表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/22

12

 

 街の外へ出た。父さん達に俺達の無事を知らせるためだ。

 しばらく街の外周を歩き回った後、パッシュに提案してみる。


 「一応、森の手前まで行ってみよう。そこまでに父さん達に出会わなくなったら大人しく帰って待ってよう。今、森は討伐隊が組まれるほど危険な状態にあるらしい。森に入って俺達がなんとかできるとも思えないし、森まで行けばきっと兵達と合流しているだろう」


 「わかった」 


 父さんは俺よりも強いから心配するだけ無駄だと思う。

 今こうしているのも無駄に危険を冒しているだけのような気もするが、今回の騒動の発端は俺達にある以上動かないわけにもいかないのだ。


 しばらく平原を歩いているとグレーウルフが現れた。

 仲間を呼ばれても厄介だ。

 俺は先手必勝とばかりに剣を抜いて駆けだした。


 体が軽い。

 グレーウルフ四体を川で仕留めたことで見習い戦士のレベルが上がっていたのだろうか?

 ステータスの恩恵を改めて実感する。

 六歳にして俺は前世の俺の身体能力を超えてしまった。そんな気がする。

 

 パッシュの打った剣はよく手になじむ。

 訓練で使っていた木の棒に比べると流石に重いが訓練時より今の俺はステータスが高い。

 重さはそれほど気にはならない。

 むしろこの剣、木の棒と違って握りやすくそして振りやすい。

 よって俺は父さんとの訓練の時かそれ以上の実力を発揮できる形となる。


 相手は人間よりも知性で劣る魔物だ。

 攻撃にフェイントはなく直情的。


 と、なればそれほど苦戦する要素もない。


 俺はグレーウルフの突進をワンステップで躱し、そのまま剣を振り抜いた。

 格好良く一撃で首を落としたかったが、そこまで俺の技量はまだ高くはない。

 当たれば御の字と言ったところだ。

 グレーウルフは胸元を斬り裂かれてキャインと鳴いて飛び退いた。

 そこにすかさず俺はだめ押しの一撃を加える。

  

 すると、グレーウルフは体の形状を保てなくなったのか空中に溶け出すようにしてそのまま蒸発してしまった。水中ではよく見えなかったけど、こうなるのか。

 斬られたことで辺りに散った血の跡すらも消えてしまった。

 まるで最初からいなかったように痕跡を残さない。

 どうやら魔物というのは人間とは別の法則で成り立っている存在のようだ。

 少なくともこの世界に墓はあるし、恐らく人間の死体は残るのだろう。


 「おい、ロディ。あれ見ろよ」

 

 森へ向かっていると更に魔物から遭遇した。

 パッシュが指さす方向には緑の肌をした二足歩行の魔物、ゴブリンの集団がいる。

 数は十ほどにもなる。木製の粗末な棍棒や弓などで全員武装している。


 ……流石にこれはまずい。


 そう思い俺は身構えたのだが、ゴブリン達は俺達を一瞥するだけにとどめそのまま走り去っていった。

 多分、森の住処を追われたのだろう。

 一刻も早く森から離れたい。だからこそ俺達を襲う余裕がなかったと見るべきが正解か。


 「引き返そう」


 俺がパッシュに声をかける。

 しかし、パッシュは地面にへたり込んでしまっていた。

 何かを見て腰を抜かしてしまったようだ。


 そしてその視線の先にはブタ頭の魔物の姿があった。

 オーク。父さんの話だとゴブリンよりも大分強いらしい。

 背丈は一般的な大人と同じくらいだが、横幅が広い。

 全身毛むくじゃらな力士のような存在だと思っていい。

 しかし、素手の力士と違って巨大段平を装備している。

 威圧感はその分だけ上乗せされる。


 俺より身長が高いので川に逃げ込む作戦は使えない。

 逆に俺が沈められる。

 そもそもパッシュが腰を抜かしてしまった以上、逃げる選択肢がない。


 ならば、ガチの殺し合いをするしか無い。

 相手の能力は分からないが、恐らくステータス面では勝てない。

 ステータスに記載されない戦闘技術のみで勝負するしかないがどこまで上回れるか。

 とりあえず一匹な事だけが幸いか。 


 覚悟を決めろ。怯んだら死だ。

 ここから先、余分な動作はたった一つで死を招く。

 呼吸すら満足に出来ないと思え。

 集中だ。極限を維持しろ。


 俺は深呼吸をして意識的にゾーンに入る。

 ゾーンと言っても、俺は別に武術やスポーツをやっていたわけではない。

 日課のようにアクションRPGの「初期レベル装備無しプレイ」をやり続けていたらいつの間にか身についていた技能だ。

 ゾーンに入った俺は基本的に敵の動きが遅く見える。

 そして、頭で考えずに指先だけでプレイヤーキャラの行動を決定する。そんな状態だ。

 これによって相手の攻撃を的確に防御や回避で捌いていたのだ。一撃喰らったら則アウト。

 むしろ、これくらい出来ないとその制限内容ではクリア不可能だ。

 何度かプレイ動画をあげたことがあるが『神縛り』という栄誉あるタグを付けて貰った覚えがある。

 

