6
それからオレが目を覚ましたのは、夜だった。
オレはベッドの上に寝ていた。
上半身を起こしてみる。
「うっ……」
頭がズキズキしてみぞおちの辺りに違和感がある。
これが二日酔いか。
……って、そんなに時間が経っているのだろうか?
ルミニオンと酒場に行って、紫色の酒を一気飲みしたところまでは覚えているんだが、それから先の記憶が全く無い。
何で、オレはここに寝ているんだ?
痛む頭を押さえて、オレは部屋を出た。
リビングに行くと、ルミニオンとリティア、レミュリアとシェルフィスが居た。
アルステールの姿は見えない。
「あ、やっと起きてきたわねキス魔」
シェルフィスはオレの顔を見るなり、ニヤニヤしながら奇妙なコトを口走った。
キス魔?
「随分大胆な行動でしたわよ。見直しましたわガンキチさん」
レミュリアも奇妙なコトを言う。
大胆な行動?
「お前、意外と好き者だな」
ルミニオンまで、ニヤニヤしながら奇妙なコトを言う。
好き者?
「ガンキチお兄ちゃんの浮気者ー!」
リティアは、身に覚えのないことを言ってくる。
浮気者?
オレはこれまでに出てきた言葉を整理してみる。
キス魔、大胆な行動、好き者、浮気者。
そして、姿が見えないアルステール。
……。
ひょっとすると、ひょっとして。
「アルステールの姿が見えないが?」
オレは恐る恐る聞いてみる。
「外に出てるわよ。探してみたら?」
シェルフィスがニヤニヤする。
「くれぐれも、焦らないでくださいね。……はっ。私ったら、なんてはしたない」
レミュリア、自分の言葉に真っ赤になる。
「外に出るんなら、これを持っていけ」
ルミニオンがニヤニヤしながら、昼間オレに見せた剣を差し出した。
オレはありがたくそれを借りると、外に出た。
外はもう真っ暗だった。月が出ているみたいだが、雲に隠れていてよく見えない。
現実世界なら街灯があるんだが……。
あちこちを歩き回り、オレの脳内時計で30分ほど経った。
オレは公園らしき広場の近くに来ていた。
広場の中央にはでかい樹がある。
この樹は高さ30メートルはあるだろうか、現実の世界では見たことがない樹だ。
暗闇で葉っぱの色が藍色になり、夜風に揺られてざわめいている。
オレは何気なくその樹の下に足を運んだ。
「誰だ?」
突然、声が聞こえた。出所はすぐ近くということも瞬時にわかった。
「アルステールか?」
オレは訊ねてみる。
「そ、その声はガンキチ!」
ビビった声で返事が返ってきた。
どうやら、正解のようだ。
目を凝らしてよく見ると、すぐ側に青いショートヘアが見えた。
オレは遠慮なく隣に座ると。
「こんなところでひとりで何やってんだよ」
「……」
アルステールは顔を背ける。
オレはその顔を追って覗き込む。
暗くてよく見えないが。
「お前、何か変だぞ」
「そ、それは、お前が……」
アルステールは言いかけて口を手で塞いだ。
「?」
「……」
そして、黙り込む。
奇妙な沈黙がしばらく続いた後。
「あのさ」
「な、何?」
「オレ、お前に何をしたんだ?」
「は?」
「いや、全く記憶が無いんだ」
「ふっ、ふざけるな!」
ゴンと頭を小突かれる。
「ぐわっっ! ほ、ホントに覚えてないんだ」
今のバッドステータスでその攻撃はクリティカルヒットだ。
「……覚えてないのか?」
「ああ、ルミニオンと酒場に行って、酒を飲んだところから。さっきみんなから色々言われたけど。キス魔とか大胆な奴とか」
小突かれた事で痛みを倍増させられた一日酔いの頭を抱えながら、かろうじて口が開いた。
すると、アルステールはまた後ろを向いて。
「……その通りの事をしたよ。ボクに」
何だと?
オレが、アルステールにキスした?
