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 次の日の朝。


「何だと!? 脱走された!?」

 牢屋へ見回りに行った兵からの報告に、ルミニオンは驚愕する。

 兵の話によると、監視兵12人が倒され、牢はもぬけのカラだったらしい。

 一人で脱獄する事は不可能だ。

 何故なら、両手両足はもちろん、身体中に関節を外せても脱出できない拘束器具を付けていたのだ。


 味方が……助けにきやがったか。


 その日の作戦会議。

「暗殺者。これが一番厄介だ」

「その通り。ある意味、奴らが一番手強いな」

 オレとルミニオンは同じことを口にした。

 言っておくが斬り付けられた腰はとっくにシェルフィスから治療をしてもらったぞ。

 刃に毒が仕込まれていた可能性があるため、解毒剤も飲まされた。

「暗殺者……こいつが相手じゃ、コッチの兵が頼りねえな」

 ザムも似たようなことを洩らす。

「それじゃ、こっちも似たような職業の人を仲間にしたらどうだろうか?」

 アルステールの発言。

「こっちも、暗殺者を雇うか? 暗殺者を暗殺するための暗殺者を……なんか、ややこしいな」

 冗談めいて言ったオレに、ザムは。

「暗殺者じゃねえけど、ボディーガードを生業としている奴らの話は聞いたことがある」

「おっ、そのボディーガードは強いのか?」

「暗殺者はもちろんのこと、様々な危機からクライアントを守るらしい。守るってんだから相当強いんだろうよ。ここの兵数十名よりはマシじゃねえのか?」

 オレは考えた。

 ふむ……。

 弱かったとしても、戦力にはなる。

「そいつらには何処に行けば会えるんだ?」

「ここから約861ケザルぐらい行った所にドマジという街がある。そこにシャドウギルドと呼ばれるギルドにそいつらがいるようだ。表向きは酒場みたいだがな」

 また酒……。

 絶対、飲まねえぞ。

「その、ドマジ街までここからどのくらいかかりそうだ? アネさん」

 オレはシェルフィスに聞いてみる。

「だから、アネさんゆーな。……ええとね、861ケザルだから……。早く着いて3日くらいかしら」

 3日!

 3日も歩くのか!

