表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二つの世界の螺旋カノン  作者: 七ツ海星空
03.霧島千葉
25/196

03-07 磯野って、まさかロリコン?

 夢を見ていた八日に、別人格が映研部室に訪れ、オカ研のときと同じように動揺していたらしいことを磯野は知り――

 ……ったく、物理的な意味で病院送りになるところだったわ。

 あれ? 青葉綾乃がいるってことは、ちばちゃんもいるはずだが――


「今日はちばちゃんは一緒に来てないの?」

「あ、磯野さんこんにちは! ちばちゃんはじゅくなのでさきに帰りましたよ」


 塾か。なつかしい。高二ならまあそうだよな。けど、映研に興味あったのはちばちゃんのほうだよな。なのに青葉綾乃は一人でも映研にくるのか。

 青葉綾乃がいるなら、とりあえず一番気になることをたずねよう。


「ちばちゃんは俺のことなんか言ってた?」

「磯野さんにハンバーガーおごってもらったって喜んでましたよ」


 なんだよそれ。ハンバーガーひとつで喜ぶなんてめっちゃかわいいじゃないか。


「ほかには?」

「いえ、とくに……磯野さん、ちばちゃんになにかしたんですか?」


 とたんに意地悪いじわるな顔になる青葉綾乃。


「別に、なにもないよ」


 平静へいせいよそおって答えたが大丈夫だよな? 青葉綾乃という子は、とても茶目ちゃめがあるのだが、この感じだと中心をなす性質たちは、やはりSなんだろうな。


 それにしても、ちばちゃんはあの階段の件について、なにも話してないのか? 本人がなにも思ってないのなら、ひと安心ではあるのだが。


「なに磯野、ちばちゃんにイタズラしたの?」

「するわけねーだろ! そもそもイタズラって表現やめろよ物騒すぎるだろ!」


 俺の反論に、思いっきり疑いの眼差まなざしを向けてくる怜。

 ……まあこれはしゃーない。さっきのモスは、俺でさえなに女子高生連れてお茶してるんだって感じだし。


「磯野って、まさかロリコン?」

「んなわけないだろ。それに高二ならセーフだろ」

「え、セーフなのそれ」

「ちばちゃん、ちっちゃくてかわいいですからね!」


 青葉綾乃のフォローにならないフォロー。

 青葉綾乃がちばちゃんにかまう理由が、なんとなくわかる気がした。あの怯えたウサギのようなちばちゃんは、同性どうせいであろうと母性本能ぼせいほんのうをくすぐられるのかもしれない。


 そんなことを考えながら、午前中から置きっぱなしの炭酸抜たんさんぬけコーラに口をつけていると、青葉綾乃はおもむろに俺に近づき耳打みみうちしてきた。


「けどちばちゃんって、あれで意外とおっぱい大きいですからね」


  ぶぼあ!

  コーラが……気管きかんに……!


「なにむせてんの」


 俺は咳込せきこみながら青葉綾乃の顔を見返すと、にっこりと笑顔を返してきやがった。コイツ……マセガキってレベルじゃねーぞ。


「わたしたちも見張みはっておくけど、綾乃ちゃんも磯野には注意してね」

「はい、わかりました」

「……ったく、おめーら」


 そういえば、面倒なことを言ってたよな。


「ところで撮影旅行ってなんだ?」

「そうそう! 撮影旅行!」


 うわあ、すごく楽しそう! ……って、それだけじゃおまえさんがいかに嬉しいかしか伝わってこないんだが。

 

 竹内千尋は、青葉綾乃のはしゃぎっぷりを天使のような微笑ほほえみで眺めなら、この子がこうなるに至った経緯けいいについて話しはじめた。


「このまえ消えた素材そざいデータぶん再撮影さいさつえい、まえのロケ地でもいいんだけど、背景がわりえしなくて気に入ってないんだよね。だからいっそのことロケ地をかえたいなーってね、そしたら――」

