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二つの世界の螺旋カノン  作者: 七ツ海星空
05.もう一人の磯野
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05-03 なんだか、パラレルワールドっぽいですね!

 オカ研面子と二つの世界の比較したところ、映研とオカ研それぞれのサークルに至った分岐らしき箇所に気づき、


「そんな物騒ぶっそうなもんじゃないって」


 俺の発言に「なにを人聞ひとぎきの悪いことを」と、手を振って笑う千代田怜。


「ネズミ講サークル? なんだ? わたしは知らないぞ」

「榛名が入ってきたのは去年の夏だろ。ネズミ講の話は新歓しんかん時期だから春の話だ」

「宝くじでも刷って、暴動騒ぎにでもなったのか?」

「アルバニア暴動なんてマニアックな知識、なんで知ってるんだよ……というかだな――」


 柳井さんは言葉を切り俺に振りかえる。


「もしかして磯野、むこうの千代田も同じこと仕掛しかけようとしてたのか?」

「ええ……はい」

「うわあ……」


 オカ研メンバーたちの引き気味の呆れ声にもひるむこともなく、千代田怜は無い胸を張って己の行動を正当化せいとうかした。


依存的いぞんてきコミュニティは、お金を生み出す最高の装置そうちだぞ。利用しないでどうするの」


 茶目ちゃめを出そうと慣れないウィンクをする千代田怜。

 ……うわあ、殴りてえ。


 柳井さんは「……たくましい奴だな」との一言のあと、聞かなきゃよかったという顔で腕を組み直した。そういえば、


「ところで柳井さん、こっちの世界の映研ってどうなってましたっけ?」

「確か……二年前までこの部室が映研部室だったはずだ。……今は同好会に格下かくさげになって活動していると思う。おそらく」

「てことは……もしかしたら、その自治会の安斎さんって人が映研、オカ研選択(せんたく)分岐ぶんきになったってことですか?」

「おおいにあり得るな。あとで安斎さんに当時のこと聞いてみる」

「なんだか、パラレルワールドっぽいですね!」


 ちばちゃんの言葉に竹内千尋が反応する。


「パラレルワールド……並行世界といえば――」

「どうした?」

「磯野が最初に迷い込んだっていう、時空のおっさんの世界に似た空間だけは、いまだに夢の可能性があるんだよね?」

「色の薄い世界のことか?」

「そうそう」


 ……え? あ、たしかに言われてみれば。


 映研とオカ研の二つの世界は、起きているときに入れ替わりを確認したんだから並行世界と見ていいだろう。少なくとも夢じゃない。だから、その発端ほったんになったらしい色の薄い世界も、


「あの世界から抜け出したときは、ちょうど夢から覚めたような感じだったな。……そうか、あの世界に関してはまだ夢の可能性も残っているのか」


 俺は、目が覚めたときに目の前にあった顔を思い出して、千代田怜を見た。


「え、なに、なんなの」


 勝手に狼狽うろたえる千代田怜。

 こいつはこっちの世界でもまったくかわらんな。


「その翌日の……八日か。磯野が言うところの部室が映研になっている世界と、この世界の磯野の入れ替わりがはじまったのは。その日の俺たちは、いま目の前にいる磯野を真柄まがら先生のところに連れて行ったってわけだな。で、その翌日の九日――昨日は磯野は元の世界に……」


 柳井さんは言葉を止め、俺を見ながら次第にいぶかしげな顔になっていく。


「……昨日の磯野は、もともとのこっちの……つまりオカ研側の磯野だったってことか?」

「そうだと思います。昨日は映研世界にいたので。だから、オカ研側のお……磯野がこっちの世界にいたんじゃないかと。いや、本当に入れ替わっているのかどうかとか科学的なことはわからないですよ。一昨日話してた明晰夢めいせきむ継続夢けいぞくむなどとはべつに、二重人格にじゅうじんかくの可能性だってあるかもしれません。ですが、昨日の夜、俺が起きているあいだにも世界の切り替わりがあったので、そういうことにしたほうが考えやすいかと」

「てことはだ、いま目の前にいる磯野は、この世界の昨日の出来事については覚えて……いや、そもそも記憶がないのか」

「はい」


 柳井さんはうなった。


「本当に入れ替わりなのかどうかは俺たちにもわからんが、磯野がそう感じるんならそう仮定かていして考えたほうがいいだろうな。なにせ、俺たちにしてみればソースというか、この超常現象について考える根拠こんきょが、さっき全員が目撃した文字の浮かび上がり現象と、磯野の体験談しかないわけだ。なら実体験のある磯野の直感ちょっかんをあてにするしかない」


 柳井さんはオカ研メンバーに顔をむける。


「ところで昨日の磯野の様子ってどうだった? なにか変ではあったが」

「え、なんでわたしを見るんですか」

「千代田、おまえ昨日も磯野とよく話してただろ」

「磯野はいつも変ですよ」

「……あのなあ千代田」

「たしかに、やけに一昨日のことを訊いてくるなあとは思いましたけどね」


 オカ研側の俺も探りを入れていたのか。一日分の記憶がないわけだから、当然と言えば当然か。


「けどそれ以外は普通でしたよ」


 怜はそう言って俺の顔を見る。


「割と普通」

「ふだんはおかしいみたいな言い方はやめろ」

「磯野、念のために訊くけど、昨日の記憶はまったくないの?」

「ああ。さっきも言ったけど昨日は映研の世界にいたからな」

「ちょっとまって」


 竹内千尋がなにか思いついたような顔で俺を見る。


「けどさ磯野、初めてこのオカ研に来たときは、この世界でのいままでの記憶――人生の記憶がよみがえったんでしょ? だったら、そのあとの入れ替わりで、不在ふざいのほうの世界の記憶がよみがえったりはしないの?」


 たしかに千尋の言う通りだ。

 はじめてオカ研に来た一昨日――八月八日のあのとき、走馬灯そうまとうのようにいままでの人生の記憶が流れ込むようによみがえったんだ。まるで欠落けつらくしていた穴を埋めるかのように。

 それならその後の不在時の世界の記憶だって、その都度つど補完ほかんされてもおかしくないのだが。

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