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 あれから、どのくらいの時が経ったのか。

 オレは、目を覚ました。

 身体の毒は……大丈夫か。

 一応、身体は動く。

 よく見たら、右手はご丁寧に手当てされている。

 みんな、みんなは何処だ?

 辺りを観察するのも忘れて、オレは4人を探す。

 だが、オレの心配はよそに、すぐ近くで4人は床で寝ころがっていた。

「目が覚めたでござるか?」

 薄暗い部屋の中、突然声が聞こえた。

 オレは反射的に辺りを見回す。

 薄暗い部屋の中に、人影が……よく見るとわんさかと居る。

「お、オレ達をどうするつもりだ?」

 言いようのない恐怖を感じながらも、オレはそれを必死に押し殺し、言った。

「どうするも何も、貴殿達はここに用があって来たのでござろう?」

「えっ?」

 妙に緊張感が無い声。侍のような喋り方。

 その声にオレは呆気に取られた。

「ここはシャドウギルドよ」

 酒場で会ったロングヘアの女が現れた。

「言いたいことは手に取るようにわかる。ここへ初めて依頼に来た者はみなそれを口にする」

 目の前の人影が言う。

 だんだん目が慣れてきた。

 目の前に、黒いバンダナを深く巻いた黒装束の男が椅子に座っていた。

 よく見ると、辺りに居る奴らは全員、似たような格好をしている。バンダナを巻いてる奴は目の前の男だけだが。

 黒いバンダナを巻いたこの男、バンダナで半分隠れて見えないが、鋭い目つき。しかし悪意はない。そして、結構高い鼻。妙に黒い漆黒の髪。しかし、根元の部分の色が違う。顔全体から、妙に頼りになると感じさせる雰囲気がある。歳は、推定28歳くらいか?

 あくまでオレの勝手な憶測だが。

 そして、クールな感じのする無駄のないスラッとした身体。

 ただ者ではない事が、容易に見て取れる。

「なあに? 貴方、ブレイド・ブラッカー様に一目惚れ?」

 ロングヘアの女が茶化してきた。オレがジロジロと観察していたこの男はブレイド・ブラッカーという名のようだ。

「好意は嬉しいが、拙者は生憎そういう趣味を持ち合わせておらん」

 クールな表情で言うブレイド・ブラッカー。

 悪いがオレも持ち合わせていないぞ。


 そして、しばらくして、みんな目覚めた。

 目覚めた当初、パターン通りかみんな『俺達をどうするつもりだ!?』とか『一思いに殺せ』とか『私はどんな事でも耐えてみせます』とか『イタイのはよして』など口々に言いまくった事は、やはり言うまでもない。


「すまんな。この場所は誰にも知られたらいかんのだ。だから、こういう形で貴殿達を――依頼者を連れてきたのでござる」

「だったらそういう風にハナっから言えよ」

「なかなか理解してくれない依頼者が多くてな、それに、我々と同じ手段で強盗をする不届き者がおる。だから、素直に応じて貰えないのでござる。説明してもいいが、騒がれても困るのでな」

「それじゃ、ここから出るときは?」

「無論、また眠ってもらう」

「……」

 実に的確に誤解を解くブレイド・ブラッカー。


 オレは疑問に思う事を何個か質問してみた。

 企業秘密でない質問は的確に答えてくれた。

 最初に、こいつらのシャドウキラーという職業。言ってみれば、忍者と似たようなものだ。

 後、仲間でここの場所をバラす奴が居たらどうするんだと聞くと「仲間にそんな奴はおらぬ」と一蹴された。後、悪者――ブレイド・ブラッカーの独断と偏見で決めるらしいが――の依頼は受けないそうだ。

