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 「出来るだけの処置は施した。後は本人の生きる意思次第だな」

 

 治癒師の男性が言った。四十手前くらいの優しそうな御仁だ。


 街へ戻ると、父さんを見た衛兵が急いで治療院の手配をしてくれた。

 治療院は回復魔法系統のジョブに就いた者がスキルで怪我などを治してくれる施設である。

 前世で言うところの病院に近い。

 そこで治癒師の男性に父さんが治癒スキルの一種であるヒールをかけて貰ったというわけだ。

 

 結論から言うと、やけどを伴った太刀傷と右腕の欠損は治らなかった。

 治癒師の男性が言うには、使ったスキルには傷を塞ぐ程度の効果しか無いらしい。

 中には欠損すら治せるスキルもあるみたいだが、それは伝説級のジョブ出ないと習得できないらしい。

 伝説級。初めて聞いたが上級の上である最上級のそのまた上に位置するらしい。

 勇者や大賢者、神聖者などが相当するようだ。


 パッシュに鍛冶工房の一室を借りてその日は泊まることにした。

 街へ着いて真っ先に鍛冶工房にやって来たため、まだ宿を取ってはいなかったためだ。

 かといって宿を取ろうにも被保護者たる俺は金を持ってなかった。

 父さんは未だ昏睡状態で治療院に預かって貰っている。

 治療院にいる間、結局父さんは目を覚まさなかった。

 落ち込む俺を治療院のおっさんが励ましてくれた。

 治療院のおっさんのジョブは治癒師だそうだが、この街の領主の天職がユニークジョブの医療魔術師らしい。怪我や病気を治すスペシャリストだそうだ。

 この町では重い怪我を負った者や病気を患った者は基本的に領主様が治すらしい。

 しかも無償でだ。

 普通は病気や怪我の治療費は高額と聞く。

 難病の治療薬や医療費はそこらの村人の一生分の稼ぎと同等だったりもする。

 故に平民は怪我しても自然回復という手段を取ることがこの世界ではどうにも一般的なようだ。

 でも、ここの領主はそれを良しとはしない。

 治療費を捻出できず、結果として怪我で働けない人間を出すよりも、無償で怪我を治してしっかり働いて貰って税金を納めてくれた方が将来的に領の発展を考えたときによっぽど良いという考えらしい。

 働けない人間は生きるために物乞いか物取りにでもなるしかないから、治安維持の面を見ても悪くない考えだと言える。

 更に平素の税金も安いこともあってこの街の領主は領民にとても好かれている。もう大人気だ。

 俺も様をつけて呼ばないといけないと思った。

 

 しかし領主様は忙しい。領民が怪我する度に時間を割くわけにも行かない。

 治癒師のおっさんでも治せるような小さな怪我だけ基本的に治癒師のおっさんが治しているようで、治癒師のおっさんの診療所も基本的に無償だそうだ。

 では治癒師のおっさんがどうやって生計を立てているかと言うと、領主の方から運営費が出ているらしい。領主が無償で直すのに治癒師のおっさんが金を取るわけにはいかない。そんな事をすれば治癒師のおっさんが守銭奴に見えてしまう。領民が気軽に怪我の治療が出来て、尚且つ治療院のおっさんも食べていける。恐らくこの辺を考慮しての落としどころなのだろう。

 

 治癒師のおっさんは領主様に任せればきっと治ると言ってくれた。

 領主様は元は平民で、医療スキルによって功を成し後天的に貴族位を得たらしい。

 そうした実績をきくと父さんの事も治して貰えそうな気がしてくる。

 ありがたいことに、後で領主様直々に見て貰えるそうだ。

 