 顔色が変わったオレを見て、ルミニオンが。

「この砦にまだ馬が何頭か残ってる。そいつに乗っていけばかなり時間短縮になる」


 その日の作戦会議で出たその後の方針。

 ボディーガードを雇う事。


 明朝、オレは4人の仲間を選び、ドマジ街へ向かった。

 パーティー編成は、アルステール、レミュリア、シェルフィス、ザムだ。

 ルミニオン、ガザロは本拠地を守ってもらうため残ってもらう。


 道中、ザムが。

「いやあ、姫とご一緒できるなんて光栄です。はっはっは……」

 態度がまるで違う。

 ニヤニヤと、鼻の下を伸ばしている。

 馬に乗れないオレはアルステールにしがみつきながらそれをじっと観察する。

「私も、ザム将軍が居ると心強いです。ふふふ……」

 レミュリアは無垢な顔をしてそれに答えている。

「そりゃ、もったいないお言葉。俺なんぞラムド・ガルの足元にも及びませんよ」

 はははは……と照れ笑いをするザム。

「そんな事はありませんわ。貴方は強いお方。自信を持ってください」

 口許に手を当てながら、ふふふと笑う。

 あいつ、オレに負けたではないか。まともにやり合ったわけじゃないけど。

「お、おい。ガンキチ。あまりくっつくな」

 急にアルステールが真っ赤になる。

「ば、バカを言うな。くっつかねえと落ちるんだよ」

 第一、つかまるところがアルステールの身体以外無い。

 オレにとっては馬の歩く振動すら恐ろしい。

「あらまあ〜。お熱いことお熱いこと☆ こっちまで暑くなってきたわ」

 シェルフィスがパタパタと手で顔をあおぎながらニヤニヤして言う。

 いつものイジメだ。……とわかっていながらもオレは顔が赤くなる。

「こここ、こいつがくっついてるだけで……」

「ちちち、違う。手を離したら落ちるんだよ」

「いい口実ができたわねガンキチちゃん」

 細い目を更に細くするシェルフィス。

「ち、違うってのに」


 夜。

 随分馬を走らせたが、結局その日のうちには着かなかった。

 これ以上は馬も人間も疲労が溜まる。とシェルフィスの指摘で、野宿の準備をする。

 うまい具合に風除けになりそうなでかい岩が何個か転がっていて、木も何本か生えている場所を見つけると荷物を降ろす。

 テントを組み立てる。

 馬の手綱も木にくくり付ける。

 テントを組み立てた後、火をおこす。

 そして、干し肉を食べた後、

「あれ? おい、何でテントが二つしかねえんだ? ひとつはでかいけど」

 ふと、疑問に思い、聞いてみると、

「バラバラになって寝るとヤバイって言ったのはガンキチちゃんじゃない」

 ニヤリとシェルフィスが笑う。

 ま、まさか。

 ひとつは三人くらいが定員、、もうひとつはだいたい二人が定員のテント……。

「私とザムさんは姫様と一緒に寝るわ。ガンキチちゃんはもちろん……」

 あえてその先は言わない。

 だが、オレはすぐに分かった。これで分からない奴はレベル99の鈍感だ。

「ちょ、ちょ、ちょっと待て!!」

 慌てるオレ。

「あら、気に入らないの? 私の提案が」

「だけど、やはり、これは、その、若い男女が狭いひとつのテントで一夜を過ごすという事にならないか?」

「なるわね」

「不潔ではないか」

「まっ、ガンキチちゃんったら古い考え方ね」

「オレは硬派だからな」

「はいはい。そういうことにしときましょう。じゃ、正当な理由が必要なのね?」

「そりゃそうだろう」

 チラリとオレはアルステールの姿を見ると小さくこくりと頷いた。

 シェルフィスは一瞬目を閉じた後、

「私と、ザムさんが寝るのは、ザムさんが気に入らないでしょ? 私とアルステール、私と姫様だと、もう一つのテントが男二人、女一人になっちゃうわ。更にアルステールとザムさんが一緒に寝るのはガンキチちゃんが可哀相だからダメ。姫様は婚約者が居るから、二人で寝させるわけにはいかないでしょ。ザムさんとガンキチちゃんが二人で寝たら面白くないし。私とザムさん、ガンキチちゃんが三人で寝ると、犯されそうだからイヤなの☆」

 ポカンと口を開けて聞いているオレ。

 えらい早口で、妙に説得力のある説明をまくしたてる。

「だだだ、誰が犯すか。それに、それならみんなひとつのテントで寝ればいいだろう?」

「ダメよ。あのテントは三人が限界。それに、ガンキチちゃんならアルステールくらいイザというとき守れるでしょう? それとも、逆に守られちゃうとか?」

 シェルフィスは火の側で膝を抱えているアルステールを横目で見ながら言った。

「……」

 アルステールは無言でたき火を見つめている。

 そのアルステールと一瞬目が合った。

 そして立ち上がりこちらへやってくる。

「なに? どうしたんですか? シェルフィスさん」

「ガンキチちゃんとアルステールの事を話してたのよ」

 シェルフィス、何でそんな事を言うかな。

 途端にアルステールは真っ赤になる。

「え! あ、う……」

 壊れたロボットのように何も喋らなくなった。

 当たり前だ。オレも喋れないんだから。この状況じゃ。

「頑張るのよ。ガンキチちゃんとイイコトがあるといいわね☆」

「なななっ!?」

 ポンとアルステールの背中を叩くと、シェルフィスはそそくさと三人用テントの中に入っていった。

 アルステールも、うすうすわかってきたようだ。

 目の前にあるテントからは、ザム、レミュリア、シェルフィスの楽しそうな声が聞こえてくる。

 それと対照的に、少し離れた所にある二人用テントはもぬけの殻。

「コホン。えーっと。まあ、つまり、こういう事だ」

 オレは開き直った。

 別にナニかしようとは思ってないし。

「ふ、二人で、寝る。のか?」

 アルステールは真っ赤な顔をして、オレを上目遣いに見る。

 オレの想像じゃシェルフィスに猛抗議するアルステールの図が思い浮かんだのだが、何か、いや、そんなバカな。嫌がっている様には見えないぞ。

「そ、そうだ。文句があるんなら、シェルフィスに言ってくれ」

 完全に開き直ったオレ。

「ガンキチがいいんなら……。ボクも構わないよ……。ちょっと恥ずかしいけど」

 お、おかしい。

 こんな事をアルステールが言うはずがない。

 こいつ、ニセモノか!?

