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ジョブ鑑定


 俺が六歳になって数ヶ月が経過したある日のことである。

 俺は村長宅に呼ばれ、村長宅の会議室にいた。

 会議室と言ってもオフィスのような立派な造りではない。

 普通の民家の一室に大きな机が置いてあるだけだ。

 村で何かあったときに顔役が集まって相談する場所で、それなりに広い。


「さて、集まったようじゃの。今年六歳になったのはこの三人でいいのかの?」


 年老いた司祭が言った。この村の住人ではなく、隣の町から馬車でやって来たようだ。

 村には教会がない。

 だからこうやって年に一度、村に司祭を呼んで六歳の子供のジョブの鑑定を行うことになっている。


 ふと、疑問に思う。


 どうして六歳が三人いるのだろうと。

 俺も今世ではそれなりの子供ネットワークを築いている。鬼ごっこなどの遊びを提案した功績がある俺の立ち位置は子供社会の中でも比較的高い所に位置しているのだ。

 クラスの人気者のようなポジションに収まったと思ってくれていい。

 基本的に村の子供の顔は全員把握ているし、俺と同じ都市の子供はエリックしかいないことも当然知っている。後は移民の可能性だが、移民が来たという話はここ三年ほど聞いていない。


 エリックも同様に思ったのか俺にヒソヒソと聞いてくる。


 「なぁ、アイツ誰だ? あんな怪しい奴見たことないぞ」


 エリックが怪しいと指さすのは真っ黒のローブを纏った子供である。

 背丈は俺達とあまり変わらないが、フードを目深に被っているために顔が見えない。

 俺達とは距離を置いて立っており、話すのが躊躇われるような雰囲気を放っている。

 その黒づくめの子供の背後にはゲム爺さんが立っている。

 ゲム爺さんの孫だろうか? 家族がいるという話は聞いたことが無いが。

 ゲム爺さんというのは村の外れに家を構える偏屈な木こりだ。

 ゲム爺さんは些細なことでもすぐ怒るので村の子供達からとても恐れられ嫌われている。

 あまりに恐いために、ゲム爺さんの家にラクガキをするという度胸試しゲームまで出来たほどだ。

 そういう観点でも俺は黒づくめの子供に話しかける事が出来ない。俺だってゲム爺さんは苦手だ。


 「ま、いいや。それよりロディ。お互いユニークジョブか上級ジョブが引けるといいな」


 エリックが言った。要は、この世界において一目置かれるジョブのことだな。

 ジョブとは日本で言ったら東大卒だとか高卒だとか、所謂そういった肩書きのことである。

 最下級ジョブである見習い魔法使いよりも最上級ジョブである大賢者が重宝される。

 ここはそういう世界だ。


 「では、順に前に出るように」


 司祭が言った。


 「はい! はい! 俺を一番最初にお願いします!」


 エリックが元気一杯に主張する。仕方が無いので兄貴分を立ててやることにしよう。

 俺は大人だからな。

 

 「……ふむ。エリック。お前さんのジョブは【聖騎士】じゃ。おめでとう。上級ジョブじゃよ」


 「やった。やった。ひゃっほう!」


 エリックが全身を使って喜びを表現している。跳んだり跳ねたりで落ち着きがない。

 エリックと同伴していた両親も驚きが隠せないようだ。母親に到っては涙まで流している。

 それだけ上級ジョブの肩書きが持つ意味が大きい。

 中級以上を引ければ御の字、上級ジョブを引けば一生安泰とされるからな。


 「……さて、次はどちらにするかね?」


 俺は一瞬だけ黒づくめの子供をみるが、一切の反応を見せなかった。動こうとすらしない。


 「じゃあ、次は俺で」


 俺は一歩前に出る。すると老司祭は俺の頭に手をのせぶつぶつと何か文言のようなものを紡ぎ始めた。


 「…………ふむ。【やりこみ廃人】か。聞いたことないジョブじゃから恐らくユニークジョブじゃな」


 やり込み廃人ってなんだよ! 廃人だぞ。


 「ユニークジョブの場合は当たり外れの差が大きい。ジョブに関するロックは解いておいた。頭の中でそのジョブを念じてみなさい。詳しい情報が分かるはずじゃ」


 「え、ロックって?」


 「要は余計な知識を得られないようにする細工じゃな。スキルは危険な物も多いからある程度神さまが物事の分別がつく歳までは使って欲しくない意味でロックをかけておるんじゃろうな。そしてその年に関しては人間の方に一任されておる。六歳というのは人間が決めた決まり事じゃ。そもそもジョブ鑑定そのものがそのロックを解く鍵の意味も兼ねているのじゃよ」


