第4話 刺客
「行ってみたい!」いつも以上に元気な声で赤羽根は言う。
僕も、この世界に日本があるのなら、目指したいと思っていたため、了承した。
――――――「あるわよ、ここよりずっと東に。」
一晩明けた今でもまだあの言葉が強く印象に残っている。
「んぅ…しんじぃ…」
なぜか赤羽根が左腕に抱きついて寝ているが、それとこれとはまた別の話である。
そして今日僕達は、日本を目指しこの街を出発するということなのである。
地図を確認する。どうやらここは、僕達がいた世界で言うところのスペインの辺りだった。最も、国境が違っていて、ポルトガルとフランスの一部を巻き込んだような国であった。それ故に通貨も違ったのだと思う。
「……ん?」
赤羽根が起きた。
僕も頭が回ってきたのか、昨日のことを思い出し始めた。
そう、あれは僕が自室で丁度眠りにつこうとした時のことである。
―――――――「慎磁ー!ベッド貸してー!!」
いきなり訳のわからない入りから始まった。問い正すと、
「僕の部屋、他の人が急遽宿泊することになったんだって。だから、ベッド貸してー!」
やはり訳がわからなかった。しかし寝かけた頭では冷静な判断ができなかったのか、多分だが赤羽根の侵入を許したということだろう。
――――――――
入浴剤のいい匂いがしたなぁ…と僕は不覚ながらも今思ってしまった。
というか、起きたのだからいい加減離して欲しい。
いきなり僕の部屋のドアが勢いよく開く。
「さあみんな、ここから北にある山を越えて、日本を目指すわよ!」
「おー!」
元気なガルシアの声に触発され、赤羽根もやる気モードになったようだ。
さて、出発して山の中。
「うー……もう疲れた……」
赤羽根は意外と早く疲れる。
「何言ってんの、まだ登りでしょ?」
対照的に元気な久山。
「なあ、久山。一応聞くけど、身体強化は……」
「使ってないわ」
「そうか……」
「ええ。使ってないわ」
二回も言われた。念を押したのだろうか。
山を降り、少し歩くと街が見えてくる。
歩き疲れていたので、その街で休息をとることにした。
その街の食事処で、スープのようなものをいただく。
すると、店のドアが開く。
「ちょっとそこのお兄さん、隣いいかな?」
僕と同じくらいの歳と見える赤のベストに黒のジャケットとズボンの青年が話しかける。
「お兄さん、なんでこの街に来たの?そのお連れのかわいい女の子たちの衣装、南の方の衣装だよね?」
「……私達は、日本を目指してるの」
久山は目的を先に話した。
「この街には、休憩のために来たの」
「へぇ、お兄さん達、日本を目指してるのか。実は僕も日本に用があってね、この先は紛争が起きてて危ないし、一緒に行かないか?」
なんとも心強い味方だ。もちろん僕は了承した。
「是非ともお願いするよ。僕は多月。多月慎磁だ」
「よろしく、慎磁。僕はルイだ」
食べ終わり、店を出る。
「そういえば慎磁、車に乗らないか?その疲れ様だと、ここまで歩いて来ただろう?」
「あ……」とガルシアが呟く。
「焦りすぎて、車に乗らないで来ちゃった……」
焦っていてそんなことを忘れることにも驚いたが、僕達転移者3人は、この世界に車が存在することにも驚いた。
「慎磁の世界では、ガソリンとか電気とかで動かすんだろ?僕の世界では、魔力を使うんだ」
「その方が、確かに効率がよさそうだな」
そんな話をしつつ、僕は店の隣に停めてあった車に乗る。科学が進歩しているとは言え、車が登場してから間もない頃のようなレトロな車だった。
国境を越えて20分くらい経っただろうか。木造の家の建ち並ぶ小さな集落を通り過ぎようとした時だった。
「あんたら、国の者か?」
いつか見たことのあるような、ダメージのある服。今回は鎧だが、この格好は間違いなく独立軍だ。
「やあ君達。独立軍だね?」
「ああそうだ。俺の名前は櫻だ」
その中でも傷ついたジーンズを履く者が言う。
「なるほど。君は転移者だね」
そう言ってルイはその紳士的な衣装からは似つかないファルシオンを構える。どうやら車のトランクに入れていたようだ。
「……強化」「強化!」
同時に強化する久山とルイ。しかしルイは久山と違い、剣を強化している。自分を強化することは能力でもない限り難しいようだ。
久山は前の方にいた敵を横へ蹴り飛ばす。ルイはその後間髪入れずにファルシオンを後ろの方にいた敵に叩きつける。刃は向けていないが、気絶するには十分の衝撃だったようだ。
「それじゃ、私のよくわかんない能力も使おっかなー?」
そう言って赤羽根が右腕をあげると、1人空中へ飛んでいった。
「んん……?」
何か思いついたようだ。赤羽根はたどたどしい動作をする。すると、赤羽根の体が宙に浮かぶ。
「おおー!!」
喜んでいる場合か。
「喰らうといいわ!」
あの時の雷を召喚する魔法がまた、独立軍の1人を貫く。
「どうやら、俺はお前と戦うらしい」
「そうか。じゃあ行くぞ!」
僕はまず銅の剣を硬化させ、斬りに行く。
「ふん、甘いな」
櫻の体が、花びらになり散る。
そしてその直後。
「お返しだ!」
後ろから声が聞こえる。このままではまずいと、僕は体を硬化させる。
「ぐっ!」
痛い。とても痛い。
「ほう、お前の能力は硬化かな?」
能力を知られるとはすなわち弱点を知られると言うことである。
まずはこいつの能力を当てなければ。あいつは桜の花びらになり背後に現れた。つまり……?ダメだ、考えても出てこない。
そんな間に二撃目が来る。硬化して受ける。
「っ……」
痛い。早く突破口を見つけなければ。
とりあえずあの花びらをよく見てみようと思った。
銅の剣を硬化させ櫻を斬りつける。
例のごとく櫻は花びらとなり消える。
花びらを見つめていると、斜め前から攻撃を喰らう。
「なるほど……そういうことか」
これは、この花びらは、あいつが現れるところに落ちるのだ。
「ルイ、こいつを斬ってくれ!」
僕がそう言い放つと、ルイは即座に櫻を叩き斬った。殺してはいけないのに、よくそんなことができるのか。度胸に少し感心してしまった。
櫻は花びらとなった。
「今だ!赤羽根!この花びらを浮かせてくれ!」
少し上を飛んでいた赤羽根が、花びらを浮かす。
すると、櫻は現れなかった。
「ルイ様、ご協力ありがとうございます。」
あの後は、この世界における警察的組織を呼んだ後に、赤羽根が花びらを落とし、櫻を捕縛した。
「話はガルシアから聞いているよ。ほら、少し分けてやる」
「ありがとう」
「それにしても、独立軍にも転移者がいるとは。正直驚いた」
「多分、私と同じような召喚魔法の使い手が独立軍にもいるんだと思うわ」
なるほど。それなら転移者を召喚できるわけだ。
「もう少しこの国を見て回りたいわ」
久山が珍しく自分の意見を言う。
「それいいね!」
そして赤羽根の見飽きるほどに見た同調。
そんな話をしながら、車は右側に海を見ながら走って行く。
どうもご無沙汰しております、吉凶 巧と申します。
第4話 刺客投稿させていただきました!
今回は初の転移者同士のバトルでしたね。櫻くん、中々強かったです。実質無敵ですよね。(笑)
それでは皆様、また第5話にてお会いしましょう!