2-33.我、ニチアサを見る
《え!? ここで終わるの?》
《それはちょっとひどくない?》
《続き、はよ》
《気になりすぎる》
《大体なんだよ。最後のシュノーバンって》
《聞いてしまわれましたか……》
《ならば答えよう!》
《奥州罰魂シュノーバン。それは奥州の平和を陰から守る、ご当地ヒーローである》
《奥州には、遠野物語に代表されるように、妖怪伝承が数多ある》
《そう、奥州は昔から妖怪の脅威にさらされていたのだ》
《立ち上がったのは、シュノーバン》
《妖怪の力と人の心。2つを併せ持つ彼は、人知れず世に仇なす妖怪を退治している、という設定なのだ》
《必殺技はソウルストライカー、スリーイヤーズ・デッドフィンガー等》
《なお、暇なときは農作業を手伝っている模様》
《SNSもやってるよ》
《みんな、フォローよろしくね》
《最後、露骨な宣伝www》
《お、おう。それはわかったけど……》
《なんでダンジョンにいるんだよ》
《敵?》
《助けに入ったぽいけど。よくわからん》
《多分、視点の主、首切られて死んだんだよな》
《でっかいハサミで?》
《ただのホラーじゃん》
《動画視聴しはじめたら、いきなり首無し死体がどアップになった俺の心情を述べよ》
《ご愁傷様》
《グロフィルターつけてないから……》
《チャンネル変えたら、いきなり洋物ホラーやってた感じやろ。わかる》
《グロはほどほどでお願いしたいなぁ》
《なんでこの動画見てるんですかねぇ》
《で、続きは?》
《あれからどうなったか気になるんですがーーー》
《まさかここで終わりじゃないよね》
「まあまあ、そう急くでない」
モナは鷹揚に扇子をあおぎながらコメントに答えた。
「ほれ、もう画面が切り替わるぞ」
◆
暗転していた画面が、俯瞰へと切り替わる。
男の首をかき抱く女の背後に、巨大なハサミが迫っていた。
鈍銀の刃が女の首に当てられ閉じられる、その寸前――、
――滑るようにあらわれた赤い影が、それを吹き飛ばす。
「奥州罰魂シュノーバン、参上!!」
女――ウミを庇うように立ち、見得を切るシュノーバン。
その姿は赤のスーツを身に纏い、額には一本の角を伸ばしたメットを着用していた。
「くっ、やはり間に合わなかったか。だが……」
シュノーバンは背後に庇うウミを見る。
彼女は呆然とその場に座り込んでいた。
「お嬢さん、ここは俺に任せて逃げるんだ」
「で、でも。陸君が……」
首を横に振るウミの背を、シュノーバンが押す。
「君がここにいても邪魔なだけだ。それに、君を庇った彼は、今頃救護所で目覚めているはず。彼のためにも早く帰るんだ」
「そ、そうか……。ダンジョンだから生き返るんだ。うん、わかった」
ウミは立ち上がり、参道をかけていく。
それを確認したシュノーバンは、前へと向き直った。
そこでは牙を剥きだし顔をゆがめた二足歩行の狸が、赤く染まった大きな切りバサミをチャキンチャキンと開閉し、シュノーバンを威嚇している。
「竹を切って現れる……。おそらく竹切狸か。なかなか物騒な物を持っているようだが、いいだろう、かかってこい」
シュノーバンは、指をくいと竹切狸を挑発する。
「キシャーーー」
竹切狸がハサミを手に飛びかかってくる。狙われたのはシュノーバンの首。
「狙いがあからさますぎる、ぜ!」
シュノーバンは身をかがめ、左手で持ってハサミを打ち上げる。そのまま体を回転させ、今度はしならせた右足を、竹切狸にたたき込んだ。
「――ギシャッ」
吹き飛んだ竹切狸は、鳥居へと叩きつけられる。即座に追撃に移ろうとしたシュノーバンだったが、振り回されるハサミに足を止められてしまう。
「ちぃ、近づけないか。だがゲージはたまった。ならば――」
すぅと構えを変えるシュノーバンに対し、竹切狸はその身を竹林へと翻した。
「むっ、逃げた……か? いや……」
