第6話 激戦
一際険しい山脈を乗り越え、城が見えてきた。
僕達はその城下町らしきもので休憩を取ることにした。
運転手の魔力で車を動かすため、運転するルイには疲れがたまるようだ。
どうやらその城は一般に開放されているらしく、中を一通り見終えてから、城の近くを見て回ることにした。
「…少し寒いなぁ…」
久山は気候の変化に敏感なようである。
彼女はそばにあった洋服店で、白いワイシャツを買い、Tシャツの上から袖を折り込んで着た。個人的な意見だが、こっちの方がいいと僕は思った。声には出さなかったが。
結構な時間歩き回っていたらしく、日は既に沈んでいた。
「わー、超きれい!!」
「ほんとね!」
赤羽根とガルシアが嬉々として指差した方角を見てみると、城が明るくライトアップされている。湖面にもその光が反射して、かなり幻想的だった。
湖面を見つめていると、水面に女性が映る。あったことのない、大人の女性だ。
「あら、こんにちは」
「こっ…こんにちは」
いきなりのことなので少し吃ってしまったが、なんとか聞きたいことを聞くことができた。
僕は振り向いて尋ねる。
「あの…失礼ですがどちら様ですか?」
「いや、ちょっと声をかけただけだよ」
軍服のような黒い服を着た、金髪の女性は続けて言う。
「私の名前は香。君は?」
「僕は多月。多月慎磁です」
「へぇ…。ちなみに多月くん、留置所のような所をここら辺で見なかった?」
「あ、それなら城の東の方にあったと思います。あまり近寄りたくなかったので詳しく見ていませんが」
「ふぅん…ありがとね!」
そう言って香さんは足早に去る。
とりあえず僕達は宿をとって夕食を食べる。
ここもスープのようなものが出てきたが、大きなウインナーも付いてきた。
夕食中、特に会話があるわけでもなく、夕食後は皆歩き疲れてすぐ寝てしまった。
翌朝の出来事だ。
ーー「昨日ぶりだね、多月くん達」
そう言った香さんの隣には、櫻がいた。
「こっちは1人能力を知られてるけど、負けるつもりはないよ!」
そう言って香さんは右腕を上に挙げ、前へと振り下ろす。
その瞬間、バラの葉のようなトゲのある葉がこっちへ飛んでくる。
久山は咄嗟に身体強化し、全てかわす。
赤羽根は葉の軌道を傾ける。
「ガルシア!なんとかできないか?」
「私にはまだ何も思いつかないわね…。ルイならわかるだろうけど……。」
早朝、僕達が争いに気づき向かった時、ルイは回復のためにまだ宿にいた。まだ到着していないため、力を借りられなかった。
ガルシアは召喚魔法で大きな氷壁を召喚し、葉の攻撃を耐えている。
氷壁に葉が突き刺さっている。普通の葉では刺さらない。能力の恩恵と見ていいと僕は判断した。トゲのある硬い葉を飛ばしてくる能力だと仮定して、どうすればこの状況を打破できる?そう思考を張り巡らせていると、ガルシアが何か思いついたようだ。
「…試してみるしかないわね。みんな、私を守ってちょうだい!」
そう言い放ちガルシアはこれまでに見たことのない大きさの赤い魔法陣を空中に描き出す。ガルシアを中心に僕達は円形になり葉がガルシアに当たらないようにした。先刻まで回避していた久山は避ける動作から蹴り飛ばす動作に移行する。
ただひたすらに葉を捌く。何分経ったか分からなくなった頃くらいにルイは来た。
「お待たせ慎磁!助けに来た!」
ルイが葉の間をすり抜ける。その時に、何か粉のような物を撒き散らしていた。
「ガルシア!今だ!」
魔法陣から火の柱が現れる。柱は垂直に落ちるが、粉や葉に引火し、かなりの範囲を炎が覆う。
「ぎゃあああぁぁ!」
クールな雰囲気だった香さんがあれほど悲鳴を上げている。毎回思うが、ルイは容赦がない。また感心してしまった。
櫻は花弁となり逃げるが、手が空いた赤羽根により再度浮かされてしまう。
「あなた達…許さない!」
怒りのこもった声で叫んだあとに、香さんは指笛を力一杯吹いた。
そこに現れたのは…赤く燃え盛る、不死鳥だった。
不死鳥は炎を纏い久山目掛けて突撃してくる。久山はそれを避ける。
「あれは幻術の部類かな」
「どうすればいいの!?」
「落ち着いて、赤羽根ちゃん。まずは、普通の鷲と違う所を探すんだ。そこが弱点だ」
「炎かしら?」
「基本的に弱点は固体だ。隅から隅まで見極めて」
ルイの言葉を信じ、僕達は弱点を探す。
しかし、探しても探しても、見つからない。
くちばしから尾羽まで、大きさを除けば全て普通の鷲だった。
