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二つの世界の螺旋カノン  作者: 七ツ海星空
08.インフレーション
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08-07 午前二時三四分って…………あの夢遊病のときか!

 オカ研世界でも三馬と合流し、いままでに起こった超常現象について伝えた。そして「文字の浮かび上がり現象」の検証を開始する。

 一瞬ののち、疲労感ひろうかんが俺をおそった。

 今回は書き込んだ腕のだるさだけでない。脳の、主に前頭葉ぜんとうようのあたりがぼーっとするような、そんな疲れだった。


すごいな! 実に素晴すばらしい!」


 三馬さんが声をあげてノートに顔を近づけてくる。

 相当そうとうな書き込みだったのだろう。以前とおなじく、数ページめくられた先へと飛ばされて、文字が埋められていた。


「いいかな?」


 三馬さんは開いたままの大学ノートを拾い上げた。


「ページが移動しているのか。こいつは凄い! この現象は何度も再現さいげんされているんだね?」


 三馬さんはノートを手に取り、その数ページをめくってじっくりと見入っている。そして「かさなっているのか」と、つぶやいた。


「重なっている?」


 映研世界でも同じ言葉を言っていたな。

 三馬さんは「いや、それはあとにしよう」と手を振った。


「なるほど。十二日のその色の薄い世界への接触は、霧島榛名さんが関係しているんだね?」

「え? いま浮かび上がった内容にそう書いていたんですか?」

「磯野君が意図いとしていなかった内容も書かれているのかい? ……ああ、さっきノートの実験メモに書いてあったな」


 ちばちゃんを見ると、俺と目があう。

 俺が口をひらこうとしたところで、柳井さんが言葉をさえぎった。


「磯野から相談されていてな。ちばちゃん、黙っていて申し訳ない。実は入れ替わる前の映研世界で榛名を目撃したみたいなんだ。磯野にしか見えない存在としてね」


 俺は柳井さんのうなずきに応えて、霧島榛名のことも含めた十二日夜のことを話した。



 ひと通り話し終えると、ちばちゃんは静かにうなずいた。


「そうだったんですね。向こう世界のお姉ちゃんは、存在していたはずなのに消えてしまった、ということなんですね」

「ごめんちばちゃん。こっちの榛名の耳に入れるにはどうにも言いづらくてね」

「いえ、かえってお姉ちゃんを気遣ってくださりありがとうございます」


 ちばちゃんは小さく微笑んだあと、すこし目をそらしてぼそりと言った。


「……お姉ちゃん、なにか隠してる?」

「それは……言いづらかったが、俺もすこし考えた」

「わたしには、いまのところ思い当たることはないんですが……ちょっとお姉ちゃんについて気をつけてみます」

「うん。たのんだ」

「その「色の薄い世界」に取り残されている榛名さんを、どうにかして救い出したいものだがね。しかし、まずはいまける簡単な問題から取り組んでみることにしよう」


 三馬さんは「このホワイトボードは使ってもいいのかい?」と柳井さんに訊いたあとペンを取って俺を見た。


「さっき磯野君が言っていた、ここ最近判明(はんめい)した入れ替りの日時を教えてくれ」

「おい三馬、もしかして次の入れ替わり時間を予測できるのか?」

「柳井、君がいながらなぜ気がつかないんだ? ここ三回分の入れ替わり日時がわかっているんだぞ?」


 三馬さんは、俺があげる入れ替わり時間を、左からさかのぼりながらホワイトボードに書きうつした。そして、それぞれ二つの時間のあいだに以下の数字を書き込んだ。


・八月九日  十九時〇二分 オカ研世界へ

――――32時間23分滞在

・八月十一日  三時二五分 映研世界へ

――――52時間38分滞在

・八月十三日  八時〇三分 オカ研世界へ


「よし。この滞在たいざい時間を差し引いて、一度その前の入れ替わり日時がどうなるか確認してみよう」


 柳井さんはハッとしてさけんだ。


「なるほど! フィボナッチ数列すうれつか!」

「まだわからんがね」


 三馬さんは20時間15分と書き込み、八月九日の前に、


 ・八月八日 二二時四七分 映研世界へ


 と書き込んだ。


「磯野君、九日の朝には映研世界に戻っていたようだが、八日の二二時四七分にはすでに寝ていたのかい?」


 八日って、はじめてオカ研世界に迷い込んで、真柄まがら先生のところに連れて行かれた日だよな。あの日の夜は――


「午後十時半の就寝しゅうしん前に、一度SNSのオカ研グループを確認しましたが、そのあとは横になってましたね」

「ありがとう。その一七分後に入れ替わった可能性があるな。このままさかのぼっていって、八月七日の十八時三〇分辺り、もしくは色の薄い世界にはじめて訪れた十四時三〇分辺りになれば、世界の入れ替わりはフィボナッチ数列的に起こっていると証明しょうめい出来る」


 三馬さんは、ホワイトボードにものすごい勢いで数字と入れ替わり日時を書き込んでいった。そして、八月七日まで書き終わると――


・八月七日  一四時二五分 色の薄い世界へ

―――― 4時間03分滞在

・八月七日  一八時二八分 映研世界へ

―――― 4時間03分滞在

・八月七日  二二時三一分 オカ研世界へ 

―――― 4時間03分滞在

・八月八日   二時三四分 映研世界へ

―――― 8時間05分滞在

・八月八日  一〇時三九分 オカ研世界へ

――――12時間08分滞在

・八月八日  二二時四七分 映研世界へ

――――20時間15分滞在

・八月九日  十九時〇二分 オカ研世界へ

――――32時間23分滞在

・八月十一日  三時二五分 映研世界へ

――――52時間38分滞在

・八月十三日  八時〇三分 オカ研世界へ


 ……おいおい。

 なんなんだこれは。


「この時間に入れ替わったってことですか?」

「どうだい? 合っているかね」

「八月七日の一四時二五分と一八時二八分、この二つはたしかに一致いっち……しています」

「この入れ替わりにおける単位時間は四時間三分になる。そして、フィボナッチ数列的には七日の一八時二八分が起点きてんになりそうだね」


 八月八日の二時三四分にも映研世界へ入れ替わっているのか。

「午前二時三四分って…………あの夢遊病のときか!」

「夢遊病? 磯野、それは何の話だ?」

「話していなかったんですが、自宅で寝ていたはずの時間に、気がついたら近所の道路の真ん中にいることに気づいて」

「それが、八月八日の二時三四分ってことか」

「はい」


 俺たちとは別に、三馬さんはひとりごとのように「四時間三分?」と首をかしげた。


「三馬、なにか引っかかることでもあるのか?」


 三馬さんは、手で柳井さんを制する。

 しばらく無言のままうつむいたのち、急に顔を上げて俺たちを見た。


「そうか! 137.5°だ!」

「137.5°?」

「これは面白い。つまり、正確には――」


 三馬さんはホワイトボードに計算して、一つの数字をみちびき出した。


 ――4時間02分55秒。


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