 そしてその日の夕方。

 森へ遠征に行った兵達が一様にボロボロの姿になって帰ってきた。

 事の顛末が知りたかったので俺はパッシュを伴ってその様子を見に行くことにしたのだった。


 領主様らしき顎ひげの男性が自ら街の門に立って兵達の帰りを出迎えた。


 「……で、調査の結果はどうだった」


 兵達の中の一人が代表として答える。


 「はっ。森の中はオークの巣窟でした。それも、恐らく上位であるエルダー種かと」


 「エルダーオークか。大量発生となると最悪エルダー種のキングがいることも想定に入れねばならんか。最早面子にこだわっている場合ではないな。……はぁ、寄り子同士の会合で管理能力の無さを笑われそうな案件だが、領民の安全には変えられまい。よし、冒険者ギルドに早馬を出せ。A級以上の冒険者を急ぎ雇えるだけ雇って迎え入れよ。最悪向こうの提示額で構わん」


 兵達の中で一人が選出され、馬に乗って街の門を出て行く。


 「皆の物、心配することはない。直にこの騒動も収まる。普段と変わらず生活していてくれ」


 領主様らしき男性は穏やかな笑顔で民衆に向かって声をかける。

 領主様が怖そうな人でなくてよかった。


 「領主様。遠征の帰りに領民の亡骸を見つけました。その者は山のように大きなエルダーオークを打ち倒したようなのですが、そこで力を使い果たしてしまったようです」


 「……相打ちか。して、その者の名は分かるか? エルダーオークはそう簡単に打ち倒せるものではない。せめて家族には報償で報いたい」


 「ケルベン工房の店主で間違いないです。我々も装備のメンテナンスで何度も世話になっているので何度も顔を合わせたことがあります」


 「なんだとっ! い、いや…‥そうか。それは……寂しくなるな。ほ、ほら、装備の整備にも困るし、えっと……」


 領主は一瞬動揺したようだが、部下の手前何とか取り繕ったようだ。取り繕えてない気もするけど。

 領主様は急ぎ治療が必要な兵達だけを治療すると、そのまま領主の屋敷のある方向へと戻っていった。



■□□■



 そして、その晩。


 予期せぬ来客があった。


 「夜分にすまないね」


 ケルベン工房を訪れたのはこの街の領主様だった。

 パッシュにこっそり耳打ちして聞いた所、レヴァロと言う名前らしい。

 俺とパッシュは何事だろうと目を見合わせた。

 

 「いや、別に取って食おうというわけじゃない。言ってしまえば私用だ。あんまり警戒しないで貰えると助かる」


「で、でも、領主様がどうしてうちなんかに」


 パッシュがやや動揺した様子で言った。


 「君のお父さんと私は装備の整備に関する取引をしていてね……と、いうのはこの場ではふさわしくない回答だな。今だけは肩書なんか抜きにして友人の死を悼んで訪ねて来ただけのただの一人の男だと思ってほしい」


 「父さんと領主様が友達?」


 「別に隠す事ではないが、私も昔は貴族という肩書など持たない一介の冒険者だったのだよ。男四人でパーティを組んでいてね、ケルベンとはその頃からの付き合いだ。ジェイフにレグダ。思えば彼らとパーティを組んでいたあのころが一番楽しかった。だが、領地を任されてからというもの気苦労の連続しかない。第二の人生を鍛冶師として生き始めたケルベンや、貴族位を貰うこともなく田舎で悠々自適の生活をしているジェイフのやつを何度も羨ましく思ったものさ。もっとも今の状況では羨ましがるという言葉は不謹慎でそぐわないかもしれないがね」


 ジェイフというのがうちの父さん。ケルベンのおっさんがパッシュの父親。そこに領主様を加えるとしてもう一人は誰だろう?


 「すまないな。私がもっとしっかりしていればこんな結果にならなかっただろうに。新参者だと成り上がり者だと寄子会の連中に罵られることよりも、友人の命の方が遙かに大事だったはずなのに。このとおりだ。本当に申し訳なかった!」


 領主様は両手を地面について、深々と頭を下げた。

 突然の事態に頭を下げられた方のパッシュはあわあわしている。


 「パッシュ君。償いといってはあれだが君には将来の希望はあるか? 私は出来るだけの手伝いをさせて欲しいと思っている。君の鍛冶の腕が確かなことは私も知っている。このままこの店を守り続けるならばケルベンに任せていた仕事をそのまま引き継いで貰いたい。ケルベンは腕の確かな職人だった。その穴を埋めるのは最初は難しいかもしれないが、君ならいつかきっとできると私は信じている。勿論報償だって払う。だがもし、まだ荷が重いというならば余所に鍛冶技術を学びに行くのもいいだろう。君にその気があればだが、私の知り合いを当たってみよう。だが、これらは君が鍛冶職人を目指す前提での話だ。君の目標や夢、希望が他にあるならば、それに添う形で善処しよう」


