第一話 とある日常の一コマ
某漫画と某アニメの影響を受けて書き始めました。初投稿になります。
完全な見切り発車です。文章は稚拙ですが、向上に努めます。
どうぞよろしくお願いします。
歩いても歩いても、行き交う人々の大群から抜け出すことは出来ない。
道路標識も良く見えず、見上げてもやたらとカラフルで眩しい光を放つ大きな看板や、ビルの明かりが目に入るだけである。この状況で、今自分が何処を歩いているのかさえ彼女にはサッパリ分からなかった。
まだ小学生低学年程度にしか見えない少女の姿をチラリと見ても、人々はすぐに視線を逸らして歩き続ける。真夜中の都心には明らかに場違いな小さい影を認めても、怪訝な表情を一瞬浮かべるだけで、次の瞬間には見ていないフリをするのだ。店先で柱や壁に寄り掛かりながらスマホに目を落としている人の中には、少女に気付いてしばらく見ていることもあったが、すぐに視線を画面上に落とした。
全く土地勘のない、しかも生まれて初めて足を踏み入れる都心で、右も左も分からず迷う事は少女にとって圧倒的な恐怖である。しかし、誰も助けてくれない、見て見ぬふりをされるということが彼女にとって何より辛く、心を押し潰されそうになる位の圧倒的恐怖であった。
少女は今にも泣きそうだった。
いや、すでに泣いていた。
それでも、自分を逃がしてくれた母親の顔を思い出すたびに、必死に自分の心を奮い立たせて歩き続けていたのだった。
少しすると、何個目かの大きな交差点に差し掛かった。信号は渡らずに、道を曲がった。
その時だった。青っぽい制服を着た警察官が2人、彼女に気付いて小走りで走り出した。それに気付いた少女は、母親からの言いつけをすぐに思い出した。
『警察の人には絶対に捕まっちゃダメよ』
急いで振り返り、来た道を全速力で走った。
「君!待ちなさい!」
警察官の怒鳴り声を背後に受けながらも、ひたすら走った。通行人を掻き分け、絶対に後ろを振り返らずに走った。いつの間にか、もっと人込みの激しい場所に少女は入って行ってしまった。
必死で追いかける警察官も、大都会に広がる喧騒の波に飲み込まれてしまい、少女を見失ってしまう。
無線機で応援を呼ぶが、どうにもならない事は百も承知の所であった。
一連の光景を驚きを以て見ていた人々は、事態が目の前から去っていくとすぐに興味を失くして再び歩き出す。小さな追跡劇など、この街の夜にとっては取るに足らない出来事であった。
教室には、同級生達の笑い声や会話が響いていた。
壁際では仲の良い女子達が席をいくつも合わせて昼食を取り、後ろの方ではゲーマー達がオンラインゲームで沈黙の戦いを展開している。他にも部活毎などで小グループが散見される。
漏れ聞こえる話の内容は、アイドルがどうとか、ネットの写真がどうとか、ゲームのイベントがどうとか、そんな極々ありふれた話ばかり。
...面白くねえ。
だらしなく机に顔を寝そべらせながら、須藤良平は心の中で呟いた。
同じような話を、全く同じメンバーで、毎日続けていて面白いのだろうか?
