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俺の知ってるメルヘンはこんなのじゃない

見てご覧、あそこで羽ばたいているのは、蝶かな? 鳥かな? いいや、本だよ。


「オカルト案件やめーやああああッ!!!」

「ジョンさん、メルヘンも駄目な人でしたっけ?」


きょとん、瞬いたベルが意外そうにこちらを向く。違う、何がメルヘンだ……! 動かないはずのものが動く、話しかける、襲い掛かる、そんなもんはオカルトだろうが! 超常現象だろうが!!!


「……ちッ、逃がしたか」

「あんな機敏に動く本があるか!! 何だよあの歯並びの良さ! 本に歯なんて必要ねーだろ!?!?」

「うるさいぞッ!!!」


本棚を足場に跳躍したルイが、身を捻って着地する。彼の脇腹を狙ったのは歯並びの良い本で、紙一枚スレスレで避けた彼は普通に舌打ちしていた。んだよお前等! 耐性つきすぎだろうが!!


「ジョンさんうるさいですよ! 静かにしてください!」

「お前等の心臓鋼かよ! 毛むくじゃらかよ! もふもふすんぞッ!」

「気持ち悪いんでやめてください」


本棚と本棚の隙間から突っ込んできた、ライオンと馬と蛇と何かの融合体を、一刀両断のもとベルが斬り伏せる。彼が拾い上げた本の題名は「合成獣生成手引書」――んなもん手引きすんなやあああああッ!!!


「~ッ!! 騒いでないで仕事をしろ!!!」

「あ、はいっ」


じたばた暴れる本を抱えるルイの凄まじい剣幕に怯え、涙目で返事する。やれやれ、ベルがため息をついた。寂しい、孤立無援だ。

ナイフを手に一歩踏み出した俺の脚に、何かが絡みつく。恐る恐る視線を落とせば、俺の左脚に抱き着く落ち窪んだ眼窩の白い顔。にぃんまり、横に引き裂かれた黒い口に、反射的に喉が引き攣った音を鳴らした。










「もぉぃやだああああああ……ッ、おうちかえるううぅぅぅ……っ」

「それで連れて帰る流れですね。わかります」

「鬼畜か」


めっためたにした本をルイに預け、膝を抱えて蹲る。俺の正気度を根こそぎ奪い去った現象は、先に捜索していたルクスさんにも届いたようで、呆れた顔で「君の反応が面白いから、ちょっかいかけてるんだろうね」との嬉しくない評価をくれた。ちょっかいかけるなら、生きてる美人なお姉さんで頼むわ。


一先ず合流という形を取り、集めた本をルイがシグさんの元へ届けに行っている。俺が落ち込んでいる間もベルとルクスさんは狩りをやめず、ばっさばっさ空飛ぶ魔獣を仕留めていた。


「本当だ、ジョンさんがいるだけで本が寄って来ますよ~」

「嬉しくねえよッ!!」

「よっぽど好かれてるみたいだね。おめでとう」


はは、笑うルクスさんの声に、それでひたひたけたけた怪奇音が止まないのか納得がいった。だからって! この仕打ち!!

「きゃはははは」との高い笑い声に、「ベル笑うな!」と叫んだが……、これは本当にベルの声か? 抱いた疑問に鳥肌が立ってしまった。


「ベルゥゥウウウウッ!!!!」

「うわあっ。何するんですかー! いい大人が見っともない……」

「腹黒知ってた!!!」

「……あのルイって人、少し遅いかも」

「そうですか?」


ベルのものと思わしき脚にしがみつくと、ちゃんとベルから反応があって涙が出そうになった。しかし不穏なことを言い出したルクスさんに、察知したオカルト案件に震える。蒼白になる顔を上げると、難しい顔で生首(本)を掴んでいるルクスさんがいた。ふ……、意識が遠退きかける。


「黒髪の人に何かした?」

『、「、ホサメ、ェ、、、キ、ス、ヲ、タ、筅ホ 』

「はあ? 食べたの?」

『、ェオ、、ヒニ 、熙ャシ隍テ、ソ 』

「何語で話してんすかああああああッ!!!!」

「うるさいよ」


どんな発音なのか全く理解出来ない、したくない音声とのやり取りを成立させるルクスさんに総毛立つ。激しく床を叩く俺を憐れんだ目で見詰め、ベルがルクスさんの前に立った。


「状況を教えてください」

「多分あの人、本が好きなんだと思う。捕まった」

「はあ……」

「本に食べられた。消化まではまだだから、今なら間に合うと思う」

「はあ!?」


流石のベルも驚いたのか、頻りに安否を尋ねている。さっと引いていく血の気の音。油の切れたブリキ人形のようなぎこちなさで動く俺を置いて、ルクスさんが本を小脇に踵を返した。ベルがコートを翻させ、小柄の後を追う。俺の矜持のために明言しておくが、俺はちゃんと自力で歩いたからな!

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