不死鳥の突撃をかわしながら、弱点を探す。
しかし、後ろから背中を何かで刺される。
「ぐぁぁぁ!」
尋常じゃない痛みだ。体の内側から何かが流れ出すような感触。恐る恐る背中に手を回すと、葉が刺さっていた。
「残念だったね、多月くん」
後ろから記憶に新しい声。
振り向くと、香さんがいた。
「大丈夫!?慎磁!」
心配した赤羽根が飛びながら近寄る。
その瞬間、不死鳥が赤羽根の背後目掛けて急降下する。
「あぁ!!」
背中を突き刺される赤羽根。力が抜け、赤羽根は地面へ撃ち落とされる。
赤羽根を庇いながら香さんから距離をとる。
不死鳥がどこにいるか確認しようと上を見ると、桜の花びらが舞っていた。
桜はやがて、香さんの隣に落ちた。そこから櫻が現れる。
「俺はこれでも一応独立軍の幹部だ。何度も同じ手は喰らわない」
「私もやられっぱなしじゃないよ?」
そう言って2人は各々の武器を取り出す。櫻は短剣二丁、香さんはバラのトゲのようなものがついた鞭だった。
「しょうがないな、本気を出すか。反動があるから嫌だけど」
ルイが一歩前へ出て、いつものパルチザン強化と、能力でないと難しいはずの自身強化をやってのける。今までとは桁違いのスピードで、パルチザンを構えながら走る。敵まであと20mといったところで、ルイはパルチザンの柄の方を思いっきり地面に叩きつけ、その反動で飛翔する。
「久山ちゃん!」
「…はいはい」
久山は櫻と交戦する。パンチやキックを食らわせ、人の状態へ戻らせないようにする作戦のようだ。
「お姉さんの相手はこっちだ!」
そういってルイはパルチザンを香さんへ向けて、ものすごい勢いで垂直に落下する。
香さんは葉をバリアのようにして板状に展開させ、衝撃を減らす。
葉へルイのパルチザンが刺さったかと思えば、そこを起点に大きな爆風が巻き起こる。葉は全て何処かへ飛ぶ。
「私も本気を出さなきゃダメみたいね」
そう言って香さんは鞭をルイに向かって叩きつける。
ルイはそれを避ける。近距離戦が始まったようだ。
一方久山は人の状態へ戻らせない作戦を取ろうとし、櫻へ殴りかかる。
しかし、櫻は桜化せず、そのまま受ける。次の瞬間。
「はっ!」
櫻は両方の短剣で挟むように切りつける。
「…あっ……!!」
蹴りを出していた久山の脚を覆うジーンズが血でにじむ。
続いてバランスを保っていたもう片方の脚目掛けて櫻は短剣を振る。
「痛い……!!」
久山は両脚から血を出す。ジーンズは斬り裂かれて脛の辺りまでしか無くなってしまった。
「回復!」
ガルシアは回復魔法を久山へかける。回復もできたことに少し驚く。
「加勢するぞ、久山!」
そう言って僕は久山の方へ向かう。
「ルイくん、僕ももう動けるよ!」
隠れボクっ娘の赤羽根もルイの方へ加勢へ向かう。
「私はまだ慣れないけど回復魔法でサポートするわ!」
ガルシアは距離を置き、僕達に治癒を施してくれた。
一方ルイ達はというと、激戦を繰り広げていた。
「ふっ!」
ルイがパルチザンを香さん目掛けて突き出すが、香さんは距離を取るような形でバックステップし、避ける。そのまま町外れの森まで逃げたので、ルイと赤羽根は追っていく。森に完全に入った所で香さんが振り向く。
「そこっ!」
多数の鞭のようなものを繰り出し、赤羽根を襲う。
「効かないよ!」
赤羽根は能力を用い、鞭の軌道を変えて避けていく。
……が、それが仇となったようだ。
一度軌道を変えられた鞭は、再び赤羽根の方へと向かい、一瞬で周りを鳥かごの様にして取り囲まれてしまった。
「……あっ?!しまった!」
鞭の葉は容赦なく赤羽根に突き刺さる。
「うぅっ……ぐうっ!……何?力が……吸われて……」
赤羽根はそう言うと、徐々に意識を失い、目を閉じてしまった。
「赤羽根ちゃん!」
ルイが咄嗟に赤羽根の周りの鞭をパルチザンで振り払う。
鞭が解けていくと同時に、赤羽根は地面にドサリと倒れ込む。
「クッ……!」
倒れ込んだ赤羽根を背負い、香さんに突進していく。
「……もういいかしら。充分観察はできたわ」
香さんはそう呟くと、鞭でルイを足止めし、不死鳥を自分の元へ呼び寄せる。
「櫻もやられてしまったし……貴方達の力も大方理解出来たわ。まだまだ、ってところかしら」
そう言いながら不死鳥の背に乗り、向こうの森へと飛び去っていってしまった。
その頃僕達は花びら化の対策を考えていた。
「久山、まずは花びらにならざるを得ない状況を作ろう」
「どうやって作る…?」
