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二つの世界の螺旋カノン  作者: 七ツ海星空
04.二つの世界
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04-06 今回のはちばちゃんも目撃してるからな、本物だ

 超常現象「文字の浮かび上がり現象」を目の当たりにした磯野とちばちゃんは、他の部員にこの現象について伝えようとするが――

「あ、竹内さん、こんにちはー」

「磯野がね、なんかおかしい」

「怜、おまえ、もっとほかに言いようがあるだろ」

「じゃあ、磯野がおかしい」

「あのなあ」

「磯野に超常現象が起こったらしい」


 柳井さんのなんとも的確てきかくなひと言。とはいえ、それはそれで乱暴らんぼう過ぎやしませんか。


 柳井さんの言葉を聞いた竹内千尋は、あんじょう、キョトンとした顔で俺を見た。そりゃそうだとしかいいようのない竹内千尋の反応に、当事者とうじしゃの俺がなぜか苦笑いで返す。


一昨日おとといの夢の話とは別なの?」

「今回のはちばちゃんも目撃してるからな、本物だ」

「すごかったですよ! 磯野さんが書き込もうとしたら文字が浮かび上がって!」


 ちばちゃんはそう言いながら大げさにうんうんうなずいて、ことの重大じゅうだいさをジェスチャーで表現した。当事者の一人になったからなのか、すこしテンションがおかしい。


「へーそうなんだ! ところでみんなお昼食べた? まだなら学食がくしょく食べに行かない?」


 盛り上がるちばちゃんに対して、じょうのかけらもなくあっさりと話題を変える竹内千尋。

 ちばちゃんを見ると、意気込いきごんでいた笑顔が迷子まいごのままたたずんでいる。


 こいつはまったくの悪意あくいなしにこういうことするからな。

 本人的にはただマイペースなだけなんだろうが、たまにクリティカルヒットを繰り出してくる。だが、そう言われるとたしかに腹が減ったな。


「千尋! あんたちょっとは気を遣うってことをしなさいよ!」

「え、怜どうしたの急に」


 思いっきりのあきれ顔で説教をはじめる千代田怜に、またもやキョトンとする竹内千尋。この一方的にこじれていく流れに、ちばちゃんがあわあわしながら止めに入った。

 三人の様子に、柳井さんもさすがに苦笑いを浮かべながら、


「いったん昼にして食べ終わってからまたいろいろ検証けんしょうしてみるってのはどうだ? 榛名おまえどうする?」

「あー……わたしはいい。相手のスポッターが尻尾しっぽを出さないからな、おそらく持久戦じきゅうせんになる」


 ゲームの話かよ。


「みんな、学食行っちゃうんですか?」


 ちばちゃんは弁当箱を持って、さびしそうにみんなを見まわした。


「ちばちゃんまだ食べかけなんでしょ? お弁当持っていっしょに学食行こう?」


 怜にそう言われたちばちゃんは、パッと笑顔になった。なんだこの天使。俺は二次元の世界に生きているのか。


「榛名、あんたもほどほどにしなさいよ」


 そう言って怜は立ちあがると、それが合図になってほかのみんなも腰をあげた。


 榛名はキーボードを離した左手を振り、俺たちを見送った。




 学生食堂にむかう途中、学生生協がくせいせいきょう前のベンチを通りすぎたとき、俺は色の薄い世界のことを思い出して背筋せすじが寒くなった。


 あの誰もいない無音の空間には二度と迷い込みたくない。

 そんな怖れからか、目に入ったあのベンチが色の薄い世界の入口に見えてしまう。だが昨晩さくばんの世界の切り替わりの瞬間に感じたあの色の薄い世界と同じ「匂い」のことを考えると、この事態を解決かいけつさせるには、もう一度どこかであの世界におとずれなければならないんだろうな。




 学生食堂は、おぼん前ということもあって、昼食をとる学生はまばらだった。ちばちゃんは到着してすぐに窓際の席を取っておいてくれた。俺と柳井さんはそれぞれ注文ちゅうもんを受け取ったあと、ちばちゃんの横と向かいに座った。


「磯野だけならともかく、ちばちゃんも見たって言うしなあ。常識的に考えれば、見間違えじゃないかと疑うんだが……。実際のところ、俺も見てみないとなんとも言えないな」


 俺はただうなずかざるをえない。


「あとでなにかしら再現さいげんができればいいな」


 柳井さんの言葉に俺と同じようにうなずくちばちゃん。

 目撃者もくげきしゃとしてみんなに信じてもらいたい気持ちが強いのか、ちばちゃんのうなずきにもいささか力がこもっているのがわかる。柳井さんは俺たちの様子を見ながらカレーを口に運んだ。


 俺も麻婆豆腐丼まーぼどうふどんをひとくち入れる。ひさびさに食べたけど三九〇円でこれはおいしい。


 再現か。


「最初に書いた箇条書きと……そのあとの「あいうえお」のなにかがちがうから再現できないってことか」


 俺のひとりごとに柳井さんはうなずいた。


 まず明らかにちがうといえば――


「やっぱり文字がちがう……かなあ」

「あのなあ……」


 あきれ顔の柳井さん。そこへ竹内千尋が、俺とちばちゃんの向かいに牛トロ丼をせたトレイを置きながら座った。コイツ、いつも牛トロ丼頼んでるな。


「そもそも磯野はなんで書き込もうと思ったの?」

「あ、わたしも気になってました」


 プリントの裏に書き出した――正確には書き出そうとしたものが浮かび上がった――あの箇条書かじょうがきについて、どこまで話すべきだろうか。


「ここ数日(あわ)ただしかったからさ、一度出来事(できごと)を整理してみようかと」


 俺の言っていること、間違っちゃいないよな?


「なるほど」

「確かに一昨日は大変でしたねー」


 千尋とちばちゃんは、それぞれ似たような反応をしながら昼飯に口をつけた。一方の柳井さんは、いつの間にかカレーを大半たいはん食べ終えて、グラスの水を一気飲みしていた。相変わらず早食いだなこの人。


「二つを比較ひかくすると、箇条書きは、磯野の言うところの頭の中を整理するためのメモなわけだ。だが言いえれば、自分自身とはいえなにかしら相手に伝えようとする、いわゆる伝達意志でんたついしがあったとも言える。しかし「あいうえお」は文字どおり、ただの意味をなさない文字の羅列られつだ。そこに伝えようという意志もない」


 なるほど、言われてみればその通りだ。


「一方で、そういう要素ようそは関係なく、場所と時間が重要ってこともあるかもしれない」

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