表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/22

20

 作戦会議室。

 オレはアルステールの願いを叶えるべく、急遽仲間を集め、作戦会議を開いた。

 そう。全てを終わらすために。


 アテラタス、ユパナ、カダ、メクダ。この四つの砦を押さえた事により、ユーネスの勢力は弱体化した。

 残るは、ユーネスの潜む王都クリスエルム。

 これを攻略すれば、全てが終わる。


「クリスエルム攻略作戦を提案する」


 誰も、オレの言葉に異論を唱える者は居なかった。

 みんな、わかってるんだ。

 ユーネスを倒せば、全てが終わる。

 全てが、終わる――。


 *     *     *


 翌朝。

 中庭に、やや数が減ったものの全軍が集結する。

 そして、おそらく最後になるであろう演説を行う。


「ついに、この時が来ました……。変わり果てたユーネスを倒し、悪政を止め、クリスエルムに輝かしい未来を切り開くため……みなさんの力を貸してください!」


『わぁぁぁぁぁぁっ!!』


 かつてないほどの士気の上がり様だ。

 演説を終え、ステージからレミュリアが下りる。

 入れ代わりに、今度はオレがステージへ上がった。

 最後の、演説――。

 オレの、この世界での――。


「みんな、最後の戦いだ。だが、決して無理をするな! 最後は、みんな笑って帰ってくるんだ!! 以上!!」


『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』


 凄まじい反響だ。

 ……。

 みんな、わかってるんだな……。

 最後の戦いって事が……。


 *     *     *


 アルステールの寝ている部屋――。

 ゆっくりとドアを開け、入ってくるオレにあいつは気付いた。

 日を追うごとに、アルステールの顔色が悪くなってくる。

 だが、オレの前では無理をして笑顔を作っている。

「それじゃ、行ってくるぜ。片付けにな」

 笑顔で、なるべく笑顔でオレは言った。

 今のオレには、これが精一杯だった。

「……気をつけて……。後、約束して……。絶対、生きて帰ってくるって……」

 弱々しく、布団から手を出してくるアルステール。

 オレはその手を優しく握った。

 動くだけでも苦しいだろうに、アルステールは気丈にもそれをこらえている。

「ああ。帰ってくる。オレは約束は破らん」

「絶対……だよ。破ったら、ボク、泣くから……」

「なんか、妙に素直だな。お前、ニセモノだろう?」

「……気になるんなら……。確かめてみれば……?」

 ジッとオレを見つめるアルステール。

 顔を近付けてみる。

 そっと、アルステールは目を閉じた。

 オレは、優しく唇を重ねる。

「……」

「……」

 そっと唇を離した。


「……なんか、元気が……出てくるよ……」

 微笑むアルステール。

 その顔を見てると、いつの間にかオレの目から涙が溢れ出ていた――

「バカ。言ってる事と、様子が矛盾してるじゃないか」

「あはは……。ガンキチが優しい……。ずっと……ここで寝てようかな……」

「それじゃ、デートできないぞ」

「あ、そうか……」

「いいか? オレが帰ってきたらデートするんだ。これは、オレからの約束だ。破ったら泣くぞ」

「……はは……。もう、泣いてるじゃん……」

 オレはゴシゴシと袖で目をこする。

「こ、これは汗だ。オレの汗は目から出てくるんだ」

「……へえ……。変わってる……」

 笑ったまま、アルステールは弱々しく言った。

「と、とにかく。行ってくる。約束を破るんじゃねえぞ」

「……うん、わかった……。ガンキチ……死なないで……」

「オレは死ねない身体なんだ。心配するな」

 涙目で必死に笑顔を作り、オレは静かに部屋を後にした。


 ちくしょう――終わらせてやる!!

 何が何でも終わらせてやる!!