 ……なるほど。試してみるか。


 俺は自分のジョブについて念じてみた。すると、いくつかの情報が頭の中に流れ込んできた。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【やりこみ廃人 LV1】

 重度のやりこみゲーマーに与えられるジョブ。ゲームこそがライフワーク。

 最強データを作りたいあなたに一番お勧めのジョブ。


 上限レベル1。

 他のジョブを一つマスターするごとに上限レベル及び現在レベルがアップするジョブ。

 また、ステータスの算出方法が他のジョブとは全く異なる。

 このジョブでは今までマスターした全てのジョブのステータスの合計1%がステータス値として算出される。

 また、その特性上このジョブではレベルアップ時に一切ステータス成長することはない。


 LV1【成長吟味】……レベルアップ時、成長ステータスが気に入らなかった場合レベルアップ前の状態に戻す。

 LV1【アイテム図鑑】……取得したアイテムの名前と効果が自動記入される。

 LV1【魔物図鑑】……戦闘で倒した数、ドロップアイテム、獲得経験値などが記載される。

 LV1【ジョブ図鑑】……そのジョブで取得できるスキルが分かる。また、上位ジョブの解放条件が記載される。

 LV1【スキル図鑑】……取得しているスキルの使い方が記載される。使った回数も表記される。

 LV1【錬金図鑑】……素材を揃えると自動でレシピが表示される図鑑。作った回数も表記される。

 

 LV2【???】

 LV3【???】 


 マスターボーナス

 【???】【???】

――――――――――――――――――――――――――――――

 どうやら現在のジョブレベルのスキルまでしか表示されないようだ。

 ここでは記載は省かせて貰ったがLV500の辺りまでなんらかのスキルが入手できることは分かっている。

 いいね。凄く俺好みのジョブだ。やり込めばやり込むほど強くなるジョブか。

 特にLV1の段階で解放されている図鑑というスキル群が気に入った。

 これくらいないとやり込み甲斐がない。

 そして何より条件次第で上級ジョブが解放されるという表記が見れたことも大きい。

 多分俺の考えが正しければ転職で最下級から最上級までの全てのジョブに就くことが出来る。

 じゃなければわざわざジョブ図鑑がある意味の説明がつかない。

 

 「悪いことはいわん。ワシは転職を進めるぞ。最下級ジョブならば転職させてやることが出来る」


 ……この流れは願ったり叶ったリだ。

 やりこみ廃人は他のジョブを鍛えてこそ真価を発揮するジョブだ。

 転職しないことには始まらない。


 しかし、同伴していた俺の両親はそうは思わなかったようだ。


 「どうしてですか、司祭? ユニークジョブなんですよね?」


 俺の父であるジェイフが訊ねた。

 

 「ユニークジョブの九割方は上級ジョブに匹敵するかそれ以上に強力なジョブじゃ。しかし、残りの一割はそうではないのじゃよ。その場合でも、多くが下級か中級クラスジョブの性能に落ち着くことが多いのじゃが、ワシも今回のケースは初めて見た。恐らく最下級ジョブより大分性能が低いジョブじゃよ」


 「そ、そんな。何かの間違いですよね。司祭、嘘だと言って下さい」


 俺の母さんであるエルミが捲し立てるように司祭に言った。


 「すまんが、一応ワシにもある程度の情報が分かるのでな。習得スキルまでは分からんが、レベル上限とステータス成長率くらいは確認することが出来る。ワシの見立てじゃと、【やりこみ廃人】のジョブは上限レベル1でステータスは全部Gじゃな。Gという表記自体初めて見たがユニークジョブじゃからこそあり得るんじゃろうな」

