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エピローグ

 全てにカタが付いたオレ達は、レミュリアに、アルステールに報告するべく、本拠地へと戻った。

 しかし、本拠地へ戻ったオレに、一番聞きたくない言葉が――。


「アルステールが――。アルステールが――」


 真先に走ってきたのは、レミュリアだった。

 その目は涙に濡れている。


 オレは、走った――。

 アルステールの寝ている部屋へと――。


「アルステールッ!!」


 勢い良くドアを開け、オレは転がるようにアルステールが寝ているベッドへ行く。

 周りには本拠地に残っていた仲間全員が、アルステールを見守っていた。

 出来る限り手を尽くしただろうシェルフィスはオレを見ると、自分が立っていた場所を譲った。


 真っ青な顔のアルステール。

 オレが側に来ると、アルステールは微かに目を開けて、かすれかけの声で喋った。


「あ――。ガンキチ――。帰って――きたんだね――良かった――」

「ああ、終わったぜ。全部な」

 息も絶え絶えなアルステールの手を、オレはしっかりと握った。

「これで――。やっと――。姫様も――。王国も――。平和に――」

「しっかりしろよ。お前らしくない」

「ゴメン――。デート――。行けない――かも――しれない――」

「約束を破るんじゃねえよ。オレが帰ってきたらデートするって言っただろ?」

 ポタポタと、オレの涙がアルステールの手を濡らす。

「はは――。ガンキチ――って――泣き虫――だったんだ――」

「これは汗だ。オレは目から汗が出る身体だって言っただろ?」

 だんだん手を握ってくる力が弱くなってくる。

 オレは必死に離すまいと、握る力を強める。

 アルステールの命を、離さないように――。

 しかし、オレの願いは――。


「ゴメン――。ガンキ――チ――。そろそろ――。お別れ――みたい――」

「――ちくしょう! 約束を破るのか? お前はオレとの約束を破るってのか!?」

「ほんとうに――。ごめ――ん――」

「待てよ。お前にはな、オレとのハッピーなエンディングがあるんだよ! 勝手に死ぬんじゃねえよ!」

「ガン――キチ――。ボク――」

「ちくしょう! ちくしょう!!」

 握っていたアルステールの手が、オレの頬に伸びる――。


「――ガン――キ――チ――あい――し――て――る――」


 その手は、オレの頬に触れる事はなかった。

 力なくパタッと布団の上に落ちるアルステールの手。

 冗談だろ?

 冗談だよな?

 はは――オレはこういう冗談は嫌いなんだよ。

「アルステール? アルステール!?」


 オレは必死に揺らした。

 アルステールの華奢な身体を揺らした。

 こうすれば、戻ってくる気がした。

 すぐに目を開けて、オレの名を呼んでくれる。そんな気がした。


 だけど、アルステールは返事をしてくれなかった。

 まだ、こんなに温かい。

 こんなに――温かい――。

 こんなに――あたたかい――のに。


「アルステール――!!」


 *     *     *


 オレの旅は終わった――。

 シナリオは全て読んだ――。

 読みたくない部分まで読んで――。


 森の中――。


 オレは、物を言わなくなったアルステールと、この森の中で、約束を果たしている。

 約束は守らないとな――。

 ……。


「おい。アルステール。オレとお前はここで初めて会ったんだよな」


 アルステールを抱き抱えて、オレは森の中を歩いた。

 後ろの方には、レミュリアとラムド・ガルが付いてきている。

 しかし、オレ達の近くには来なかった。

 気を利かせてくれてるんだろう。


「ここら辺で、お前に胸を斬られて――。レミュリアちゃんが、捕まえてくれって手を差し出したよな」


 わっと泣きだすレミュリア。

 オレは涙をぐっと堪える。


「オレはな、この辺で寝てたんだぞ。気付いたらここに居たんだ――」


 多分、ここら辺だろうと、おぼろげな記憶を頼りに歩く。

 そして、全てを思い出すかのように、目を閉じた――。


 *     *     *


 ん?

 あれ?

 ここは何処だ!?

 オレはさっきまで――。

 そうだ、レミュリアとラムド・ガルは!?

 オレの腕に居たはずのアルステールは!?


 と、辺りを見回すが、周囲は真っ暗で何も見えない。

 足元も、真っ暗。

 立っているのか、浮かんでいるのかまるでわからない。

 軽い吐き気をもよおす。


『コラコラ。吐くな』


 何者かの声が聞こえてきた。

「ん!? 何だ!? 誰だ!?」


『お前の目の前に居る』


 目の前?

 目の前と言われて、その通りに目の前を見た。

 黒いローブを着た、いかにも怪しげな奴が、目の前に立っていた。

 白黒の仮面をつけていて、顔がよくわからない。男か? 女か?


