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 「ぷはぁ!」


 見覚えのある橋までやって来たので俺は川の中から立ちあがった。

 戦利品である魔物の毛皮もしっかりと持ってきた。

 どこかで売れないだろうか?

 リッチなお小遣い計画を頭の中で立てながらザブザブと川縁まで歩いて岸へと上がる。


 さて、一度父さんのいるケルベン工房に戻りますか。


 

 ケルベン工房の中へとはいると、どんっと何かにぶつかった。


 「いってぇ、今急いでんだよ! どいてくれ」


 パッシュだった。何やら包みのような物を取り落としたようだ。

 思いの外戻ってくるのが早い。痛む足でかなり急いでくれたのだろう。


 「何を急いでいるんだ?」


 「お前には関係……あれ? ロディ。なんで? 生きてるんだよな? 化けて出たわけじゃないよな?」


 「狼なら倒したぞ。これがその証拠だ」


 俺は魔物の毛皮を自慢げに見せつける。


 「……はぁ!? 嘘だろ! お前素手だったじゃんか」


 パッシュは驚愕していた。

 そして倒し方を聞いてきたので、武器がないから川に沈めたと正直に答えておいた。

 

 「なぁ、パッシュ。この毛皮とかって売れないか?」


 「ああ、それなら防具屋に持って行った方が良いんじゃないかな。うちは武器しか取り扱ってないし。それ、武器の素材にはあまり向かないけど、防具の素材としては結構いいんじゃないかな。父さんに聞かないと詳しい値段まで分からないけど……あっ」


 「どうした?」


 「父さん達、街の外へ出たらしいんだ。俺達が街を出ていったことを聞いたらしい」


 「入れ違いか?」


 「父さんが出てったの衛兵達が出て行っちゃった後だったみたいから。どうしようかと思ってて。そしたらお前が帰ってくるから。父さんあの体でどうする気なんだろ。昔は冒険者もやってたらしいけど」


 うちの父さんも万全というわけでもない。

 今は天職の大剣豪ではなく見習い戦士のはずだ。それもレベル1。

 う~ん、どうしようか。

 ジョブチェンジってそう簡単には行えないみたいなんだよなぁ。

 一回ジョブチェンジしたら最低七日のインターバルが必要だと老司祭が言ってたっけ。

 神さまに誓いを立てて今後の生き方を変えるという物がジョブチェンジだ。 

 頻繁にジョブを変えすぎるのは神の怒りを買うとかなんとか。

 あまり早すぎるチェンジは神さまに嘘をついたことになる。


 だから父さんが大剣豪にジョブを戻したとは考えにくい。

 俺達が街の近辺にいなくて、森まで行く事は大いに考えられる。

 森には今危険な魔物がいると聞く。最下級のレベル1だと少しばかり心配だ。

 俺が行ったところで戦力にならない。

 それでも一応無事だったことくらいは報告しておきたい。

 こういう時携帯がないのは不便だなぁ。


 パッシュは見るからに不安そうだ。病気である父が心配なのだろう。


 「追いつけるかもしれないし、ちょっと行って連れ戻してくるよ。危なそうだったら引き返してくるさ」


 「お前、血が出てるぞ。無理すんなよ。僕が行ってくる」


 そういやそうだったな。かすり傷ばかりとは言えグレーウルフに引っかかれまくった。

 服もビショビショだ。


 「パッシュ。足は?」


 「良いからお前は休んでろ。僕は回復ポーション飲んだからもう大丈夫だ」


 ああ、それなら平気か。足を捻ったくらいなら問題なく直るだろう。骨折なら怪しいが。

 回復ポーションはたちまち傷を治すことの出来る魔法薬の一種。

 魔法薬とは薬師や錬金術師などのジョブに就くとスキルで作れるようになるアイテム群だ。

 魔法薬はとても有用な代物なので王侯貴族から末端の村人に至るまで、ほぼ全ての人間が死ぬまでの間に何度もお世話になることだろう。

 特になじみ深いのが回復ポーション。

 低級の物であれば割とどの家にも常備されている。

 経年劣化はするが、置いておくと非常に安心感が得られる。そんな代物だ。


 俺も父さんとの訓練で結構きつい一撃を貰ったときに何度か世話になった。

 逆に回復ポーションがあるからこそ、遠慮無くきついしごきを受けたとも言える。

 魔物狩りをメイン業務とする冒険者などは余程突発的なことが無い限りは常に持ち歩いた方が良いだろう。回復薬は基本的に瓶に入っており、瓶を衝撃から保護するための専用鞄なども売られているようだ。

