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「先生! 異世界で『フレンチ』が出てきたんですけど!」

 小説を書く上で、注意を受けたことがあります。


「その世界に存在するはずのない単語や表現を使ってはならない」


 どういうことかというと、異世界で「フレンチ」が出てくるとか。

 異世界人が扉を、「観音開き」と呼ぶとか。


「その世界に存在しない地名や人名や名詞」を使うのは危険ということです。

 観音様の存在しない世界に、観音開きという表現があるわけない。

 フランスの存在しない世界に、フレンチが存在するわけない。そういうことですね。



○読者も違和感を抱きやすそう


 このことは、今まで挙げてきた単位や名前、作法などよりも読者が違和感を抱きやすい事項だと思います。仏教のない世界で「仏のような人」という表現があっても、「ホトケって何?」となりますよね。


 私も何度か校正で指摘を受けたことがあります。自分では当たり前に使っている表現でも、異世界を舞台にした小説を書くとなると「ふさわしくない」表現になってしまう。そのことになかなか気づけませんでした。

 とはいえ、グレーゾーンのものも多いし、そもそもその表現の由来を知らなければ異世界で不相応な表現を使ってしまいがちです。第三者からの指摘を受けないと気づけないことが多いため、作者も見落としがちになるのではないでしょうか。



○固有名詞は多くが危険?


 では、どういったものが「異世界にふさわしくない」表現になりがちなのでしょうか。


 まず考えられるは、固有名詞です。人名、地名、国名などですね。

 人名の場合の例として、料理のサンドイッチや楽器のサクソフォーンなどが挙げられます。サンドイッチは正直私もよく分かっていないのですが、サクソフォーンは考案者の名前から取っています。


 また、地名や国名はさまざまなものの発祥の地であることが多いです。フレンチもそうですし、ドレスで言うとアメリカンスリーブなんてのもそのまんま国名ですね。


 余談ですが、ドレスの袖の種類にパゴダスリーブというのがあります。二の腕までは肌に沿うようにぴったりとしており、肘から先が広がっているエレガントな袖の名称です。

 この「パゴダ」といのは、仏塔のことだそうです。仏塔に形が似ているから名付けられたとか。


 ちょっと前に挙げた「観音開き」のように、仏の存在しない世界に仏塔があるわけない。そのような世界に、仏塔の名を持つパゴダスリーブという名称があるはずない――というわけです。



 話を戻します。

 やはり地球に存在する地名や国名、実在の人物の名前などを盛り込んだ単語はグレーゾーンになる可能性が高くなります。そして先にも述べたように、そういった単語の由来を知らなければ、「異世界にふさわしくない表現」であることに気づけないでしょう。


 それにしても、「ケルティック」や「アラビアン」、「和風」のようにはっきりしているものならばともかく、ひとつひとつを確認していくのは骨が折れますよね。



○私の対処法1 カタカナは怪しい


 ここからは、私がちょっと工夫していることを挙げてみます。

 全ての単語を疑うのは労力が要りますが、まずはカタカナ表記のものにまず着目するようにしています。


(例)

「『カシミヤ』って、なんだか怪しいな。一応調べてみよう」

「『カシミヤ』はインドの『カシミール地方』から取っているのか!」

と気づく。


 漢字表記できるものよりも、カタカナ表記のものの方が該当することが多いですね。きっと、カタカナ表記の多くは外国から輸入したものであり、それがどこかの地名なのか否かがピンと来にくいからでしょう。


先ほど例に挙げたパゴダスリーブですと、このままだとピンと来なくても、「仏塔形の袖|(無理矢理訳しました)」と表現したならば、「この異世界に仏塔は存在しない」と気づきやすいですね。



○私の対処法2 不安なら、別の表現を使う


 パゴダスリーブを仏塔形の袖と訳するのはあんまりですが、「繊細なレースが二の腕を包み、肘から先は円錐形に広がっている袖」のようにすれば、仏塔を表すパゴダを使わずに表現することができそうです。


 フレンチに関しては、ばばんっと「フレンチ」と言ってしまうのではなく、料理の種類や味付け方法、見た目や味などをひとつひとつ説明すればよい。


 サクソフォーンを使うのが不安なら、いっそのこと木管楽器とくくってしまうとか。木管楽器にもいろいろあるので、縦笛なのか横笛なのか、ベルの位置や楽器の形を説明し、それを読んだ読者が「これはひょっとして、サックスみたいな楽器かな?」と想像できるようにする、といったところです。





○結論


 確認・置き換えの作業は、正直ものすごく大変です。「アルミニウム」を「金属」と言い換えるのならばまだしも、固有名詞を使えば数文字で終わるところが、だらだらとした文章になってしまい冗長な印象を持たせることだってありえます。


 ですので、これは作者がどこまでこだわるのかにかかっていると思います。

 つまり、


 気になるなら工夫する!

 気にならないor考えるのが面倒なら、何でもいいじゃん!


 ということです。身も蓋もありません、本当に。


 何も気にならないのなら、フレンチだろうとサックスだろうとガンガン登場するし、気になるのならひとつひとつ説明を入れたり別のものに換えたりする。


 とはいえ、先にも述べたようにこの観点は読者にも気にする方が多いものだと思います。

 どこで線を引くかは自分次第ですが、固有名詞は避ける、などの自分なりのラインを決めておくと楽かもしれません。




○余談 一時の恥


 私は書籍化作業をするようになってから、自分の語彙力の貧弱っぷりを痛感しました。

 自分では当たり前だと思っていた言葉や表現を校正で指摘され、「それって違っていたの!?」と気づくことも多々あります。恥ずかしながら、この年になるまで間違って覚えていた言葉もたくさんあります。


 気づいたときには恥ずかしいし自分の勉強不足を呪うのですが、「ひとつ賢くなれた」と前向きに捉えることもできるのです。

 自分では分かっているつもりの言葉でも、辞書で調べてみる。すると、自分の覚え間違いに気づけたり新しい発見ができたりする。


 だから、面倒ではありますが言葉について今一度調べてみるという作業は、自分の糧になると思っています。


 地球の言葉をどこまで異世界の言葉に置き換えるかは別にしても、ひとつの言葉の由来や可能性を考えてみるというのは、それだけでも意味のある作業なのではないでしょうか。

「フレンチトースト」なら、とろとろ卵のシュガートースト、とかでしょうか?

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― 新着の感想 ―
[一言] 固有名詞以外にも、故事成句も異世界であったらおかしいですよね。 勿論、地の文が第三者視点であるなら、それは問題ないと思います。 しかし異世界人の主人公視点で地の文が書かれているのに故事成句が…
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