オレは全く記憶に無いが、本人が言うんだから間違いない。
途端にオレは何を言っていいかわからなくなった。
この気分になったのは、これで2回目だ。
また、奇妙な沈黙。
「あの……。ごめん」
勇気を出して、オレはその沈黙を破った。
「何で、謝るんだよ」
背中を向けたまま、アルステールが呟く。
「だ、だって、オレ、お前に……」
すると、アルステールはこっちを向いて。
「いいよ、もう。酔ってたんだろう?」
その時、雲に隠れていた月が顔を出した。
月明かりに照らされて、アルステールの顔がよく見える。
照れたような、そうじゃないような。
何か、少し微笑んでいるような顔に見える。
ブラックブルーの双眸に、オレの顔が写っている。
そして、お互いに見つめ合っている事に気付くと、お互いに慌てて背を向ける。
な、何をドキドキしてるんだ? オレは。
心臓がヘンだ。
必要以上に血液を送り出している。
またまた、奇妙な沈黙。
何か、ヘンな雰囲気だ。
「さ、さて。ガンキチ、そろそろ帰ろう」
ヘンな雰囲気を打ち消すかのように、アルステールが立ち上がった。
「あ、ああ、そうだな」
つられてオレも立ち上がる。
その時。
「あ……」
急にアルステールが頭を押さえてフラついた。
オレはシェルフィスの家の出来事を思い出した。
立ちくらみである。
すかさずオレはアルステールの身体を支えようと、手を伸ばした。
まるで、偶然か、仕組まれたことか。
アルステールの身体を受け止めようとした手は一日酔いの鈍い感覚のおかげで空振り。受け止めたのはオレの胸だった。
結果的に、アルステールを抱きしめる形になってしまった。
いつものオレなら慌てて離れるはずだが、ヘンな雰囲気に頭がどうにかなったのか、それともこのバッドステータスのせいか、手が離れてくれない。
アルステールの背中に回したまま、オレの手は意思を持っているかのように、かたくなに命令を拒否する。
アルステールもヘンだった。
バランスを取るためにオレの背中に回した手を、いつまで経っても離さない。逆に力を入れてくる。
アルステールの鼓動が、速いテンポで伝わってくる。オレも同じだが。
抱きしめてみると、妙に小さく感じるアルステールの身体。
鎧の下に着る服だろうか、少しざらついた布の感触。と、同時に柔らかい身体の感触。
重い鎧を着て、結構長い剣を振るう騎士とは思えないような柔らかい身体だ。
お互いに抱き合ったまま、どれくらいの時間が過ぎただろうか。
全く同じタイミングで、身体を離して。
「ご、ごめん」
「す、すまん」
似たような言葉を同時に言う。
それからその場に突っ立ったまま、オレとアルステールは背を向けあって沈黙。
何だこの奇妙な空気は。
しばらくして。
火照った頬を冷たい風が撫でていったおかげか、少し落ちついてきたオレ。
幾分か、頭痛も治まってきた。
「アルステール」
「何?」
「オレが『鍛えてやるから覚悟しとけ』と言ったのを覚えてるか?」
「ああ、覚えてる」
その言葉を聞くと、オレはそこら辺に落ちていた剣ほどの長さ、太さの枝を2本拾って1本をアルステールに放った。
反射的に受け取るアルステール。
「オレの修行も兼ねて、特訓だ」
オレはニヤリと笑った。
それを理解したか、アルステールも口の端を持ち上げた。
「ああ」
枝を正眼に構え、オレとアルステールは向き合う。
アルステールの構えは、騎士の構え方なのか枝を頭の横で水平に構えている。
「妙な構え方だな」
アルステールが言った。
「オレの世界での構え方だ」
オレは足を1歩前に踏み出す。
そして、すぐに戻す。いわゆるフェイントだ。
それに反応して、アルステールは防御の姿勢をとる。枝を正面で横に構える。
その無駄な動きで、胴がガラ空きになった。
「どうっ!」
オレはアルステールの胴に軽く枝を当てた。
「!」
胴に一撃当てられたアルステール、そんなバカな! と、言いそうな表情だ。
「甘いな」
オレはさっき踏み込んだ時、振動がバッドステータスの頭に響いて、頭痛を引き起こしていた。
頭に手を置きたい衝動に駆られる。
それを必死に我慢する。
あのセリフの後に頭を抱えたらどっちがやられたのかわからなくなるだろ?
