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二つの世界の螺旋カノン  作者: 七ツ海星空
02.オカルト研究会
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02-03 ヴォイニッチシュコウ?

 迷い込んだ夢のなかの世界からの脱出のために、磯野はこの世界のオカルト研究会の面子に助けを求めるが――

千尋ちひろ、あまりに現実的な夢から覚めるにはどうしたらいい?」


 俺は部室に戻るやいなや、パソコンの前にいる竹内たけうち千尋にたずねる。


 竹内千尋は、いきなりの質問にキョトンとしていた。

 が、俺の質問がこのサークルの主題しゅだいであるオカルトの話題だと理解したらしい。脳内検索のうないけんさくが完了したのであろう、わずかの沈黙のあと、千尋はゆっくりと口をひらいた。


「現実的な夢って……明晰夢めいせきむのことだよね」

「メイセキム?」


 聞き慣れない言葉に、思わずオウム返しに口にでた。


 ふと手前てまえのソファを見ると、すでに部室にいる霧島千葉きりしまちは――ちばちゃんと目が合った。愛らしい笑顔でこちらに手を振ってくる。俺も反射的に手を振ってこたえてしまった。うん、かわいい。


頭脳明晰ずのうめいせきの明晰に夢で明晰夢めいせきむ。寝ている最中に、本人が夢だと気づく夢のことなんだけど、たいていの場合リアルな夢が多いんだよ」


 それだよそれ。こっちの竹内千尋はオカルト関係の造詣ぞうけいも深い。現実の千尋もいままで話題にしていないだけで、もしかしたら意外とオカルトにも詳しいのかもしれない。


 そして、この人も――


「なんだ磯野、明晰夢を見たのか?  明晰夢なら気づいた時点で目が覚めるだろ。明晰夢の状態を長い時間維持(いじ)するのは、ある程度訓練(くんれん)しないとむずかしいはずだ」


 さすが柳井さん。だけどその話が本当なら、俺はすでにこれが夢だと気づいているわけだから、いまにも目覚めてもいいはずなのだが。


「けど会長、その明晰夢ってやつと、磯野のさっきの挙動不審きょどうふしんになんの関連かんれんがあるんだ?」と霧島榛名きりしまはるな

「それは本人にけよ……」

「だってわたしに驚いた顔をむけてきて、いきなりフルネームで呼ぶんだぜ。めっちゃ怖いじゃん」


 そう言うと、霧島榛名はまるで宇宙人でも見るかのような目で俺を見た。おまえは半分おもしろがっているだろ。


「で、さっきのはいったいなんだったんだ?」


 再度さいど投げかけられる榛名からの当然の質問。

 さてどう答えたものか。


 この状況が仮に夢だとしても「やっぱり磯野の頭おかしい」という理由でこの話題が中断されてしまっては、ろくな情報も引き出せない。情報収集を続けるならば、誰もが納得できるような言葉を慎重しんちょうに選ばなければならないだろう。


「実は今朝、その明晰夢? っぽい夢を見たんだ」


 俺はひと息おいてから口をひらいた。


「その夢だと、オカ研は、映画研究会というサークルになっていた。紛らわしいのは夢から覚めても、夢の中で見た映画研究会の世界の記憶……ええっと、生まれてからいままでの人生の記憶、って言ったほうがいいかな、それがいまだに頭の中に残っている」


 現実の世界である映研のある世界と、この夢のなかであろうオカ研世界をひっくり返して説明してみたが、我ながら悪くないのではないか?



 話を理解できないのか、ほうけた顔になる榛名にかわって、神妙しんみょうな顔になった柳井さんが食いついてきた。


「磯野、いま映画研究会と言ったか?」

「そういえば柳井さん、さっきも映画同好会(どうこうかい)って」

「ああ。もともとこの部室は映研――映画研究会の部室だったんだが、人数不足で映画同好会に格下かくさげになって部室を取り上げられたんだ。ここが映画研究会の部室だったなんてよく知ってたな」

「いえ、その話はじめて聞きましたよ」


 映画同好会か。


 夢の中の話だとしても、なかなか良くできた設定じゃないか。たしかに現実の映研も部員はギリギリ四人だし、今年七年生の柳井さんが運悪く卒業することでもあれば、存続そんぞくはむずかしいだろう。いや、来年度にちゃんと新入生を確保できれば解決かいけつするのだが。


「磯野、映研のことは覚えてないだけで、過去のどっかで無意識に耳にしていたんじゃないかな?」


 腕を組み黙り込む柳井さんにかわって、竹内千尋が、いかにもあり得そうな仮説かせつげてきた。だが、夢の中のこととはいえそんな話覚えがないぞ。


「うんうん」


 話に混ざりいのか、ちばちゃんも健気けなげにうなずいた。

 ちばちゃんだけ現実の世界につれて帰れないだろうか。


「そうそう磯野の言っていた二つ記憶についてだけど、過去に有名になったオカルト話に似たものがあったよね」


 無邪気むじゃきに目をかがやかせた竹内千尋は、パソコンに向かってなにやら操作そうさしはじめた。


「たしか――小学校の記憶と並行へいこうして、原始時代げんしじだいみたいな世界の記憶が数年間あった話だったと思う」

「原始時代?」


 そりゃ与太話よたばなしにしたって、スケールが大き過ぎやしないか? けれども記憶が二つあるっていうのはそのとおりだし、気になるっちゃ気になる。


 俺は、千代田怜と霧島姉妹が占拠するソファを横切り、竹内千尋の背中越しにパソコン画面をのぞき込んだ。竹内千尋はすでに立ち上げられたブラウザに、次の語句ごく検索けんさくをかけていた。


『記憶 二つ』


 結果画面には検索にヒットした無数のページが箇条書かじょうがきとなって表示された。その中でもページのトップにある「記憶が二つあるんだが」と書かれたタイトルのスレッドが目についた。


 まさにドンピシャなタイトルだけど――


「これこれ。たしか二〇一一年あたりに話題になってたよね。なんでも小学生のころに事故にあったあと、気がついたら森の中で生活する原住民のような人たちに拾われて、数年間その人たちとすごしたってやつ。たしか、その世界は植物優位(ゆうい)の世界なんじゃないか、とか盛り上がってたっけ」


 植物優位の世界? ……なんじゃそりゃ?


「……なんで、そんな突拍子とっびょうしもない話が盛り上がるんだよ」

「その森の中で数年間生活をしてやがて死ぬんだけど、そのあと普通に現実の世界で目覚めたんだって。そしたらその森で過ごしたぶんの年齢、たしか一九歳になっていて。けど、現実世界でのそれまでの記憶もちゃんとあって、二つの記憶に混乱したって話だよ」


 記憶が二つという点に関してだけは、いまの俺の状況と当てはまるが、そんな与太話がなんで当時盛り上がったんだ? 可能性があるとするなら、そいつの文章が人を引き込むくらい魅力的だったとかそういうことだろうけど。いやまて、これは夢の世界のことなんだからなんでもありだろ。そのうえで手がかりを探ればいい。


「森での生活は、植物を中心とした文明の生活だったらしいんだけど、そこで教わった文字が、ヴォイニッチ手稿しゅこうに書かれている文字と似ていて、当時話題になったんだ」

「ヴォイニッチシュコウ?」


 俺とちばちゃんは同時に首をかしげた。

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