「うちの親戚しんせき旅館りょかん経営してるんですよ!」

「お、すげーな」


 親戚とはいえそんな商売してるってことは、青葉家はそうとうな金持ちなんだろうか。

 と、柳井さんが青葉綾乃の浮かれっぷりにくぎした。


「だがなあ、その親戚や親御おやごさんがOKしてくれたとしても、女子高生連れての撮影旅行は大学にバレたらヤバいだろう」


 そうそう。大学のサークル旅行に女子高生二人を連れて行くっていうのは、世間体せけんていとしてあやうさを感じる。


「わたしは撮影旅行いいと思いますよ。今年は撮影遅れちゃってサークル旅行なくなっちゃってましたし。いい機会だと思います」


 怜が、いかにもすずしい顔をしながら発言。

 ……ああ、コイツがいちばん浮かれてるのな。


「たしかに千代田の言うとおり、今年の夏はサークル旅行しなかったからなあ。じゃあダメもとで一度学生部(がくせいぶ)に問い合わせてみるから、それでOKが出るようなら話を進めるってことでいいか?」

「はいっ!」


 柳井さんの提案に青葉綾乃は元気に返事をし、怜もそれをあたたかく見守みまもるという図。千代田怜よ、おまえが内心ないしん、青葉綾乃以上に喜んでいるのが俺にはよくわかる。そういえば――


「あお……綾乃ちゃん、ちばちゃんは大丈夫なの?」


 青葉綾乃は俺に「綾乃ちゃん」と呼ばれたのが意外だったのか、一瞬キョトンとした。が、すぐに目を輝かせた。


「大丈夫ですよ! ちばちゃんのご家族からもよろしく言われてますし」


 いやいや、よろしくされるにしたって限度げんどってものがあるだろう。


「綾乃ちゃん、ちばちゃんのお姉さんみたいだもんね」

「お節介焼おせっかいやきですが」


 怜の言葉に、白い歯を見せながら答える青葉綾乃。自覚じかくしとるんかい。


 お姉さんか。本来なら――というかオカ研の世界であれば実姉じっしである榛名こそがこのポジションにいるわけだが、こっちの世界の榛名はどこにいるんだろう。さっきの怜たちの反応といい、榛名の名前はすでにもう一人の俺が口走ったらしいから、姉の存在はみんなわかってるんだろうけど。


「そうなると、ちばちゃんには姉が二人いるようなもんだな」


 俺の言葉に部室の空気が止まった。


 え?


 俺をのぞいた部室にいる全員が、驚いたように俺に注目ちゅうもくしてくる。

 わずかな沈黙をやぶって、千代田怜がため息混じりに言った。


「磯野、やっぱり昨日のこと覚えてないんじゃないの?」


 ……え、なに、このリアクション。

 昨日、もう一人の俺が霧島榛名の名前を出したなら、なぜ俺がその名前をつけて知っているのかはともかく、ちばちゃんに姉がいることはここにいるみんなにはわかっているはずだろ? なんでみんなそんなに驚いてるんだ?

 もしかして、こっちの榛名はくなっているのか? そうだ、それならいま俺は、不謹慎ふきんしんなことを口走ったことにな――


「磯野、ちばちゃんは一人っ子だって昨日言ってたでしょ」


 は?


 死んでるどころか、榛名は存在すらしていない? いったいどういうことだ?


 ……いや、あり得る話じゃないか。

 こっちの世界とオカ研の世界の大きな違いは、その名のとおり俺が入部しているサークルの違い。そして、サークルの構成員こうせいいんの違い――霧島姉妹の有無うむだった。

 だとしたら、そのほかにも違いがあったとしても全然不思議じゃない。榛名が存在しない可能性だって当然あるはずなんだ。


 いま一度、「もう一人の俺」がしたであろう行動について整理してみよう。


 昨日の「もう一人の俺」は、ここはオカ研ではないこと、部室に榛名がいないことに狼狽えた。だが映研の面子めんつは榛名なんて子はいないと反論し、それに対して、もう一人の俺はちばちゃんには姉がいるだろう、と口走った。そしてちばちゃんが一人っ子だとわかった、という流れか。


 それなら今朝のモスバーガーで、ちばちゃんが俺に訊きたかったことだって予想はつく。それは、


 ――昨日の榛名って、いったいだれなんですか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