「つ、強い!」
余程のショックを与えたのだろう、アルステールは本心がポロリと出たようだ。
真剣を使っていないという安心感もあったのか、アルステールの動きがよく見えて、冷静に反応できた。
アルステールの動きは、何だか部活の仲間によく似ている。
だから動きを読めたのかも知れない。
「も、もう一本!」
アルステールが再び構えた。
オレはニヤリと笑って頷くと、再び間合いを取り、枝を正眼に構える。
今度のアルステールは積極的に斬りかかってきた。
その姿も、何だか部活の仲間にそっくりで、どう仕掛けてくるかも何となく読めた。
振り下ろしてくるアルステールの枝にタイミングを合わせて、横に弾いた。
その衝撃でアルステールの体勢が崩れる。
「めんっ!」
頭に寸止めをする。
まさか、防具を付けてないのに当てるわけにはいかないだろ。
負けを悟ったアルステール。枝を持った手を下ろす。
「こりゃまずいな」
オレも枝を持った手を下ろす。
もちろん、この言葉はオレにも当てはまる。
これから大きな戦いが待っているというのに、部活のレベルなんぞ即戦死だ。
「……。城で練習した剣技が全く通用しないなんて」
アルステールは俯いた。
「さっき気付いたけど、何となく先が読めるようなモーションがあるな」
とてつもなく自分の事を棚に上げているような気がするが……。
まあ、それはこの際置いといて。
とりあえず、顧問の先生から習ったことを思い出して……。
「ちょいと練習してみるか」
「頼む!」
アルステールは頷いた。
その眼は、強くなろうと努力する者の眼だった。
結局、あの後1時間以上アルステールと特訓をした。
アルステールののみ込みは予想以上に早い。まだオレの勝率の方が高いが、そこそこやり合えるようになった。
最初は軽いと思っていた枝は時間が経つごとに重くなり、後の方になると持っていることすらつらくなった。
さんざん動き回った事で大量の汗が頬を流れ、汗で濡れた服は体にピッタリと張りつきまとわりつく。外の気温が低いこともあって、頭から湯気も出ていた。
さすがに、部活でも1時間以上ぶっ通し休憩無しで乱取りをしたことは無い。疲労がピークに達しても、アルステールは『もう一本!』と頼んでくる。音を上げて特訓をやめたのはオレの方だ。
精も根も尽き果て、ヘロヘロになりながらもオレとアルステールは何とかルミニオンの家にたどり着いた。
「あらぁ。汗をいっぱいかいちゃって。そんなに激しいコトをしたのかな?」
シェルフィスが、帰ってきたオレとアルステールを見るなり茶化してきた。
「まあな」
その時のオレはヘロヘロの為か、はたまたアルコールが頭の中に残っていたからか、シェルフィスの言った言葉を理解できていなかった。
それに、実際激しい事をしたんだから。
しかしオレの返事に、シェルフィス、レミュリア、ルミニオンの目が点になった。
リティアだけは、何の事かわからないようで「え? え?」と、周囲の反応を伺っている。
「ば、バカッ!! 何を言って……」
アルステールが真っ赤になって、オレの首を掴む。
「ついにヤッたのね……」
「ああ……。アルステールが私より早くオトナに……」
「行動力のある男だな。別の意味で」
3人座り込んで、口々に言いたい事を言いまくる。
それらを聞いて、初めてさっきシェルフィスが口にした言葉を理解できた。
アルステールとふたりで言い訳開始。
「違うぞ! さっき言ったのはこいつの特訓で激しいコトをしたって意味で、返事したんだ!」
「そうですよ! ボクはただ抱きついただけで……はっ!」
アルステールは慌てて口を塞いだ。
「おい」
つい、ポロッとかもしれないが、言う必要のないことを口走ってくれた。
そのおかげでまた、3人の目が点になった。
そして、また3人座り込んでボソボソと言う。
「アルステールって、意外と積極的なのね」
「城に居た時は、相当な奥手でしたのに」
「うらやましい限りだな」
「コラコラーッ!!」
このイジメは延々と続いた。
そして、早朝。
自分の部屋でリティアと一緒に寝ていたルミニオンは、リティアを起こさないようそっと身を起こした。
リティアは『ガンキチお兄ちゃんと一緒に寝る!』と言い張っていたが、ルミニオンはかたくなとして許さなかったのだ。
布団の不自然な動きに、リティアは目を覚ました。
眠そうに目を擦ると。
「んん〜……むにゅ……お兄ちゃん。何処に行くの?」
「ちょっとな……。そうだリティア、ガンキチ兄ちゃんと一緒に居たいか?」
「うん! 少し浮気者だけど、ガンキチお兄ちゃん大好きだもん!」
「そうか……。わかった。それじゃ俺はちょっと出掛けるけど、いい子にしてるんだぞ」
「うん。いってらっしゃい!」
リティアの笑顔を見て微笑むと、ルミニオンは静かに出ていった。
――全く……。あいつも罪作りな奴だ――。
「ガンキチちゃん、まだ起きてこないわね」
「ええ。そういえば、アルステールも起きてきませんわ」
「あのふたり、よっぽど疲れるコトをしたのね」
「い、いやですわシェルフィスさん。そんな変な意味に聞こえるような言い方……」
「え? 変な意味って?」
「そ、それは……えっと……その……」
「あははっ。ウブねぇ。姫様」
「も、もう! からかわないでください!」
もう太陽は真上まで昇ってきている。
オレはまだ睡魔に負けて脳みそを占領されていた。
昨日のアルステールの特訓が相当効いたんだろう、寝返りをすると肩が痛む。
頭の中がまだ微睡んでいて、まぶたの裏側には昨日の特訓の風景が浮かんでくる。
「アルステール! かかってこい!」
オレは木刀を正眼に構えた。
「行くぞ! ガンキチ!」
アルステールは気合を発すると、勢いよく斬りかかってくる。
アルステールの攻撃を受け止めて、時にはかわして防御する。オレが教えたとおり、アルステールはフェイントを器用に使い、たくみに攻撃してくる。
何度か冷や汗をかく受け止め方をして、木刀を落としそうになるが、オレは力を振り絞って木刀を握りしめた。
たった1日で、ここまで強くなるものなのか?
