セイクリッドパンツ
セイクリッドぉぉぉ
「スキル授与ですか?ええと、貴方は成人なさってますよね?」
「あぁ⋯⋯そうなんだが。」
そう言って俺はシンオー教についての説明と、ここで口論をしていた経緯を話した。
「なるほど、わかりました。それでこの教会を訪れた、というわけですね。」
「怪しいですぅ!怪しすぎますぅ!聖女様!こんな人追い出しましょうよぉ!」
「クランネ、いったん静かにしてください。それに先ほどの争いは仕事中に寝ていた貴女が悪いですよ。」
「あうぅ⋯⋯。」
「それでは祝福に参りましょうシオンさん。申し遅れましたが、わたしはルナ=リンデリアと申します。まだまだ学ぶべきことはたくさんありますが、白女神教の聖女の役職を頂いています。」
そう言って聖女はにこやかに一礼した。
「よろしくな。」
「はい。よろしくお願いしますね。ではさっそく⋯⋯今の時間は第3儀式室しか空いていませんね。ではそこで祝福の儀を行いましょう。」
そう聖女が言うと、クランネの肩がビクリと震えた。不振に思い俺がこっそりと訳を訊ねると
「ま、まずいですぅ。第3儀式室は、普段は年に1回の成人の儀の時しか使わないんですよぉ。それでですねぇ⋯⋯その時以外はわたしのお昼寝する時のお部屋にしちゃってましてぇ⋯⋯その、散らかっちゃってるんです。」
「お前ほんとうに聖職者かよ⋯⋯。」
「どうしましょう⋯⋯怒られちゃいますぅ⋯⋯。」
「はぁ、仕方ねえなぁ。時間稼いでやるから片付けてこいよ。」
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!シオンさん良い人でしたぁ。」
そう言ってパタパタと駆けてゆく彼女。それを呆れつつ見届けるとシオンは聖女へと向き直った。
「あぁ、ちょっと待ってくれ。その⋯⋯なんだ、聖女の仕事の『神託が受ける』ってのが気になるんだ、よければ教えてくれないか?」
「ええ。構いませんよ。では私の話も交えて。」
「あぁ、ありがとう。」
「まずですね。白女神教における『聖女』とはご存知の通り『神託』を聞くことの出来る存在ですね。これは理由はわかりませんがどの時代も決まって3人居るそうなんです。」
「そうなのか、ちなみに君はいつから『聖女』になったんだい?」
「わたしが神託を初めて聞いたのは12歳の頃ですね。田舎の村に住んでいたのですが、ある日突然、白女神フレミア様のお声が聞けるようになって。」
「どんな内容だったんだ?」
「一週間後に故郷の村近くの川が大雨によって氾濫する、という内容でした。それを村長に伝えて村のみんなに避難してもらったところ、本当に川が氾濫して。」
「それで神託を聞けることが認められたと。」
「ええ、その後はアルアーラ王都の教皇様のもとで、白女神教の教えを学びまして。16歳の成人の儀とともに正式に『聖女』となりました。」
「12歳で故郷から離れて寂しくなかったのか?」
「はじめはとても不安でしたけれども、白女神教の皆さんはとても良くしてくれましたし、『聖女』の生まれた村として故郷は国から手厚く保護されることになりましたし、嬉しさの方が大きいですよ。」
「年下とは思えないほど良く出来ているなぁ。」
「ふふふ、ありがとうございます。」
「それで、神託ってのはどんな感じに下りるんだ?」
「頭の中に白女神様が直接語りかけてくる感じですね。同じようなことを思念のスキルでもできますが、女神様からの言葉は『神気』をまとっているので間違えません。あ、『神気』ってわかりますか?」
もちろんわかる、人間の魔力の神様版みたいなものだ。当たり前だが俺も使える。
「ああ、わかるよ神様の魔力みたいなもんだろ?」
「ええだいたいそれであってますね。」
ふと横を見ると廊下の方からクランネがニコニコと手を振っているのが見えたので俺は話を切り上げた。
「ありがとう、とても興味深い内容だったよ。」
「そう言ってもらえると幸いです。では祝福の儀へと改めて参りましょう。」
途中、合流したクランネに耳打ちをする
「おい、間に合ったか?」
「はい何とか間に合いましたぁ!ありがとうございますぅ。お礼に片付けを頑張った私へケーキを奢る権利をあげましょう!」
「そんなもんいらんわ。調子に乗るんじゃない。」
「なんでですかぁ!町に行くと男の方たちで、誰がわたしにケーキを奢るかで揉め合いになるんですよぉ!」
「はいはい。」
こいつぽわーんとして人懐っこいし勘違いさせられた男は多そうだなぁ。
「つきました、ここが第3儀式室です。どうぞお入りください。」
そう聖女に声をかけられ俺は部屋の中を見た。
中は簡素な作りの部屋であったが、正面奥に一つの女神像があった。
「では女神様の手前で頭を下げ手を組み祈ってください。」
言われるままに進み女神像のもとで頭をたれた。
神王たる俺が一女神に対して頭を下げるだなんて、これがバレたら天界で大問題になるだろうなぁ。
俺がそう思いつつ祈りを捧げていると女神像の元に何か白い布が落ちているのが見えた。聖女は目を閉じ何か祈りの言葉を唱えているので、俺はその布を手元に手繰り寄せてみた。
その純白の布は滑らかな手触りで細やかなレースの模様が編み込まれていた。布には3箇所に穴があり丁度足を入れると、装着することが可能なようにみえた。つまるところそれは
パンツであった。
いや待て!おかしい!なんでこんなもんがここにある!!!
そう思いこの部屋を片付けたクランネを見ると、のほほんとした顔をしてこちらを見ているので、その布を見せてやった。
すると一度目を見開いた後にみるみると顔が青ざめていった。声には出さず口の動きだけで
「こ れ は な ん だ ?」
と、問うとクランネから同じように口の動きで
「パ ン ツ ですぅ。」
との返答が帰ってきた。
「と り あ え ず 元 の 位 置 に 戻 す ぞ。」
「だ め で すぅ。怒 ら れ ち ゃ い ますぅ。」
「知 ら ん !!!」
「後 生 ですぅ。そ れ 聖 女 さ ま の な ん ですぅ。」
「な ん で お 前 が 持 っ て い た !?」
「前 に 着 替 え る の が 面 倒 で洗 濯 物 の 中 の 聖 女 様 の や つ を 勝 手 に は い た ん ですぅ。 で も で も、聖 女 様 に な く な っ た パ ン ツ の こ と を 聞 か れ た 時、盗 ま れ た んじ ゃ な い か っ て す っ と ぼ け た ら、め ち ゃ め ち ゃ 怒 っ て た の で 返 せ な く な っ た ん で すぅ。」
「自 業 自 得 。」
最後にそう言って元の場所にパンツを戻そうとした時。
「はい、お疲れ様です。無事に祝福の儀は終わりましたよ。」
と、聖女に声をかけられ慌ててシオンは自分の上着のポケットへパンツを突っ込んだ。
「どうかされましたか?」
「い、いや何でもない!それよりスキル授与は終わったのか!!どんなスキルか楽しみだな!!!」
「ええ、鑑定スキルを持つ人の所へ行けばすぐにわかりますよ。」
「そうか!ありがとう!」
はてさて、彼はこの危険物をバレずに処理することが出来るのか?
パンツぅぅぅ