いろんな国の、いろんなダンジョン活用法
更新再開です。
今週は幕間として、本編以外のお話や、視点を変えたお話をしていこうと思います。
「おーい、こっちにあったんだってー」
浅黒い肌、ひときわ大柄の少年が声を上げた。その声に誘われるようにして、何人かの子供が集まってくる。
そんな子供達の姿を、露店の店主がうろんげに見つめ、……だがいつものことだと思ったのか、首を振ってその瞳を落とした。
時間は四時になろうかという所。学校の終わったこの時間に子供がはしゃいで遊び回るのは珍しいことではない。
生粋のこの街の子供にとって、迷路のように入り組んだ路地裏を駆け抜けるのは、よくある遊びの1つだったからだ。
事実、露店の店主も小さな頃に同じ遊びに興じていた。
それに何より今は、ラジオから聞こえてくるニュースの方が大事だったからだ。
その放送は、ここ数週間世間を賑わせていることに対しての国王からの発表だった。
だから店主は、子供達のことはさておいて、ラジオから流れる言葉に耳を傾けていた。だが後に店主はそのことを……、子供達を見ておかなかったことを後悔することになる。
「ばっか! 大声出すんじゃないよ。ばれるかもしれないだろっ」
路地裏の先を隠れるようにして進む子供達。先導する大柄の少年の背中を、小柄な少女が声をひそめながらどやしつける。
「それで? これがお前の見つけた謎の洞穴ってわけかい」
「へへ、そうだぜ」
大柄の少年が自慢げに鼻の下をこする。
「この間秘密基地を壊されてから、団長は次の基地を探してただろ? だからここはどうかなって思ってよ」
「へん、やるじゃねえか」
団長と呼ばれた小柄な少女は、胸を張る少年の背をバシンと叩く。
「で? ……中はどうなってた」
「そ、そんなん恐ろしくって見てもいねぇよ」
一転、少年は身を縮こませながら首を横に振った。さっきまで自慢げにしていたのに、急に怖じ気づいたかのようだ。
「そ、そうだよ。それにこれってもしかしたら、ニュースでやっていたダンジョンて奴かもしれないんだろ。だったら中にジンやジャーンがいるかもしれないんだろ? やっぱりやめておこうよ」
まわりの取り巻き達も、謎の洞穴を直に目にして同じ思いを抱いたのか、一様に首を横に振りリーダーの少女の袖を引く。
だが、リーダーの少女は乱暴にその手を振りほどく。
「ばっか! だからだろ!? お前らも知ってるだろ? 日本じゃダンジョンの中に入ったら魔法使いになれるらしいんだ」
「で、でも……。もしかしたら死んじゃうかもしれないし、生きててもマジュヌーンになっちゃうかもしれないし……」
「はんっ、知らないのか? ダンジョンの中だと死なないんだよ。だから――」
リーダーの少女は腰に手を当て、怖じ気づく取り巻き達をねめつける。
「――だから、俺はここに入ってシンドバードみたいな大冒険をしてやる。まあ、入りたくない奴は無理に入らなくてもいい、帰ってもいいぞ。だけどそんな意気地無しは、月夜の狐団からは追放だ」
そう言い放つと、ひらりと洞穴の中に身を翻した。
残された子供達は顔を見合わせる。
「どうする?」
「どうするって……、団長一人行かせる訳にもいかないだろ?」
「で、でも本当にダンジョンだったらどうするんだよ」
「……俺は行くぜ。もしイブリースが出てきたって、逆にとっ捕まえてやる。スライマーンみたいにな!」
そう言って一人の少年が穴に中に身を躍らせる。
それを皮切りに、子供達はためらいながらも穴の中に入っていく。
そうして誰もいなくなった路地裏の隅で、ダンジョンの入り口はおもむろに姿を消していった。
数日後、行方不明の子供達を探していた警官は、この路地裏で見つけることになった。
だがそれは子供達の姿ではなく、数個の黄色い魔石。そしてその上の壁には『月夜の狐と悪鬼の物語第一話 そしてこれは第一の冒険の対価である』と彫られていた。
子供達が帰ってくることはなかった……。
◆
――ボシュン。
迷彩柄のボディアーマーとヘルメットを装備した軍人が、M4カービンの銃身下に装着されたグレネードランチャーを発射する。
「ターマーYAAAAA!」
そんな叫び声と共にグレネードランチャーは、目標――体長20フィートはあろうかという一つ目巨人――の目玉に命中し、爆炎をあげた。
「ハッハーー! 賭けは俺の勝ちだ。てめえら、帰ったらみんな一杯ずつおごれよな」
グレネードランチャーを撃った男が、周りの人間を何度も指さしながら喝采する。
「うるさいんだよ、エイブ。まだアイツが死んだわけじゃないだ――」
――ズゥン。
男がしゃべっているあいだに、咆哮を上げ顔を押さえていた一つ目巨人が、大きな音を立てて崩れ落ちる。
