13.我、これにて一日目の配信を終わる
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「それで、千留姉ぇはどんなクラスだったの?」
先を行く姉の後をトコトコと追いかけながらサクは聞いた。
「いや、確かめてはないが……。そもそもどうやって確かめるんだ?」
「もう。千留姉ぇ、講習ちゃんと聞いてた? なんかこう……、念じればわかるって言ったじゃん」
「ああ、そう言えばそんなことを言ってたような気がするな……」
チルはなんとも曖昧な答えを返す。
「まったくー。どうせ話半分に聞いてたんでしょ。興味のないことにすぐ適当になるんだから。ホントにもう千留姉ぇは昔から……」
「これはやぶ蛇だったね。困ったな……」
チルは苦笑し頭をかきながら……、
「まあでも、サクのおかげでやり方はわかった……、こんな感じかな……」
何かを思い出すような、そんな仕草をするチルだったが、数瞬後、ふと足を止めた。
「千留姉ぇ、どうしたの?」
のぞき込み見上げるチルの表情は、悩ましげに眉根をひそめていて……、心配になったサクは声をかける。
「なにかおかしな事でもあったの?」
「うん……、そうだな、おかしいことと言っていいのかな。理由はわかるし……、いや悪いことではないんだが……」
立ち止まり思案するチル。だが先程までと違いなんとも歯切れが悪く、それに対しチルも不満を口にする。
「なになにー? もったいぶらないで教えてよ。悪いことじゃないんでしょー?」
「まあ、そうだな……」
サクの言葉にチルは口重く話しはじめる。
「クラスが二つ示されているんだ。どちらか選べるらしい。ダンジョンを出るまでに決まってなかった場合は勝手に決められるみたいだけどな」
サクはパッと顔を輝かせた。
「へー、すごいじゃん千留姉ぇ。もしかしてスケルトンとゴーストの両方を倒したから、普通のクラスとは別にヒーラーのクラスとかになれるようになったのかなー」
サクは考え込むように自分の言葉を補足する。
「…………ということはダンジョンの外に出るまで、いろんな事したらクラスの選択肢が増えるのかな? あーでも、クラスなしでダンジョン探索するのはしんどそうだしなー」
「あー、うん。確かにチルの言うようなことはあるかもしれないが、私に関しては違うと思うぞ。なんというか、クラス名があからさますぎるからな」
「へー、なにそれ。気になるなぁ。どんなクラスなの?」
「一つは蠱薙の巫女となってる」
「蠱薙の巫女かー。千留姉ぇ、もう巫女じゃないのに不思議だね」
「まあ、そこら辺は関係しないんじゃないかな? クラスの名前も咲の鳴禊の斎子に似ているし、もしかしたらそっちに引っ張られたのかもしれないね」
「なるほどなるほど。確かにそういうこともあるかもしれないなー」
納得したように頷くサクをよそに、チルはダンジョンの出口へと向かっていく。
「あ、ちょっと待ってよ、千留姉ぇ。もう一つのクラスは何なのー」
「まあそっちはいいじゃないか。それよりもさっさとダンジョンを出よう。ここも安全じゃないしね」
足を速めるチルだったが、すぐにその袖をサクに捕まれる。
「何下手なごまかしで逃げようとしてるのよ。だいたい今話さなくったって、帰りの車でずっと一緒なんだから意味ないでしょー」
「ぐっ、確かにそうなんだが……」
「もしかしてもう片方のクラスが変なのだったの? だったらそっちを選ばなかったらいいだけじゃん」
「いや、別に変というわけでは無くてな。変わっていると言えば変わっているんだが、むしろ光栄ではあるというか……」
途端にすっきりしない物言いになるチル。
「んもー。それだったら教えてよー。別に悪くはないんでしょ?」
「まあ、そうだな……」
サクに促され、チルは重い口を開く。
「…………ぅ………ぅぇだ」
「え!? なにって?」
小さく聞き取れなかった声に、サクはもう一度とうながす。
観念したのか、もう一度、尻すぼみになりながらもはっきりとチルは口にする。
「だから! 貧乳……母上だ……」
「え? うそ……」
チルの告白にあっけにとられたのか、サクは目を白黒させながら、視線をチルの顔に、そして胸に向けた。
「おい、今どこを見た」
「えっと、あはは……。こ、これって見た目で決まったのかなーって」
「な……」
サクの失言に、思わずチルは鼻白み……。
「べ、別に私はないわけではない。駄肉の塊がそばにあるから比べられるだけだ」
そう切って捨てた。
「あー、駄肉って言ったー。それ言わない約束でしょー」
「咲が先に胸のことを言ったんだろうが」
「だってそれはー」
二人はダンジョンの中という事も忘れて声を上げていた。
