表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/61

09.我、依怙贔屓する

 分割された画面に映し出されたのは、石畳に覆われたダンジョンだった。相変わらずほのかな光に満たされ、アーチ状の通路が映し出されている。



《今日はコンクリ打ち、岩堀の洞窟風ときて、最後は石畳か》

《アンデッドダンジョンだから墓場風で来るかと思ってたけど》

《石畳だからカタコンベっぽいのかな?》

《カタコンベって、壁面全部骨じゃなかったっけ》

《ローマとかパリのそういうやつが有名だけど、本来はむか~しのローマ当たりの地下墓所のことだからね~。いろんなのあるよ~》

《新婚旅行で一度見に行ったけど、ある意味壮観だったわ。夢に見るくらいには……》

《新婚旅行で行ったのかよ!!》

《まあ、日本じゃ見られない光景だからな》

《日本じゃ基本土葬しないもんな》

《実は明治初期に火葬禁止令が出されたりしたんだよ、あんまり知られてないけど》

《そうそう、日本の火葬も結構近代からなんだよね~。禁止令もスペースと感染症対策ですぐに解除されたしね~》

《それにしても、夜も更けてきたというのに最後にホラーかー》

《チョイスが絶妙よな》

《いうてスライムダンジョンの方がホラーやったで》

《あれはホラーいうよりスプラッタ系かなぁ》

《思い出させるなよ》

《近畿地方のダンジョンって、与謝郡の山の中だっけ》

《たしか大江山の近くみたいなこと、ばっちゃがいってた》

《有名なキャンプ場もそばにあるんだよね》

《大江山なのに鬼じゃなくてアンデッドなんだね》

《個人的には大江山と聞くと和歌が先に出てくるな》

《大江山いく野の道……てやつか》

《からかおうとしたら、逆に切り替えされて逃げるやつー》

《まさにざまぁ案件のお話》

《学校で先生が解説した後、こういうことになるから気をつけようねって言ったの、未だに覚えてる》

《十訓抄に載ってる教訓話だから。当然と言っちゃ当然》

《うーん、唐突に高尚な話になってついて行けない》

《高校の教科書にのってたやで》

《…………記憶にございませんなぁ》



「はいはい、雑談はそこまでにしておくとよい」


 モナが両手をたたいて注目を促す。


「そなたらの言うとおり、近畿は京都与謝郡のダンジョンじゃな。さて、侵入者じゃ」


 モナの言うとおり、洞窟内に現れた人影が二つ。

 一人目はすらりとした長身に紺の袴の胴着姿。目つきも鋭く長い髪を後ろでまとめた中性的な女性だ。手になぎなたを携えている。

 もう一人は小柄な女性。緋袴を穿()き千早を纏うその女性は、先の女性とは違い短くまとめた髪に大きな目、そして何より非常にメリハリのある身体をしていた。



《The トランジスタグラマー》

《巫女装束というのもポイントが高い》

《ディ・モールト。素晴らしい》

《見た目は子供、バストは大人!》

《ひゅ~、ヤバかったぜ。もしここに母上がいたら……》

《ああ、ヤバかったな》

《発狂してたかもしれん》

《千早は無地か。神紋があれば特定ができたのに……》

《特定すなや。やべーぜよ》

《まあ、できのいいコスプレの可能性も微レ存》

《最近のできのいいやつはすげーしな》

《どっちでもい。巫女さん……いぃ……。》

《薙刀の人は、素直にかっこいいな》

《すらっとしていて姿勢もいいし、女子に人気ありそう》

《得物が得物だから薙刀をやってるのかね》

《初の武道経験者か!!》

《美夜ちゃんも弓道経験者っぽかっただろ》

《彼女はその……、他のインパクトが強すぎてね……》

《まあ、そうね……》

《おっと、巫女ちゃんの方が何かするみたいだぞ?》



千留(ちる)姉ぇ、ちょっと待って」


 ダンジョンに入ってすぐ、巫女姿の女が腰を落とし荷物を探りはじめた。

 その様子を見て、胴着姿の女も立ち止まる。


「何をする気だ? (さく)