そうしてまもなく、ひび割れた荒野に倒れたその姿は、幻のように消えていった。
「んん? 何だって、バート。な・に・が・倒してないだって? どう見ても俺の一撃で死んだように見えるんだけどなぁ?」
「――シット!」
大仰に肩をすくめておちょくってくるエイブに対し、バートは舌打ちと共に地面を蹴って不満を表した。
「二人とも、そこまでにしておけ。とっとと魔石を回収して本部に連絡を入れるぞ。物資も心許なくなってきた。補給も受けなきゃならないんだからな」
そばにいた隊長がそう語りかけると、二人は「イエッサー」とばかりに身を正し作業を再開する。
ほどなくして作業を終えた隊員達は、歩哨を立て思い思いの場所に腰を下ろす。
荒野の続くこのゾーンは見通しもよく、また地面に潜ったりするようなやっかいな敵もいないため、隊員達はそれなりにリラックスして興談していた。
「んで、補給はいつも通りのバイク便か……」
「その通りだ。だけど四輪バギーをダンジョン内で組み立てたらしいからな。前と違って物資はそれなりに持ってこれるんじゃないか?」
「かーーっ。ダンジョンの入り口が広げられないってのはめんどくせーよな。それがなけりゃ、こんな所、タンクなりアパッチなりで蹂躙出来たってのによー。……いや待てよ。それならタンクみたいなデカ物も、クアッドみたくダンジョン内で組み立てればいいんじゃね。おっとこれってナイスアイディア! 俺って天才!?」
両手の親指で自分を指さしはしゃぐのは金髪の男。先程グレネードランチャーを撃ったエイブだ。
だがそのエイブも、隣にいたバートに頭をはたかれる。
「だからお前はいちいちうるさいんだよ。大体そんなもの組み立てようとしたら、ダンジョン内にでかい工場がいるじゃあないか。先だってそれをやろうとしたらドラゴンが襲来してきただろうが。辺り一帯焼け野原で、被害は甚大だったこと忘れてないだろうな」
「ああん? そうだったか?」
エイブを見下ろしながらとくとくと語るバートに対し、エイブは耳をほじりながら適当に言葉を返す。
「ま、俺がその場にいたらFGM-148ぶっ放してしとめてやったっつの。さっきのサイクロプスと一緒で一撃だぜ、一撃。ったくよー、守備隊も情けねー奴ばっかりだよなぁ」
「エイブ、貴様っ」
バートはまなじりをあげエイブに詰め寄る。
「ああん? なんだやんのか? そういやさっき俺の頭をはたきやがったよな。そのツケ食らわせるぞ。おおん」
エイブもそれに対し、下から見上げるようにして言い返すのを、座っていた男が穏やかな声でとどめる。
「二人ともやめとけって。隊長もキレかけてるぞー。ほら、飯でも食って落ち着けよー。腹が減ってるからカリカリするんだよ。ほら、ここ座って。そんでもって、もっと建設的な話しよーぜ」
「……チッ」
「……フン」
エイブとバートの二人は、互いの視線を切るとその場に座り込んだ。
「で、建設的な話ってのはなんだ」
「え!? マジでそこ聞いてくるの?」
バートの問いかけに驚きの声を上げるも、座っていた男は「そうだなぁ」とばかりに答える。
「……それじゃあ、他の国のダンジョンの話はどうだ? 例えば日本は、こっちと違っていくつもダンジョンがあるらしいし、中に入ったらコミックヒーローになれるんだろ?」
「コミックヒーローというよりは、ファンタジームービーのような感じみたいだけどな。死んでも生き返るらしい」
「はー、さすが日本。お気楽なもんだな」
エイブも座ることで少し落ち着いたのか地面に手をつき、ぐっと伸びをしながらその話に茶々を入れる。
「火器が使えないからそう簡単な話でもないらしいがな。まあ、民間人もダンジョンに入ってるっていうのは、エイブの言うとおりお気楽かもしれんけどな」
「ああん? でも日本にはサムライとニンジャがいるんだろ? 下手すりゃSDFより強いんじゃねぇの」
「いやいや、さすがにもういないと思うよ。そんな人たち」
「あ、いやこの間見たビデオで……」
雑談をしつつ、補給の待ち時間は過ぎていった。
◆
――カッという閃光が走る。
同時に室内に用意されたモニターに、大きなキノコ雲が立ち上がるのが表示された。
「実験は……、成功だ」
責任者らしき男がそう声を発すると、その場の全員が立ち上がり、まわりと抱き合いながら喜びをあらわにする。
それを見て、責任者は満足げに頷くと、パンパンと手を叩いた。
「よろこぶのはいいが、そこまでだ。早く数値を洗い出せ。続きは総書記様にお言葉を頂いてからだ」
その言葉に全員が机へと向き直る。
彼らを見下ろすモニターでは、朱殷に染まった空にキノコ雲がゆらゆらとたなびいていた。




