15
あれから何時間経ったんだろうか……。
ガムシャラに逃げ回っていたら、気付くともう夜が明けかけていた。
体力も精神力も限界が近い。
ザキュール暗殺団の奴らは、辛うじて撒いたようだ。
シャドウキラーの約3分の1がザキュール暗殺団の奴らに殺られ、随分と少なくなってしまった。
それと、ブレイド・ブラッカーの斬られた左上腕はパターン通りに毒の塗られた武器で斬られていた。
しかし、シェルフィスの持っていた解毒剤のおかげで事なきを得る。
「着いたぞ。予定より早かったな」
ブレイド・ブラッカーは疲れた素振りを見せず、クールに言った。
茂みの間から、本拠地、アテラタス砦が見える。
やっと着いた……。
と、普通は安堵するはずが、オレは目の前の光景を見て愕然とする。
本拠地が、ユーネス軍に囲まれていたのだ。
双方とも攻撃を仕掛けず、膠着状態に陥っている。
弓や剣、槍を持ち、銀色の甲冑をつけた中世ヨーロッパ風の兵。
忘れもしない、あれは間違いなくユーネスの兵だ。
白い馬に乗った騎馬兵が多い。
ついでに、数も多い。
「まずい。囲まれてやがる」
ある程度予想はしていた。こうなるだろうなとは思っていた。
「貴殿の本拠地も風前の灯火だな」
冷静に語るブレイド・ブラッカー。
「ガンキチちゃん、どうするのよ?」
明らかに焦っているシェルフィス。
そんな事を言われても、こうなるとお手上げだ。
だが、絶対にゲームオーバーになるゲームは存在しない。
もし、あったとしたら、それはデバッグしていない不良品だ。
何か手はあるはずだ。何か……。
「おい、あれ。あの白馬。白騎士。あれはまさか……」
指をさしながら、ザムが言った。
白馬? 白馬がどうかしたのか?
「ラムド!!」
さっきまで疲れの色を隠せなかったレミュリアが、我を忘れて飛び出した。
「レミュリアちゃん! 危ねえ!」
と、腕を掴もうとしたが、一瞬遅かった。
握っていたのは空気だった。
「くそっ!」
オレは飛び出す。死を覚悟して。
ザム、アルステールも飛び出した。
「もう、どうなっても知らないわよ!」
シェルフィスも飛び出す。
「全く、面倒な事になったでござる」
と、洩らしつつ、ブレイド・ブラッカーも生き残ったシャドウキラーと一緒に後へ続く。
パターン通りか、兵に囲まれた。
あっと言う間だった。
「何だ貴様は! 貴様もこの砦の人間か!?」
部隊長らしき兵から問われる。
数十人の兵から槍を突きつけられる。
ああもう。マジで終わった……。
ギラギラと無数の刃が、目の前で光っている。これで怖いと思わないほうがおかしい。 しかし。
「ラムド・ガル! ラムド・ガルに会わせてください!」
わめきちらすように叫ぶレミュリア。
ラムド・ガル? レミュリアちゃんの恋人の?
「むっ!? 何故この軍がラムド・ガル様の軍だとわかった!?」
険悪な雰囲気だ。
「私はレミュリア。レミュリア・クリスエルムです! お願いです、ラムド・ガルに会わせて!」
泣きそうになりながらも、レミュリアは引き下がらない。
レミュリアという名を聞いた部隊長の顔色が変わった。
「……レミュリア!? レミュリア姫!?」
「はい、レミュリアです!」
「ま、まさか……」
と、うろたえるも、部隊長は兵の一人に耳打ちする。
こくりと頷くと、一人の兵は早足でその場から去っていった。
だが、まだ、目の前に突きつけられている刃は下ろしてくれない。
「……まだ、貴様らを信用したわけではない。今、ラムド・ガル様を呼びに行かせたが、少しでも妙な動きをしたら、容赦なく斬る!」
「……」
少し、安堵した表情のレミュリア。
オレはとても安堵できない。だって目の前で刃を突きつけられているんだぞ。
とりあえずは、殺されずには済みそうだが。
約30分後――――。
ドドドッドドドッと馬を全速力で走らせる独特の音が聞こえてきた。
そして、兵の少し前でザザーッとブレーキングして、馬から降りる。
「構わん」
妙に爽やかな男の声が響き渡った。
その途端、オレ達の前に突きつけられた槍が上に戻される。
そして、兵が二つに割れると、ひとりの騎士が姿を現した。
赤い長髪。グレーの瞳。つんと高く、格好のいい鼻、端正のとれた顔。長身で細身――と言ってもオレより一回り大きい――の、何かこう頼りがいのありそうな爽やかなナイスガイ。
白い甲冑、白い盾、白く輝く刀身の長い剣を装備している。
もう、単純に言ってしまえば、悔しいがとてもイイ男だ。
こいつがラムド・ガルなのか?
まるで、ゲームでは定番の白馬の王子様みたいじゃないか。
「レミュリアッ!!」
ラムド・ガルは顔を輝かせ、レミュリアに駆け寄った。一目でわかったようだ。
「ラムドッ!!」
レミュリアも一目でわかったらしい。
二人はひしと抱き合う。
感動のシーン。
しかし、
……。
何か、悔しいぞ。
感動の再会シーンを見て、アルステール、ザムはボロボロと泣きまくる。
パターン通りだが、ラムド・ガルは手のひらを返したようにオレ達の反乱軍へ寝返った。
この事が兵全体に伝わるまで結構ヒマがかかった事は、言うまでもない。
更に、本拠地の兵にも、ラムド・ガルの軍が仲間になった事が伝わるのに、やたらとヒマがかかった事は、やはり言うまでもない。
都合のいいことに、ラムド・ガルの兵はみなラムド・ガルに固い忠誠を誓っているらしく、二つ返事で寝返りに賛成した。
元々、戦力が集まればユーネスに反旗を翻すつもりでいたらしい。
と、ここまで話を聞いたところで、
疲労もあったせいか、オレは緊張の糸が切れて、ぶっ倒れた。