 

 「……Gって? ステータスはSが最高でFが最低なのでは?」

 

 父さんと母さんが代わる代わる司祭に詰め寄る。

 司祭もたじたじと言った様子だ。俺のことで申し訳ない。


 「そ、そうじゃ。だからこそ転職を進めておる。最下級ジョブでもステータスがF以下になることはない。おまけにレベル上限も30まである。将来を考えるなら成長余地のないユニークよりも最下級ジョブを選んだ方がいいのではないかとワシは思ってな。尤も決めるのはロディじゃからワシは強くは言えんが」


 司祭の言葉に俺の両親はすっかり気落ちしてしまった。


 俺の息子だから【大剣豪】になるはずだとか私に似て【大魔導士】になるだとかはしゃいでたもんな。

 そして、いつも決まって間を取って【魔法戦士】に決まりだなと落ち着くのが最近よくみた両親のやりとりだった。


 「では、ロディ。望むならば転職させてやれるがどうするかね?」


 司祭は最下級ジョブについていくつかお勧めを教えてくれた。

 見習い戦士、見習い魔法使いといった見習い系ジョブ。

 後は村人、町人、農夫などのモブっぽい職業が多いようだ。


 「ちょっと考えさせて下さい」


 「……うむ。わかった。では先にそっちの子の職業鑑定をやってしまおうかの」


 司祭が黒づくめの子の職業鑑定している間に俺は職業図鑑を呼び出してみることにする。

 と、言っても俺の目の前に図鑑が出現する能力ではなかった。

 あくまに頭の中に情報として図鑑を表示させるスキルなようだ。

 どうやらソートや絞り込み機能もついているらしい。


 俺は最下級ジョブだけを絞り込んで図鑑を頭の中に表示させる。

 丁度頭の中に図鑑が浮かんでいるイメージ。それをパラパラめくる。

 頭の中に表示させているのに視覚情報なのが何とも奇妙だ。


――――――――――――――――――――――――――――――

 見習い戦士。

 見習い系の中では力と防御に優れたジョブ。

 HPにボーナス30、防御と力にそれぞれ10ポイントのステータス補正が付く。


 ステータス成長率。

 HPD MPF 力D 防御D 敏捷F 魔力F 魔法抵抗F   

 上限レベル30

 

 習得可能技能

 LV1 【力+5】 LV15【???】

 LV7 【???】 LV21【???】

 LV12【???】 LV28【???】


 ジョブマスターボーナス

 力+10 プチスラッシュ

――――――――――――――――――――――――――――――


 とりあえず見習い戦士を例に出してみた。

 図鑑には各項目についての詳しい説明を見せてくれる機能もあるらしい。

 ジョブマスターとはジョブの上限レベルに到った状態のことで間違いないみたいだ。

 そして、習得可能技能欄の力+5とジョブマスターボーナスの+10はどっちも同じように見えるがちょっと意味合いが違う効果があるようだ。

 習得可能技能欄に記載された項目はあくまでそのジョブでいる間にだけ使える能力なようだ。

 つまり、力+5の効果は見習い戦士のジョブの間だけ使える能力だって事だ。

 転職すれば使えなくなるが、また見習い戦士に戻せば使えるようになるという仕組みだ。

 そして、ジョブマスターボーナスはジョブに関係なく転職しようが永久的に効果を発揮する。

 魔法使いになろうが盗賊になろうが力は+10のままだ。

 隣にプチスラッシュと表記があるが、これはスキルの一種でこちらもどのジョブでも使えるようになるという意味だ。

 マスターボーナスがあるなんてなんてこの世界は俺好みなんだろう。

 こんなの全ジョブをマスターしたくなるに決まっているじゃないか。

 次にステータス成長率。

 おおよそ10刻みでアルファベットが一つ繰り上がるらしい。

 Fだと1~10。Eだと11~20の範囲で一回のレベルアップ時にステータスが上がるようだ。

 そしてこのステータス成長はランダムで決まる。Fを例に出すと、極端な話二回連続1なこともあれば二回連続10な事もあるというわけだ。その場合は合計18の差が出ることになるので結構大きな問題だ。