 早めに入手しておきたい。俺の目的のためにも必要だ。 

 

 「お前も飲んでおけよ」


 パッシュが渡してくれたのは回復ポーション。

 ポーションにはいくつかランクがあるみたいだが、今の俺には見分けがつかない。

 低級の物は本当に気休め程度の回復だし、最高級の物なら失った腕とかも生えてくるらしい。

 これに関しては値段もピンキリだ。

 量を飲めば安いポーションでもいいと思われるかもしれないが、それはちょっと違うらしい。

 ポーション系の薬品は基本的に一日に飲んでも大丈夫な量だけ一瓶に入っている。

 そういう法律のような決まりがあるらしい。

 それ以上は副作用を起こして反って逆効果なようだ。

 また、種類が違うポーションの飲み合わせも基本的にタブーだ。

 組み合わせによっては毒になることがある。

 よってポーションの摂取量は日に一種類のみで一瓶だけとなる。


 このポーションを飲んだら次はしばらく飲めないとそういうわけだ。

 何もゲームみたいに丸一本飲み干さないといけないルールなどは存在しない。

 正しい飲み方としては怪我が治るところまでポーションを飲めば良いと言うことだろう。

 高級ポーションなら一瓶を何回にも分けて飲むことが出来る。

 日に何度でも怪我を治せるというのは冒険者にとっては大事なことだ。

 それ以上の稼ぎが見込めるならば、大金払っても買う。

 だからこそ値段が高くなる。

 

 大した怪我ではないが、有り難く頂いておくことにする。


 ポーションを半分ほど飲んだところであらかたの傷が塞がった。

 重症を負ったら一本では治しきれそうにないくらいの回復量なので、それなりの品質だったということだろう。

 余談だけど、大人と子供の服薬量が違うと嫌なので俺は基本的に半分以上は飲まないようにしている。

 前世でも市販の風邪薬とか見ると大体子供は大人の半量なんだよね。それを参考にした。

 なので、もし一日で怪我が治らなかったら翌日に残り半分のポーションを飲むことで対応している。

 

 「パッシュ。何でも言いから武器を貸してくれ。木の棒よりマシなら良いぞ」 


 パッシュは手元にあった包みをぶっきらぼうに投げ渡した。

 それってあれだよな? 

 例の奴。


 「大事な物なんじゃないのか?」


 「……貸すだけだからな。どうせ僕はロクに武器を使えない。壊れたら直せば良い。ロディお前が使ってくれ」


 パッシュに着替えを借りるとケルベン工房を後にした。


 さっきと違って武器がある事は非常に大きい。

 パッシュの方は自分で打った失敗作を持ったようだ。

 ケルベンのおっさんが一ミリ重心がずれていると言っていたあれだ。


 「別に俺が失敗作の方でも良かったんだけどな」


 その失敗作ですら金を払っても欲しい。これは紛れもない本心だ。


 「僕が持って行くのは最低限の自衛のためだから。ロディ、グレーウルフを倒せるくらいだ。お前は僕と違って最低限は戦えるだろ?」


 どうやら少しは俺のことを認めてくれたようだ。


 「オーケー。そういう事ならバッチリ前衛は任せておけ」


 グレーウルフから入手した毛皮を天日干しにして、俺とパッシュは再び街を出た。


 ……どうでも良いけどこの街は門番を変えた方が良いと思う。

 鎧を着ているせいもあるのだろうが、俺達を捕まえられないくらいに足が遅い。


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