 余談だが、オレの右手に刺さったダーツのような短剣には毒ではなくて、痺れ薬が塗られていた。身体が痺れるだけで、命に別状は無いらしい。


「それで、依頼の内容は? 言っておくが我々は善人は殺さぬ。そう決めておる」

 とりあえず質問を終えたオレに、ブレイド・ブラッカーが切り出した。

「わかってる。オレ達もいい奴は殺したくない」

 ザムの肩をポンポンと叩きながらオレも答える。

「な? ザム?」

「うるせえぞ」

 悪態をつくザムだが顔は怒っていない。


 オレはブレイド・ブラッカーに全て話した。

 悪王ユーネスに天誅を食らわすために反乱軍を結成した事、少し前に刺客から殺られそうになったことを。


 今になって気付いたが、ユーネスを暗殺すればいいではないかと思い、提案してみたが、ユーネスにも、オレ達が考えるようなボディーガードが居る可能性が高いらしく、成功する確率が極めて低い。と、却下された。

 と、いうわけで当初の依頼を頼む。

「依頼は、オレ達をユーネスの刺客から守って欲しいんだ」

「先の話しに出た、クリスエルムの王だな」

「そう。確証は無いが、オレの予想だと多分奴の刺客だと思う」

 聞いていたブレイド・ブラッカーの眉が少し反応する。

「その刺客は、どんな者であった?」

 ずいっと顔を近付けて聞いてくる。

「んーと、ヒトの物真似をするというか……、なんか、皮膚の様なマスクを付けて変装していて……」

 オレが言い終えると同時に、急に立ち上がるブレイド・ブラッカー。

「ザキュール暗殺団……。間違いない」

「ざきゅーる暗殺団?」

 初めて聞く言葉に、ハテナ顔をするオレとは対照的に、ザムの顔が青くなった。

「ザキュール暗殺団だと!? あの悪魔、なんて奴らを雇いやがったんだ!」

 取り乱すザムを落ちつかせて、オレは聞いてみる。

「ザム、知ってるのか?」

「ああ。俺どころか姫様も、てめえのカノジョも知ってんぞ」

 オレはアルステール、レミュリアを見る。

 妙に青白い顔をしている。

 ザムの言ったことはマジみたいだ。

 シェルフィスは知らないようだが。

「まさか……、ザキュール暗殺団だなんて……」

 レミュリアは驚愕の色を隠せない。

「……」

 アルステールは言葉も出ないようだ。カタカタと震えている。

「何だ? そんなに恐ろしい奴らだったのか?」

 オレはあの時の光景を思い浮かべる。

 確かに妙に強かったが……。

 震えているレミュリア、アルステールに代わって、ブレイド・ブラッカーが説明を始める。

「あ奴らは残忍で悪逆非道な者共だ。依頼されればどんな善人であろうと、その刃にかける。だが、すぐには息の根を止めぬ。さんざん苦しめ、いたぶった後、果物の皮を剥くようにジワジワと殺すのだ。厄介な事に、腕も確かだ」

