唐突な手のひらクルー
右ポケットにはパンツ。後方には出口。前方には『社会的な死』がある。
(こういう時はさっさと逃げて後で返しに来るのが吉と見た!)
俺はそう考えて早々に帰ろうとした。
「ありがとうな、この後は鑑定スキルを持つ人のところで自分のスキルを教えてもらえばいいんだろ?それじゃあ行ってくるわ。またな。」
と聖女に言って出口へ向かおうとすると
「そんなに楽しみなのですか。それなら私が見て差し上げますよ。」
聖女からとんでもないありがた迷惑が飛んできた。
「ええと⋯⋯。」
困り果てクランネに助けを求めるように視線を向けると彼女は俯きながら震えていた。
(使えねー!)
「こちらへ来てください。はい、お手を失礼しますね。」
そう言って聖女は俺の手をとると
「『真眼』⋯⋯はい、結果が出ましたね。貴方のスキルは⋯⋯『逃亡』??初めてみるスキルですね、おそらく珍しいスキルですよ。」
と、興味深いことをいったので一旦、危険物のことは忘れて、スキルについて聞いてみることにした。
「『逃亡』だって?どんな内容なんだ?」
「えーと、逃げる時の成功率アップ⋯⋯ですね。特にそれ以外は読み取れませんでした。安全に冒険が出来るという点では良かったのではないでしょうか。剣術や体術スキルは後からでも修練次第で取れますしね。」
「そうか、それにしても君は鑑定スキルを持ってたんだな。驚いた。」
「正確にはちょっと違うんですよ。私のスキルは『真眼』といって、触れた対象を鑑定できるのと、心を少しだけ読むこともできます。ふふっ、特別にちょっとだけクランネの心を読んでみましょうか。」
「あ!ちょっ⋯⋯」
待って、という前に彼女はイタズラっぽくほほ笑みクランネの手に触れてしまった。
「『真眼』⋯⋯ええっと?
『まずいですぅ。まずいですぅ。まずいですぅ。バレないように頑張ってください!シオンさん!その右ポケットの危険物を持って即刻立ち去るのですぅ。』⋯⋯なんですか?危険物って。」
絶望に染まったようなクランネと怪訝な表情をする聖女。
「お、終わったですぅ。」
クランネがポツリとそうこぼした。
聖女はクランネの心を読み取ると、警戒するようにこちらを見てきた。
「い、いやぁ、大したものではないんだ。あはは、気にしないでいいぞ。」
「そんな訳にはまいりません。もしあなたが道を間違えようとしているなら正すのも聖女の役目です。ほら、見せてください!」
そう言った聖女がシオンのポケットへ手を伸ばす。が、シオンもその手を払い巧みに応戦する。
「待ってくれ誤解なんだ!」
「誤解も何もそのポケットの中を見せてから説明してください!」
するとクランネが何か思いついたように手を叩き、シオンの耳元で提案をしてきた。
「シオンさん、シオンさん、とってもいい考えが浮かびましたぁ!ちょっとわたしに任せてくれませんかぁ?」
聖女の攻勢が激しくなってきたので、俺はクランネの策とやらに望みを託すことにした。
「わかった。頑張れ!」
「はいですぅ。」
そう言ってクランネはガッツポーズをして聖女へと呼びかけた。
「聖女様!」
「なんですかクランネ。貴女は彼のポケットの中身を知っているようですね。」
「はい、その、実はわたしの失態をシオンさんが庇ってくれていてぇ⋯⋯」
(まさか正直に話すのか?)
そう疑問に思いつつ成り行きを見守る俺。
「失態とは?話してみなさい。」
「はい⋯⋯実は⋯⋯わたしが仕事中に隠れて食べていたお菓子をシオンさんに預かってもらっていて⋯⋯。」
(何を言っているんだ?まさか嘘で押し通すつもりか?)
「そうなのですか。それは本当ですか?シオンさん。」
そう聖女に聞かれたので思わず俺は
「は、はい。」
と答えてしまった。
「そういうことでしたか。クランネ、確かに仕事中にお菓子を食べることは褒められたことではありません。ですので注意はしますが、流石にそれだけで私は怒ったり罰したりはしませんよ。」
「はうぅ⋯⋯ごめんなさい。」
「正直に話せて結構です。ですが念の為ポケットの中を確認してもらっても?」
「はいぃ。了解しましたぁ。」
そう言って近づいてくるクランネはにっこりとしている。ここから何か策があるのかなと考えクランネを見ていると
「それでは、シオンさん。預かってもらっていたお菓子返してもらいますね。」
そう言っておもむろに俺の右ポケットに手を突っ込みパンツを取り出した。
瞬間、解決へ向かうかのように流れていた空気が凍りつく。俺が唖然としてクランネを見ると彼女は少しだけ申し訳なさそうな顔をしてから
「きゃぁぁぁぁ!!!なんですかぁ!これはぁ!!へ、変態!変態ですぅ!」
と叫んだ。
「は?」
まさか・・・・・・まさか・・・・・・
「聖女様!助けてください。この人変態ですぅ!こんなものを持ってましたぁ!」
「え⋯⋯これは前に無くなった私の、その⋯パ、パン⋯⋯。」
こちらを見る聖女の顔がみるみる怒りに染まる。
そう、俺、『神王』ことシオンは
裏切られたァァァァァァァァ!!!!!
まさかの唐突な共犯者の裏切りにより最大の窮地に立たされた。
くるー!