『私が何者か気になっているようだな』


 白黒仮面の怪しい奴が喋った。

 ややビビりながらも、オレは言い返す。

「当たり前だ! オレをいつの間にかこんな所へワープさせて、いきなり出てきたお前を気にならないヤツの方がおかしい!」


『――そうだな。私の名はマスター・Gとでも言っておこうか』


 白黒仮面の怪しい奴、マスター・Gは名乗った。

「ますたぁじぃだと? ふざけた名前だな」


『それはご挨拶だな。まあ、それはさておき、お前は見事に私の作ったシナリオをクリアしてくれた。最後の方なんか、涙ものだったぞ……グスン』


 オレは、その言葉にカッとなった。

「野郎!! ふざけるな!!」

 マスター・Gに殴り掛かる。

 しかし、当たる瞬間空を切った。


『直情的な奴だ。まだ話は終わってないぞ』


 別の場所に、いつの間にか瞬間移動しているマスター・G。

 こいつ、一体何者なんだ?


『私はな、人間が生きていることを実感させるきっかけを与える使者なのだ。そのきっかけを、お前の好きなファンタジー系RPGの世界観で構成してやったのだ』


「やかましい!! ぶっ殺す!!」

 オレは再度パンチを繰り出す。

 しかし、またもスカする。


『話にならん奴だ。もういい。真のエンディングはお前自身で作ってくれ』


 マスター・Gがそう言った瞬間、オレは目まいのような感覚を覚えた。

「うっ――。ちくしょう――。何をしや――がっ――た?」

 辺りが瞬時に、目も開けられないほど明るくなった。

 そして、ゆっくりとマスター・Gの姿が霞んで消えていく――。


 *     *     *


 今度はちゃんと地面があるようだ。

 背中に布団の感触がある。

「んきち――」

 ゆっくりと、視界がはっきりしてくる。

「がんきち――」

 それと同時に、声が聞こえてくる。

 今度は、誰だよ?

「頑吉!!」

 目の前で、オレの身体を揺する奴が居る。

 何だ? 何だ? 乱暴な揺すり方しやがって――。


「頑吉!! ちょっといつまで寝てんの!?」


 視界が完全に戻った。

 目の前でオレを揺すっていたのは――。


「アルステール!?」


 オレは思わず叫んでしまった。

 髪の色目の色こそ違うものの、髪形、顔、形、全てがピタリとアルステールに一致する。

 しかも、オレが通う高校の制服を着ている。

「えっ? 誰よ、あるすてーるって」

 ハテナ顔をするアルステールに似た女。

「アルステール! アルステール!!」

 オレはガバッと起き上がり、そいつをお構いなしに抱きしめる。

「きゃああああっ!? ちょ、ちょっと、頑吉、寝ぼけるのもいい加減に――」

 ぎゅううううう。

「く、苦しいー!」

「アルステール……。生きてた……」

 華奢な身体まで、匂いまで同じ。

 こいつは、間違いなくアルステール。

「ちょっと、生きてたってどういう――? そ、その前に、離してっ! 苦しいから!」

 オレの腕の中で喋るアルステール。

 何か、違和感を感じた。

 女言葉?

 あいつは、女言葉で喋ったっけ?

 まあ、いいか。

 それにしても……。

 じたばたと、妙に元気がいいではないか。

 オレはアルステールを離すと、真正面からその顔を見つめた。

 見れば見るほど、色違いのアルステールだ。

「な、なな、何を考えてるのっ! 朝っぱらからまったく!」

 顔も真っ赤っかで、何と可愛いことか。

「何をそんなに照れてるんだ。あれほどキスした仲なのに」

「そそそ、そんな子供の頃のことなんて覚えてないわよっ!」

 子供? 何を言っとるか、つい最近だってのに。

「忘れてるんなら、思い出させてやろうか?」

 もう、正直自分を抑えられなかった。

 この可愛い唇を奪いたくて仕方がなかった。

「きゃーっ!! ちょ、ちょっと、待って!! こんな、こんなムードのない時になんてイヤー……はぷっ!?」

 唇に吸い付いた瞬間、アルステールは固まって動かなくなった。

「〜〜っ」

 アルステールが愛しくてたまらない。もうバカップルなんて呼ばれようとかまわない。

 今はとにかく、アルステールに触れたい――。

 唇を離すと、呆然とオレの顔を見つめて、

「うっ……、ひっ……、ひっく……」

 泣き出してしまった。オレだって泣きたいんだぞ、お前に逢えたんだから。

「こんな所で、ファーストキスだなんてぇ、しかも無理矢理。えっ……えっ……」

「何? もう何度もしてるじゃないか」

「あんな子供の頃にしてたのなんか、カウントに入らないのぉ……ぐすっ」

 何だか話が噛み合ってないのは気のせいか?