《ま、さ、か、の》
《マジかー》
《母上参上》
《なるほど、モナのあの意味深な台詞はそういうことか》
《クラス聞いたときのアレかー》
《これはぼけぼけになりますわ》
《うん、ちょっとびっくりした》
《ピンポイントでいいの引いたなぁ》
《若旦那、これ知ってたの?》
《知るわけねぇだろ。俺もびっくりしてるわ》
《だよねぇ》
《ああ、でも奇しくもこれでさっき言ってたことが実証されたな》
《??》
《ここでつけられた名前が、実際のダンジョンでのクラスに影響するって?》
《そうだよねぇ。そうなるよねぇ》
「そうじゃろう、そうじゃろう」
コメント欄の混乱っぷりに、モナも満足そうな笑みを浮かべる。
「我も最初に確認したときはびっくりしたわ。まさかこのかっこよい女子が母上じゃったとは」
《だからといってあの顔はないけどな》
《口半開きだったし》
《ぽけぽけはいただけない》
「なんじゃとー。そなたらだって絶対変顔さらしておったじゃろうが」
モナは声を上げるがコメント欄はそれに取り合ってはくれなかった。
《キリッ》
《キリリ》
《キラーン(歯を見せながら)》
《言うだけならただだからなぁ》
《しっかし、母上がここまでかっこよいと、ととさまの方も、否が応でも期待が高まるな》
《でもロリコンだからなぁ》
《大丈夫、俺はインドア派だからダンジョンには行かない。家でモナモナを愛でる》
《いいかたぁ!》
《ちくせう、どんなやつでも画面に出てくればネタにしていじれると思ったのに》
《いうて、イケメンだったらどうするよ》
《呪う》
《たとえイケメンだろうが何だろうが、頭文字に残念ってつくだろうから……》
《↑ あり得る。ありうりすぎる》
《まあ、本人ダンジョン行かないって言うから、そんな機会はないだろうけど》
《まあ、無理することはないしな》
《なんか、微妙にコメントが優しいな》
《母上ショックが色々駆け巡ってるんだろ》
《ちなみに若旦那、今の放送を母上が見てる可能性は?》
《まあそれくらいならいいか。安心しろ、今日は忙しくて見られないはず》
《ひゃっふーーー》
《せーふ、せーーふですぞ》
《ふぅぅぅぅ、これでまだあの二人をいじれるぜ!》
《実は俺な、コンプレックスを気にする系女子大好き侍なんだわ》
《途端に性癖暴露やめれ》
《俺は大っきいのもちっちゃいのもいけるぞ》
《いや、だからアーカイブ放送がいずれあるって言ってたじゃん。やめとけって》
《それは未来の俺たちに任せる》
《俺たちは!》
《今を!!》
《楽しむ!!!》
《駄目だこいつら、止められねぇ》
《よし、放っておこう》
コメント欄が放っておかれた間に、姉妹の言い争いも終わったようだ。
「不毛だな、やめるか」
「そだね。言い争ってもお互いにしんどいだけだしねー」
持てる者、持たざる者。互いに互いの悩みを知っている二人は、そう言って矛を収めた。
サクははぁと一つため息。
「それにしても千留姉ぇが噂の母上だったとはね。さすがに気がつかなかったよー」
「う、うむ……」
サクの言葉にチルは歯切れ悪く頷く。
「……で、何であんな変なキャラ付けしてたの?」
「なっ、変だと?」
「そりゃ変だよー。他にも変な人がいっぱいいたから埋没……、はしてないか。まあ、そこまで目立たなかっただけで、十分変だったと思うよ」
「そうなのか……」
チルは肩を落とした。
「で、理由はー?」
歩きながら促す妹に、チルは顔を赤らめながら小さくつぶやく。
「ほら、私は道場でも小さい子から怖がられてるじゃないか。だからまよちゃんには嫌われないよう、ちゃんと保護者をしようと思って頑張ったんだ」
「はぁ。千留姉ぇ、ちっちゃい子好きなのに避けられてるもんね。ただまあ、あれは嫌いってわけじゃなくて憧れもあるんだけど……。でもね――」
サクは立ち止まり、ぴっと指さす。
「――どっちにしろ千留姉ぇは間違ってます! ていうか千留姉ぇの保護者像ってどうなってんの? 保護者するならお母さんの真似だけでよかったじゃない。なんで変に張り切ろうとするかなぁ」
「そうかぁ、そうだったか……」
チルは心なしか肩を丸めて後ろを歩く。
「しかも前に道場で失敗したときと同じ。子供道場の時、張り切りすぎて薙刀ぶんぶん振り回して遠巻きに見られたときと方向性一緒じゃん」
「そっかぁ」
すらりとした長身のはずのチルが、なんだか小さく見えた。
《このギャップよ》
《母上、ちょっと前までかっこよかったのに、このギャップかわいさよ》
《しょんぼり母上かわいい》
《過去の母上の発言も、この人がうんうん悩みながら発言したとなると……》
《想像するだに…………、捗ります!!》
