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 お昼過ぎくらいにテルパの村に帰ってきた。

 領主様は今、玄関口で街で起こったことについて母さんと話している。

 俺は領主様の横で俯いたままそれを聞いているだけだ。

 母さんは短く「……そう」と呟いた。

 そして次の瞬間には努めて明るい声でこういった。


 「お腹空いたでしょ。とりあえずご飯にしましょ。レヴァロさんにパッシュくんも食べていきなさいな」


 母さんはそそくさと家の中に入っていくと、キッチンへと立った。

 しかし、小麦粉の入った袋を床に落としたり皿を割ったりと普段はしないようなミスを連発していた。

 

 領主様も母さんも父さんの負傷について俺を責めることはしない。

 だが、明らかに俺のせいだ。少なくとも俺はそう思っている。

 多分両者とも俺に気を使って言わないだけだ。それがかえって俺を居たたまれない気持ちにさせる。

 

 「あら、そろそろお水を汲んでこないと」


 母さんはひしゃくを片手に水瓶の中を覗き込んでいた。

 普段だったらこういったときに真っ先に立ちあがるのが父さんだ。

 基本的に我が家では力仕事は父さんがやっていた。

 母さんは魔法系の天職であるため、身体能力があまり高くない。

 俺もまだ体が未熟なため、家の仕事などは特に与えられてもいなかった。

 父さんはいつも俺の身長ほどもある水瓶を軽く担いで川へと向っていた。

 

 だが、もう我が家に父さんはいない。回復したところでその役割を担うことは出来ないだろう。

 だからその穴を埋めるのは俺しかいない。

 父さんがやっていたことをこれからは俺がやる。

 少なくともそれくらいの責任は持ちたい。


 「では、私が行こう」


 領主様が立ちあがろうとしたのを慌てて俺は制する。

 俺がやるべき事だし、そもそも客人にやって貰うことではない。

  

 「俺が行ってくるよ」


 俺は父さんがしていたみたいに水瓶を担ぎ上げようとする。

 しかし、空の状態の水瓶ですら持ち上げることが出来なかった。

 水瓶は陶器で出来ていて非常に重い。多分、五十キロくらいある。水が中に入った状態だと更に重くなるだろう。持って行けたとしても帰りは無理だ。

 水が入った状態で持ち上げられる父さんのすごさが改めて分かった気がした。


 仕方ないので俺は木桶を持って外へ出る。木製のバケツのような物だ。

 木桶で一度に汲める水の量はお世辞にも多いとは言えない。それを両手に二つずつ持って外へ出た。

 向かう先は村の側を流れる小さな小川。ジャブジャブと木桶を突っ込んでは引き上げる。

 四つとも満タンにしたらひたすら家路を急ぐ。

 急ぐ理由は木桶の形状にある。結局の所、木桶は木材を隙間無く並べて紐できつく縛っただけの物でしかないのだ。継ぎ目のないプラスチックバケツとは違う。

 数歩歩くごとにぽたぽたと水漏れしてしまう。


 俺はふらふらになりながらも家へとたどり着いた。

 水瓶へと向かって木桶の中身をぶちまける。

 最近知ったことだが、この世界では煮沸と言う概念がない。

 川の水をそのまま飲料水として利用している。

 だが、今の所体を壊したりはしていない。また、水を飲んで腹を壊したという話も聞かない。

 この世界の川の水が清潔なのか、はたまた人間そのものが丈夫なのか。

 そもそもウィルス自体がいないのか。

 健康に害がないのならば、別に生水飲んでも良いかと最近は受け入れてしまっている。

 

 母さんが料理を作り終えるまでに都合二度、川と自宅を往復した。

 その結果、我が家にある四本の水瓶の中のたった一本……の更に10分の1ほどだけ水で満たすことが出来た。だけど、これだけじゃ一日分にすら満たない。

 これからは暇を見て毎日水を汲まないといけないな。


 遅めの昼食の席でパッシュの今後について話をする事になった。

 結果、領主様がパッシュの自宅を兼ねた鍛冶工房を立てるまでうちでしばらく預かることになった。

 また、母さんは近日中に父さんの見舞いに行くことも決まった。


 父さんがいなくなったことで変わりゆく生活。

 今まで甘えきっていたことを嫌でも痛感させられる。


 生活が変わったのなら俺自身も変わらなきゃいけない。

 もっとしっかりしないと。

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