14.我、われわれわれ(残響音含む)
二章中編開始。よろしくお願いします。
《たいき》
《待機》
《たたたいいいいききき》
《壊れるな!》
《もうちょっとだ》
《あと十分》
《斜め45°チョップ》
《待機》
《ふぅ、直ったか。ヤレヤレだぜ》
思い思いのコメントが流れる『迷ノ宮モナのダンジョン動画チャンネル』。動画の開始時間が迫る中、その待機人数のカウンターは回り続けている。
画面には前日と同じ『もうちょっとだけお待ち下さい』の文字。ただ前日と違うのは、黒塗りの画面の中、白饅頭、もといデフォルメされたウスベニがぽよんぽよんと跳ね回っていることだ。
《デフォルメウスベニちゃん可愛いねぇ(ねっとり)》
《ねっとりやめろ》
《デフォルメって、白饅頭に変わりないでしょ》
《つるつる感が柔らかくなってるんだよ。わかれよ》
《わかんねーよ!》
《昨日の黒塗り画面から、曲がりなりにも待機画面を作ってるの、高評価》
《地味に開始までの残り時間も表示されてるね、+10点》
《何様!?》
《もうちょっと華々しいやつがいい。-20》
《なんだとー、ウスベニちゃんが可愛くないだとー》
《そうは言ってねえよ》
《文句があるなら待機画面自分で描いてモナに送ればいい。モナが気に入れば使ってくれるだろ》
《ナイスアイディア》
《それいいね!》
《え!? まさかそれでいいの?》
《くそ、なぜ俺の右手に絵心がインストールされていないんだ》
《はははー。今日の配信終わったら早速描いてやるぜー》
《でも描いたところでどうやってモナに渡すの?》
《そりゃまあ……プリントアウトしてダンジョンに捧げる?》
《フラッシュメモリかなんかに入れて持って行くか?》
《手間がかかるな……》
《よーし、こんなのどうかな~》
《おっと、何かいい手があるのか?》
《うんうん。ねぇ政府の人~。これ見てたら待機画面くらいのちょっとしたデータのプレゼント、モナモナに送れる機能をこのチャンネルに追加してくれない~?》
《……いやあ、そりゃあ無理だろ》
《なんぼなんでも……》
【迷ノ宮氏との協議次第ですが、おそらく可能でしょう。考慮します】
色違いのコメントが書かれた。政府側のコメントだ。
《反応あったし!》
《いいのかよ!》
《俺たち、見られてる!?》
《そりゃまあ政府も動画ウォッチくらいするやろ》
《なんか昔のMMOみたい》
《あー、昔はGMがフランクに会話してくるMMOあったな》
《あのノリ、結構好きだったよ》
《中の人依存が強すぎるけどな》
《いいなー、俺もそんなお仕事したいー》
《仕事は仕事、趣味は趣味でわけたいなぁ》
《そうだぞ。趣味を仕事にすると、趣味がつらくなるんだぞ》
《実感こもってるなぁ》
《人によるやろ》
《それはともかく、なるはやでよろしくね~》
【はい、議題に挙げておきますね】
《待機画面のアップロードに関する会議か、シュールやな》
《打ち合わせ程度じゃない?》
《チャンネルの機能追加とか拡張性の会議じゃろ?》
《どれくらいかかるかなぁ》
《このチャンネルが外部発注か内部かで変わるんじゃない?》
《逆に言うと、早いか遅いかでそれがわかる、と》
《どっちにしろそれなりに時間がかかるに一票》
《俺も》
《俺も俺も》
《うーん、ある意味信頼されてるんだが》
《嫌な信頼のされ方だ》
《手の早い俺がさらっと待機画面描いてやったぜ https://――――――》
《早すぎる―》
《絶対事前に用意してたでしょー》
《なぜばれた》
《逆に問おう、なぜばれないと思った》
《おいこら》
《何かね?》
《盛ってんじゃーーん》
《(胸を)盛らないで》
《ぺたんこだいいんだるぉ》
《ぺたんこに盛るのがいいんだろうが》
《戦争やめーや》
《写真とか無いのに特徴とらえてるの、悔しい》
《一番の特徴が台無しじゃん》
《赤い瞳と白い肌、黒髪にぽんこつドヤ顔、完璧でしょ?》
《ウスベニちゃんいない。やり直し》
《背景に適当に白丸つけといて》
《てめぇ、戦争だ》
《だから戦争やめーや》
《ぺたんこと言えばさ、母上、今日これを見に来るのかな》
《ぐはっ、そうだった。母上案件もあったな》
《ぺたんこで母上思い出すのひどすぎない?》
《ま、俺は何も言ってないしー》
《モナいじりもしてないしー》
《全然大丈夫だけどー》
《大丈夫じゃない奴らが大丈夫と言ってるな》
《お姉ぇ、もとい母上は今日はたぶん見に来ないよ。後で見ると思うけどね》
《む、これは妹ちゃんか》
《妹巫女ちゃん登場!! ふぅぅぅぅ》
《暴走すんな》
《いや、わかる。わかるぞぉ》
《妹ちゃん、割と属性過多だからな。暴走するのもわかるわ》
《妹ちゃんがここに来たって事は、母上のスキルでアーカイブ見たのか》
《うん、今日見たよー》
《終わった……》
《旅に出ます。探さないで下さい》
《ねえ私、今あなたの後ろにいるの》
《やめろぉぉぉ》
《そんなに怖がらなくても大丈夫だよー。実は門下生がこれ見てたのがわかって、恥ずかしくなってもだえてるだけだから》
《いぃ》
《ギャップいい……》
