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……実は投稿してないだけで42話までストックがあったりするのです。



 俺は素振りをやめてズボンのベルトに木の棒を固定する。鞘が無いのでベルトを鞘代わりの固定具として代用しているというわけだ。

 そして、無手のままエリックに言った。

 

 「んじゃ、いつでもどうぞ」


 「ちぇ、武器くらいは構えろよなー」

 「悪い。武器を構えないのが俺のスタイルだ」


 「……ふぅん。そういうことなら、遠慮無く」


 エリックは思いっきり地面を蹴ると一直線にこちらへと向かってきた。

 思いの外早い。上級ジョブは伊達ではないと言うことか。

 恐らく俺はステータス面で完全に負けているのだろう。

 エリックの初動でそれを完全把握した。


 把握した上で俺はエリックの動きをじっと見据える。

 敢えて距離を取ることもせずに接近を待つ。


 エリックががむしゃらに木の棒を振るった。

 その軌道は大分雑で振り方は滅茶苦茶だ。

 俺はそれを冷静に見切って一つずつ慎重に捌いていく。

 

 「足元がお留守だぞっと」


 俺は一際鋭く横薙ぎに振るわれたエリックの一撃をしゃがんで躱し、そのついでに回し蹴りを放っておおく。

 ブォンッと、エリックに木の棒で斬り裂かれた空気が悲鳴をあげた。

 前世で見学する機会があったが、その時に聞いたプロの野球選手が出すバットのスイング音よりも大きな音がしている。その音が、洒落にならない威力を示している。

 ……だが、まぁ。当たらなければ問題は無い。俺は攻撃を見切る目の良さと回避センスの高さだけは父さんに何度も褒められたんだ。ダテに前世で極限やりこみプレイをやっていなかったというわけだな。

 エリックはフルスイングの後、踏鞴を踏んですっころぶ。

 軸足を思いっきり蹴っ飛ばしたのだが、思ったよりもダメージが入っていない。

 むしろ蹴った側の俺の足の方がジーンとしている。

 聖騎士は耐久に大幅補正がかかるジョブなのだろうか。


 「……まだまだぁ!」

 

 エリックはすかさず跳ね起きる。

 さて、次はこんな不意打ち手段は通用しないだろう。

 俺が父さんに剣術の訓練を受けていなければさっきの横薙ぎの一撃でダウンしていたな。

 俺とエリックの体格はそう変わらない。違いがあるとすればステータス。培ってきた技量の差。

 俺は低いステータスを小手先の技術でどうにか誤魔化しているに過ぎない。

 一発でもエリックの攻撃を貰えばその時点で俺は気絶してしまうだろう。

 逆に俺がエリックを倒すにはどうにか数回攻撃を当てる必要がある。


 「うおおおおおおおっ」


 エリックが遮二無二、棒を振り回してくる。

 エリックは誰かに戦いを教わったわけではない。

 いわゆる素人剣術だ。

 対する俺も素人に毛が生えただけの存在だが、それなりに体捌きは体得している。

 エリックの攻撃を避けながらベルトから木の棒を引き抜いて、エリックの体に打ち付ける。

 ただ、エリックも学習はする。どこに棒を振れば俺がいやがるのかを少しずつ理解し始めている。

 攻撃一辺倒だった戦いにも少し変化が見られはじめた。


 「こっち! ……と見せかけてやっぱりこっち!」 


 拙いながらもフェイントを織り交ぜてくるようになった。

 こうなると苦しいのは俺の方だ。

 エリックを都合二十回くらい木の棒で叩いてみたが、全然ダメージを負った気配がしない。

 思えば叩かれても痛がっている素振りは一度も見せなかった。

 これがゲームだったらエリックの頭上に「0」か「NO DAMAGE」というエフェクトか表示されているに違いない。

 そんな状況で、唯一勝っている技術面で迫られたら本当に手の打ちようがなくなる。

 俺は改めてジョブ性能差を痛感した。

 わかりきったことだが、基本スペックの差を埋めるのはしんどい。

 最下級ジョブである見習い戦士は本当に弱い。ダメージが通らないのはあまりに酷い。

 逆に上級ジョブである聖騎士は何の努力もせずに強い。


 「ぐ、ああああっ!」


 俺は不意に腹を襲った衝撃に苦悶する。

 エリックが考えて攻撃を組み立てるようになってきたせいだ。

 敢えて俺の体の右を狙って突くことで、俺が右に避けられない状況を作った。

 更に、突きは一番リーチのある攻撃だ。裏に下がるのも悪手。

 とすれば俺は左に避けるしかない。そこを狙って渾身のフルスイングが来た。

  

 俺は地面に転がって悶絶する。苦しくて呼吸がままならない。


 「へっへーん、どうだ! ようやく一撃当ててやったぞ!」


 これが一撃だと。多分、肋が何本か持って行かれた。

 俺が二十回も積み重ねた小さな努力は何だったんだと言いたくなる。

 エリックには痣の一つも残せていない。


 確かにこれなら最下級ジョブから這い上がろうと考える奴がいなくてもおかしくはない。

 上級ジョブの奴は最下級からやり直したいとは思わないはずだ。

 それくらい、上級ジョブという奴はずるい。

 

