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「おーい、ロディ。あっそぼうぜー」
エリックが近所の子供達を集めて我が家へとやって来た。
「悪いけど今日もパス」
街から村へ帰ってきてからと言うもの、俺はずっとこんな調子だ。
水汲みをはじめとする力仕事を俺が引き受けているせいだ。
安穏とただ遊んでいた頃と違う。
母さんは力仕事を自分がやると何度も言ってきたがこればかりは断固譲れない。
俺の家で暮らし始めたパッシュにもだ。
「ロディ、最近お前付き合いが悪いよなぁ」
「そうだぞー。聖騎士様の命令は絶対なんだぞー」
最近エリックは子供達から聖騎士様と持てはやされている。
聖騎士というジョブに就いている者が物語の主人公として活躍している作品はこの世界に割と多く存在する。そして、子供は誰でも物語の英雄に憧れる。
それと同じジョブの者が身近にいるのなら、その者を物語の英雄に見立てるのも何となく頷ける。
そもそも、上級ジョブは誰しも憧れるものだ。人によっては嫉妬するかもしれない。
だが、のんびりとしたテルパの村の子供達には後者は存在しないようだ。
純粋にエリックが凄い奴だと思っているらしい。
ま、ごっこ遊びのような物だからあまり深く気にしては駄目だ。
「ロディ君はハイジンってジョブで村人よりも弱いんでしょー。僕はねー。勇者になるんだー。そしたらねー、ロディ君を守ってあげるよー」
小さな男の子に廃人って言われた。廃れた人間だもんな、字面的に確かにただの村人よりも弱そうだ。
実際ステータスも低い。
ちょっぴりショック。
こんなあらぬ噂を立てたのはエリックに違いない。
エリックは割と何でも深く考えずに喋る方だからな。よく言えば裏表のない性格という奴だ。
「なぁ、ロディ。突然、俺がいなくなったら寂しいか?」
いなくなる? なんだその冗談?
第一、お前の家はこの村にあるだろ。
「なぁに、ちょっとした冗談だよ。悪い、忘れてくれ。よーし今日は秘密基地行ってダンジョンごっこをするかー。秘密基地に一番でついた奴が勇者役だー。残った奴全員で勇者からダンジョンを死守するぞー、おー!」
「フクロにしちまえー!」
あれ? 勇者イジメじゃないのそれ。俺だったら勇者やりたくない。
ま、参加しない俺が口を出すのも野暮だろう。
エリックはこの村の子供達の所謂リーダー的存在。子供達をぐいぐい引っ張って駆けていった。
「いいのか? 友達なんだろ」
エリックとのやりとりを見ていたのかパッシュが言った。
「エリック達には悪いと思っているよ。でも、今は遊んでいる気分じゃない」
「訓練に行くのか? 水くみ終わったばっかりだろ、少し休んだらどうだ?」
「……今は出来る事をやりたい。何かやってないと落ち着かない」
「そうだな。僕も丁度同じ事を考えていた。ロディ。良かったら僕に剣を教えてくれ」
パッシュが相手してくれるなら素振り以外の練習が出来る。
俺としても願ったり叶ったりの申し出だ。
俺は手頃な木の棒を片手に父さんと訓練をしていた空き地へと向かう。
そして素振りを始めた。
「まずは素振りから始めるといいと思う。棒の重さ、握った感触をまずは体で覚え込むんだ」
パッシュと並んで木の棒をただ無心で振る。
十分くらいするとパッシュが疲れたのかその場でへたり込んだ。
それから更に二十分ほどして。
「いたぞ、魔王だ! ヤッツケロー!」
「わー!」
「とりゃー!」
「フクロにしちまえ~!」
子供の一団が俺に向かって突撃してきた。
流石に木の棒で殴るわけにはいかないので、加減して転ばせておく。
「うわ~、やられたー」
「ぐああああっ。俺の屍を踏んでいけ」
「聖騎士サマー!」
子供達をあらかたあしらったところでエリックが堂々とこちらへ歩いてくる。
どうやら普通に遊びに誘っても俺が応じないのでやり方を変えたようだ。
「フハハハハハ! 我こそは聖騎士エリック。魔王の命もらい受ける!」
エリックは高笑いをしながら言った。どう考えても悪役のそれだ。
エリックは木の棒を構えて俺の前にじっと立つ。
なるほどなるほど。遊びの内容を俺がやっていることに寄せてきたというわけか。
そこまでされたら受けるしかないな。
「勝負方法は?」
「攻撃方法はなんでもあり。先に参ったと言った方が負けだ」
「なるほど、わかりやすい」
かくして、俺とエリックのしょうもない戦いが始まった。