2-32 我、ぼっちではない(断言)
誤字脱字報告ありがとうございます。
助かります。
一部、一人称(多分違う)です。難しいですね。
切り替わった画面に映し出されていたのは、うっそうとした竹林。
そこに朱の鳥居が、伏見の千本鳥居のようにずっと連なって道を成していた。
朱の鳥居の中を、視点をふわふわと上下に揺らしながら前に進んでいく。
「ほえー、確かに陸君の言うとおり幻想的だねぇ」
画面の外からの声に振り向くと、そこには女が感心したように、周りの景色を眺めていた。
彼女は、ジーンズに長袖というラフな格好ではある物の、そのふくよかな上半身には簡単なプレートキャリアを装備し、左手には装着型のスリングショットもつけていた。
「まあな。だけどダンジョンなんだから油断しちゃ駄目だぞ、卯実姉さん」
「わかってる、わかってる」
ウミ姉さんと呼ばれた彼女は、うんうんと大きく頷く。
「ったく。本当にわかったのかよ……」
視点の主が頭でもかいたのか、画面が大きく揺れた。
《やたらと画面が揺れるなー》
《今回はPOVスタイルなのかな? 趣向を凝らすなぁ》
《POV? なんぞや》
《Point Of View。所謂一人称視点だよ》
《リクって呼ばれてる奴の視点なんやね》
《あー、たまにCMとかで見かける奴か》
《車のCMでよく見るよね》
《T○Y○TAの父と娘CM、好きだったなぁ》
《あれ、お父さん世代に刺さるんだわ》
《父の視点と娘の視点。父の愛情と娘の心情……。あれはクルよなぁ》
《……わからん》
《ついていけないや》
《見ろ!》
《とりあえず見ろ!》
《そういうとこやぞ、娘に嫌われるところ》
《ぐはっ》
《やめろ……、正論やめろ……》
《まあ、男女限らず家庭持ってる人間が見ると、うるっとくるよね》
《はー、関係ないわー》
《ぼっちには関係ないわー》
《モナもぼっちの会名誉会長だから、もちろん関係ないわー》
《そうだった。モナちゃんには関係なかったなww》
《そういや同類だったわ》
「だーかーらー。我はぼっちではないと言うとろーが! 唯一無二の友であるウスベニがおるのじゃぞ」
モナはウスベニを抱き寄せ、机をたたいて抗議する。
「そ、それはまあ……。先程はちょっと失敗してしまったかもしれぬが、そんなことで壊れるような安い友情ではないのじゃよ。のお?」
問いかけるモナに対し、ウスベニは肯定するようにぷるぷると震えた。
《ウスベニちゃんとは主従関係な気がするんだよなぁ》
《主従の間にも友情はあるよ、たぶん。創作ではそうだった》
《心の友から唯一無二の友にバージョンアップしている件について》
《唯一無二って……、他に友達いないの認めちゃってるじゃん》
《しっ。言っちゃダメ》
《せめてしゃべれる相手とお友達になろ?》
《相手がスライムじゃあなあ……》
《おおん? まさかウスベニちゃんじゃ役不足とでも?》
《やべぇ、ウスベニちゃん過激派だ!》
《それを言うなら力不足、な?》
《失礼、力不足とでもぉぉぉおお?》
《なんで言い直したw》
《まあ、逆の意味になっちゃうからな》
《ウスベニちゃんはすごいんだぞ! 馬鹿にすんな!》
《そうだそうだー》
《まるくって、ぷよぷよしてて、見てると何か幸せになるんだぞ》
《語彙よ……》
《字面だけ追うと、赤ちゃんみたいだな》
《……言われてみれば》
《かわいいは同意》
《かわいいは正義》
「そうじゃっ。ウスベニは可愛いし、なんかまるっこいんじゃぞ! 馬鹿にするでない」
なぜかモナもコメントに同調していた。
《褒めてるのか? それ……》
《モナちゃん的には褒めてるんじゃない?》
《それはともかく、そろそろ、画面の奴らにも注目してやらない?》
《餓鬼も出てきたし、戦闘始まってるんだぞ》
《カワイソス》
画面では、三つ叉の槍によって、腹の突き出た子鬼が鳥居に押しつけられていた。
「卯実姉さん。ごめん、とどめをお願い」
「え? あ……、うん。わかった」
振り返る視点の先でウミは、もたもたとスリングショットを構えていた。
視点の主――リクは、槍で押さえる餓鬼とウミに対し、交互に何度も視線を送る。
餓鬼は暴れていた。拘束する槍から逃れたいのだろう、手から激しく火を噴き出しながら、槍をつかみもがいている。
その抵抗は相当の物なのか、視点と共に槍が暴れていた。