ついに、オレとアルステールの木刀の根元がカチ当たり、ギリギリと鍔ぜり合いをする。
たった1日で追い越されてたまるか!
オレは本気で木刀を押しかえす。
木刀は徐々にアルステールの方へ傾いて行き、オレとアルステールの顔の距離が近くなった。
すると、アルステールは何かを企んでいるような笑みを浮かべる。
次に、木刀を横にずらして顔をグンと近付けてきた。そして、唇が当たった。
ついでに前歯も。
「!」
オレは硬直して動けなくなった。
アルステールは素早く唇を離すと、オレの脳天へ木刀を一撃。
なんて卑怯な、キスは反則だ。
その一撃でオレは世界が後ろへ流れていく。
倒れる……。
ドスンという音と共に、
「はっ!?」
オレは目を覚ました。
気がつくと、枕と一緒に床で寝ていた。
ベッドの上には、オレが着ていた布団が取り残されている。
しかし、何て夢を見やがるんだオレは。
オレは寝ぼけた頭を抱えつつ部屋を出て、リビングへ向かった。
その時、丁度起きてきたらしいアルステールと、ばったり出くわす。
「あ……」
「う……」
何故かオレは固まってしまった。
さっきの夢を見たせいだろうか。
アルステールも固まっている。
何故か顔が熱くなる。
アルステールの頬も、何だか赤くなっているような……、まだ酔っているのかオレは。
「お、おはよう。遅かったな」
「あ、ああ。お前もな」
「……」
「……」
ヘンな沈黙。
また昨日のヘンな雰囲気が復活する。
* * *
エルフの町の中で一際大きい家があった。
町長の家だ。
町長は齢800を数える長老でもある。
額に刻みつけられた皺は、今までの経験の深さを物語っている。
その町長の前で、ルミニオンが何やら必死に頼み込んでいる。
「町長、自警団の兵を半分ほど貸していただけないでしょうか」
町長は眉間の皺を更に深く刻み込むと、
「しかし……、自警団の兵が少しでも減ると、トパ山の山賊どもが増長しかねん。今はひとりでも多く町を守る者が必要なのじゃ」
「そこをなんとか……。頼みます町長!」
ルミニオンは額を地面に擦り付けそうな程深く土下座をする。
「ううむ……。わけを聞いたからには、こちらも無下にするわけにはいかんし……。かと言って自警団の兵を減らすと町がやられてしまうし……。おお! そうじゃ!」
町長は突然立ち上がって、手をポンと叩いた。
ルミニオンは不思議そうに顔を上げる。
「お主ら、山賊を退治してくれぬか! そうじゃ、それがよかろう! あの山賊どもが居なくなってくれれば、この町を守るための兵は必要なくなる。半分と言わず、全部連れていっても構わんよ。それに、ルミニオン。お前のスナイパーの腕も、披露できるではないか」
ルミニオンはしばらく考えたが、もはや選択の余地は無かった。
ルミニオンはゆっくりと頷いた。
* * *
この手は何だ?
一体ナニをしようというんだ?
