手にしている。盾には上部に取っ手、下部はころころになっていて引っ張って持ち運ぶことが出来るようだ。ただまあ盾に手をかけて鉄棒持ってる姿はただの……、いやただ者じゃないヤンキーにしか見えん。正直近づきたくないわー。
一方イッカはというと、ピッタリとしたレザーのジャンプスーツを着こなしていた。その長身も相まって格好いいのよ。つか、なんで今モデル立ちをする。
ついでに言うと、色々ダンジョンに持ち込むためか、いくつかレッグポーチやらボディバッグを装着している。が、どれもが機能的かつお洒落である。ぐぬぬぬ、これがもちし者の装備という訳か……。
あ、ちなみに武器? は腰にまとめてある鞭っぽい何かである。なんだイッカ、女王様にでもなるつもりか? いやまあ、お似合い……、というかピッタリだろうけどさ。
そうして二人の装備をぼーっと眺めてたら、おっちゃんがうろんな目をこっちに向けてきた。
おおん? 僕の格好に問題があるのか? ちゃんとジャージを着てきたぞ。二人みたいに装備を用意するお金はないんだ、察せよ!! それにジャージはな、動きやすい服の代表選手なんだぞ、なめんなよー。
「あれだぁね。八鳥君はこう見ると中学……、いや小学生みたいだね」
「ぷふっ」
がー、貴様ー! なんで言い直した、余計に悪くなってるだろうが! 後イッカも笑うな。しゃーーー!
「はぁ……、てめぇらもからかってやんなよ。あととりとり、お前もいちいち威嚇すんな。……あれだ、見た感じ武器を持ってねぇから気になってんだろ、教官さんはよ」
「そうそう、津江月君はよぉくわかってるよね」
おいおっちゃん、その目って本心じゃないだろ。わかってるぞ、僕は詳しいんだ。
ふむ、だがキトラの言い分には一理あるな。見せてやろうじゃないか、僕の武器という物を。
取り出したるのは一本の短刀。両手で持ったそれの鯉口を切り鞘をそおっと滑らす。隙間から見えた刃が明かりを反射しキラリと光った。
おおー、やっぱりきれいだなー。
「オーケー、わかった。もう十分だからしまってくれないかなぁ」
慌てた様子でおっちゃんが言ってきた。
なんだよー、久々に刃を見たんだし堪能したかったのに……。
「いいからしまえって。てめぇが持ってると犯罪くせぇんだよ」
なんだとうキトラー。もしかしてなんとかに刃物って言いたいんじゃなかろうなー。ふしゃー。
「だからいちいち目で威嚇してくんなって言ってるだろうが。あと、いい加減しゃべれや」
「…………わかった」
うぬぬ。仕方ないからそう言って、短刀をナップサックにしまい込む。
「おっと、八鳥君の声をはじめて聞いた気がするよ。うんうん、予想通りなかなかに可愛い声じゃないか」
――ざわっ。
とりあえず離れておこう。よし、キトラシールドを張るぞ。盾になれ。
「後ろに来るんじゃねぇよ、うっとうしい。……教官さんもからかわねぇでやってくれや」
「はいはい、わかったよ」
おっちゃんは両手をあげてひらひらと振る。よし、よく言ったキトラ。後でブラックのコーヒーをおごってやる。
そんな僕たちをにやにやと見ながらおっちゃんは口を開いた。
「ああそうだ。一応言っておくけど装備はクラスを得るまでは確実に、それ以降もダンジョンから出たときの選択次第で直ることは確認されている。だけどそれは絶対ではなく、そうじゃない場合もあるんだよねぇ。条件に関してはまだわかってないところもあるから一応心に留めといてね。君らはそれなりに装備を整えてるみたいだし、特に八鳥君のそれは業物っぽいからねぇ」
「うん、それはわかってる。……んで、そうなの?」
イッカは頷き、そうして僕の方に視線を向けた。
…………ああ、「そうなの?」 ってさっきの短刀が業物かどうかって事か。
「実家からパチッてきたから知らないよ。あ、でも、お団子の串がどうとかテキトーな名前だったから、そんないいもんじゃない、かな?」
まあ、じいちゃんは大事にしてたみたいだけどね。ただまあ、亡くなってからは倉に放置だったからなー。
刺さった団子が彫ってあって可愛いのにさー。両親も兄妹も全くもって興味を持たなかったんだよな。もっと熱くなれよ!
「お団子の串、ねぇ」
おっちゃんは意味ありげに刀の入ったナップサックに目を向ける。なんだ? そんなに見てもあげないぞ。
「パチッ……。とりとり、てめぇそれ大丈夫なのかよ」
「じいちゃんに欲しいって言ったら、大人になったらなって言ってたしー。今の僕は大人、実質僕の物だよね」
頭上からの声にそう答えると、キトラはため息をついた。
「はぁ……、聞かなかったことにするわ」
「アタシもー」
キトラもイッカもなんでだよー。手入れもせずに倉の奥に放り込むくらいなら、僕が持ってた方がいいでしょうがー。道具は使われてこそだぞ! せっかく原状復帰できる使い場があるんだから有効活用してあげないとな。うん、多分じいちゃんもそう言う。
そうこうしたところで、おっちゃんがパンと手を叩いた。
「オーケー。それなりに戦える程度の準備ができてるのはわかったぁね。そんじゃぁまず俺が入るから、三人とも一分以内に入るようにな。さっきも言ったように、それを過ぎると一人だけ別の場所に飛ばされるからな、気をつけろよ」
そう言っておっちゃんは玄関サイズの穴の中に入っていく。
「うしっ、行くとするか」
キトラも盾をカラカラと引きながら暗闇に足を踏み出す。
「オッケー」
それを追うように、イッカはその身を躍らせた。
最後に残ったのは僕。よし行くか。ふんすと両手を握って気合いを入れる。
……視線を感じる。振り向くと職員さんがこちらを見て笑みを浮かべていた。なんだよーもー。
だがその職員さんは慌てたように僕の後ろを指さす。
ああ、そうだ。時間制限があるんだった、急がないと。
僕は手を振る職員さんにお辞儀をすると振り返り、目の前の暗闇へと足を進めた。




