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 早朝。

 テント出入口の隙間から差し込んでくる朝日に、オレは目を覚ました。

 何か、頭がボーッとする。

 睡眠が足りていない証拠だ。

 一体何時に寝たか時計が無いからわからないが。

 何か、背中が妙に温かい。

 オレはチラッと後ろを見てみる。


 ぬおっ!?


 オレの背中には、アルステールがくっついている。もちろん寝袋の中に入ってるぞ。

 入ってなかったら、アルステールは風邪をひいてしまう。

 ……じゃなくて!

 ま、まずい。

 心臓の動きが血気さかんに……。


 ……。

 オレの所まで転がってきたのか?

 結構寝相悪いんだな。

 いや、しかし、これは、むむむ……。

 ……はっ!?

 オレは一体何を考えているんだ!?

 と、とりあえず、離れねば。

 よっ……。この……。うぬっ……。

 必死に寝袋の身体を動かして、アルステールとの距離を取ろうとする。

 しかし。

「くー…くー…」

 間近にアルステールの寝顔。

 なななな……。何で、何で正面を向いちまうんだ。

 オレはアルステールから離れようと……。

 断じて違う。断じて違う。

 決して、アルステールの寝顔を見ようとかもっとアルステールにくっつこうとか考えていたような。

 ……はっ!?

 ま、まずい。アタマがヘンになってきたか。

 オレの顔にアルステールの寝息がかかる。

 何か、少し、甘い匂い……。それに、あったかい。

 化粧っ気のない、アルステールの顔。

 日に焼けたのか、初めて出くわしたあの時より、少し小麦色の肌。

 口紅なんか一切付けていない、ピンク色の柔らかそうな唇……。

 ……はっ!?

 だだだ、ダメだ! 何を考えているんだ!


 パチッという音がしそうなほどアルステールは目を開いた。


 …………。

 ……………。

 ………………。

 オレは顔から滝のように汗が流れ落ちる……はずである。マンガでは。

 やはり、何が起こったかわからないといったアルステールの表情。

 や、ヤバイ。パターン通りの展開から推測するに、この次からくる行動は……。


「むにゃ……。うふふふ……☆」


 あら?

 オレが予想していた反応と違う。

 それどころか、アルステールは嬉しそうに笑みを浮かべながらオレにくっついてくる。

「うふ、ふふふ……」

 ね、寝ぼけてる!

 完全に寝ぼけてる。

 そそ、そんなに顔を近づけるなッ!!

