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二つの世界の螺旋カノン  作者: 七ツ海星空
05.もう一人の磯野
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05-07 文字の浮かび上がり現象を見せればいい

 文字の浮かび上がり現象と霧島千葉の大学ノートが結びついたことで、彼女も超常現象に巻き込まれた疑いが浮上する。

 ちばちゃんのノートは、この大学ノートと同じものなのか?

 だが、そうだとしたら――


「ちばちゃんの大学ノートは、誰と通信つうしんしているものなんだ?」


 千代田怜が答える。


「磯野はもう一人の磯野と通信しているんだから――」

「もう一人のちばちゃんと通信してる?」

「あ、けどこっちのちばちゃんが隠してるとも思えないしなあ」

「怜、磯野のノートの書き込みにあったでしょ、映研の磯野が書き込んでいるって。だから、ちばちゃんの場合も、映研世界の中での並行世界のちばちゃんが互いに書き込んでるんじゃない?」


 たしかに千尋の言うとおりなら理屈は通らなくもないが、それで映研に来たってことは――


「つまり、ちばちゃんはなにかを探るために映研に来た?」

「おそらくそうだと思う。なにを調べようとしているのかはわからないけどね。あ、」

「なんだ?」

「磯野、ちばちゃんも磯野とおなじように大学ノートを使って通信してるなら、ちばちゃんも磯野とおなじ状況に置かれているってことになるよね。それって――」

「そうか! 映研世界のちばちゃんも、色の薄い世界に迷い込んだ可能性があるのか」


 もしそうなら、八月七日の眩暈めまいと色の薄い世界を引き起こした原因が、ちばちゃんの大学ノートと結びつく。


「ちばちゃんが俺とおなじ立場だとしたら、色の薄い世界についてほのめかせば、彼女は食いついてくるんじゃないか?」

「ちょっとまて」

「柳井さん、気になることでもあるんですか?」

「むこうのちばちゃんも、超常現象の件で磯野のことを警戒けいかいしている可能性もあるだろう? 磯野がちばちゃんのことを超常現象を引き起こした張本人ちょうほんにんとして警戒したようにな」

「あ、たしかに」


 一昨日おとといの朝のちばちゃんとの鉢合はちあわせ。

 あのときの彼女の怯え方は、俺が超常現象の原因だと思っていたのなら合点がてんがいく。だから、怖いのを承知しょうちで情報を得るために飯に付き合ったのかもしれないし。……そう考えると、あのとき打ちけられたと思ったのが悲しく思えてくるが。


「じゃあ、どうアプローチすればいいですかね」

「千代田が言いかけてただろう。味方を作るんだ」

「やっぱり映研メンバーに文字の浮かび上がり現象をみせたほうがいい?」

「まて。さっきの文字の浮かび上がり現象と磯野の話は、俺たちがオカルト研究会であり、超常現象に興味がある人間だからついてこられたんだ。だが、同じことを映研でやっても不気味がられるのがオチだろう」


 たしかに。


「しかも当事者のちばちゃんがいれば、なおさら不安定要素が増える。磯野の話を聞くに、映研のちばちゃんは非常にナイーブだ。確証を得るまではなるべく刺激しげきしないようにつとめたほうがいい。そこでだ――」


 いったん言葉を切った柳井さんは、目線をテーブルに向けたまま黙った。


「俺を使え」

「……柳井さんを、使う?」

「サークル内に関することは、映研でも俺が一番気にしているはずだ。映研側の俺が協力すれば、サークルの空気を見ながら、ちばちゃんと話をするお膳立ぜんだてをしてくれるだろう。しょうんとほっすればまず馬を射よ、ってやつだ」

「たしかにむこうでも柳井さんが味方になってくれれば心強いですが、どうやって説得すればいいですかね」

「俺一人だけなら、文字の浮かび上がり現象を見せればいい。……いや、まて」


 柳井さんは言葉を止めて首をひねった。


「……むこうでも文字の浮かび上がり現象が起こるとは限らないのか」

「たしかに、どういう原理で起こるかわからない以上、確実に現象を再現できるわけではないですもんね」


 竹内千尋もまた首をひねった。


「もし、文字が浮かび上がらないようなら……仕方ない。よく映画なんかであるシチュエーション、いわゆる「俺にしかわからないこと」を伝えれば信じるだろう」

「で、その柳井さんにしかわからないことってなんですか?」

「え? なんだ千代田……。この場で言うのか?」


 動揺する柳井さんに、千代田怜が念入りにうなずいた。

 竹内千尋はちばちゃんと同種の「あはは」と言う笑い声をあげる。


「まあいい。数年前にやってたMMOエムエムオーのキャラの名前が、シバイヌサン……」


 怜がぷっと吹き出す。


「千代田……すこしはこらえろ」

「あの……柳井さん、MMOってネットでやるオンラインRPGのことですよね? もうちょっとリアル方面の」

「そして、サブキャラを女にして遊んでいたら、いつの間にかネカマプレイにおちいってしまった」


 いやだから柳井さん本人の話をしてくださいよ……。


「そしてその名前がミケネコサン……」


 いやそれ名前の時点でだませてないですよ! 絶対バレてますって!

 怜が腹をよじらせて爆笑していた。


「よくわからんが、これでもみつがれてだな……。オカルト並に謎な現象だったんだが」


 ああ……そういう話がしたかっただけなんですね柳井さん。

 けど、そんなネトゲの話よりももうちょっとマシな情報くださいよ。


 いつの間にか部室からいなくなっていた霧島姉妹が廊下から戻ってきた。

 ちばちゃんが背伸びをし腕を伸ばして榛名の頭をでている。


「えへへー。あとで千葉ちはがガリガリ君買ってくれるってさー」

「えへへー」

「なにがあったんだよ!」


 俺たち三人のツッコミを受け流しながら、榛名はスマートフォンを見た。


「お、そろそろ時間だ。それじゃ、わたしはこれで」

「どこ行くんだよ」

「サバ館。サークル旅行で使うフィールドどこにするか打ち合わせがあるんよ。あ、会長も来るか?」

「サバイバルゲーム館か。今回はパスしとく。これからまだ磯野の件で詰めないといけないからな」

「そっか残念。ほんじゃまたなー」


 そう言って手を振りながら霧島榛名は部室を出た。


「榛名ってホント、サークルの掛け持ち多すぎ……。けど、サークル旅行はうらやましいな」


 そう言いながら、怜は俺たちをちらちらと見た。

 ああ、そうか。こっちでもイベントとか旅行とか好きなやつだったな。にしてもわかりやすいやつだ。


「七月はどこにも行かなかったからな。とはいえ千代田よ、今は磯野の件が最優先さいゆうせんだから期待しても無駄むだだぞ」

「えー……柳井さんそんなあ。磯野さっさと解決してよ」

「無茶言うな」


 柳井さんは腕時計を見た。


「もう五時過ぎか。今日はこれくらいにして、あとは磯野の言っていた例の学生生協がくせいせいきょう前のベンチを確認して終わりにするか」


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