第7話 能力
夜。日中の戦闘を忘れさせてくれる団欒の時間、夕食。
「慎磁、みてみてー!!」
さっきより上機嫌な赤羽根。見ると、左側にかきあげていた前髪を下ろしていた。
「かわいいと思うぞ、そっちの方が」
あまりにも好みだったので、普段なら絶対言わない言葉を発してしまった。
「ほんと?ありがとー!」
笑顔でパンを頬張る赤羽根。
「やっぱり私も、洋服買ってイメチェンしようかしら」
「喋り方が赤羽根に毒されてるぞ、ガルシア」
「さんせー!!」
「いいと思う」
無視された。そんなわけで、明日は午前中服屋に行くことになった。
―――――――――
翌日。
「でもさーガルシア、ローブしか着れないんじゃないの?」
赤羽根は珍しく真面目な顔をして聞く。確かにそんなことを言っていた気がする。
「あー、それはあの国だけでなの!この前買わなかったのは、ただ気が向かなかっただけだわ」
成程……ガルシアらしい。
「ガルシアちゃんもおしゃれしたいだろ?俺だってローブは着ないよ。一応魔術師だけど」
「って、あんた魔術師かよっ!!」
少しツッコむ場所が違うような気がするが、勢いのある久山のツッコミが決まる。
「まあ、一応日本から派遣されてやってるよ。ガルシアちゃんとこの北隣の国だね」
「へー、ルイくんも魔術師だったんだ!」
そんな会話を交わしつつ、僕達は服屋にやってきた。
「わー!この町の服屋はひっろいねー!!」
いつもより数倍大きな声で赤羽根は感想を述べる。服屋の中ではマネキンが並んで着飾っており、僕たちが元いた世界のお洒落な店、といった感じの風情だ。
その店は品ぞろえが多く、一面にいろんな服が広がっている。中にはコスプレ服のようなものまであった。
赤羽根と久山は目を見合わせる。
「優紀も私と同じこと考えてるでしょ?」
久山は
「うん、多分」
と述べたのち、表情を隠すように頷く。
「「私たちがコーディネートしてあげる!」あげるわ」
次の瞬間、ガルシアはたくさんの服たちとともに、試着室に連れ込まれた。
「...あいつら、本当他人の服装をコーディネートするのが好きなんだな...」
「まぁ、センスあるからいいじゃん。その服も、久山ちゃんと赤羽根ちゃんが選んでくれたんでしょ?似合ってるよ」
ルイが答える。確かにこの服は彼女らに選んでもらったもので、中々気に入っている。彼女らに任せておけば大丈夫だろう、と思い、僕達はこっそり近くの喫茶店に入っていった。
30分くらいしてから、ガルシアたちは出てきた。僕達は秘密でここら辺の名物だと聞いたパイの上に細かいクッキー生地を載せてあるものを食べていたので、暇ではなかった。
気になるガルシアの服装は、僕ら転移者にとっては見慣れた姿だった。
ブレザー。しかし、僕らの学校のような中途半端に長いスカートではなく短いスカートで、非常に似合っていた。後から聞いた話だが、手が少し隠れているのは、久山が考え出した仕様らしい。
「似合ってるかしら!?」
「いいね。すごく似合ってるよ」
ルイのいつもの褒めが入る。跳ねて喜ぶガルシア。
「ちょっと、着崩れちゃうよ~」
そういってガルシアを諭す赤羽根。こんな幸せな日々が、いつまでも続けばいいと、僕は心の中で祈った。
―――――それは、あくる日の午後。
和気あいあいとしたこの国の雰囲気を楽しんでいると、空は禍々しい雲で覆われていく。その雲は次第に地上へと近づく。正しくは、厚さが増している。
その雲は、ガルシアに纏わりついていく。ここで僕たちは、こいつが単なる水蒸気の塊ではないことを確信した。
「うッ?!な、何これ...ぁ...う....」
「強化!」
久山は身体強化を施し、雲を取り払おうとする。
「消えてーーーー!!」
赤羽根はその能力で雲を浮かそうとするが、少し浮くだけでまた纏わりつく。
慌てて僕も攻撃し始めると、何やらルイが気付いた顔をする。
「ッ!!離れろ!!」
ルイの声を聞いた僕らは咄嗟に離れる。それと同時にガルシアの声と雲もやむ。僕は、急いでガルシアのもとに駆け寄る。
「…ガルシア!?」
そこにはもう原型がわからないほど雲を取り込んだ、ガルシアが倒れていた。
「…落ち着いて聞いてくれ。ガルシアちゃんを兄さんのとこまで連れていく」時は急げだ、と言ってルイが指を鳴らすと、元の世界で見たようなヘリコプターが上空に突如出現する。驚愕する暇もなく、僕たちはそれに乗り込む。
ーーーーー次の日の早朝。急ぎに急いでやってきたのは、僕たちは見慣れた、東京の街だった。
「ようこそ、我が研究所へ」
そういって出迎えたのが、井川司さんだった。
「話は弟から聞いている。その子は『呪い』に蝕まれているんだ」
と、司さんは白衣を翻しながら振り返って言った。
「呪いとは一体、何ですか!?」心配した面持ちで赤羽根は聞く。
「君たちが思っているような呪いじゃないよ。呪いは、所謂反動なんだ」
と、司さんが語りはじめる。
―――――――
最初にこれを話しておくべきだね。大昔に、ある一人の兵士がいた。世界中が争う戦争の中、彼は君たちの日本を守るために戦った。
でも、彼が生まれなかった世界線がある。
日本が敗けた世界線。ここまで言えばわかるだろう?
そう、君たちの世界だ。
話を戻そう。彼は、戦時中にあることを発見してしまった。それこそが魔法だった。
彼は強化魔法を得意とした。船体や兵器なんかを強化して、戦争に導入した。
それから間もなく、日本は勝った。
すべての国が一つとなり、平和な国家が作られた。
だが、彼は長生きしなかった。
魔法には反動があったんだ。それが「呪い」だよ。しかし、統一国家は科学も発展させて反動を消したはずだった。
過去へ行って突き止めるんだ。呪いのありかを。そして、彼女を救うんだ。君が幸せであれと祈った、彼女を。
これは、二つの世界を分かつ、能力の物語。
ご無沙汰しております、吉凶 巧です。
長らくお待たせして申し訳ございませんでした。お詫び申し上げます。
今回はついに謎の一部が明かされますね。
それでは、次の第8話でお会いしましょう!