「ちょっと頼まれてたお供え物をねー」


 巫女――サクが取り出したのは折りたたみ式の三方。そこに手早く小瓶を何本か、そして真空パックされたお漬物を供えはじめた。

 それを見て胴着姿の女――チルもなるほどと頷く。


「それは……。そう言えば朝方、宝巌の若旦那が来ていたようだが、それを持ってきていたのか?」

「そうだよん。これをダンジョンマスターの……、えっとー」

「迷ノ宮モナ……、だな」


 チルの補足に、サクもうんうんと頷く。


「あ、そうそう。そのマヨちんにお供えしてきてって渡されたんだよね」

「それで急に咲もくると言い出したのか……。というかその甘酒は、ふむ……」

「どうしたのー?」


 見上げるサクに、チルはいやと首を振る。


「なんでもない。それにしても宝厳のやつも、私に直接渡せばいいだろうに。私がここに来るのは知っていたはずだがな」

「そりゃだって若旦那、千留姉ぇの事苦手だもん」


 それを聞いてチルは顔をしかめる。


「ふんっ。ちょっと小さい頃に引き連れ回したくらいで……、まだあいつはぐじぐじと根に持ってるのか」

「聞いた話だけでもあれってちょっとって言わないと思うんだ。ま、いいけどねー」


 用意が出来たのか、サクは三方に手を合わせる。それにあわせチルも深く腰を折る。


「お約束の品、お届けに上がりました。お受け取り下さい」


 二人がゆっくりと目を閉じ、そうして次に開いたとき、三方に捧げられた品はきれいに消えていた。


「おお~~。ホントに消えちゃうとは」

「咲……。お前、まよ……、いやダンジョンマスターのことを信じてなかったのか?」

「信じてないわけじゃないんだけどねー。ダンジョンって言う不思議と動画のダンジョンマスターって言う存在がイコールでつながってなかったって言うか……」


 そう言いながら三方を折りたたむサク。それを見ながらチルは嘆息する。


「またそんな細かいことをごちゃごちゃ考えていたのか。あるものはある、それでいいだろう?」

「アタシは千留姉ぇと違って単純じゃないんですー」


 サクはとがらせた口をそのままに立ち上がり、ぱんぱんと膝をはたく。


「さーて、これにて若旦那からの任務はしゅーりょーっと」

「そうか……、なら帰れ」


 言葉少なにチルは声を返す。指さす先は入り口だ。それに対しサクは頬をふくらませた。


「いーやーでーすー。だいたい千留姉ぇの車で来てるんだから、先に帰れるわけ無いじゃん」


「なっ。いや、そうだが……」

 チルは鼻白んだ。

「だが咲、お前がいても邪魔なだけだ。ひとまず外に出て待ってろ」


「い、や。だいたい若旦那からの用事だけで千留姉ぇにくっついてきたわけじゃないんだから。アタシにはアタシの考えがあってついてきてるんですー」


「………………」

「………………」


 しばし無言でにらみ合う二人。先に動いたのはチルの方だった。

 彼女は大きくため息をつく。


「はあぁ。わかった、好きにしろ。ただし邪魔だけはするなよ」

「はいはーい」


 軽い返事を返すサク。そんな姿にチルは再び小さくため息をついて、二人してダンジョンの奥へと向かっていった。




《若旦那ーー》

《若旦那はどこだーー》

《若旦那って、甘酒の兄貴のことだろ?》

《にきまってっだろ!》

《甘酒頼んで届けたとか言ってたからなぁ》

《ちょっとツラ貸せやーー》

《ガラわっるww》

《だが気持ちはわかる》

《ちょっと出てきてね、ほら、説明して欲しいことがあるんだ》

《出てこいやー》



 突然のコメント欄の荒ぶりに、モナも驚きを隠せない。


「なんじゃ? ぬしら、突然暴走しおって。どうしたのじゃ?」



《ごめんね~マヨマヨ。急にかわいい子が画面に出てきたからショックで暴れてるだけだよ~》