 しかし、おおよそ確率は収束するので局所的に偏っても最終的には平均が取れるので大した問題ではないだろう。それでも駄目なら低ステータスに偏ったジョブを捨てジョブにして別のジョブで高ステータス狙うのがいいのかもしれない。

 ちなみに、俺のやり込み廃人というジョブが司祭に成長率Gで見えたのは恐らく0~0の範囲を取っていたからだろう。成長しないのがGとみて間違いない。


 さて、俺が脳内にあるジョブ図鑑で最下級ジョブを一通り眺めている間に黒づくめの子供のジョブの鑑定が終わったようだ。


 「ロディ。どのジョブにするか決まったかね?」


 勿論決まった。これしかないというジョブがあった。


 「【村人】でお願いします」


 村人。上限レベルがたったの5しか無く、尚且つ全ステータス成長率がFという最弱ジョブ。

 そして一切スキル習得できない点も特徴だ。


 「村人じゃと? 何故わざわざ村人を選ぶんじゃ? 普通村人になったら別の最下級ジョブにすぐさま転職するのが普通じゃぞ。そもそもすぐにレベル上限に引っかかってしまうぞ」


 そう、そこがポイントなのだ。

 レベル上限にすぐ引っかかるということは裏を返せばジョブマスターしやすいと言うことでもある。

 俺がこのジョブを選んだ理由はただ一つ。上限レベルがたったの5しか無いからだ。

 それ以外にこのジョブに魅力など無い。

 速攻で村人をマスターしたらやり込み廃人のレベルが上がる。

 レベルが上がれば【やりこみ廃人】のジョブスキルが増える。

 もし図鑑系を引き当てられれば言うことなし。俺のモチベーションが大分上がる。

 これは、図鑑を入手してからじゃないと図鑑項目を記載されない場合を懸念してのことだ。

 なるべく同時進行で図鑑完成を目指さないと二度手間になってしまう。そういうゲームが昔あった。

 モンスターを合成強化するゲームで、モンスター図鑑をもらえるのがクリア後。

 しかも真っ白な状態でだ。このゲーム、開発側の想定外なのか図鑑を持っている状態でモンスターを入手しないと図鑑にモンスター情報が記載されない致命的バグがあった。既に持っている分はノーカウント。

 ラスボス倒す前にコンプ趣味として全モンスターを牧場に預けていた俺は愕然としたね。

 全モンスター所持して図鑑真っ白。

 あのゲームは俺のトラウマだ。都合二度全モンスターを集める羽目になった。


 だからこそ、速攻で村人をマスターしたら両親にでも泣きついて町まで連れてって貰って今度こそ見習い系ジョブに就こうと思う。

 それに、このジョブにはマスターする意義がもう一つある。

 ジョブ図鑑を見る限り、このジョブのマスターを起点に派生するジョブの数が思いの外多いのだ。

 やはり村人になる事で損はしない。


 「それでもお願いします」


 「……そこまで言うなら止めんが。よろしい。ならばここに問おう。汝は神の御許【村人】として今後の人生を清く送ることを誓うか?」

 

 「誓います!」


 別に体が光ったりとか特別なことは何も無かった。

 しかし、自分のジョブを念じてみると確かにジョブが変わっていることが確認できた。


――――――――――――――――――――――――――――――


 【村人 LV1】

 人口の少ない地域コミュニティに所属する者。

 また、尤もポピュラーなジョブである。

 上限レベル5。


 ステータス成長率。

 HPF MPF 力F 防御F 敏捷F 魔力F 魔法抵抗F 


 レベル1【元気な挨拶】……旅人に「ここは○○の村だよ」と宣言することでその旅人のレベル分の経験値を取得できる。

 レベル5【???】


 マスターボーナス

 【下克上】……対峙する相手とのレベル差分だけ全ステータスが上昇する。 

 HP+5

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 こうして俺は村人になった。

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