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神様が仕事を放棄して下界に降ります  作者: 三宮 琳
第一章〜ヒズミルの町の残念な人たち〜
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ゴッド ミーツ ホーリーガール

投稿投稿!

 アルアーラ王国。人間界の中心部に位置し由緒正しい王族や貴族達が政治を行っている国である。


 また国民のほとんどが信仰の強さに差異はあれども国教である『白女神教』の信徒であることでも有名である。


『白女神教』とは慈愛を司る女神フレミアの教えを信仰する宗教であり、アルアーラ王国を中心に世界でもっとも信者の多い宗教とされている。


 白女神教には神託を聞くことのできる『聖女』という存在がおり、現在は『アルアーラ王都』、アルアーラ王国の冒険者の町『ヒズミル』、クラッシア教主国の天と地を繋ぐ聖地『ソーツ』にて活動している。


 入国制限のある『クラッシア教主国』の『ソーツ』以外の、アルアーラ王国にある二都市には、聖女から祝福や成人の儀を受けるために数多くの信徒が訪れる。


 もしアルアーラ王国へ来ることがあれば教会に寄ってみるといいだろう。


 「へぇ⋯⋯白女神に聖女ねぇ。」


 と、読んでいたアルアーラ王国に関する情報誌を懐にしまい、シオンこと俺はベンチから立ち上がった。


何だか面白そうだな、せっかく協会に行くのだから聖女とやらも見てみたい。


 ちなみに俺の現在の服装はギルドにいた時の、高貴な服ではなく、平民たちの多くが身につける簡素なズボンと上着であった。


 ただの旅人、冒険者である。というには余りにも不釣り合いな服であったので、適当な店に売り払いこれからの生活の足しと様々な情報を手に入れるための本に当てたのだ。


ちなみに買った本は『アルアーラ王国のすゝめ』、『冒険者指南〜初心者編〜』、『魔物大図鑑』である。


基本に堅実に行きたいしな!


 彼は冒険者へとなるために教会でスキルを授かる祝福の儀を受けなければならなかった。しかし、俺にはひとつの懸念があった。


 「もし、その白女神さんとやらが『神王城』にコネがあるくらい偉い神だったらどうしよう。確実に居場所がバレちゃうよなぁ⋯⋯。」


休暇ライフ初っ端からつまづくのはご遠慮したい!


 実のところ『神王城』に立ち入れるような神は数多いる神々の中でも限られており、『神王』と顔を合わせた事のある神はほんのひと握りだった。


 人間界のみを本拠地として『宗教』という形で信仰を得る神は神格のあまり高くない下級神と呼ばれるものがほとんどであった。


 神王城で彼を追いかけ回していた兵士たちは実は神々の中のエリートである上級神だったのだ。


 「まあ下級神であれば俺の名前を知っていても顔は知らないはずだし。もし上級神であれば即刻逃げればいいか。」


 などと楽観的なことを呟き、俺はそのまま教会へと向かった。















 教会にて


 ヒズミル教会、その最奥の部屋にある女神像。それに向かって手を組み一心に祈りを捧げる16、7歳ほどの少女の姿があった。


 白く美しい髪に、見るもの全てを癒す優しげで整った顔立ち。


 彼女こそ神託を聞くことの出来る『聖女』。ヒズミルの聖女『ルナ=リンデリア』。



 彼女は組んでいた手を解くと不思議な面持ちになり首を傾げた。


 「こんな神託ははじめてです。

『貴女にとても良い出会いと、とても悪い出来事が一緒に起こります。その具体的な内容は白女神の力を持ってしても不明です。』だなんて⋯⋯。いつもの神託はもっと細かな内容までわかるんですが⋯⋯。」


 そう呟くと、再度目を閉じ祈りを捧げ始めた。











 「教会はここか。何も起きずに済んでくれると助かるんだがな⋯⋯。どうも嫌な予感しかしないぞ。」


 教会へ到着した俺は何故か感じる不安と共に、その中へと足を踏み入れた。こういう勘ってよく当たるよね。すると


 「zzz⋯⋯だめですぅ。もう食べられ⋯⋯ません。えぇ!捨てちゃうんですかぁ?⋯⋯そんなもったいないことはいけません!私がぁ⋯⋯持って帰りますのでぇ⋯⋯zzz⋯⋯。」


 受付へと突っ伏して、盛大にヨダレを垂らしながら寝言を言っているシスターがいた。


 「あの⋯⋯もしもし?」


 「むぅー。デザートもあるんですかぁ?⋯⋯でもでも⋯⋯これ以上食べたらわたし太っちゃいますぅ⋯⋯。」


起きない。


 「おーい、起きてください。祝福の儀を受けたいんですが⋯⋯」


 「⋯⋯食べなかったら作った人が救われない。ですか?⋯⋯そ、それもそうですねぇ!⋯⋯えぇ、シェフの方を『お救い』するためにも食べなきゃですねぇ⋯⋯仕方なく⋯⋯仕方なくですからねぇ。」


 「⋯⋯起きてくれよ!おい!」


 と言ってシオンがそのシスターを揺さぶった。でも起きない。


 「やぁーですぅ!⋯⋯このケーキはわたしが『お救い』するんですぅ!⋯⋯きっと⋯⋯このケーキもそれを望んで⋯⋯ふぎゃあっ!!」


 「起きろっつってんだろうが!」


 幸せそうに頬を緩ませているその顔にデコピン(神の力ちょい入り)を1発。するとそのシスターは寝ぼけた目を擦り、ムクリと起き上がって赤くなった額を擦った。


 「ふぇ⋯⋯あれ?⋯⋯わたしのケーキは!?そこのあなた!!わたしのケーキは知りませんか?」


 「知らん!それより受付をしてくれ。」


 「受付?そんなことよりわたしのケーキです!返してください!返してくださいー!」


 「寝ぼけてんのか阿呆!それは夢の中の出来事だよ!」


 「夢?⋯⋯あっ⋯⋯そういえばわたし仕事中でしたぁ。そこのあなた、わたしは眠っていたわけではありませんからねぇ!ちょっとです。ちょっとだけ長く目を閉じていただけなんですからぁ。」


 と言って正気に戻ったシスター。しかしその頬には突っ伏していた跡がくっきりと残り、寝癖もつき、さらには机にヨダレの跡まであった。


 「はやくヨダレ拭いて受付してくれ!」


 「なっ⋯⋯女の子に向かってデリカシーがないですぅ!女の子はヨダレなんてたらしません!!」


 「じゃあお前は人外だな。ほら早くしろ。」


 「ひどいですぅ!わたしだってちゃんとした女の子なんですからぁ!」


 そういって頬を膨らまし怒る彼女。確かに透き通るような水色の髪とシスターの修道服の下にたわわに実った二つの豊満な果実はこれでもかと女性を象徴していたが、そこは無限の時間を生きてきた神王様。下心よりも早急な受付を求めた。


 ほんのほんの少しだけ彼女の胸部に見蕩れていたことなんて無いからな!⋯⋯。


 そして、くだらない口論をしている2人に近づく人物が1人。


 「シスタークランネ。どうかされたのですか?それとそこのお方、ようこそヒズミル教会へ。本日のご用件は?」


 「せ、聖女さまぁ〜!聞いてくださいぃ!この人がぁ。」


 「クランネ、後にしていただけますか?」


 「ふぇ⋯⋯はいぃ。わかりましたぁ。」


 「君が聖女様なのか。俺は冒険者⋯⋯になる予定のシオンという。スキル授与の祝福を受けたくて来たんだが。」


 ヒズミルの町にて『神王』と『聖女』が出会った。

ケーキぃぃぃ

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