 それまで――アルステール、約束を破るんじゃねえぞ――。


 *     *     *


 予想以上に早く、王都クリスエルムの前に到着した。

 ここまで、約1日と半日。


 パターン通りに、最後の抵抗を仕掛けてくるユーネス軍。

 しかし、ただ突っ込んでくるだけの実に頭の悪い部隊だったため、ルミニオン率いる弓兵隊の餌食となった。

 シャドウキラーの報告によると、この部隊を指揮している者は、クラザート・トライドという武将らしい。

 数でも、頭脳でも上回る反乱軍には、こんな部隊など敵ではなかった。

 あっと言う間に蹴散らしていき、クラザート・トライドひとりを追い詰める。

 果敢にも、大男クラザート・トライドはその剛腕で挑んでくるが、この人数を相手に勝てるはずもなく、ましてや、オレはブレイド・ブラッカーに鍛えられている。

 ブレイド・ブラッカーに教えられたとおりオレは様々な攻撃を繰り出し、クラザート・トライドに命中させていく。

 そして、手負いとなったクラザート・トライドは、地面に片膝を突いた。

 ガザロ、ルミニオン、ラムド・ガル、ブレイド・ブラッカー、ラザ、レザ、ティカイナが、大男クラザート・トライドに詰め寄る。

「何か、言いたいことはあるか?」

 ラムド・ガルが剣を突きつける。

 それに答えるかのようにギロリと、血走った目を光らせるクラザート・トライド。

「貴様らを、道連れにしてくれる……」

 恐ろしく低い声で呟いた。

「!!」

「ユーネス様に逆らう愚か者どもめが!! あの世へ行って後悔するがいい!!」

 クラザート・トライドは懐に手を入れた。

 何か、隠し持っている!?

 それを真先に気付いたのは、ブレイド・ブラッカーだった。

「まずい!! 離れろ!!」

 この一言に、みんな一斉に後ろへ飛んだ。

 ニヤリと、大男クラザート・トライドは笑ったかと思うと、その瞬間。

 鼓膜を突き破るような轟音とともに、その身体が爆発した。

 全速力で逃げていたオレの足が、爆風にあおられ宙に浮く。

「うぐっ!!」

 辛うじて、直撃はまぬがれたものの、爆風に吹っ飛ばされてオレは背中をしたたか地面に打ちつけた。一瞬息ができないほどの衝撃だった。

 舌を少し噛んだようだ。血の味がする。

「あたたた……。パターン通りだが自爆するとは……。みんな、大丈夫か!?」

 オレは背中をさすりながら起き上がり、辺りを見回す。

 幸いな事に、被害は少ないようだ。

「私とラザ、ティカイナは大丈夫よ」

「拙者も大丈夫だ」

 レザ、ラザ、ティカイナ、ブレイド・ブラッカーは無事のようだ。

「俺も大丈夫だ……。ちと、擦りむいたけど」

 ルミニオンも無事か。

「私は大丈夫だ。……しかし、ガザロ殿が……」

 ラムド・ガルも無事のようだが……。

 オレは地面にうずくまっているガザロに駆け寄る。

「おやっさん!? 大丈夫か!?」

 ガザロは足を押さえながら、痛みを堪えている。

 その顔に脂汗が浮かんでいる。

「ぐ……。どうも、足をやられたみたいだ……」

 ガザロの右足が、変な方向に曲がっている。

 これは完璧に折れてるな。

 まずい。シェルフィスは本拠地に居る。

 戻っているヒマはない。オレには時間がない。

「おやっさんは、俺が連れて帰る」

 ルミニオンがガザロの腕を自分の肩に回し、言った。

「いいのか? ルミニオン」

 オレの言葉に、ルミニオンはニヤリと笑う。

「いいんだ。どちらにしろ、俺は城の中では足手まといになりかねないからな。これくらいの役目は果たすさ」

「いててててっ!! いてっ!! コラッ! もう少し優しく扱え!! こっちは怪我人なんだぞ!」

 ルミニオンに肩を借りたガザロが苦情をもらす。

「これくらい我慢してくれ。帰ったらシェルフィスがどうにかしてくれるさ」

 やれやれと呆れ顔のルミニオン。

「すまん。ガンキチ。俺はここでリタイアだ」

 腕の力で馬に乗りながら、ガザロは心底すまなそうに呟いた。

「気にすんな。おやっさんの分も天誅を食らわしとく」

「頼む……」


 ガザロは、ルミニオンと一緒に馬に乗り、数十人の兵と共に本拠地へと戻っていった。


「さて……。気を取り直して、行くか」

 オレは改めて、クリスエルム城を見据えた――。


 城下町の民家の扉――。

 どの民家も、店も、扉は固く閉ざされていた。人の気配はするが、出てくる様子はない。

 まるで、ゴーストタウン。これもユーネスのせいなのか。


 外見だけは、でかく、神々しく、幻想的な城。

 クリスエルム城。

 この中にユーネスが居ると思うと、妙に禍々しく思えてくる。

 オレは拳をグッと握る。

 ついに、最後だ――。

 ラストダンジョンだ――。


 オレ達は、門の開いたクリスエルム城に踏み込んでいった――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