「んしょっと、これで――」
――パシュン。
視線の先を何かが高速で通り過ぎた。
横を見ると、すぐわきの鳥居に矢が刺さっている。
「――ちょっ、危なっ。卯実姉さん、気をつけてよ」
「ご、ごめん。そ、それじゃあ、外れたら怖いし、もっと近づくね」
「駄目だ」
おずおずと餓鬼のそばに寄ろうとするウミを、リクは止めた。
「暴れてるアイツのそばは危ない」
「だ、大丈夫だよぉ」
「駄目だって。卯実姉さんはどんくさいんだから」
「どんくさくなんかないよぉ。それにここからだと陸君に当たっちゃうかもでしょ」
「はぁ……、わかった。それじゃあ俺の隣で射ってくれ」
暴れる餓鬼を押さえながらリクが言うと、ウミはリクのそばへと座り込んだ。
「んへへ~。じゃあここから狙うね」
ウミがスリングショットを引き絞る。
「卯実姉さん、もう少し右」
「……これくらい?」
「そう」
「よおっし」
――パシュン。
かわいた音を立てて放たれた矢は、餓鬼の喉元へと突き刺さる。
「グェ」
同時に餓鬼も、潰れた声を出し、やがてその姿を消した。
「やったぁ。やったよ陸君」
画面がプレートキャリアの生地で覆われる。ウミが抱きついてきたからだ。
「――わかった。わかったから離れろって。痛いって」
リクが慌てて押し退けたのか、画面には大喜びするウミの顔が映し出された。
《お、俺たちは一体何を見せられているんだ》
《やってること殺伐としてるのになぁ。やたらゆるい雰囲気よな》
《イチャイチャしてんじゃねーーーー》
《たわわに顔を埋めおった。許されん》
《個人的には、視点が時々たわわに行くのがちょっと面白い》
《何かの拍子にちらっと動いて、すぐに視線を外すのな……》
《しょうがないよ。だって、男の子だもん》
《あのたわわは、青少年には毒である》
《POVのよいところよ》
《今後もやって欲しいね》
《グロどアップの可能性もあるんやで》
《それはちょっと……》
《そういや、今日は慎ましい方はいないのか》
《うん、母上はいないよ》
《あ~あ、誰も母上って行ってないのに》
《言ってやろ~、言ってやろ~》
《あとでチクってやる》
《だから、母上はどうせあとで見ると何度……》
「へー、これが魔石なんだ」
ウミは餓鬼がいた場所に落ちていた小石を拾って、天井に掲げていた。
「これがお金になるんだね」
「まあ、それだけじゃあ弁当代にもならないけどな」
「お弁当なら作ってあげるよ~」
「……いや、そうじゃなくてな」
「わかってるってば。冗談だよ~」
「……はぁ」
ため息をついたのか、画面が揺れる。
――チャキンチャキン。
どこかで金属がこすれる音が聞こえた。
「な、なに!?」
「わからない。でも、早く離れよう。今日の所はこれで十分だ」
「そ、そうだね」
慌ててウミは腰を上げる。
――ザザザと何かが倒れる音がした。
「ひぅ」
驚きか、何かにつまずいたのか、ウミは転んでしまう。
そこに鈍た銀の光が走った。
切られた髪がはらりと舞い散る。
鳥居の隙間、竹林の向こうに何かが見えた。
駆け寄る。
手を伸ばす。
見えたのは半メートルはあろうかという断ち切りバサミ。
ウミが驚いた顔でこちらを見ている。
飛び込むようにして弾き飛ばす。
ジャキン。何かが切られる音がした。
画面が、視線がくるりと回る。
地面に……、鳥居に……、竹林に……、そしてウミに……。
「いやぁぁああぁぁぁ」
ウミは叫んでいた。
「・・・・、・・・・・・・」
ひゅうとかすれた声が響く。
ごろりと転んだ視線の先に移っていたのは、首から上が断ち切られた男の姿。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
リクの声は届かない。
ウミの手が伸びてくる。かき抱かれる。
……その後ろに見えるのは、鈍く光るハサミ。
「・・・」
ひゅうと虚空に消える男の声と共に、
――ドゴン。
そんな音を立てて、ハサミが吹き飛ばされた。
ウミをかばうような、赤い影が見える。
「奥州罰魂シュノーバン、参上!!」
そんな声と共に画面は暗転した。
《え?》
《うそ!?》
《ちょっと待って》
《どゆこと?》
作者は、ブクマとか評価とか感想とか、モチベアップにつながる物が大好物です。
よろしくお願いします。そしてありがとうございます!