《枕に顔埋めてもだえてるところまで想像した》
《妹ちゃん、こいつら放置してていいの?》
《う~ん、いじられて恥ずかしがってるお姉ぇも可愛いからいいかな~》
《ひゃっふーーー》
《許可が出たぜーーー》
《はぁはぁ》
《いいのかこれで……》
《いいよん。でもやりすぎたと思ったら対処するからね》
《対処……》
《うーん、母上は性格を作ってたらしいが、絶対妹ちゃんの影響あるよな》
《ほんまやで》
《……なにかな?》
《イエナンデモ》
《アリマセヌ》
《言うて対処ってどんなのよ、これ匿名だし無理だろ》
《そこはほら、母上のスキルで都合のいいのがあるもしれないから……》
《なるほどー。確かにそういうてもあるけど。もっと簡単なのがあるかなー》
《ほほう》
《おじさんに言ってごらん》
《んー。とりあえず私たち姉妹がダンジョンに入るのをやめる、かなー。ほら、私たちクラスもユニークっぽいし、それなりに華もあるし、撮れ高よさそうでしょ? そういう人たちがこの動画でいじられすぎて、ダンジョンに行くのをやめるのって、ダンジョンにとって多少なりとも不利益だよねー。モナちんどう思うかなーって》
《ぐ……、こやつ自分の価値をわかっておる》
《腹黒い、腹黒いでござる》
《……ん? 何かなー?》
《――スンッ》
《強い》
《ちくしょう、母上よりよっぽどやりづらいぜ》
《大丈夫大丈夫ー。アタシそんなに口出さずに見てるだけだよ。度を超さない限りはねー》
《だから最後の言葉が怖いんだよ!》
《だいじょうぶ、俺は攻めるぜ》
《ギリギリのコーナリング、見せてやるよ》
《ヒリつくな……》
《ああ……、俺の複線ドリフトが火をふくぜ》
《脱線してるじゃん》
《火をふいてるの、多分パンタグラフだよね》
《架線が火花散らして切れそう》
《駄目じゃん》
《待て待て、もう時間だぞ》
《なんだとーーー》
《あー、もう一分切ってるじゃん》
騒がしかったコメントが一気に静まり、自然とカウントダウンをはじめる。
《5》
《よーーん》
《SUN》
《にーー》
《いち》
《ゼロ~、くぴくぴ》
《スタート》
《ひゃっふー》
《はっじまっるよーー》
カウントダウンが終わると同時、画面が切り替わる。
映し出されたのは左手を腰に構えたモナ。ウスベニは昨日と同じように机の上でぷるぷるとしている。
そうしてモナは、画面に向かって右手をばっと広げ、胸を張って宣言した。
「我われわれわれ、ダンジョンマスター迷ノ宮モナもなもなもなもな。これより配信をはじめるめるめるめる!」
《うるさーい》
《エコー効かせすぎな件について》
《なんで残響音含んでるのさ》
「え!? だって昨日残響音含むとむとむとむと、面白いって言ってなかったかのかのかのかの? どうじゃうじゃうじゃうじゃ、よい趣向じゃろうろうろうろう」
モナはふふんと顎に手を当てる。
《面白そうな物をすぐ取り入れる姿勢は評価》
《何でまだ残響音?》
《最初はいいけど、会話するときは切ってどうぞ》
《何言ってるかわからないからやめて》
《ポイントポイントで使うならまぁ……》
《そんな器用なこと、マヨちゃんに出来るか?》
《まあとりあえず一回切って》
「ふむふむふむ、よかろうろうろう」
残響音を響かせながら画面から消えるモナ。だが一向に残響音は消えない。
「あれ、どれじゃったかなかなかなかな。これかのかのかの? ポチッとなとなとな」
――キーーーーーーーーン。
今度は甲高いハウリング音が響いた。
《耳がーーーー》
《がーー、もげるーーー》
《壁ドンされたじゃーーーん》
《ミミガーおいしいよね~》
《切って、モナちゃんはよ切って》
コメント欄は一部を除き、阿鼻叫喚となった。そしてそれはモナも同じで――、
「のぉぉぉ。痛いのじゃ、耳が痛いのじゃあ」
画面の外でモナが悶絶する声が聞こえる。おまけにゴンッと何かがぶつかる音までも……。
見るに見かねたのか、ウスベニがコロコロと画面の外へと転がっていき、寸刻の後ハウリングは止まった。
《被害甚大》
《やっぱマヨちゃんには無理だったじゃん》
《駄目じゃん》
《ウスベニちゃんの有能さが、また一つ示されましたな》
《うむうむ、ウスベニちゃんは優秀》
《自動音量調整は偉大だね~》
《そんなの用意してねぇよ》
《イヤホンだったからとっさに外したけど、電車に爆音響かせたぞ》
《やってしまいましたな》
《となりのOLも同じ事してたから、二人で苦笑いよ》
《ちょっとうらやましい》
《いけ、これを機に仲良くなるんだ》
《話しかけろ!》
《いや、隣にいるのに、ここに書き込んでる時点で駄目だろ》
《せやな》
《イマジナリーOLかもしれんし》
《余計に駄目やな》
《そんなことより、モナちゃん復帰まだ?》
《ハウリングもヤバかったけど。その後、にぶい音してたからな》
《ゴンとかいってたな》
《しばらくかかるか?》
《あ、それじゃあその間に自動音量調整のソフト教えて》
《あ、俺も俺も》
《それはね~》
コメントは皆で雑談しつつモナの復帰を待つ流れとなった。




