第3話 宿泊
「ご協力、誠に感謝します。ガルシア様、そして転移者の皆様」
「いえいえ、大したことないわ!」
そう言って礼金を嬉しそうに受け取るガルシア。
「ちょっと待ってくれ。銅の剣のことと言い、これ以上ガルシアの迷惑はかけたくない。」
そう、僕はあの時、ガルシアにお金を出してもらっていた。
「だから…」
「わかってるわよ、はい!礼金少し分けてあげる!」
なんだか心を見透かされた気分だが、これで迷惑をかけなくて済むと思うと嬉しい。
「ん…?君達見ない顔つきだね。転移者かい?」
黒のスーツを着崩した、不真面目そうな若い男がいた。
「…あなたも、転移者ですか?」
久山は少し考えた様子でそう言った。
「さて、どうだか」
「それはともかく、そこのお兄さん、名前は?」
僕か。
「多月です。多月慎磁といいます」
「ふぅん、多月ねぇ…」
彼はその場を去りながら言った。
「僕は雅崇だ。今後ともよろしく」
「雅崇って、異世界にしては似つかわしくない名前だね。まるで日本人の名前みたい」
赤羽根はそう不思議そうな顔で言う。
ガルシアは何か知っていそうだが、敢えて聞かなかった。不機嫌な様子だったからだ。
「なんというかあの人…不吉な感じがするわ」
ガルシアは落ち着いた声で言った。
そんな彼女の声を聞き、ふと空を見上げた。
色々なことがあり気づかなかったが、既に日は沈みかけていた。
「もう夕方だし、宿に帰ろうよー」
飽きた子どもみたいな声で赤羽根はせがむ。
「そうだな、今日はもう休もう」
そう言って僕達は、宿に帰ってきた。
まず夕食を食べようと思ったが、久山がぽつりと。
「私は、先にお風呂に入りたいな…」「さんせー!私もうすごい汗かいちゃった!」
赤羽根を見てみると、額から汗が一滴、垂れていた。
「私も入りたいわ!」
ガルシアもついに賛成しだした。こうなればもう止まらない。
女子組は先に風呂に入ってもらい、僕は自室で待つことにした。
「うわぁ、やっぱ優杞おっきいねー!」
「ちょっ…声大きいよ…!」
騒いでいる。自室まで聞こえてくる。
そう、実はここ、この僕の借りた部屋は、偶然にも風呂の隣だったのである。
「ねえ、2人とも!私の前でそういう話しない!」
お、ガルシアの声だ。
「大丈夫だよ!ガルシアも大きくなるって!それにしても、優杞はいい体してるよねぇ…あの服じゃわかりにくいもんね」
正直、僕は壁に耳をつけ、話を聞くのに夢中だった。
「こういう話してると、慎磁が盗み聞きしてたりしてるかもよ?」
「流石にそれはないわよ!」
残念ながら不正解です、ガルシアさん。
それから、僕も風呂に入った。
夕食中。
「それにしても、あの雅崇って人。謎だらけだね」
夕食を食べつつ久山が一言。
「多分あれは、独立軍じゃないかしら」
「なんでそう思うの?」と赤羽根。
「常人とは比べものにならない魔力を感じたわ。独立軍ではなくても、相当の力を持っているわ」
「そうなのか。それにしても雅崇っていう名前は、僕達の住んでいた日本の人の名前に似ている。何か知っているか?」
「あなたの考える通り、日本人だと思うわ。転移していない、日本人」
何を言っているかさっぱり理解できなかった。
「どういうことだ?」
「だから、こちらの世界の日本人ってことでしょうってことよ」
どういうことだ。ここは異世界で、僕達は飛ばされてきた。そういう説明だった。それが本当なら、日本なんていう国は存在しない。存在しないはずだ。
僕は戸惑いながらも、確証を得ようとした。
「日本は、この世界にもあるのか?」
「あるわよ、ここよりずっと東に」
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「多月……か。あいつの能力はどうも見覚えがある……。だが、それがどうであろうと我らの信念は変わらない。必ず遂行しなければ……」
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どうもご無沙汰しております、吉凶 巧と申します。
今回の第3話、説明パートのようなものでしたね。それと、お風呂シーンかな。
次回は添い寝もあるかもね。それではまた、第4話にて会いましょう!