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二つの世界の螺旋カノン  作者: 七ツ海星空
01.八月七日
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01-03 女子高生とは実に良いものである

 映研部室へと到着した磯野は、七月に撮影した映画のデータがなぜか消えてしまったと竹内千尋に告げられ、再撮確定に凹む。そこへ珍しい来客が訪れ――

「はーい。どうぞ」


 千代田怜の猫なで声からワンテンポあったあと、ゆっくりとドアがひらいた。


 ドアの隙間すきまから、二人の女子高生がこちらをのぞいてくる。

 怜は軽く首をかたむけてドアのさきを見たあと、廊下へと出た。


「あの制服、となりの付属ふぞく高校の生徒じゃないか?」

「制服ってことは、高校は夏休み終わってるんですかね」

「あと十日くらいはあるんじゃないか? 夏期かき講習こうしゅうかなにかだろう」

「それでも高校はあと十日ですか。夏休み終わるの早いですね」

「大学が長すぎるんだよ」

「俺らの場合、実質じっしつ九月祭の三日間が終わってからですもんね。後期こうき


 話が終わったのか、千代田怜は部室に戻ってきて女子高生たちに手招てまねきした。


 ドアの奥から顔を出した女子高生の一人、すこし気の強そうな印象のポニーテールが口をひらく。


「あの……ちょっ見学してみようかと思って」


 高校生が大学サークルの見学? ちょっと意味がわからない。

 柳井さんが、なんとも言えない困り顔で俺を見た。


 え、俺が相手するんですか。


「……えーと、見学といっても、高校生が大学サークルに入れないことくらいわかってるよね?」

「はい」


 ポニーテールは素直に返事をした。


 一方のおさなさの残るぱっつんボブの美少女は、ポニーテールのうしろに隠れながら、おびえたうさぎのようにこちらの様子をうかがっていた。……のだが、俺と目が合うとさっと顔を引っ込めてしまった。


 そんなに怖がらなくても別にとって食ったりするつもりはないのだがなあ。……あれ? もしかして俺を怖がっているのか? もしそうならとても悲しい。


 怯えたうさぎをあわれに思ったのか、柳井さんもまた声をかけた。


「とりあえず入りなさい」

「失礼します」


 ポニーテールは、ぱっつん美少女の腕をつかみながら部室に入ろうとした。ところが、美少女のほうはおくしてしまったのか、足を踏み出せないでいるらしい。


「ちばちゃん?」


 相方あいかたの呼びかけに首を振る美少女。

 だがしかし、ポニーテールは容赦ようしゃなかった。


「大丈夫大丈夫」


 穏やかな笑顔とは裏腹うらはらに、怯えたうさぎの腕をつかんだまま、強引ごういんに部室へ連れ込もうとするポニーテール。

 まるで母親と子供だ。


「ちばちゃん、わたしがついてるから」


 サークル見学に、なぜか悲壮感ひそうかんただよう。


「その子、嫌がってないか?」

「いえ、ちばちゃんはちょっと臆病おくびょうなだけなんです。カモン、ちばちゃん」

「カモン、ちばちゃん」


 空気を読んだのか、千代田怜もまた便乗びんじょうして声をかけた。

 観念かんねんしたのかポニーテールに連れられて入室する美少女。


「磯野、そこどきなさいよ」

「なんで俺なんだよ」


 怜はしっしと手を振りながらソファから俺を追い出し、女子高生二人をソファに座らせた。


「わたしは青葉綾乃あおばあやの。こっちはちばちゃんです」


 魔女の女の子が、黒猫を紹介するかのように言う。

 ポニーテールあらため青葉綾乃と、「ちばちゃん」と呼ばれた少女。彼女は名前を名乗ることもなく、恥ずかしそうにうつむいた。


 ……って、え、俺も「ちばちゃん」って呼んでいいの?


 青葉綾乃のとなりで小さくなっているちばちゃんは、黒髪の下からのぞく白く整った顔をうつむかせていた。

 二重ふたえまぶたの下に長いまつ毛がせられ、可愛らしい花のような雰囲気をかもし出している。箱入はこいり娘として大事に育てられたのだろう、どことなく気品きひんのようなものが漂っていた。


 一方の青葉綾乃はハキハキした感じの文字どおり世話焼せわやきお姉さんで、こちらもまたちばちゃんとは別種べっしゅの整った容姿ようしをしていた。

 たぶん、クラスでも人気のある委員長タイプなんだろう。二人とも同学年なんだろうが、外向的がいこうてきな青葉綾乃のほうが大人びて見えた。


 真逆まぎゃく印象いんしょうの二人ではあったが、磁石じしゃくのプラスとマイナスが引き合うように、お似合いに見える。そんな二人は半袖はんそでに白とあずき色のセーラー服で、それがまたさわやかな印象をまとっていた。


 女子高生とは実に良いものである。

 ネットにあふれる、どう見ても二十歳は過ぎている()()()とはまるでちがう、純粋じゅんすいな存在をじかに見るに、さすがに気分が高揚(こうよう)してしまう自分に気づいた。


 なんだろう、この心を包み込むようなあたたかい感覚は。

 ちなみに言っておくが、俺はロリコンではない。


「……磯野、なに一人でうなずいてるの」

「気にするな」

「ここの会長の柳井だ」

「千代田怜です」

「磯野だ」


 竹内千尋をのぞいた自己紹介が終わると、柳井さんは本題に入った。


「で、見学?」

「はい。あいているサークルの部室を探していたらちょうどとおりかかって」

「なるほど。これからお盆に入るし、どこもあいてなかっただろう。サークル旅行で留守るすのところも多いだろうし」

「青葉さんとちばちゃんは映画に興味きょうみがあるの?」


 話題にまざりたいのか、千代田怜が話に割り込んでくる。


「はい。わたしは映画をよくるんですが、ちばちゃんはシナリオ? お話も書きたいらしくて」


 青葉綾乃、いきなり友達の知られたくないであろう事実を暴露ばくろ


 ちばちゃんは慌てて青葉綾乃の口を押さえようとする。

 が、ときすでに遅し。ちばちゃんの制止を振り切り、彼女にとってのタブーをスノーデンしようとする青葉綾乃。


 俺たちは目の前の光景を唖然あぜんとしながら眺めていたのだが、この空間で創作そうさくというものにもっとも敏感びんかんなヤツが、窓際から「ほう」と声を出した。


「ちばさんはどんな本書くの? ジャンルとかは? いま書いているものとかある? それとも二次創作メイン?」


 千尋よ。おまえはそういうやつだよな。

 だがな、ちばちゃんはもはや怯えたうさぎ以上にうろたえているぞ。顔真っ赤だし。


 少女のような青年が本物の美少女に言いよるその様子は、眺めるには悪いものではなかったが、ちばちゃんにとってはたまったものではない。


 見るに見かねて柳井さんが話の流れをかえた。

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