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二つの世界の螺旋カノン  作者: 七ツ海星空
13.三つ目の世界
104/196

13-04 すでに十二名がこの駅構内に侵入しています

 襲撃から逃れるため、真空チューブ鉄道に乗り込んだ磯野。その後、降り立った駅のプラットホームでこの世界の霧島榛名と名乗る人物と接触する。

「では、行きましょう」


 霧島榛名はホルスターから拳銃を取り出し、黒い筒状のものを銃のさきに取りつけた。サイレンサーだろう。彼女はスライドを引いた。


 彼女は廊下を確認すると、俺を誘導しながら歩き出す。

 前方から駅員らしき人物が歩いてきたが、彼女の拳銃を見て、慌てて道をあけた。


「なあ、銃はしまったほうがいいんじゃないのか?」

「すでに十二名がこの駅構内に侵入しています。磯野さんも、銃を」

「十二名……」


 俺はうなずくと、腰の拳銃に手をかけながら彼女のあとに続いた。


 俺に向けて容赦(ようしゃ)なく発砲してくるやつらが、十二人いるってことか? なぜ俺を殺そうとする?


 廊下の突き当たりにあった階段を、三階ぶん駆け下りた。

 そのさきは十字路で、彼女は慎重に左右の廊下を確認すると、前方の廊下へ歩き出した。


「ついてきてください」


 俺は、彼女の背中を目で追いながらあとに続いた。

 霧島榛名は、銃口を前へむけながら、ゆっくりと進みはじめた。俺もそれに習って、銃を構えて後方を警戒しながらつづいた。廊下の突き当たりで足をとめると、彼女はまた左右の廊下を警戒しながら確認する。


「こっちです」


 左に折れようとしたとき、背後からドアの開く音が聞こえた。


 俺は榛名に床に押さえつけられる。

 俺は這いつくばりながらも彼女の銃口のさきを見ると、警備員が二人、銃を向けてきた。次の瞬間、榛名はサイレンサー特有(とくゆう)の風を切る発砲音とともに、二人の足に二発ずつ命中させた。警備員たちは太ももとふくらはぎあたりから、霧のような血しぶきをあげて倒れた。


 痛みにうめく警備員たちと、彼女の射撃の正確さに唖然(あぜん)としていると、榛名は俺の手を引いて立ち上がらせてくれた。


「お怪我はありませんか?」


 曲芸のような射撃をみせたにも関わらず、俺のことを心配する彼女に戸惑ってしまう。俺はなんとかうなずいてみせた。


「急ぎましょう。一度、ショッピングモールへ出ます」

「ショッピングモール?」


 彼女は、進んださきの観音開かんのんびらきのドアを押し開けた。

 駅と直結しているのであろう、店が建ち並ぶショッピングモールへと出た。彼女はスーツの(ふところ)に拳銃を隠しながら、俺の手を引いて人混みのなかに紛れ込んだ。人の流れのさきに駅のエントランスが見えた。


 俺の手をつかむ彼女の左手をとおして緊張が伝わってくる。

 いや、俺だってさっきの射撃を目の当たりにすれば、緊張どころじゃない。


 彼女と――霧島榛名と手をつないでいるということが、八月十二日のあの夜を思い出させた。この榛名は、おそらく現実世界の霧島榛名とはちがう。けれど、あの十二日以来、求めていたものがやっと得られたという奇妙な安堵(あんど)が、わずかのあいだ俺を満たした。


 突然、彼女は立ち止まる。


「どうした?」


 彼女はそれに答えず、うつむきながら右の人差し指を彼女の左耳に当てた。すこしのあと、顔を上げ俺に振り返った。


「ジャミングを受けました。おそらく数分程度ですが、敵の位置が不明になります」


 ジャミング? 敵の位置が不明になる?


「それって――」


 いままでは、あいつらの居場所をリアルタイムでつかんでたってことか?


 彼女は俺を引き寄せる。イヤフォンの無い俺の右耳に彼女の口もとが寄せられ「気をつけてください。この数分で仕掛けてくるはずです」と告げてきた。


 追いつめられた状況と、それを伝えてくる緊張とは裏腹に、彼女の甘く、心地よい声に、俺は思わず(いとお)しさを感じてしまった。そんな呑気(のんき)な状況じゃないことはわかっている。


 彼女が、あの霧島榛名では無いことも。


 俺たちは、ショッピングモール出口から駅のエントランスを渡り、向かいのショッピングモールへ歩いていく。右の改札口から流れてくる人の波と、前後のショッピングモールの人の流れが交差する、その真ん中までたどり着いたとき、榛名は、左手で俺の頭を押さえ込んで、振り向きざまに銃を抜いた。


 複数の悲鳴と銃声が重なり合う。


 屈み込んだまま顔を上げると、銃声に驚いた周囲の人々もその場にしゃがみ込んでいくのが見えた。それが視界を開けさせ、背後のショッピングモールの、五〇メートル離れたさきに、二人の警備員が俺たちに銃を向けていた。


「走って!」


 榛名の声に、俺は前方のショッピングモールへ駆け出した。

 背後で銃声が鳴り響く。振り向きざまに、玄関からも二人の男が銃を抜こうとするのが見えた。


「榛名!」


 彼女は、銃口を玄関に向けて走り撃ちをした。

 俺は、榛名もついてきたことを確認すると、前方のガラスの自動ドアを抜けようとした。瞬間、両脇のガラスにヒビが走り、崩れ落ちる。


「マジかよ」


 俺は、そのままもう一方のショッピングモールへ駆け込んだ。

 同時に警備員たちも走り出す。


 逃げ惑う人々をすり抜けひたすら走る。うしろから乾いた破裂音が二つ鳴った。直後、俺の横をヒュンという風を切る音が駆け抜けた。


 目の前でショッピングウインドウのガラスが割れた。砕けたガラスの雨が俺の横で飛び散る。間髪を入れずに、発砲音が、何発も何発も、容赦なく鳴り響いた。


 俺はもう一度振り返り、追ってくる榛名の姿を確認する。目のあった彼女は、俺に笑みを見せると振り向きざまに三発撃った。


 ショッピングモールの雑踏ざっとうだったものは、複数の銃声によって悲鳴と恐怖による静寂が入り混じった異様な空気と化した。人々が屈み込むなかを縫うように俺たちは走る。


「こっちです!」


 いつのまにか、全力で走っていたはずの俺の手を引き、榛名は角の廊下へ曲がった。


 確実に追ってくる足音は二人。

 そのうしろにまた、二人がつづいている。


 榛名は、廊下の角の壁を背にして、弾倉を床に落とす。

 予備の弾倉を装填(そうてん)して両手で拳銃を持ち直すと、ひとつ大きな息をついた。彼女は俺に、廊下のさきにある、職員用通路らしきドアへ行くよう目配せしてきた。


 俺はうなずく。

 駆け出そうとして、俺はもう一度彼女を見ると、彼女は廊下の角からショッピングモールへ半身を晒して、風を切る銃声を無数に響かせた。

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