《はぁ、たまりませんなぁ》
《お前らホントもう、いい加減にしとけって》
《にしても、母上キャラ作ってたのか》
《伏線回収早すぎよ》
《痛歴史が残ってしまいましたなぁ》
《いうてネット弁慶様よりはマシでしょ》
《まあね、端から見る分には微笑ましいし》
《本人は恥ずかしいだろうがな》
《そんな母上も、今日はもう見納めか》
《ん? ああ、もう出口まで来たのか》
画面の二人の前にはダンジョンの出口がある。
サクは気落ちする姉を引っ張るようにして出口に向かっていた。
「はぁ、これからどうしたらいいと思う?」
「どうしたらって……、別にアーカイブとかに残ってるわけじゃないんでしょ? ならいつもの千留姉ぇの調子で書き込めばいいじゃん」
「だが……、変に思われたりしないだろうか」
「最初は、ん? って思われるかもしれないけど、すぐにみんな慣れるんじゃない? だいたい千留姉ぇは後でいっつも気にしすぎなの。向こうもこっちがどんな人間かなんてわかんないんだから、そんなの気にするだけ損だよ」
「まあ、そうだな……」
「そうそう。気晴らしに帰りにケーキでも買って食べちゃお。そしたら魔法みたいに何も気にならなくなるよ」
そう言って手を引く妹に、チルはやっと笑顔を見せる。
「それは咲が食べたいだけだろ?」
「へへー、ばれたかー。でもおいしいって評判なんだよー」
明るい声で二人はしゃべりながら出口の扉をくぐっていった。そうしてダンジョンを映す画面は閉じる。
《残念!》
《俺たち、母上、知っちゃいました!》
《これから何言われても、母上が恥ずかしがりながら書き込んでるのを想像するだけで…………、ん~~たまらん!》
《唯一の不安は妹ちゃんよな》
《どちらかというと、妹ちゃんに知られるのが怖いな》
《母上を茶化すと妹ちゃんがガチ切れしそう》
《書き込まずに、あくまで心の中で母上をめでたのしむんだ》
《ホントお前ら……》
そこにぱんぱんと手をたたく音が響く。
「雑談が盛り上がっているところすまぬが、夜も更けてきた。そろそろ締めに入るぞ。時間もないしな」
《おっと、もうそんな時間か》
《おっけーよ》
《モナちゃん、こんな時間まで起きてて悪い子だなぁ》
《ダンジョンマスターだからな。そりゃ悪い子だろうよ》
コメントにはかまわずモナは話し続ける。どうやら時間がないというのは本当のことなのだろう。
「明日の土曜日も今日と同じ時間にはじめるぞ。その代わり日曜はお昼に放送するつもりじゃ。あんまり遅くなりすぎて、週明けに響いてもいかんと思うからな。それではさらばじゃ!」
モナは画面に向かって大きく手を広げ、ウスベニも小さく身体を震わせる。
そうして映像は待機画面へと切り替わった。
《おつ~》
《おつつー》
《おつかれさまでした》
《おやすみモナモナ~》
《最後駆け足だったなぁ》
《動画、つうかモナの能力制限があるのかな》
《かもしれないねぇ》
《日曜は昼放送か。見れるかなぁ》
《休みだろ》
《休みじゃないんだよなぁ》
《うへぇ》
《夜遅くなって、月曜に支障出るのも嫌だけどな》
《どのみち仕事だから》
《早くアーカイブ欲しいねぇ》
《アーカイブ放送、欲しいような、欲しくないような……》
「あ、そうじゃ。アーカイブ放送で思い出した」
突然、待機画面にモナの声だけが響く。
「貧乳母上のクラスじゃが、母上とそのパーティーメンバーは動画のアーカイブ視聴が出来るようになっておるみたいじゃぞ。ダンジョン内で動画を見ることが出来る。アーカイブ視聴の仕様で聞きたいことがあったら母上に聞くとよいじゃろう。ではな」
そうして音は途切れ、再度沈黙が訪れる。
《ちょっとまてーー》
《最後に特大の爆弾落としてくのやめーや》
《やべえ、これ母上、アーカイブ見る流れよな》
《パーティメーンバーもって言ってたか?》
《妹ちゃんも見るって事?》
《いや、まてまて。まだ早計だ。もう片方のクラスを選んだ可能性も》
《希望的観測すぎるだろ》
《はーー。母上はすっごく母上だなぁ》
《理想的な保護者だよなー》
《すげー尊敬するわー》
《棒読みすぎる》
《内容がなさ過ぎるww》
《時すでに遅し。俺は何度も止めたからな》
《若旦那、アーカイブを見られるって事は、お前も一蓮托生なんやで》
《し、しまったーー》
これにて二章前編、一日目終了です。
2日目、3日目も同じような形で日本の各ダンジョンを紹介しながら、そこに挑む変な探索者、そしてそれを見るモナと視聴者を描いていく予定です。
次回の更新は週明けて月曜になります。
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