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生存への道

暇だから書き始めたけど中々疲れるな小説って


その後、黒っぽい色をした雨が断続的に降り続けたが、自身の体には何も影響がなく、そのまま日が上っている限り歩き続けた。


しかし、四時間ほど歩いて休んでを繰り返している内に日がもう限界まで傾いてしまったので、未だ煙の燻る焼け野原の上で一夜を明かす羽目になってしまった。


昼頃に得た高揚感は未だに心と体双方に残っており、中々寝付けなかったが、羽虫が耳元で音を立てることが全くなかったので快適に眠れた。


翌朝、靴づれした部分の鈍い痛みを目覚ましがわりに起きると、体が鉛でできているかのように重く感じた。


どうやらあの奇妙な多幸感もどこかへ行ってしまったようだ。


シラフになった頭脳は体とは対照的に、フル稼働して現状を把握しようとしている。


「やっべえ...体が動かない...そんな体鈍ってたかな」


彼は所詮事務職であり、勤め始めて数年が経過していた頃には高校大学で付けた筋肉は完全に衰えていた。それを無理に動かしたせいで筋肉痛になっているのだろう。


それにしたってそこまで体を痛ぶるほど動かしたつもりはない。


そう考えて昨日の行動を振り返ってみる。


「うーん、テンションがハイになってから無理しすぎたかなあ」


あの自分が引き起こしたと思われる爆発の後、妙に気分が良かったのを覚えている。


きっとあれが身体を限界以上に酷使させてしまったのではないか。そう考えた。


「覚醒剤やった後みたいな感じだったな〜、坂口安吾かな?いや、やったことはないんですけどね!」


下手な一人芝居をかましているが、こうでもしないと体の辛さを逸らすことができない。


ああ、また思い出したから体が重く感じてきてしまった。


つ、辛い。


どうにかこうにか体を起こして、やっとの思いで立つ。


ついでにそこらへんで表面が炭化しているいい感じの枝を見つけて、杖代わりにした。


これで少しは楽になるだろう。


現状早く食料や飲める水を手に入れないと、確実な死が待っている。


それ故に辛い体に鞭打って動かざるを得ないのだ。


「ちくしょう、あのクソ犯人は絶対に許さん。最低でもうちの市には住めなくしてやる」


自分を殺した男を恨みながら足を動かす。


彼にも何かのっぴきならない事情があったのだろう、そこは話し次第では同情してやらんでもないが、最低でも何か報復はせねば精神衛生上悪い。


そういった、本人からすれば真面目な話だが、他人からではとてもくだらないことをいつまでも頭の中で思い浮かべていた。


そしてその足取りはゆっくりだった。





歩き始めて一時間もたたないうちに、(自称)女神さんからもらった水が尽きた。


以上に喉が渇く。


何も食べていないからだろう、腹ももう限界だ。


一食すら抜いたことがないほど食い意地が張っている人間に、1日絶食はかなりきつい。




重い足取りで歩いているうちに、森(の残骸)の入り口まで差しかかった。


森の奥の方は未だ燃えているのだろう、煙が上がっているのが見えた。


煙臭さが風に乗ってここまで来ている。


それでもここからは比較的木陰も増えるため、汗をかく量は減るだろう。


そしてその分渇きも抑えられるだろう、ポジティブに考えなくては。


しばらく木々の合間を抜けていくと、水の流れる音が前から聞こえてきた。音はそんなに大きくないが、それにしたって自分が飲む分くらいはあるだろう。


「やった、とりあえず助かった...」


言葉数も少なくなっているが、歩く歩調は水への欲求によって早くなっていた。


川辺に近づいた時にその異様な光景が飛び込んできた。


夥しい数の動物の遺骸が川の中にあった。


あまり川幅が広くない川だが、向こう岸までびっしりだ。


魚は腹を上にして動かず、鹿は顔を川に突っ込んで息絶えていた。


ここにも地獄のような光景が広がっていた。


よく見ると既に蝿がたかっているものもある、非常に不衛生だ。


「これじゃ水飲めないじゃん!ふざけんなよ畜生ども!!」


恐らく爆風と熱線、その後の山火事にやられたのだろう、どの遺骸も毛が焦げ付いていた。


這々の体で水を求めてここまでやってきたのであろう。


口から水を垂れ流しながら死んでいるイノシシと思われる死骸もあった。


だがそんなものは彼にとって不都合なことでしかない。


人間飢えている時が一番凶暴になるのだ。


「クソっ!」


近くにあった何かの死骸を思い切り蹴ると、 川の上流の方へ向かい始めた。


そちらなら未だ綺麗な水がありそうだからである。


「あ〜喉が、腹も限界だ、いっそそこらへんに転がってる肉食えないかな?」


顔を近づけて死骸の匂いを嗅ぐと、なんとも言えない腐った臭いがかえってきた。


無理だ。


そう判断して本来の目標である水を追い求める。


上流に遡るごとに段々と数が減っていき、一時間もしないうちに綺麗な清流しかない岸辺にたどり着くことができた。


「これで暫く生き延びられるわ、助かったあ...」


岸辺にへたり込んでしばらく川面を眺めていたが、喉の渇きがまたやってきて、たまらず川に頭を突っ込んで水を飲む。


ゴクゴクと水を飲み下すたびに自分の中の電池が充電されていくような気がした。


「ぷはぁ、...生きてる。俺生きてるよ」


思わず生を実感して、感動の涙が流れてしまうが、そもそもこの面倒な状況を作り出したのも自分だということに気づき、少しマッチポンプだったかと心の中で自省する。


いや、それをいうなら俺をこんな世界に送りやがったクソ女神が悪いし、そもそも俺を殺しやがったクソジジイがいなければここにはいないだろう。


そう考えたら自分が行ってしまった悪行の罪悪感も軽くなった気分になる。


そもそもあの万年課長が自分で取り押さえれてれば俺は死なずに済んだのだ。


あいつも加害者だ。


うん、俺は悪くない。


悪いのはあのクソバカどもだ。





少し河原で横になったあと、所持していたペットボトルに水を貯めて、また歩き出す。


多少は重いが、かといって気になる程でもない。


首に掛けていた職員証の紐で肩にかけるとかなり楽になった。


腰が少し痛いが、我慢だ、なんとか人里まで降りなければ。


それにここがまだ地球の可能性もある、アスファルト舗装の道路が見えるかもしれない。


こんな広い森に人の手が入っていないということは、少なくとも日本ではないだろう。


しかしまだ海外のどこかという可能性もある。


今度はそういった希望を胸に歩く糧とした。


青井孔雀氏の『令和時変獄』面白いから皆さん読んでください。

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