 要は領主様にとってパッシュは友人の息子で、何かしてやりたいとそういう事だろう。

 パッシュには両親がいないから親代わりのような心境なのかもしれない。


 「……まだ、わかりません。これからどうすれば良いのか? どうしたら良いのか?」


 「……そうだな。すまなかった。結論を急ぐ必要はない。時折様子は見に来る。何か希望があれば遠慮無く言って欲しい」


 領主様は再び頭を下げた。

 そして顔をあげると何故か俺を見た。


 「時に君は、ジェイフの息子のロディ君で間違いないかね? 君はジェイフに面差しがよく似ている」


 パッシュを訪ねて来たと思いきや、俺にも話が飛び火したので少しばかり驚いた。

 

 「えっ。はい?」


 「先ほどジェイフの様子を見て来た。魔法薬や医療魔法。方々手を尽くしたのだが、命をつなぐだけで精いっぱいだった。私のスキルは元々、怪我を治すと言うよりも病気を治す方に特化しているんだ。自分の無力さが恨めしいよ。結論を言おう。ジェイフは命を取り止めはしたが以前のような生活は送れないだろう。一部の内臓まで裂傷が届き、更には炭化してしまっている。普通ならば生きているのが不思議なくらいだ。まだ意識は戻らないが、仮に戻ったとしても少なくとも動き回ったり、力仕事は無理だな。彼の今後についてだが、しばらくこの町で身柄を預かろう。テルパにはろくな治療施設もあるまい。なぁに、彼は私の友人だ。害するような真似はしないよ」


 その言葉に嘘はないと思えた。


 「……俺じゃ何もできないから。だから、お願いします」


 「引き受けた。ならば明朝、君のことは村に送ろう。こんな事態になってしまった以上、君のお母さんには事の顛末については私から直接話す。彼女もまた私の古い知り合いであることに違いはないからね」


 「……はい」


 俺は力なく答えた。


 「一応言っておくが今回の件は決して君のせいではない。対処が遅れた我々の方が悪いんだ」


 領主様はそうは言うが、衛兵に森の様子に行かせている以上まだ調査段階だったことは明かだ。

 調査しないことには対処が出来ない。誰だってそうだ。

 現に兵達を森に行かせた後領主様はすぐに次の手を打っている。

 そんな状態の森に近づこうとした俺に落ち度が無いとは言いきれない。


 「ジェイフが大けがを負った。その時点で今回の件は明らかにこの領地内での解決能力を超えている。私の持っている私兵はあまり多いとは言えない。加えて、この地には冒険者はいない。いや、そもそも冒険者ギルドはあまり金にならないような小さな街には誘致したところで支店を出してはくれないんだ。基本的に大貴族の治める領やダンジョンが近くにある迷宮都市くらいにしかない。ジェイフがわざわざ冒険者ギルドも無く稼げもしないこの地に残留しているのはその為なのだよ。彼の故郷やその周囲で何かあったときに駆けつけられるようにね」


 なるほど、初めて聞いた話だな。

 父さんは警備と称して毎日村の周囲を歩き回っているだけの人だと思っていたよ。


「……しかし、病気のケルベンはまだしもS級冒険者のジェイフの奴がそうそうエルダーオークに後れを取るとは思えないのだが。もし、後れを取るようなことがあったのならば今度は国に軍を出して貰わなければいけなくなる。ロディ、大事なことだから一応聞く。ジェイフに何かあったのかい? 無ければ無いでいいんだ」


 ……あ。心当たりはある。


 「父さんは俺の訓練につき合うために、わざと能力を下げてみならい戦士になってたんです。京町に来たのもジョブチェンジのためで。父さんが怪我を負ったのはジョブチェンジの直後だったので、多分レベル1だったんじゃないかと思います」