 コントローラーと実際に剣を振るのでは少々勝手は違うだろうが、大丈夫だ。

 俺なら出来る。出来なきゃ死だ。

 

 今の所、俺には攻撃スキルが無い。

 出来るのは通常攻撃のみ。

 

 実は、父さんとの訓練の中で戦闘の基本動作を身につける為に参考したのが俺のやり込んでいたアクションRPG。

 ダッシュ攻撃。通常攻撃1、通常攻撃2、通常攻撃3と知っている限りのキャラを真似して使ってみた。

 そしてそれを俺が使いやすいようにアレンジして現在に到っている。

 その結果として俺が一番お気に入りな基本モーションは無手で棒立ちするスタイル。

 必要なときだけ剣を抜いて使ったら戻すという独特な戦い方をするキャラのモーションだ。

 ゲームでやっていたときも、基本無手なので回避やダッシュ能力が高かった記憶がある。

   

 別にスキルが無いことに別に不安はない。

 ゲームでもスキル無しプレイなんかは何度もやったことがある。

 技の種類が少ないためどうしたってコンボに持って行けない。

 コンボが成立しないと言うことは一度にダメージを奪えないと言うこと。

 戦闘の長期化を意味する。

 その場合、いかにガードと回避を上手く使うかが鍵だ。

 勿論、攻撃時には反撃を喰らわないように相手の動きを正確に見極める必要がある。


 普通、初見では制限プレイはしない。

 相手の行動が読めないと対策が打てないからだ。

 

 だからまず回避に徹しよう。

 相手を見極めて行動パターンを丸裸にしてから反撃を開始する。


 まずは遠距離戦だ。

 ゲームとかで相手の攻撃パターンが変わる最も大きな要因が距離だ。

 遠距離の場合、突進技かエネルギー波のような技を使ってくることが大半だ。

 距離のある攻撃は近接攻撃に比べてどうしたって必要エネルギーが多くなる。

 結果として大技にならざるを得ない。

 発動前に時間を要するタイプか、発動後に反動で動けなるタイプか。

 いずれにせよ大技前後には大体隙が発生すると相場が決まっている。


 俺はじっくりと相手の動向を観察する。


 ブモオオオオオオッ!


 オークは俺を斬り殺そうと、段平を上段に構え肉を揺らしながらどたどた突進してくる。

 段平が当たらなくてもあわよくば轢き殺してやろうという意思が見て取れる。

 

 ま、正直その攻撃パターンは読んでいた。

 当たらなければどうと言うことはないって奴だ。

 


 俺は剣を抜くとオークの突進を正面から待ち受ける。

 

 「……ま、この場合はこれが正解でしょ」


 俺は剣先をオークの横っ腹ギリギリに突きだした状態になるように位置調整する。

 何故剣を横に構えないかというと、横に構えると正面に構えるより力が入りにくいから。

 剣を吹っ飛ばされて終わるのが落ちで一番の悪手だ。

 ならば次にどうして腹の真ん中を突き刺さないかという問題だが、真ん中に刺したら剣が抜けなくなる。剣を諦めなければ突進に引かれてぺしゃんこだ。そこから先丸腰で相対しなければいけなくなる。

 素手じゃ勝ち目がないことくらい明白だ。

 最後に端っこギリギリを狙った場合だが、これは実際にやった方がわかりやすいだろう。


 ブモオオオオオオッ!


 オークがすぐ前に迫っている。まるでダンプを目の前にしたかのような迫力だ。

 オークも俺を真正面に捉えたいのか僅かに弧を描く軌道で方向修正を駆けてくる。

 俺もそれに対応すべく、一歩、二歩と横へ立ち位置をずらす。

 当然、横軸への動きは俺の方が少なくて済む。

 怯んではいけない。怯めば力が抜けてしまい剣を支えきれなくなる。

 俺はオークの左半身に接触するくらいの気持ちでギリギリまで耐える。


 極限までの集中。

 故に俺は見逃さない。 


 オークの段平が僅かにぴくりと動いたのを。 


 ブンガアアアアアアッ!


 オークの咆哮段平を振り降ろすモーション。

 それを横目に俺は同時に地を蹴っていた。

 飛び出すのは左前方。

 しかし、ただ飛び出すだけじゃない。

 同時に突きを繰り出す。


 ドガアアアアアンッ!