彼の素直な疑問だった。彼は全くもって平凡な一高校生であるが、その立場に甘んじていられるほど我慢強い人間ではなかった。
中性的な顔つきで可愛い、と言われるのは癪だが、同じかそれ以上にカッコいいとも言われるから、ルックスはそこそこいいと思っていた。地元のクラブでサッカーを長年やっているし、鍛えるのも好きだから体形や体力にも自信がある。現にスポーツテストの点もいい。中学生の時や高校一年の時には先輩、後輩問わず告白されたことがそこそこある上に、自分にまつわるそっち系の噂をいくつも聞いたことがある。
成績の数字もそこそこ高い。そこまで社交的ではないが、別にコミ障で人付き合いが怖かったり苦手であるわけではない。
もしかしたら、他人に言わせたら”羨ましい”男子なのかもしれない。現に、同級生男子辺りからは余り好かれていない気がする。
それでも、やっぱり嫌だった。
アニメや映画、ライトノベルでも何でもいいから、とにかくそういった創作作品の主人公が経験するような、刺激的でカッコいいい出来事を味わってみたい。
異世界転移でも誘拐事件でもなんだっていい。ともかく非日常という言葉に相応しい何かが起きてほしくて仕方がなかった。
口には決して出さないが、たまらないくらいに、耐え切れないくらいに、切望していた。
とは言え、自分も大多数の同級生たちと同じように今の時間を過ごしている。
「ねえねえ、何読んでんの?」
「『死に至る病』」
「何それ?SF?」
真正面にチラリと目を向けると、柴山孝美がいつもの調子で哲学書を開き、平山結衣がそれを横からちょっかいを出して邪魔していた。
柴山はいかにもな黒髪ロングの頭脳明晰美女であり、一方の平山はスポーツ万能な短髪のボーイッシュなヤツだ。いつも一緒に行動しているが、どうやっても平山の方が柴山に絡んでいるようにし思えない。
まあ、それでもいつもそれなりに仲は良さそうである。
そして、視線を斜め横に向けると、菊池幸雄がミリタリー系の月刊誌を傍目で分かるくらい熱心に読んでいる。彼はポッチャリ眼鏡のミリタリーオタクであり、若干コミ障気味だが気の良い男だ。
しかし、少しでもミリタリーネタを振ると、延々と解説を続ける不思議なヤツだったりする。
この3人とは1年の時に同級生で、いつの間にかグループを組むようになっていた。
何となく普通ではない人間の集まりである。しかし、別に非日常な人間と言える程ではなく、何となく気が合うだけである。
「そういえば、皆さんは体育祭の出場種目は何にするんですか?」
突然、何の前振りもなく菊池が全員を向いて尋ねた。
この学校での体育祭は、他よりも若干開催が早い。そのため、新学年になって早々に体育祭の種目決めが始まっていた。
「学年種目だけ。後は保健委員だからテントにいる」
柴山は今年も本部テントの住人となるようであった。しかし、それを聞いた平山が急に駄々をこねだした。
「ええ~、孝美も一緒に徒競走出ようよ~」
「疲れるからイヤだ」
柴山は本に目を落としたまま無表情で返答した。
「何で何で~!出ようよ出ようよ!走ろうよ走ろうよ~!」
平山は柴山に抱き付き、しつこく説得を続けた。体を密着させ、頬を擦り付ける姿はまるで猫の良いである。柴山は相変わらずの反応なしだが、微妙に笑みを浮かべて嫌がる様子はない。
須藤はそれを見ながら、思わず溜息をついた。
仲が良いのは分かるが、人前で抱き付いてじゃれ合うのはいかがなものかと思う。見せられるこちら側も、何となくキマズイ。
視線を菊池に向けると、彼は女子2人の方をそれとなく見ながらニヤついている。
まあ、そういうのが好きなヤツもいる。
「それで、お前はどうすんだよ」
菊池に尋ねると、彼は「う~ん」と少し唸った後に返してきた。
「基本はどれにも出ませんよ。僕、運動は苦手ですんで」
予想通りの返答であった。
「須藤君はどうするんです?」
「頼まれれば出るよ」
菊池からの質問に、特に考えなしで返答すると、平山がバッと顔だけ向けてきた。
「じゃあ、一緒に徒競走でようよ!」
身を乗り出し、顔を近付けてくる彼女に、須藤は面倒臭いことにならないよう先手を打った。
「言っとくけど、徒競走はやらないぜ。3組の北見ってヤツがすげえ速いんだ。後1か月ちょっとの間、クラスのために全力で練習するほど俺は人が良くない」
すると、平山は頬を膨らませて見るからに不機嫌な顔つきになった。
「何だよ、そんなケチ臭いこと言うなよ~」
その時、放送機器から予鈴が響いてきた。
須藤は一瞬顔を上げ、すぐに机の横に掛けてあるカバンに手を伸ばした。
「それじゃ、また帰りにね」
「バイバ~イ」
「僕も、失礼します」
3人は立ち上がり、それぞれの席に帰っていく。
4人の中で平山が唯一の部活所属者だが、今日は彼女もオフのため、全員が再び集まるのは放課後の帰りだ。
教材を机の上に置き、5時限目の準備を済ませる。教科は、嫌いな世界史だ。
今回は、主人公達の紹介みたいな感じです。
次回からが本編で、次第に登場人物も増やしていきます。