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終わりの始まり

暇になったので



「んン......うぉっ!」


目が覚めたら見渡す限りの草原だった。それを文学的表現だなと自己評価し、だからなんだと我に帰りつつあたりを見回した。


「夢じゃなかったんか、アレ」


そう一言呟き、先程まで自分の身に起きていた不可思議な出来事を一から思い出し始めた。


 思えばあれは仕事中だったか、役所という公共の場であるにも関わらず怒鳴り声を抑えない中年男性が、自棄になったのか懐から鈍く光るものを取り出し暴れ始めたのだ。


 あれを見た時は勘弁してくれという思いしかなかった。


今は春先で、丁度手続きやら申請やらめんどくさい案件が他の部署から回されてきたり、逆に残業がない日が珍しい時期の入り口ほどに差し掛かっているのだ。


そして自分は二十台後半であり、何故かは知らないが上司からの覚えがまあまあ良く、そのせいか同期よりも難しいと確実に言えるような仕事が回ってきていた。


つまり今日も定時には終えられないことが確定していた。


この上さらに警察沙汰となれば、家に帰るのは日付を跨ぐ可能性が高い。自分のすぐ近くで行われた犯行なのだ、事情聴取で署にお呼ばれでもされたら悪夢だ。


 そしてこの時ばかりには、十人が見たら八人くらいはいい体格をしていると評価されるこの体が災いした。


奥で作業していた万年課長から取り押さえろと指名が飛んできた。


この部署にはもやしがそのまま人間になったような男性しかおらず、自分が無駄に目立っていたのがダメだった。


自分は体育会系で体格が良く、こういう事態を見越して採用されたのかと考えつつ刺又を受け取り、なんとか男が斬りつけようとしている女性職員から引き離そうとする。


窓口から乗り出した男を刺股で押し返し、体勢が崩れたところで机の上に飛び乗る。そこから柄の部分で頭部を殴打しつつ向かい側に飛び降りて男性を壁に貼り付けようと腰の部分を取り押さえた。


........

.......

......

.....

....

...

..

.


ここまでは良い流れだったのだが、禍福は糾える縄の如しとはよく言ったもので、そこからは面白いように不幸が連続する羽目になる。


まず、刺股を製造した業者が想定していたより手前で握っててしまっていたため、取り押さえておく為には成人男性の手が届く範囲に近付かなければならなかったこと。


さらに男の得物は銃刀法違反レベルの両刃のアーミーナイフだったため、咄嗟に横に振られたナイフが丁度自分の首あたりを掠めるよりさらに深い軌道を通ってしまったこと。


そしてその応急手当てをできる者が所内におらず、止血できなかったこと。


丁度救急車が出払っており、隣の市から救急隊が来るまでに15分以上かかったこと。


そしてそれは頸動脈を掻き切られた成人男性が息を引き取るには十分すぎるほどの時間だということ。


このような不幸が重なり、自分は死んでしまったのだ。


走馬灯のようなものも見たし、薄れゆく意識の中同僚が血だらけになりながら止血しようとしてくれていたのも見た。


あれだけ出血してれば無理だろうと他人事のような視点で思考していたのも覚えている。


しかし意識を手放した瞬間、目の前が急に明るくなり、気がつけばマトリックスに登場した白い部屋のようなところに寝転がっていた。


そこからの記憶が少し曖昧になっているが、なにがあったか...


たしか...たしか......そうだ!思い出した!




〈唐突な回想シーン〉




その部屋の中で俺は目が覚めた。すると一人の高校生くらいの少女が椅子に腰掛けている。


「あの「あなたは不幸にも凶刃に倒れ、亡くなられてしまいましたが、貴方には人生をやりなおすチャンスが与えられました。そして何か一つ能力や武器を差し上げることができます」


俺が声をかけたらそこに被せるように、そして事務的な発音で返された。そしてその言ったことがよく分からん。


「ここはど「ここは死後の魂が訪れる一時的な空間です」


「あなたは「私は魂が迷うことなく輪廻転生できるよう存在する女神です」


最悪だ。電波女とよく分からん場所にいるってだけでここまで恐怖を感じるとは。


 とにかく落ち着こう、これまでノンストップだ。映画のクライマックスシーンが2時間連続した感じと言ったら理解してくれるだろうか。


もうどうにかなりそうだったね、首元をかき切られ、電波女と同じ部屋に入れるし、何が起きてるのか理解できなかった。


そこから少し落ち着く時間がほしいといったら、あからさまに嫌そうな顔をされて、じゃあ待つから決まったらいってねとその場でどこから出したのか漫画雑誌を読み始めやがった。


それから水を貰えないかと尋ねたら、こちらを見る素振りすらせずこちらに指をさしてきた。


意味不明だったのでもう一回言おうとしたら、足元から2Lペットボトルが生えてきたのを覚えている。


そこで確信したね、助かって病院にいるとかじゃなくて、死後の世界かなんかだって。


水を飲んで落ち着いた後にさっき女から言われた、武器か能力か何か一つくれるという言葉を反芻する。


くれるつったって何があるのかすら分かんし、アメコミみたいな能力をもらったところで「大いなる力には大いなる責任が伴う」的なことになりそうだし、ついでに言えばそんなのもらったところで役に立つとは思えない、日常生活で使うか?普通。


だとしたら武器だが、どんな武器であれ攻撃的な形態をしているものを持ち歩いていたら直ぐに警察が飛んでくる。日本の警察はまあ給料分の仕事はする組織だ。


うん?何か引っかかる。


「すいません、転生って言いましたけど次は何に生まれ変わるんで「貴方には違う世界の人間として転生されます」


まだ自分の言葉に被されたが、もう怒りとかそう言った感情はあまり感じなかった。


そして違う世界に移されるのか...


「ちなみにどういった世界なんですかね。もっと科学が発達してるとか?」


「あんたたちの尺度で言うと、火器が発明されていない16世紀の神聖ローマ帝国が一番イメージに近いわよ」


口調が乱暴になってきたがまあいいや、そして言われたイメージにイマイチピンとこない。俺の専攻は中国史なんだよ...


「どうでもいいけど早くしてくれない?私も暇じゃないんですけど」


またどっから出したのか知らないが、女神さんは今度はせんべいを齧りながらめんどくさげに話しかけてきた。


「あっ、すいません。じゃあ何か武器を頂いても宜しいでしょうか?因みにどんな武器があるんですか?」


口調が役所の人間に戻っているが、これはもう癖なのでしょうがない。


「なんでもよ。貴方が望むものならなんでも一つよ」


俺への対応に飽きてきたのか足をぶらぶらさせながら言葉を返してきた。心なしか早口になっている。


「なんでもと仰られましても、その、核とか銃とか剣とか「じゃ、それで」」


「えっ、ちょっ、まっt」


女神さんがそういった瞬間足元が光ったから思ったら、体が急に落下を始めた。


どんどん加速していき、恐怖に耐え切れず意識を手放したらあの草原に寝転がっていたのだった。


〈回想終わり〉





ブリ刺しおいしいよね、黒霧島とよく合う。

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