 オークの怪力の乗った一撃で地面が抉られ、爆発した。

 はじけ飛んだ砂利土が俺の体に容赦なく襲いかかる。

 ただ、それよりも一寸早く俺の手には確かな感触があった。


 そしてそれをロクに確かめることもしないまま手にしている剣を全身使って横へとねじるように回した。


 ブシュウッ!


 オークがまき散らした鮮血が大地を濡らす。

 俺は血のついた剣をピッと振るった。

 そして剣を今度は正眼に構える。


 相対するのは手負いの魔物。横っ腹が割け腸が顔を覗かせている。

 油断はしない。

 全力で走って俺は距離を取ろうとする。時間を稼げばそれでいい。

 失血し、体力を失ったところを冷静に仕留めるのだ。


 しかし、俺が走るのと同じ分だけ怒り狂ったオークが走って俺を追いかけてくる。

 体が大きい分、オークの方が大股だ。

 足の回転率は俺の方が高いと思うが、それでもオークの方が若干足が速いらしい。

 ぼたぼたと流れ出している出血などお構いなしで短期決着を狙っているようだった。


 「くそっ! やるしかないか!」


 俺は逃げ足を止めてオークと向き合う。

 相手の攻撃を受け止めてはいけない。

 ガードごと潰されて終わりだ。


 ブルアアアアッ!


 オークが滅茶苦茶に段平を振り回す。その軌道には知性を感じない。

 力任せに暴れているだけだ。一番相手にしたくない。


 俺はバックステップで距離を取る。

 オークは滅茶苦茶に段平を振り回したままのしのしと迫ってくる。

 ジリ貧だ。


 どうする? 打てる手はないか?


 辺りをちらりと一瞥して俺は駆けだした。

 走りながら剣をゴルフクラブのように構えて、そしてフルスイング。

 そのスイングで砂利を救い上げてオークの方へと吹っ飛ばした。

 俺がスイングに選んだ場所は先程オークによって爆散され、土が露出した地面。

 俺の筋力だと草ごと地面をひっくり返せないからこうしたのだ。


 「ブモ? ブモオオオオオ!」


 運良く砂利が目に入ったらしい。

 気が逸れたのかオークの段平の動きが一瞬緩慢になった。

 仕掛けるならここしか無い。


 俺はオークが段平を振り降ろし、再び振りかぶる瞬間を見計らって飛び出した。 

 

 そして俺は信じられない物を見た。

 オークがブモモッと嫌らしく笑ったのだ。


 その瞬間オークの段平が黒く染まった。

 刀身は黒い炎で包まれて禍々しい気配を放っている。

 

 

 この超現象は間違いない。スキルだ。恐らくカーススラッシュだろう。

 斬撃に呪いを付与する凶悪な戦闘系スキルだ。

 大剣豪である父さんでも使えなかったスキルだが、話には聞いたことがある。


 スキルによってオークの振り上げていた段平が急加速した。

 この挙動には見覚えがある。パワースラッシュのスキルだ。

 恐らく、カーススラッシュはパワースラッシュの上位か派生技。

 斬撃の速度と威力を爆発的に上げるパワースラッシュ。

 そこに呪い効果が加わったものがカーススラッシュというわけだ。


 あの攻撃をただの剣で受けるは愚の骨頂。豆腐みたいに切り落とされて終わりだ。

 かといって躱すのも不能だ。

 万事休すか?


 「ロディイイイイイイイイッ!」


 これも走馬燈の一種なのだろうか。父さんの声が聞こえた気がする。

 酷く周りの景色がゆっくりだ。


 スローモーションの中、俺はどんっと何かに体を突き飛ばされた。

 現実味が無い。夢の中にいるようにふわふわしている。


 黒い凶刃によって誰かの腕が吹っ飛んでいるのが見える。

 しかしそれはすぐに大きな背中に隠れて見えなくなった。


 「……はぁっ、はぁっ! 今だ! やれえええええええっ!」


 今一度聞こえてきた父さんの声で俺ははっと正気に返った。

 オークの土手っ腹に父さんの愛剣が刺さっている。しかしとどめとまでは行かなかったようだ。


 俺は夢中でオークに向かって剣を突き出した。

 そしてそれが終止符となる。


 オークの体は空中に霧散するように消えていった。支えを失った父さんの剣が落下する。


 苦い終局だった。


 父さんはその場で力尽き頽れる。

 俺は剣を放って駆け寄った。

 俺が見たのは肩口から太ももの辺りまで達する呪いの炎に焼かれた酷いやけどを伴った傷跡と、右腕を失った父さんの姿だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