20
作戦会議室。
オレはアルステールの願いを叶えるべく、急遽仲間を集め、作戦会議を開いた。
そう。全てを終わらすために。
アテラタス、ユパナ、カダ、メクダ。この四つの砦を押さえた事により、ユーネスの勢力は弱体化した。
残るは、ユーネスの潜む王都クリスエルム。
これを攻略すれば、全てが終わる。
「クリスエルム攻略作戦を提案する」
誰も、オレの言葉に異論を唱える者は居なかった。
みんな、わかってるんだ。
ユーネスを倒せば、全てが終わる。
全てが、終わる――。
* * *
翌朝。
中庭に、やや数が減ったものの全軍が集結する。
そして、おそらく最後になるであろう演説を行う。
「ついに、この時が来ました……。変わり果てたユーネスを倒し、悪政を止め、クリスエルムに輝かしい未来を切り開くため……みなさんの力を貸してください!」
『わぁぁぁぁぁぁっ!!』
かつてないほどの士気の上がり様だ。
演説を終え、ステージからレミュリアが下りる。
入れ代わりに、今度はオレがステージへ上がった。
最後の、演説――。
オレの、この世界での――。
「みんな、最後の戦いだ。だが、決して無理をするな! 最後は、みんな笑って帰ってくるんだ!! 以上!!」
『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
凄まじい反響だ。
……。
みんな、わかってるんだな……。
最後の戦いって事が……。
* * *
アルステールの寝ている部屋――。
ゆっくりとドアを開け、入ってくるオレにあいつは気付いた。
日を追うごとに、アルステールの顔色が悪くなってくる。
だが、オレの前では無理をして笑顔を作っている。
「それじゃ、行ってくるぜ。片付けにな」
笑顔で、なるべく笑顔でオレは言った。
今のオレには、これが精一杯だった。
「……気をつけて……。後、約束して……。絶対、生きて帰ってくるって……」
弱々しく、布団から手を出してくるアルステール。
オレはその手を優しく握った。
動くだけでも苦しいだろうに、アルステールは気丈にもそれをこらえている。
「ああ。帰ってくる。オレは約束は破らん」
「絶対……だよ。破ったら、ボク、泣くから……」
「なんか、妙に素直だな。お前、ニセモノだろう?」
「……気になるんなら……。確かめてみれば……?」
ジッとオレを見つめるアルステール。
顔を近付けてみる。
そっと、アルステールは目を閉じた。
オレは、優しく唇を重ねる。
「……」
「……」
そっと唇を離した。
「……なんか、元気が……出てくるよ……」
微笑むアルステール。
その顔を見てると、いつの間にかオレの目から涙が溢れ出ていた――
「バカ。言ってる事と、様子が矛盾してるじゃないか」
「あはは……。ガンキチが優しい……。ずっと……ここで寝てようかな……」
「それじゃ、デートできないぞ」
「あ、そうか……」
「いいか? オレが帰ってきたらデートするんだ。これは、オレからの約束だ。破ったら泣くぞ」
「……はは……。もう、泣いてるじゃん……」
オレはゴシゴシと袖で目をこする。
「こ、これは汗だ。オレの汗は目から出てくるんだ」
「……へえ……。変わってる……」
笑ったまま、アルステールは弱々しく言った。
「と、とにかく。行ってくる。約束を破るんじゃねえぞ」
「……うん、わかった……。ガンキチ……死なないで……」
「オレは死ねない身体なんだ。心配するな」
涙目で必死に笑顔を作り、オレは静かに部屋を後にした。
ちくしょう――終わらせてやる!!
何が何でも終わらせてやる!!