――チャキンチャキンとハサミがこすれる音が響いた。
続いて、ザザザと竹が倒れる音が響き渡る。
「どうやら、まだ逃げてはいないようだ……」
当たりを警戒するシュノーバンの背後に鈍た銀の光が走る。
だが、シュノーバンは振り向きもせず、迫る切バサミを弾き飛ばした。
「その手口はもう知っている。それに――」
シュノーバンはそのまま身を翻し、滑るように竹切狸の背後へと移動する。
「首を刈るのは俺も得意でな。必殺――」
振りかぶった手刀が赤く光る。
「――スーベニアネック!」
黒いシルエットとなった竹切狸を、一筋の赤光が切り裂く。
血しぶきもなく舞う竹切狸の首。それを背景に、シュノーバンは見得を切った。
「罰魂、完了!」
《おおーー》
《ぱちぱちぱち》
《俺には爆発四散する敵が幻視出来たね》
《お、俺は一体何を見せられてるんだ?(二回目)》
《ニチアサかな?》
《奇しくも今日は日曜である》
《昼だけどな》
《もうすでにスーパー競馬タイムやけどな》
《細けえ事はいいんだよ》
《ちょっと楽しかったけど、シュノーバンのクラスって何なんだろうな》
《そら、奥州罰魂シュノーバンよ》
《それってありなのか?》
《わからん。でもまあ、ゲージがどうの言ってたし、あり得るんじゃね》
《そういやあの狸、レアモンっぽかったのに何も落とさなかったな》
《モナモナ、初回‘は’確定って言ってたし、他にも倒した奴がいたんじゃろ》
《あー。まあ、そりゃそうか》
《とは言え、これで新しいダンジョンの紹介は終わりか……》
《1日目、関東つくば人型生物ダンジョン、中部安曇野スライムダンジョン、近畿与謝アンデッドダンジョン》
《2日目、中国総社フェアリーちゃんhshsダンジョン、四国香美ノマルンダンジョン、北海道北見\アリだー/ダンジョン》
《そして今日のゴブリン戦車と竹切狸》
《2日目ぇ》
《そうか……。全部で8つだから、今日は2つしか配信されないのか》
《何かあっという間だねぇ》
《これで終わりだとちょっと物足りないかな》
《もうちょっとおまけが欲しいな》
《なな?》
《ななな?》
《モナ様仏様、どうかよろしくお願いします》
《よろ~》
《かっるww》
《モナってどちらかというと、悪魔よりな気がするんだけどなぁ》
《まあ、どっちも一緒だ》
《何かおいしい物を、誰かが送るから、よろしく》
「ま、まあ。そこまで言うのであれば仕方あるまい」
モナは口元をにまにまと緩める。
「あと1つ、自衛隊ダンジョンも配信するとしよう。ここひと月、自衛隊も頑張っているようじゃからな。彼らの活躍を見るのもよいじゃろう」
《お、待ってました》
《なるほど、そう言えば自衛隊ダンジョンもあったな》
《俺たちは入れないし、すっかり忘れてたわ》
《ひと月先行してるんだから、もう大分進んでるよな》
《どうなんだろ。人数制限あるから人海戦術って訳にもいかないだろうし》
《まあまあ、見てみればわかるでしょ》
《それにしても、食べ物につられて配信するモナ……》
《やっぱ食い意地張りすぎでしょ》
「ちがうわ! 別に甘い物が欲しくて配信するわけじゃないわ!」
モナが叫ぶ。
《甘い物とまでは言ってないんだよなぁ》
《え? じゃあ要らないんですか?》
《わかった。仕方ないけど家族で食べるわ》
「え? あ……。いや、その……」
モナは急にもじもじとし始め、
「ま、まあ。せっかくじゃから貰ってやらぬ事も無い。ダンジョンにおいておくがよいぞ」
そう言った。
《やっぱ食い意地張ってるじゃん》
《しゃーなしやで》
《わ、ら、う》
「うるさいうるさーい。ほれ、とっとと始めるぞ」
顔を赤くして扇子を振り回すモナの姿が小さくなり、画面が分割された。
――ドオゥン。
砲撃音が響く。
「ひゃう」
驚き目をつむるモナの手から、扇子が転がり落ちた。
くっ、できれば午前中に更新したかった。