 少し冷静に考えてみよう。

 冷静に――。

「――って、ここ、オレの部屋じゃねえか!」

 そうなのだ。今気づいた、オレは自分の部屋のベッドで上半身を起こして、目の前の色違いアルステールを抱きしめてはキスしたのだ。

 長いことむこうで生活していたからか、ここのことがなかなか思い出せなかった。

「ええと、とりあえず、オレは今から何をするんだったっけ?」

「もう、知らない! 遅刻しようと、私は知らないもん!」

 だだだっ! と走り出そうとするアルステールを、オレは慌てて腰に腕を回して引き留めた。

「あっ……」

「ちょ、ちょっと待て、オレの話を聞いてくれ」

 後ろから腰に腕を回して、オレはアルステールを抱きしめるような形になっていた。

 その甲斐あってか、アルステールは耳まで顔を赤くしつつ、おとなしくなった。

「えーと、今から、学校に行く、で、いいんだよな?」

「あ、当たり前じゃない……」

「ところで、お前はアルステールでいいんだよな?」

「何、その外人みたいな名前――。私の新しいニックネームでも思いついたの?」

 どうやら、本当に違うようだ。

 それにしても、本当に色違いのアルステールとしか思えない。

「いや、そういうわけではない」

「――寝ぼけすぎだよ。ずっと私のこと、世羅せらって呼び捨てしてたのに」

 ――せら!?

 急速に、記憶が元に戻ってくる。

 まるで超高速でパズルを完成させたかのように、一つ一つのピースは的確に素早く空白に埋まっていく。

 ――思い出した。

 ほとんど顔パスで人の家に上がり込んできて、こうしてオレを毎朝起こしに来る幼馴染みがいたことを――。

 まるで空気のような、側にいるのが当たり前すぎて、気付かなかった存在が――。

 尾崎世羅おざきせら――。

 オレの幼なじみで、物心ついた頃にはもう隣にいて、何をするにも行動は一緒で――。

「世羅――」

「な、なによ」

 あの時言えなかった言葉が、次から次へと思い浮かんできた。

 それを言おうとした時には、あいつはもう――。

 だから、今、こうして温かさを感じられる今のうちに、その言葉を伝えておきたい。

 あんなイベントが起きて、間に合わなくならないうちに――。

「オレ、お前が好きだ――」

「――えっ!?」

「気まずくなるのが嫌で、ずっと、言えなかった」

 世羅の身体がぶるぶると震えだした。

「あ、あ――」

「こうやって、また毎日起こしに来てくれるか?」

「う、うえっ、えっ……」

 また泣き出した。泣き虫だな、こっちのアルステールは。

「ダメか?」

「ひっく、ひっく。――ずっと、ずっと待ってた、の、その、言葉――ぐすっ」

「今までずっと、黙っててごめんな」

「ぐすっ、こんなムードのない告白なんて、私たちくらいだよ、絶対」

 世羅のほっぺに、自分のそれをこすりつける。今度は嫌がらなかった。

 もう愛しくて愛しくて、どうにかなりそうだった。

「それじゃ、私たち、恋人って言っても、いいんだよね?」

「当然だろ。そうじゃなきゃ意味がない」

「う、嬉しい――。嬉しいよぉ頑吉――」

 身体をくるっと回転させて、真正面からオレに抱きついてくる世羅。オレはそれを優しく受け止めた。

「――あ、学校、遅刻しちゃう」

 肩越しに映った目覚まし時計を見て、世羅は身体をパッと離した。

「それじゃ。腕組んで行くか」

 向こうのアルステールとしたいと思っていた事のひとつを口に出してみた。

「――ねえ」

「何だ?」

「本当に頑吉?」

「当たり前だろ」

「今までにないくらい、すごい積極的」

「好きだからな」

「――なんだか、夢を見てるみたい」

「オレを起こしに来て、いつの間にか眠ったか?」

「起きてるよ。まだ何だか信じられないって言ってるの」

「まあ、すぐに信じられるようにしてやる」

 とりあえず、学校に行く準備をしなければならない。

 いちゃつくのはその後にいくらでもできるだろう。

「とりあえず、オレの着替え、見てくか?」

「わっ、みみみ、見ないよっ!」

 慌てて部屋を出て、ドアを閉めた世羅。

 それを微笑ましく思いつつ、オレは高速で着替えを済ませた。


 それから軽く朝食を摂った後、晴れて恋人同士の登校タイムが始まった。


 腕を組んで歩く隣の世羅が、愛しくてたまらない。

 周りの人間の目なんか気にならない。

 むしろもっと見せつけたかった。

「ねえ、頑吉」

「ん?」

「デートとかもしようね。いつくらいがいいかな?」

「今日だ」

「早っ!」

「ダメか?」

「ううん。いい」

「じゃあ約束だ」

「うん、約束――」

 今度は、破るんじゃないぞと、オレは頭の中で思った。


 どうやら、オレの旅は終わったようだ。

 今度こそ、オレはハッピーなエンディングを見てやる。

 このアルステール……じゃなくて世罹と一緒にな――。


『ゲームクリア、おめでとう――』


 誰かが、そうオレに言ったような気がした。


            THE END


まずは読んでくれてありがとうございました。

初めて書いた長編小説なので色々とメチャクチャな部分もありますが、その辺はご容赦を(汗


感想とかいただけると幸いですm(_ _)m

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