 オレはあの女から襲われて以来、疑心暗鬼になっていた。そして本物かニセモノかどうか確かめる方法も学習した。

「あっ!?」

 オレはまたアルステールを抱きしめて、匂いを嗅いでみる。

「あ、ちょっと、やっ……」

 …………。

 ……………。

 アルステールの匂い……。

 香水の匂いはしない……。

 ほ、ホンモノだ。

「ご、ごめん。ほ、ホンモノのアルステールだ」

 オレはババッとアルステールを離す。

「ななな、何をワケのわからない事を……」

 真っ赤な顔が、更に真っ赤になる。

 オレも何をしていいやら全く分からなくなった。

 また奇妙な沈黙。

「お、オレは寝るぞ。寝るからな」

「ぼ、ボクも寝るさ。寝るよ」

 二人同時にテントへ向かう。

 ササッとオレがテントに入ると、アルステールもササッと入ってくる。

 そして、お互い目一杯距離を取って、防寒処理を施したらしい寝袋の中に入る。

 ……。

 二人だからそこまで狭くはないはずのテントが、妙に狭く感じる。

「えーっと……、おやすみ」

「う、うん。おやすみ」

 ………。

 …………。

 ……………。

 眠れやしねえ。

 当たり前だ。すぐ隣にアルステールが寝てるんだから。

 ちくしょう。無心だ無心。何も考えるな。

 えーっと、えーっと。

 ………。

 …………。

 ……………。

 ね、眠れねえ……。

 ちくしょう。何でだ。

 こうなったら色々と考えて、頭を疲れさせてやる。

 今、夜だな。

 そうだ、夜といったら黒、黒といったらアルステールの服……。

 …………。

 ダメだダメだダメだッ!!

 そうか、夜だからイカンのだ。

 昼だ、昼にしよう。

 昼、昼といったら青空、青空といったら青、青といったらアルステールの髪……。

 …………。

 ……………。

 イカンイカンイカンッ!!

 昼もダメだ、昼もイカン!

 えーっと、えーっと、そうだ、夕方だ、夕方にしよう。

 夕方といったら夕焼け、夕焼けといったら赤、赤といったら炎、炎といったら温かい、温かいといったら風呂、風呂といったら水、水といったら海、海といったら青、青といったらアルステールの瞳……。

 …………。

 ……………。

 ………………。

 オレのバカバカバカ!!


 ね、眠れねえ……。な、何で?


 夕方もダメだ。夕方もイカン!!

 うーむうーむ。そうだ、雪だ。雪にしてやる。雪なら大丈夫だろう。うむ。

 雪といったら白、白といったら煙、煙といったら炎、炎といったら赤、赤といったら溶岩、溶岩といったら熱い、熱いといったらお湯、お湯といったら風呂、風呂といったらスポンジ、スポンジといったら柔らかい、柔らかいといったらアルステールの胸……。

 …………。

 ……………。

 ………………。

 い、いかん、アルステールの事を考えてはいかん!

 と、思いながらもさっきから全部、ラストがアルステール関連だ。

 ヤバイ。興奮して更に眠れなくなった。

 …………。

 ……………。

 ………………。

 もう、こうなったら、アルステールの事ばかり考えてやる。

 アルステールが一人、アルステールが二人、アルステールが三人………。


「ぼそぼそ……」


 ん?

 今、何か聞こえたか?

 言っておくが、オレは喋ってないぞ。


「……ンキチが363人……ガンキチが364人……ガンキチが365人……ガンキチが366人……ガンキチが……」


 …………。

 ……………。

 ………………。

 アルステールが………、オレを数えてる。

 アルステールも同じ気持ち……。


 …………。


 何か、眠くなってきちまった。

 眠るかな、アルステールの声でも聞きながら。

 なぁーんて………。

 カッコつけても、全然眠れねえッ!!

 ますます興奮してきた。おまけに心臓もバクバクいってやがる。

 だああああああっ!! 全く眠れん!!

 どうすればいいんだ。どうすればいいんだ。

 このままじゃ、オレ、今日徹夜しちまう。

 …………。

 ……………。

 ………………。

 ん?


「くー……くー……」


 寝息が聞こえてくる……。

 アルステールの奴、眠ったのか。

 オレは……。

 ちくしょう。眠らせてくれ。頼むから眠らせてくれ……。


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