オレの手はアルステールの手を勝手に握ってしまった。
アルステールは全くと言っていいぐらい抵抗をしていない。
「あ、あの……」
真っ赤になって顔を伏せながら、アルステールはオレを上目遣いに見る。
「手にマメはできてないか?」
何を言っとるかオレは。
「それは……大丈夫だと思う……けど」
そろそろこのままでは誤魔化しがきかなくなるぞ。
そこへ、たまたま何かの用事で廊下へ出てきたシェルフィスがその光景をばったりと見てしまった。
「……」
シェルフィスは普通の表情のまま固まった。
オレとアルステールも手を握り合ったまま固まる。
5秒、10秒くらい経ったか、シェルフィスは元に戻ると、
「野暮だったわね……」
ひと言呟くと、その場からそそくさと去っていった。
弾かれたように、オレとアルステールは手を離した。
「ご、ごめん」
「す、すまん」
また似たような言葉をお互いに言う。
と、その時。
突然、周囲が騒がしくなった。
男の気合を発する声、女子供が叫ぶ声、悲鳴。
その声はオレとアルステールを外へ飛び出させるのに十分な効果があった。
玄関の前でシェルフィス、レミュリアがリティアを連れ出してその光景を唖然として見ていた。
馬に乗った山賊、奇妙な刀を持った者も居れば、でかい斧を持った者も居る。そいつらはそこら辺の民家を手当たり次第に襲い、金品を強奪している。それを必死に阻止しようと弓を引くエルフの自警団。
しかし、山賊の死体は転がっていても、エルフの死体はひとつも転がっていなかった。
ルミニオンがオレ達を見つけると、素早く駆け寄ってくる。
「トパ山の山賊だ! みんな手を貸してほしい!」
オレは口の端を持ち上げると、
「わかった、手伝うぜ」
オレはルミニオンから借りた剣を握り、アルステールはクリスエルム王国騎士の剣を手にする。
山賊の数人が、オレ達に襲いかかってきた。
オレは猛然と山賊に突進し、アルステールもそれに続く。
シェルフィス、ルミニオンが後ろから援護射撃をし、山賊が怯んだところをオレの剣の一撃。
もちろん、峰打ちだぞ。人を殺すってのは以下略。
しかし、この剣は軽い。木の枝を持っているようだ。おまけに丈夫だ。山賊の斧を受け止めても傷ひとつ付かない。どういう素材で出来ているんだろうか。
アルステールの一閃。オレの峰打ち。シェルフィスとルミニオンの援護射撃。
戦意を無くして逃げていく山賊。戦闘不能になる山賊が続出する。そして、小さな反乱軍+自警団が徐々に形勢逆転をしていき、遂には山賊を追い払った。
「はっはっは! 尻尾を巻いて逃げていきやがった。これだけ痛めつければ当分は襲ってこないぞ」
オレは意気揚々と腕組をして言った。
「何言ってんの。あんたも痛めつけられたでしょうが」
シェルフィスがオレの血まみれの左腕を握って言う。
「いででっ!」
そう、オレは山賊の刀で斬られ、傷を負っていた。何も考えずに特攻したのがまずかったのか。
それから、オレはシェルフィスから治療をしてもらう。腕の傷は結構深く、縫わなければいけないほどだった。実際に何針縫ったかは眠らされたからわからないが。
オレが目を覚ますと、ルミニオンはみんなを家のリビングに集める。
そして、町長から、兵を貸してくれる代わりに山賊退治を依頼されたことをオレ達に話した。
「おおっ! ということは、オレ達の仲間になるってことだな!」
ルミニオンは返事をする代わりに、右手を差し出した。オレはその手を力強く握る。
「しかし、この人数であの山賊どもを退治できるのか?」
アルステールはオレをジッと見ながら言った。
「まあ……何とかなるだろ」
RPG的に考えると、本当に何とかなりそうな気がした。
普通に考えれば、無謀以外の何者でもないのだが。
「そりゃあお前の腕は信用してるけど……お前、怪我してるじゃないか」
「このくらい何ともないぞ」
ヤセ我慢をするオレの左腕をシェルフィスが掴む。
「ぐわっ!」
「何ともなくないじゃない。3日は動かせないわね」
「3日だと? そんなに待ってられねえぜ。オレは一刻も早く元のせか……あわわわっ。……じゃなくて、エルフを苦しめる山賊をこらしめてやりてえんだ。それに、ルミニオンから借りた剣なら右腕だけでも十分持てる」
少々言葉を詰まらせたが、オレの熱演に5人は凄い物を見るような眼で注目する。
「本気で言ってるの?」
「本気だ」
シェルフィスは、はあ、とため息を吐くと。
「……わかったわよ。ただし、左腕は一切使えないわよ。傷口が開くと面倒な事になるからね」
根負けしたように呟いた。
ルミニオンは立ち上がると、またタンスを開けてゴソゴソと何かを探しはじめる。
「ほれ、これを着けてろ」
オレに何かを放った。慌てて右手で受け止める。
それは、RPGでよく見る鉄の小手だ。
いや、鉄にしてはやけに軽い。チタン合金か? でもそれにしては色が白っぽい。
それにしても、ルミニオンにとっては武器と防具は、衣服と変わらない扱いのようだ。