 だからといって俺だって負けるつもりはない。

 それに、一つ検証してみたいことがある。

 どうせ遊びの一環だ。オークとの戦いとは違って負けても死ぬわけじゃない。 


 「ロディ、もう降参か? 一発でダウンだなんて情けないぜ」


 エリックは俺が起き上がっているのを待っているようだ。

 こういう発言を聞くとエリックもまだ子供なんだなと思う。

 自分基準でしか物事を考えられない証拠だ。

 俺は二十回叩かれた。だけど平気。ロディは一回殴られただけで悶絶。

 ここだけ抜き出してみれば確かに俺が軟弱に見えるだろう。

 しかし、それは条件がイーブンだったらの話だ。

 結局の所、人は誰でも与えられた条件で現状を打破するしかない。

 俺も聖騎士だったら勝てたのにと言う考えは、ただの無い物ねだりだ。

 無い物に縋るな。自分の中にある可能性を探れ。知識を総動員しろ。

 積み上げてきた人生経験だけを信じろ。

 俺が人より優れている物。それは動体視力だ。

 俺の攻撃じゃ相手にダメージが通らない?

 ならばダメージソースを余所から引っ張ってくれば良い。


 どうやら俺は自分が思う以上に大人げが無かったらしい。

 子供相手に本気で勝ちたいと考えてしまっている。

 オークやグレーウルフとの戦いと違って、どうせ負けても命が取られない遊びの延長戦なのにも関わらずだ。

 そして負けても死なない実戦という意味で俺はこの戦いに訓練以上の意味を見いだしている。

 どうせならばこの機会を利用しない手はない。

 それに、前々から検証してみたかったこともある。


 まだ終わりたくない。


 その一心で俺はよろよろと立ちあがった。ダメージで足元はふらふらだ。


 「もう走り回る余裕はない。次の一撃で決めてやるからどっからでもかかってこい!」


 俺は言い放つと意図的にゾーンに入る。

 あまり長時間は集中が持たないのが欠点だが、短期決戦なら何の問題も無い。

 極限の集中によってエリックの動きがスローに見える。

 さぁ、どっちから仕掛けてくる。

 右か、左か。


 ……駄目だ、情報が足りない。攻撃パターンが絞り込めない。


 俺は更に集中する。

 木々のざわめきが聞こえ始める。

 ざっと地面を蹴る音、草を踏みならす音、砂利が蹴られる音が聞こえてくる。

 一定のリズムで刻まれる足音、そしてその足音が一瞬だけ強まったのを確かに俺は聞き取った。


 ……来る!


 俺は咄嗟の反射で棒を引き抜いた。

 視界にはぐんと大きくなったエリックの姿が映る。

 だんっ、と地面に踏み込み木の棒を大きく振りかぶる。

 しかし、その動きを前に俺は既に動き始めていた。

 エリックの身体能力に比べて俺の身体能力は低い。

 先に動かないと体の動きが間に合わない。

 俺が木の棒を振りかぶった瞬間に、エリックは木の棒を振り上げ始める。

 それを確認すると同時に俺は木の棒を全力フルスイングする。

 エリックの上体が揺らめいた。体の力を木の棒一点に集中させるための体の動き。

 全身のエネルギーはエリックの腕へと伝わり解放される。

 爆発的な加速。余程集中していないと見えない程のヘッドスピード。

 それを作り出している腕の動きもまた凄まじい。

 先出ししたにも関わらず未だ軌跡を描いている俺の攻撃がちゃちに見えてしまう。

 

 「……だが、読んではいた」


 ドンピシャだった。

 俺の描いた軌跡とエリックの描いた軌跡は丁度真ん中でぶつかった。

 俺の希望棒の先端が、エリックの左肘へとぶつかる形になる。

 そう、最初から腕狙いの攻撃だった。腕を負傷すれば剣を振れなくなり降参するしかない。

 胴体を狙っても大きなダメージは狙えない。そんな予感がしたのだ。

 おまけにエリックの自身の力も乗っている。

 さて、この世界はゲームではない。

 ゲームだったらカウンター気味の一撃だろうが、かすりヒットだろうが、深々と剣を突き刺そうが同じダメージしか出ない。攻撃力絶対主義の世界だ。

 この世界の場合はどうだろうか?

 この世界にも攻撃力という概念はある。俺が検証したかったのはそこなのである。

 

 「うぐああああっ」

 エリックが初めて苦悶の表情を浮かべた。一瞬木の棒を取り落としそうになる。


 ……しかし。


 「うらあああああっ。負けるかー!」


 エリックは気合いを入れるための叫びを上げた。

 どうにか食いしばって木の棒を握り続け、右腕一本にもかかわらず強引に攻撃を押し通してきた。

 意地でも俺に勝つという信念の一撃だったのだろう。

 一方の俺はエリックに一撃を加えることだけを考えて極限の集中をしていた。

 エリックにカウンターの一撃を当てることだけを考え、その後のことを考えていなかった。

 カウンターを入れたことで満足してしまったとも言う。

 要は最後の一撃に懸ける目標の差が明確に出てしまったのだ。

 

 結果、極度の集中が切れてしまった俺はエリックに気持ちよく一撃を入れられてしまい、そのまま気を失った。

 

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