 「……すまない。正直私は今『良かった』と思ってしまった。S級冒険者ってのは世界中探しても百人いるかどうかなんだ。彼が都合良く近くにいるとは限らない。ジェイフで手が出ないとなると最早頭を抱えるしかないところだったのだ」


 「S級ってそんなにいないんですか?」


 「相当ジョブに恵まれないとなるのは厳しいだろうな。最低でも上級ジョブ。出来れば最上級ジョブが望ましい。だから上級ジョブでもでS級に上がれるのは戦闘センスの塊のような奴だけだな」


 父さんは上級ジョブだから戦闘センスが高いって事なんだろうか? 

 

「冒険者ギルドでは基本的にAランクまでが常識内の強さ。決して突破できない人間最強としての意味合いでA級は用意されている。むしろ、突破できてしまう方がイレギュラーと思ってくれて良い。だから、Sから先は完全に人外の領域。測る側の方が強さの基準を用意できないんだ。とはいってもS級ってのはいわばA級よりも確実に頭一つは抜けているという意味しか無い。つまり、A級から頭が十個抜けてようが百個抜けてようが測りようが無いのさ。最低ラインしか判断基準がない。だから、かろうじてSランクの奴もいれば化け物じみた強さの奴もいる。S級だってだけで強さはひとくくりに出来ないところが難しいところだな。A級までだったらランクでおおよその強さが測れるのだが」


 ……なるほどなぁ。

 領主が俺に父さんの調子について聞いてきた意味が分かった。

 今回の件は完全に人外レベルの領域の話なのか、それとも最強クラスの人間ならどうにか出来るのか。

 確かにこの意味の差は大きい。

 ……だが、それが分かったところでやるせなさが消えないのは事実だ。



 「何度も言うが、ロディ君には責任はない。今回の件は私の責任。もしくはジェイフの判断ミスだ。能力が落ちているにも関わらず自分が動けば何とかなると判断してしまった。いわば彼自身の油断が招いた結果だよ。ロディ君。冒険者に一番大事な事って何かわかるかい?」


 冒険者は戦いに生きる仕事だ。仕事を一杯取るための条件は何か?

 答えは一つしかない。


 「強さだと思います」


 「うん。確かにそれも一つの答えだ。だが、私は違うと思っている。極論、冒険者は弱くてもいいんだ。本当に大事なのは自分が弱い事を知っていると言うこと。冒険者はどのくらいのことまで自分が出来るのかだけきっちり判断できなくちゃいけない。判断した上で危険なことを避ける。出来る事だけやれば良いんだ。この判断が出来ないと、まず生き残れない。ジェイフも十分それを知っているはずだが」


 「……父さんは、俺を庇って……それで」

 

 「……なるほど。すまない。なら、もう少し前向きな話をしよう。エリクシルって魔法薬は知っているかい?」

 「いえ」

 「あらゆる怪我や病気を治せるって記述のある古代の錬金術師が作りあげた魔法薬だよ。錬金術ギルドなんかが躍起になって作ろうとしている薬だ。稀にダンジョンから出現することもある」

 それは知らなかったな。


 「さて、ここでいくつかの可能性が生まれた。この中で君の選べる可能性は大きく分けて三つだろう。一つ、錬金術師を志してエリクシルの開発研究をすること。二つ。ダンジョンに潜ってエリクシルを取ってくること。三つ。大金を稼いでそのどちらかの経路で入手すること」


 ……なるほど。試す価値はある。

 グダグダ悩んでいるよりも挑戦するべきだ。

 レベル上げを繰り返しているうちに、錬金術師のジョブへの道が開けるかもしれない。

 父さんにこの世界にダンジョンがあるって聞いてから、いつかはダンジョンに潜ろうとは思っていた。

 ならばやることは一つしかないじゃないか。

 最も俺らしい手段で行く。


 そう、地道なレベル上げだ。

 

 「これは国内外を牽制する意味で撒かれている類の噂かもしれないため確実な情報とは言いがたいが、ミディア神聖国には聖女がいるって噂もある。どんな怪我や病気を治す秘術を使えるらしい。これによって重篤状態にあった第一王子が持ち直したと聞く。もしかすると、私が知っている情報の他にも何か方法はあるかもしれない」


