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サブタイトルが思いつかないので番号だけ振っておきます。
村人に転職して家に帰ってきた。
そうそう、エリックが家族に囲まれならが気まずそうに俺をみていたのが凄く印象的だったな。
声をかけてくることはなかったが。
エリックの家はお祝いムードだったが、我が家はお通夜ムードである。
両親は俺になんて声をかけたらいいのか、わからないようだ。
じっと黙ったまま重い空気が流れている。
その空気が耐えがたいので俺は考え事をする事にした。
俺は今、村人というジョブについて考えている。
マスターボーナスの下克上。
レベル差分だけステータス上昇する効果は一見強そうだがよく考えれば大したことが無い。
この世界ではレベルアップ時に全ステータスが最低1ずつは能力値が上がる。下克上と丁度同じ数字だ。
そして最大値の振り幅が大きい。成長率Fでも最大10。成長率Sだと最大70にまでなる。
つまり、レベル差があればあるほどステータスは引き離される。
平均5ずつ能力が上がったとしても10レベルで合計50。
10レベル差で10しか下克上で埋められないことを考えると、このスキルは本当にショボイ。
同格以下の相手にも全く意味が無いこともそのショボさに拍車を掛けている。
唯一の救いは全ジョブ共通のスキルである事だ。
持っていて決して損するスキルではないから、いつか役に立つ日が来ることを祈ろう。
「父さん。約束通り剣を教えて欲しいんだけど」
重い空気を打ち破って俺は言った。
「しかし……」
父さんぽつりとそれだけ呟いたまま、あとは渋い顔でだんまりしている。
「母さん。魔法……」
「お母さんそろそろご飯作らなくちゃ!」
母さんは席を立っていそいそと台所へと向かった。
父さんは確か天職が「大剣豪」だったかな。そして母さんは「大魔法使い」のはずだ。
どちらも上級職で戦闘向きの職業。ステータス成長率もよく上限レベルは非常に高い。
天職だから経験値も2倍だ。正直恵まれている。
なまじ恵まれていたからこそ最下級ジョブの俺のことをどう扱っていいか分からないようだ。
俺の両親は元冒険者。
二人は冒険者として身を立てているうちに出会い、結婚したようだ。
そんな話を以前に聞いた。
どうしてこの田舎村で暮らしているかというと、ここが父さんの出身の村で村には自警団もなく万が一の場合に防衛に難があるからという理由だそうだ。
今は父さんが村の防衛を一手に担い、その報酬として村人から作物などを貰って生活している。
尤も、作物を貰わなくてもお金に関しては冒険者時代に既に稼ぎきったらしいが。
作物をくれるのは村人達の純粋な好意だね。
「……一つ聞く。ロディ。剣を習いたいのは分かった。では、どうして見習い戦士にしなかったんだ?」
別に隠し立てするほどのことでもないだろう。
しかし、全ジョブマスターしたいという理屈はあまり通りにくい気がする。
この世界では生まれ持ったジョブのまま一生を過ごす人の割合が非常に多い。
それもそのはずで、ジョブを変えたらまた1レベルからやり直しなのだ。
覚えたスキルだってマスターボーナス以外は全部使えなくなってしまう。
魔物が蔓延る世界で1レベルで過ごす危険性は非常に大きい。
だったら上限に突っかかっても現状維持でいいと考えるのが普通なのだ。
聞けば、父さんはレベル上限に引っかかった後も10年以上冒険者をしていたらしい。
俺からすれば経験値が勿体ないことこの上ない。
父さんの場合、天職が上級ジョブの大剣豪だが、転職先が見習い系の最下級しかない状況だった。
だから転職しなかったと考えられる。
この世界では多分初期状態で転職できるジョブは見習い系の最下級ジョブだけだ。
だから下級ジョブの人間さえも最下級ジョブになりたがらない。
そして元々最下級の人間は戦いを諦めて他のことでどうにか生計を立てる。
改めて考えてみると、もしかすると転職条件のことを知っている人間があまりいないのかもしれない。
最下級ジョブになったらずっと最下級のまま。そういう認識があってもおかしくない。
それならばこのお通夜ムードの意味を理解できる。
転職で上級を目指せるなら打ちの両親が死ぬ気で俺のレベルを上げてくれるはずだからだ。
それくらいに愛されているという自覚はある。
それも、前世を含めたら同い年くらいのおっさんをだ。
ありがたい話だし、感謝もしている。
だから一つ確認しておきたい。
「父さん。ジョブの転職条件って知ってる?」
「なんだそれは?」
どうやら知らなそうだった。
ならばもう一つ確認だ。
「神殿で最下級ジョブに転職できるのは知っているよね?」
「ああ。だが、どれも見習いと付くような転職する意味の薄いジョブだぞ」
「それは知ってる。そこで出てくるのが転職条件なんだ。これを満たすと神殿でも上級ジョブに転職できるんだ」
「……その話。本当か!? しかし、どうしてそれを?」
「それはほら、最初のジョブのジョブスキルに転職条件が分かるものがあったからだね」
「……ああ、忘れてたがロディの天職はユニークジョブだったな。だとするとそれを知っていてもおかしくないのか?」
よし、ここでとどめの一言だ。
「そうそう、父さん。そこまで悲観することじゃないよ。必要だと思ったから村人になったんだ。俺はいつか大剣豪になりたいんだ。そのために必要なんだ」
これは嘘。図鑑を見る限り、最下級ジョブの見習い戦士をマスターすると下級ジョブの駆けだし剣士が解放されるらしいからその先を進めていけば勘だけどいつかは大剣豪も解放されると思う。
多分、村人はあまり関係ない。
村人が関係しているのはむしろ、俺好みなジョブ。
これも【やり込み廃人】同様、やり込めばやり込むほど強くなる系のジョブだ。
「よし、分かった。転職条件というのはよく分からんが、ステータスの低い村人を選んだのならばどちらにせよ鍛えてやらないことには心配だ。明日から父さんが鍛えてやる!」
よし! 上手い事説得できたみたいだ。剣術を習ったら魔物狩り。
今からレベルアップが楽しみだ。