 ほ、ほっぺに、ほっぺに……。アルステールのくちびるが……。

 り、理性が……。


「ガンキチちゃん! アルステール! 起きなさい! ご飯の準備が……」

 テント出入口を開けて、中を覗き込み、シェルフィスが呼ぶ。

 しかし、パターン通りか、シェルフィスはくっついているオレとアルステールを見ると、固まった。

 そして、無表情でテント出入口を閉めると。


「大変。大変よ! ついにガンキチちゃんとアルステールが……」

 慌てて報告に行った。

 もちろん、この事でオレが寝袋から超スピードで脱出して外に飛び出した事は言うまでもない。

「違う! 違うぞ!!」


 パチパチと燃えるたき火の前で、朝メシの干し肉と、シェルフィス自作の固形型栄養補助食を食べるオレ。

 やはり、朝は冷える。

 ここはオレの世界と違って冬だからな。

 と、冷静に考えているオレだが、あの後、延々といつものイジメが続いた。

 ついに結ばれただの、アルステールが私より早くオトナになっただの、しかも、ザムまでこのスケベ! などと言ってくる。

 もちろん、オレはパターン通りに言い訳をして誤解を解いたことは言うまでもない。

 オレの隣で、ボーッと干し肉と栄養補助食をチビチビとかじるアルステール。

 さっきから、何も喋らない。

「……」

「ど、どうしたんだ? お前」

 と、オレが話しかけても、虚ろな眼でオレを一瞥してまたチビチビと朝メシをかじる。「……眠い」

 ボソッと呟いて、チビチビと食べる。

「アルステールはいつも、朝はこうでしたのよガンキチさん」

 アルステールとは正反対に元気のいいレミュリア。

「うん、低血圧ね。完全に」

 早くも朝メシを食べおえたシェルフィスが、アルステールを観察して言った。

 余談だが、シェルフィスは小食である。

「ガンキチよお、ちゃんと低血圧のカノジョを守ってやれよぉ」

 ザムが豪快に干し肉をかみちぎりながら茶化してくる。

「ななな、何を言うか!」

 焦るオレ。


 *     *     *


 テントを片付け、たき火を消して、オレ達一行は再びドマジ街を目指す。

 相変わらず、オレはアルステールにしがみつきながら馬に乗っている。

 言っておくが、馬にはちゃんとエサと水を与えているぞ。

 まあ、放っておいても勝手にその辺の草とか食ってるけど。


 それにしても……。

 相変わらず、幻想的な景色だ。

 もう、ここにいきなり飛ばされてから約1ヵ月以上経つが、未だにこの景色は見飽きない。

 1ヵ月……。オレ、1ヵ月以上も向こうに帰ってないんだな。

 何か、妙に寂しい気もするが、そんな事を考えていても向こうには帰れそうにない。

 そう、オレはもうやるしかないんだ。


 琵琶湖まではいかないが、相当にでかく、美しい湖、これは、ドマジ湖らしい。

 これが見えはじめたということは、ドマジ街は目と鼻の先と、ザムが言っていた。

 ザムの言うとおりしばらく馬を走らせると街が見えはじめた。この頃、太陽は真上を位置し、昼を知らせていた。

 ここが、ドマジ街か……。

 中世ヨーロッパ風の建物、レンガ作りの家。

 オレの世界では歴史の教科書くらいでしかお目にかかれないような建物ばかりが、ここには多数存在している。

 中世ヨーロッパ風といっても、やはりファンタジーらしく多少のアレンジが加えられている。

 オレ達は、喫茶店のような店で軽く食事を済ませたあと、ザムの言っていた酒場を探す。

 この街は結構広く、酒場といっても、何箇所もあるらしい。これはその辺を歩いているNPC……じゃなくて、民間人から聞いた。

 こりゃ探すのが大変だ。

 かと言って、探さないわけにもいかないからとりあえず次の酒場で情報収集をする。

 酒場。

 どの酒場も、入った瞬間酒臭い。

 そして、騒がしい……はずが、この酒場はみな静かに酒を飲んでいる。

 オレは手当たり次第に飲んでいる奴から話を聞き、空振りを繰り返した。

 やや気落ちしつつも、13人目の若いスラッとした黒いロングヘアの女性客に話しかけた。

「あら、ナンパ? 坊や」

「違う、少し聞きたい事がある」

「何? それ、新しいナンパの手段?」

 やたらと茶化してくる女を無視してオレは話を続ける。

「オレ達は、シャドウギルドってのを探してるんだ」

 オレの言葉に、女は表情を強張らせた。

 この反応は何か知っているな。

「……ここでは話せないから」

 目で外に出ましょうとサインを送ってくる。

 オレ達はロングヘアの女の後を付いていく。


 そして、連れてこられたのは、静かな裏路地。

 所々、果物の皮やゴミが落ちている。

 辺りに人の気配はない。

 少なくとも、オレの感覚では。

 でも、シェルフィスは何かに気付いている様子。

「ガンキチちゃん。迂闊だったわ。囲まれている………15人……いや、20人」

 長い耳をピクピクと動かしながら小声で囁く。

「なんだと……?」

 オレには全く気配を感じない。

「まずいぜ。こいつは多分シャドウギルドの奴らだ」

 ザムが呟いた。オレは思わずザムを見る。

「シャドウギルドの奴らだと? 何でオレ達を……」

「おおかた、シャドウギルドの事を知ったからじゃねえのか?」

「話と違うぞ。悪者なのか? こいつらは」

「んな事を俺に聞くな。わかるはずがねえ。単なる噂で聞いた話だったからな」

 まずい。

 あの暗殺者と同等……或いはそれ以上の強さの奴がわんさかと出てこられると、正直、お手上げだ。


 素晴らしいスピードで、一斉に現れる人影。

 シェルフィスの言うとおりその数は15以上20未満。

 数えているヒマはない。

 オレは咄嗟に腰の剣を抜こうとするが、その手に何かが刺さった。

「うっ!?」

 右手に刺さったのはダーツの様な細い短剣。

 途端に右手が麻酔を打たれたように痺れだす。

 毒か!?

 まずい! みんなは……。


 素晴らしいスピードで当て身をして、みんな次々と昏倒させられている。唯一、ザムだけは粘っていたが、多勢に無勢。スキを突かれて三段階伸縮可能な自慢の赤い槍を使う前になすすべもなく昏倒した。

 オレは右手の痺れが徐々に全身へ広がっていき、身体が思うように動かなくなる。そして、やはり当て身を食らわされた。

 首の後ろへ一撃食らった時、不思議と痛いという感覚が無かった。

 くそっ……。終わりか……。

 薄れゆく意識の中、オレは思った――。


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