「まだ思いつかない…もう少し動きを見てからだな」
そう言って僕は櫻の背後へ回り、2人で殴りかかった。
こいつは手加減しては倒せないと考え、今回は刃を向けて握る。
「2人がかりだろうと、短剣があれば負けるつもりはない!」
櫻はまるで舞うように攻撃を全て受け流す。
「今だ、ガルシア!雷をぶつけてくれ!」
僕はそう叫び、久山とともに渾身の一撃を放ち、離れる。
離れた瞬間、雷が櫻に直撃する。そして桜の花びらとなる。
赤羽根が倒れている今、こいつを出現させない方法を新たに考えなくてはならない。
…地面に落ちれば、そこへ現れる。ならば。
「ガルシア!昨日の赤雷は出せるか!」
「出せるわ!」
「その赤雷は、石も通るか!」
「電気が通らないものには通らないわ!」
街の道は石でできていた。これなら、魔法陣の中だけにしか通らないため、街の人に被害は出ないだろうと僕は考えた。
「賭けてみるか…!ガルシア、花びらの辺りを狙って、落ちた瞬間に赤雷を出してくれ!」
「わかったわ!タイミングよく出せばいいのね!」
ガルシアは魔法陣を道に描く。
花びらはひらひらと落ちる。落ちた瞬間、そこへ赤雷が襲う。
雷の行き先は、金属の短剣。そしてそれを持った、櫻だった。
「ぐああああぁぁ!!」
櫻は気絶せざるを得なかった。
「大丈夫かい、慎磁!」
「ああ、大丈夫だ」
「慎磁ー!!」
いきなり抱きつかれたが、一応再会を果たした。
「久しぶりだね、多月くん達」
いつか聞いた、怪しさのある声。
「雅崇さん…でしたか」
「ご名答。独立軍幹部の雅崇だ」
「雅崇…!研究を抜け出して独立軍に入っていたとは…恥晒しめ!」
「停止だけで十分だろ。お前だって、未来視を手にしたじゃないか」
「それでは強くなっても平和にはならない!」
「俺はそれで十分だ。これ以上は必要ない。それに、独立軍のやつが独立を果たせば、紛争は終わるだろ?」
「僕も未来視で確認したが、紛争の続く未来と、平和な未来、どちらも同時に見えたんだ。確証がある方を選ぶべきだ!」
「いいじゃねえか、やり直せるんだから」
「貴様…!!」
ルイは自身とパルチザンに強化をかけ、雅崇の方へ走っていく。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
雅崇は日本刀を抜き、構える。
次の瞬間、強化しているにも関わらず、ルイの右脇腹の方から血が滲む。
「くっ…」
脇腹を抑える。ガルシアはすぐさま回復魔法を使う。
「まあまあ落ち着けってルイ。今回は多月くん達に少しだけいいことを教えにきた。それとこいつの回収だ」
そう言って雅崇は右足で櫻を蹴り飛ばす。
「いいか。転移者を倒したいなら雷が有効だ。分かっていたようだが」
そう言って雅崇は櫻を抱えた瞬間姿を消した。
宿に帰り、情報交換をする。
「慎磁、最初に謝るべき事がある。たぶんあいつの弱点はやはり炎だ。あの炎を消せば、不死鳥は消え去るだろう」
「確かに、炎以外変わった所はなかったからな」
「あいつを倒すなら水の魔法がいいと思う。奴全体を水で覆えば、炎は消える」
「なるほど…。そういえばルイ、なぜ転移者を倒したいなら雷が有効なんだ?」
「そうだね、君は雷を見たことがあるかい?」
「あるけど、どうしてだ?」
「端的に言えば、見たことがあるものは効きやすいんだ。人を切り裂く風や竜なんか見たことないだろ?」
「そうだな」
「炎の魔法とかも効きやすいには効きやすいが一部だけだ」
「どんな奴に効きやすいんだ?」
「火事を経験した転移者だ」
思わず黙り込んでしまう。しかし、ルイは続ける。
「小さい頃、雷が怖かったという人は沢山いるだろ?だから効きやすいんだ。まとめると、存在を知っていて、苦い経験があるもの程耐性は意味をなさないんだ」
「そういえば、未来視を持ってるって言ってたよな?」
「ああ、持っている。反動付きだけど。でも僕達は転移者じゃない」
「何故だ?転移者しか能力は得られないんだろ?」
「原則そうだけど、僕達は複雑なんだ。この話は日本でまたしよう」
次の瞬間、ルイは信じられないことを言った。
ーー「僕の兄、司の所で」
ご無沙汰しております。吉凶巧です。
今回はバトル回ですね!雅崇の正体は独立軍の幹部でした。司はルイの兄でしたね。どんな人物なのでしょうか…?
研究とは…?雅崇とルイの関係は…?
次回、赤羽根に変化があります。お楽しみに。
それでは、また第7話にてお会いしましょう!