《しかも知り合いだという人物がいると言うことがわかってしまいましたからね。まあ、気持ちはわからなくもないですが……》



 そのコメントに、モナはなるほどと頷く。


「確かに可愛いのと格好いいのが二人そろっておったな。しかしそこまで騒ぐことかの?」



《マヨはお子様だからわからないだろうがな》

《そんな可愛い子と知り合いだという事を隠していたこと、それ即ち万死に値するのだよ》

《嫉妬の心に花一輪 咲かせて見せよと たちさわぐ》

《こ、この台詞は……もしや、帰ってきたしっとマン1号》

《まさか……、しっとの国に帰ったはずでは?》

《今は梅雨、2月と12月の狭間だぞ!? 海の時期にもまだ早いのに、いったいなぜ?》

《私は聞いた、君たちの真摯なしっとの祈りを。私は見た、君たちの燃え上がるしっとの炎を》

《ああ、さすがはしっとマン1号》

《そう、私は来た。君たちのしっとの願いを叶えるために。さあ、被告人、若旦那を連れて参れ》

《若旦那はどこだー》

《被告人はどこだー》

《ワーワー》

《えー、これ俺が出て行かないとおさまらない流れ? こんなノリの奴らに囲まれるのいやなんだけど》

《おう、やっと出てきたな、かこめかこめー》

《ヤーヤー》

《被告、若旦那。罪、愛敬づきたる巫女と親しき仲を秘匿したる事。刑、打ち首獄門》

《ひでぇ裁判だな》

《……と言いたいところだが、二人との関係、また巫女の素性を話すならば、罪一等を減ずる》

《ぐっ、万死に値する罪なのは確かだが、条件がそれでは……。致し方なし》

《…………納得する》

《罪一等減じても、切腹は免れんしな》

《ヤンヤヤンヤ》

《無茶苦茶だな、お前ら。まあ関係くらいならいいだろ》

《よしktkr》

《はよ教えて》

《単純に幼なじみ、つーか胴着姿の姉の方な。あいつ俺らの世代のガキ大将だったんだよ》

《なるほど、小さい頃引き連れたってそういう》

《ガキ大将とか最近聞かないよねー》

《よし、それはオッケーだ。んじゃもう一つの方》

《巫女ちゃんの素性を教えろー》

《ウォーウォー》

《いや、さすがにそれは教えられんだろ。それに、そういうこと無理に聞き出すの、ダンジョンマスター的にもダメだよな》



「ん?」

 突然に水を向けられたモナ。だが今回はしっかりコメントを見ていたようで……。


「そうじゃな、むりやりは御法度じゃぞ」

 めっとばかりに指を突き出した。


「それに若旦那は我に甘酒をくれたし、あの女子(おなご)らはそれを届けてくれた。そやつらに不利益になることは許さぬぞ」



《あ、てめー、ずっりーぞ》

《迷ちゃんを味方につけるのはずっこいと思う!》

《モナもえこひいきだー》

《ダーダー》



「知らんわ、そんなもん。我、ダンジョンマスターじゃぞ。えこひいきぐらいするわい」



《開き直りやがった》

《だが、その気持ちわからなくはない》

《くっ、モナ殿がそう言われるのであれば致し方なし。これにて閉廷!》

《ああ、そんな……。しっとマン1号まで》

《いやいや、ここで個人情報聞き出すのは普通にダメだろうがよ。それにそんなの言ったのばれたら、俺が物理的に死にかねん》

《まあ、二人の移動中暇だったから遊べてよかったなー》

《どうにも若旦那の発言、後者に重きが置かれてるような気がしてならん》

《そんなにあのお姉さん怖いのかな~。気っぷのいい姉御って感じなんだけど》

《そうそう》



 画面の二人が奥に進むまで雑談は続く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=7535352&siz
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