 更に、ブレイド・ブラッカーはオレに指をさして。

「貴殿を襲ったのは、単なる暇つぶしの遊びだな。殺さなかったのが何よりの証拠だ」

「!」

「次に来るときは……。確実に殺される。しかも苦しめながら嬲るようにだ」

 ブレイド・ブラッカーが、恐ろしいことを口にする。

「……」

 苦しめながら嬲るように――その言葉にオレはビビってしまったようで身体中に鳥肌が立ってしまった。

「うむ。依頼を受けよう。ただし、料金は払ってもらう」

 ブレイド・ブラッカーは快諾する。

「そうこなくちゃ。で、料金はいくらだ?」

「10000000サフィルだ。言っておくがこの金額以下にはならぬからそのつもりで」


『いっせんまん!?』


 後ろの四人が目を丸くした。

 オレの小遣いは約60000サフィル。

 足りないぞ。

「現在の軍資金の約半分ですわ……。苦しくなってしまいます……。我が軍が」

 レミュリアが暗算をする。


 軍資金の管理はレミュリアに任せている。

 レミュリアは意外に暗算が得意だ。ある意味才能と言えるほど。

 人は見かけによらないとは本当だな。


 しかし、困ったな。

 レミュリアが言うんだからマジだろう。

 かと言って、諦めたらシナリオが進まなねえぞ。

「どうにかならないのか? 月々10000で1000回払いとか……」

「1000回払ってもらうまでに、我々が死んでしまう。それは却下だ。まあ、ゆっくり決めてくれ。だいたいの依頼者はこの金額を聞いて去っていくが」

 ううむ……。ブレイド・ブラッカーの言う通りだ。

「エルフなら辛うじて生きてるのにね」

 シェルフィスがボソッと呟く。


 と、その時。


「……この音は!」

 ブレイド・ブラッカーが最初に気付く。

 言われてみれば何か音がする。

「まあ、凄い。私より早く気付くなんて」

 長い耳をピクピクさせてシェルフィスがやや悔しそうに言う。

「何だ? 何がどうなってる?」

 ハッキリ言って、何がなんだかオレには全然分からない。

「これは何かを破壊する音だ」

 何かを壊している?

 頭上から微かに地響きを感じる。その地響きがする度に天井からパラパラと小さな破片が落ちてくる。

 そうこう考えていると、一人のシャドウキラーが目の前に現れた。

「……ああ、……ふむ……」

 ブレイド・ブラッカーに耳打ちをしている。

 報告を聞きおえると、ブレイド・ブラッカーはオレ達に向き直った。

「どうやら、貴殿達の言う悪王の軍が攻めてきたらしい」

「何だって!?」

 ついにこの辺りも制圧しようというのか? あの悪王は。

 今、オレ達には兵が居ない。

 かなりまずい状況だぞ。

「厄介だな。我々はサシの勝負には強いが、人数が多いと不利だ」

「んな頼り無い事を言わないでくれよ」

「我々、シャドウキラーも所詮は人間ということだ。さて、逃げる準備でもするか」

 こんなヤバイ時だというのに、妙に冷静なブレイド・ブラッカー。

「ちょっと待て、逃げられるのか? このパターンだと外はユーネスの兵でいっぱいだぞ」

 オレの心配をよそにブレイド・ブラッカーは壁際に寄ると、壁を触りはじめる。

 そして、ある箇所を触ると壁が忍者屋敷の隠し扉のようにクルッと回転した。

 扉の向こうは通路になっているようだ。

「さて、逃げるぞ」

 来い、とオレ達に手招きする。

「おい」

「何だ? 逃げないのか?」

「オレ達、ここから出るのに、眠らせないのか?」

「眠りたいのか?」

「い、いや。遠慮しとく」

「多分、この街はもう終わりだ。今更場所を知られようと、もう関係ない。さ、行くぞ」

 ズン……ズン……という音が聞こえる中、オレは頷いてブレイド・ブラッカーに付いていった。


 隠し通路を歩いてオレの脳内時間で1時間後。

 ようやく終点に着きそうだ。

 随分と長く、狭く、薄暗い通路だった。

 よくまあ、こんな物を作ったもんだ。

 終点に着くと、ブレイド・ブラッカーは壁をあちこちと押す。

 一見普通に行き止まりのように見えるが、これはやはり開くんだろうな。

 石を擦る音が響き、徐々に開いていく隠し扉。自動じゃないぞ、もちろん力任せに手動だ。

 まさかとは思うが、外にユーネスの兵が待ち構えていたりしないよな。

 ブレイド・ブラッカーの後に続き、オレも外に出る。

 もう、辺りは夕焼けに包まれていた。

 結構長い時間シャドウギルドに居たようだ。

 目の前には見覚えのあるでかい湖が見える。

 ドマジ街へ行く前に見たドマジ湖だ。

 こんな所につながっていたのか。

「さ、ここもそんなに安全ではない。とっとと逃げるぞ」

 ギルドの中に居たシャドウキラー達が全員出てきた事を確認すると、ブレイド・ブラッカーはササッと足音を立てずに早足で歩きだす。

 オレはふと、振り返った。

 遠くの方で燃えているドマジ街。

 ほんの数時間前までは、平和な街だったのに……。

 ユーネス……。

 覚えとけよ。


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