 俺は責任を取りたい。

 前世の記憶があることを隠したりしている悪い息子だけど、父さんは俺のことをちゃんと愛してくれたと思っている。父さんがこの場にいるのならば俺を怒ったりせず、ただ一言だけ「気にするな」とだけ笑って言うだろう。

 俺は父さんのことを家族だと思っているし、苦しんでいるならどうにかしたい。

 難しい事なのかもしれない。だけど何もせずに手を拱いているほど薄情でもない。


 「パッシュ。頼みがある。俺に剣を打ってくれ。これから先の苦難を切り開くための力をくれ。今はねだるだけで返せる物はない。いつか必ず礼はするから。頼む!」


 「……いいけど。条件がある。オークに襲われたあの時僕は父さんと一緒に死んでもいいとさえ思った。だけどお前が口うるさく言うから死ぬのが怖くなった。一瞬でもまだ死にたくないと思ってしまった。だから、僕は父さんと一緒に朽ちるタイミングを逃したんだ。だからこそ、ロディ。お前には僕を生かした責任を取って貰わなくちゃいけない」


 「は?」


 「分からない奴だな。お前の父さんがわざわざうちに来てるくらいだ。テルパにはロクに鍛冶が出来る奴いないんだろ。お前に剣を作ってやったところで手入れはどうする気だ。折角作ってやるんだから錆びだらけになったら承知しないからな。と、言うわけで領主様。お願いがあります。僕もテルパの村に連れてっては貰えませんか?」


 「……あそこはいい村だよ。ジェイフがあの村に終の棲家を構えた理由がよくわかる。テルパに住んでいる者達は皆おおらかで心優しい。私は忙しくて君を気にかけることは出来ないけれど、事情を知ればあの村の人達はきっと親身になってくれる。そう考えると悪い話ではないかもしれない。ただ、あの村に鍛冶設備は無かったとは思うが」


 「確かになかったですね。でも、なんで無いんですか? 農具とかの修理が出来たら便利なのに」

 

 気になったのでつい口を挟んでしまった。テルパ村では壊れた鉄製農具は一ヶ所に集められて、ある低度の量になるとこの街へと輸送して修理して貰う。


 「それはうちの領内に鉱山がないからだね。一他領から購入した鉱石の類は一度この街へ集められるんだ。そしてそれをこの街で加工してそのまま末端の村に運ぶ。だから村には基本的に鍛冶設備は必要ないんだ」


 「……えっと」


 パッシュが何かを言おうとして口ごもった。

 勢いでテルパに行くと言ってみたものの、そこまで深いところまでは考えていなかったようだ。

 村に鍛冶設備がいらない理由を領主様が語ってしまったので、鍛冶設備を作ってくれとも言い出しにくいような雰囲気だ。

 興味本位でこの話の流れを作ってしまった俺に責任があるのだろう。

 俺が頭の中でどう話を持って行くべきかと考えている間にも領主様が話を続ける。


 「ただ、将来有望な鍛冶職人に投資するとなれば話は別だ。鍛冶設備の手配はこちらでしよう。当然、住む場所も必要になるだろう。君の生き方を君が決めた。その門出の祝いとでも思って欲しい。ケルベンの後釜に関しては、私のツテで何とか優秀な鍛冶師を引き込もうと思う。君は心配しなくて良いよ。その上でもし、将来的にケルベンの跡を継ぎたくなったらいつでも私を訪ねるといい。正直、優秀な鍛冶師は何人でも欲しいんだ」

 

「領主様。何から何までありがとうございます」


 こんなやりとりがあった翌日。

 治療院に預けた父さんを見舞いに行った後、俺はテルパの村の視察という名目で馬車に乗り込んだ領主様に連れられて、パッシュと一緒に自分の生まれ育ったテルパの村へと戻った。

今後の展開を考えた結果、ヒートスラッシュをカーススラッシュに変えました。

投稿後の変更でごめんなさい。

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