それまで――アルステール、約束を破るんじゃねえぞ――。
* * *
予想以上に早く、王都クリスエルムの前に到着した。
ここまで、約1日と半日。
パターン通りに、最後の抵抗を仕掛けてくるユーネス軍。
しかし、ただ突っ込んでくるだけの実に頭の悪い部隊だったため、ルミニオン率いる弓兵隊の餌食となった。
シャドウキラーの報告によると、この部隊を指揮している者は、クラザート・トライドという武将らしい。
数でも、頭脳でも上回る反乱軍には、こんな部隊など敵ではなかった。
あっと言う間に蹴散らしていき、クラザート・トライドひとりを追い詰める。
果敢にも、大男クラザート・トライドはその剛腕で挑んでくるが、この人数を相手に勝てるはずもなく、ましてや、オレはブレイド・ブラッカーに鍛えられている。
ブレイド・ブラッカーに教えられたとおりオレは様々な攻撃を繰り出し、クラザート・トライドに命中させていく。
そして、手負いとなったクラザート・トライドは、地面に片膝を突いた。
ガザロ、ルミニオン、ラムド・ガル、ブレイド・ブラッカー、ラザ、レザ、ティカイナが、大男クラザート・トライドに詰め寄る。
「何か、言いたいことはあるか?」
ラムド・ガルが剣を突きつける。
それに答えるかのようにギロリと、血走った目を光らせるクラザート・トライド。
「貴様らを、道連れにしてくれる……」
恐ろしく低い声で呟いた。
「!!」
「ユーネス様に逆らう愚か者どもめが!! あの世へ行って後悔するがいい!!」
クラザート・トライドは懐に手を入れた。
何か、隠し持っている!?
それを真先に気付いたのは、ブレイド・ブラッカーだった。
「まずい!! 離れろ!!」
この一言に、みんな一斉に後ろへ飛んだ。
ニヤリと、大男クラザート・トライドは笑ったかと思うと、その瞬間。
鼓膜を突き破るような轟音とともに、その身体が爆発した。
全速力で逃げていたオレの足が、爆風にあおられ宙に浮く。
「うぐっ!!」
辛うじて、直撃はまぬがれたものの、爆風に吹っ飛ばされてオレは背中をしたたか地面に打ちつけた。一瞬息ができないほどの衝撃だった。
舌を少し噛んだようだ。血の味がする。
「あたたた……。パターン通りだが自爆するとは……。みんな、大丈夫か!?」
オレは背中をさすりながら起き上がり、辺りを見回す。
幸いな事に、被害は少ないようだ。
「私とラザ、ティカイナは大丈夫よ」
「拙者も大丈夫だ」
レザ、ラザ、ティカイナ、ブレイド・ブラッカーは無事のようだ。
「俺も大丈夫だ……。ちと、擦りむいたけど」
ルミニオンも無事か。
「私は大丈夫だ。……しかし、ガザロ殿が……」
ラムド・ガルも無事のようだが……。
オレは地面にうずくまっているガザロに駆け寄る。
「おやっさん!? 大丈夫か!?」
ガザロは足を押さえながら、痛みを堪えている。
その顔に脂汗が浮かんでいる。
「ぐ……。どうも、足をやられたみたいだ……」
ガザロの右足が、変な方向に曲がっている。
これは完璧に折れてるな。
まずい。シェルフィスは本拠地に居る。
戻っているヒマはない。オレには時間がない。
「おやっさんは、俺が連れて帰る」
ルミニオンがガザロの腕を自分の肩に回し、言った。
「いいのか? ルミニオン」
オレの言葉に、ルミニオンはニヤリと笑う。
「いいんだ。どちらにしろ、俺は城の中では足手まといになりかねないからな。これくらいの役目は果たすさ」
「いててててっ!! いてっ!! コラッ! もう少し優しく扱え!! こっちは怪我人なんだぞ!」
ルミニオンに肩を借りたガザロが苦情をもらす。
「これくらい我慢してくれ。帰ったらシェルフィスがどうにかしてくれるさ」
やれやれと呆れ顔のルミニオン。
「すまん。ガンキチ。俺はここでリタイアだ」
腕の力で馬に乗りながら、ガザロは心底すまなそうに呟いた。
「気にすんな。おやっさんの分も天誅を食らわしとく」
「頼む……」
ガザロは、ルミニオンと一緒に馬に乗り、数十人の兵と共に本拠地へと戻っていった。
「さて……。気を取り直して、行くか」
オレは改めて、クリスエルム城を見据えた――。
城下町の民家の扉――。
どの民家も、店も、扉は固く閉ざされていた。人の気配はするが、出てくる様子はない。
まるで、ゴーストタウン。これもユーネスのせいなのか。
外見だけは、でかく、神々しく、幻想的な城。
クリスエルム城。
この中にユーネスが居ると思うと、妙に禍々しく思えてくる。
オレは拳をグッと握る。
ついに、最後だ――。
ラストダンジョンだ――。
オレ達は、門の開いたクリスエルム城に踏み込んでいった――。