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 剣術の特訓。

 型などの練習や素振りなどを予想していたが、見事に裏切られた。

 父さんは実践派だった。


 「踏み込みが甘い! 握りがなっていない!」


 地面に這いつくばったまま父さんを見上げる。


 特訓の内容は木の棒を持って父さんに斬りかかるだけという単純な物。

 少しでも甘い攻撃だと足を引っかけられるか、木の棒でなぎ払われて地面に転ぶ。

 必要なことは実戦の中で学べというのが父さん流らしい。

 本日何度目になるか分からないが、今もまた俺は土の味を噛みしめている。


 「くそぅ、まだまだぁ!」

 

 俺は挫けるわけにはいかない。

 最弱ジョブを選んだ以上、ステータス以上の何かを掴み取る必要があるのだ。


 「良し、何度でもかかってこいロディ!」


 あ、言い忘れていたけど、父さんは俺を殺さないように村人ジョブに変えている。

 父さんが大剣豪のままだったらステータス差で武器が木の棒でもスッパリ真っ二つだ。

 だから村人だから勝てないっていい訳は殆ど成り立たないんだね、これが。

 尤も父さんには大剣豪のマスターボーナスがある分俺よりちょっとだけ強いんだけどね。

 でも、それくらいのハンデがあってこそ燃えるだろう。


 実際、鋭い打ち込みが出来たときは父さんに当たるんじゃないかって思えるときがある。

 父さんは大剣豪だったときの感覚で動くので本人の感覚に回避がついてこないのだ。

 大剣豪だと避けられる攻撃が村人だと避けられない。

 この混乱が父さんと俺の実力差を埋めてくれている。


 「ふむ。これはこれで中々いい鍛錬になるな。ジョブが変わるだけでここまで動けなくなるとは。今までいかにステータスに頼っていたのか実感させられる。回避を極限まで削ったこの動きが出来ればもう少し冒険者として上に行けたかもな」


 父さんは最小限の動きで俺の攻撃を見切って避けている。

 村人になったばかりでも戦えるのは俺と違って戦闘経験があるからだろう。

 後は俺の成長力と父さんの感覚のすりあわせがどっちが早いかだ。


 父さんは今、村の警備の仕事を休んでいる。ジョブが村人だと戦えないからだ。

 だから代わりに村を守ってくれる冒険者を呼んでいる。

 

 だから父さんが村人でいることはそこまで心配しなくていい。

 とは言え冒険者を村に留めるのにもお金がかかるので、それなりに早く成果を出したいのも事実だ。

 だから俺と父さんは時折休憩を挟みながら毎日早朝から夕方まで木の棒でひたすら打ち合っている。



 そんな生活を約一ヶ月続けた頃。



 俺の村人ジョブがレベルマックスになった。

 どうやらレベルアップは必ずしもモンスターを倒さなくてもいいらしい。

 ひたすら剣を振ったりという修行でも少しづつだが経験値が入りレベルが上がるようだ。

 あと、村に滞在している冒険者に毎日【元気な挨拶】を繰り返したことも大きいだろう。

 このスキルには旅人から経験値が入手できる効果があった。

 この旅人というのはその村の出身じゃない人間を指しているんだと思う。

 このスキルで経験値は一日一度入手することが出来た。


 だだ、毎日毎日「ようこそ、ここはテルパの村だよ」

 とひたすら冒険者達に言い続けたことで俺はすっかり変なガキ認定されてしまったようだ。

 頭が足りないだの、可哀想な子供と口々に言われて俺のハートは大分ボロボロだが、少なくともレベルは上がった。

 レベルアップの時に【やり込み廃人】ジョブの【成長吟味】を思い出したが【村人】ではそのスキルを使えなかった。【成長吟味】はやり込み廃人専用のスキルなようだ。

 前にも説明したが、これは引いた成長値が悪いときに、ステータス成長前に戻して再度レベルアップすることで上昇幅を何度でも振り直せるやりこみゲーマー必須の能力だ。

 しかし、やり込み廃人はステータス成長しないジョブ。

 だとすれば【成長吟味】は明らかに使い道がない。どう使えと。

 俺は泣く泣くレベルを上げきったのだった。


 村人がレベルマックスになったので、俺はジョブ図鑑を開いてみた。

 すると【やり込み廃人】がレベル2になっていた。


 早速解放されたスキルを確認。

 【どこでも転職】……好きなときに好きな場所でジョブチェンジできる。


 早速使おうと思ったが、例によってやりこみ廃人専用スキルだった。

 ほんと、やり込み廃人のジョブは何がしたいんだろう。

 まぁ、転職は神殿でも出来るしな。


 「父さん。レベルマックスになった。ジョブチェンジしたい」


 丁度訓練中で対峙していた父さんに俺は早速報告した。


 「そうか。ならば父さんもジョブチェンジだな。父さんも村人はマスターした。実力を会わせるために同じジョブにするぞ」


 「え、なんで?」

 父さんは冒険者に変な子認定されてはいなかったはずだ。

 あのスキルを使ったとは考えにくい。


 「村人には経験値を得る特殊なスキルがあるだろう。毎朝冒険者におはようと声をかけていたら簡単にレベルが上がったぞ」

 

 使ってたのかよ!

 そして、それでも良かったのかよ! 説明文、お前恨むからな。

 RPGで村の入り口にいるNPCような俺の一ヶ月は何だったんだ。


 消沈した俺だったが一晩寝てぐっすり回復し、翌日、父さんと隣町まで馬車で発った。 

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