そうだ 人間界、行こう。
皆様こんにちは、神王です。今、俺が何をしているかというと⋯⋯
100人近い兵士たちから追いかけ回されています。
まさか⋯⋯まさか調理室の前で兵士たち全員の作戦会議が行われているとは思わなかったんだ!
「待てや王様ぁ!」
「大人しく捕まれやぁ!」
「逃がさんぞ!くらえっ。」
そう荒々しく声をあげながら神王を追いかける兵士たち。最後の者に至っては武器を投げつける始末であった。
「お前ら、宰相の命令とは言え俺を敬わなさすぎじゃないか?あと最後のやつは許さん!覚えてろよぉ!」
そう言いつつ必死に俺は逃げる。なんか小物の悪役みたい。
「お前らの給料、そのうち2パーセントカットしてやるからな!」
どうだっ!恐ろしいだろう!
「な、なんだと。」
「なんて卑劣な手段だ。」
「俺たちの手に負えん、応援を呼ぼう」
「一時撤退、一時撤退だぁ!」
あいつらも中々に小物だったな、神王城ほんとうに大丈夫かー?
「なんとか逃げきれたか。でも応援を呼ぶとか言ってたな。⋯⋯と不味い、また誰か来たみたいだ。」
そう言って俺は近くの小部屋へ隠れ、近づいてきた誰かの様子を扉越しに伺う。
俺の城なのになんでこんなにコソコソしなければならんのだ。
「ねえ豊穣神ちゃん。このお城の騒ぎはなんなの?」
「なんか神王様が逃げ出したって聞いたわ。転生神ちゃん。」
「あら、それは大変ね。でも神王様もあんなに仕事してたら嫌になっちゃう時もあるわよね。」
「転生神ちゃんが同情するなんて珍しいわね。何か良いことでもあった?」
「そう!良いことがあったの!最近人間界のある子を勇者に転生させてみたんだけどね?その子がとっても格好いいの!成長を見守るのがとっても楽しみだわ!」
「あらあらそれは良かったわね。それにしても勇者クンかー。もし機会があったら私にも紹介してね。」
「ええ、もちろん。貴女も楽しみにしていて。」
そう言って二つの足音が彼の隠れている部屋から遠ざかっていった。
「勇者⋯⋯転生⋯⋯人間界ねぇ。」
そう俺は呟き考えた。
無計画に城から逃げ出そうとしてみたが、このままではすぐに見つかり追い回されるであろう。ならばいっそ、人間界に下ってみるのはどうか?と。
都合のいいことに、人間界はあまり多くの神が関わることを良しとしない世界であった。よって追手の数も限られる。
「うん。人間界⋯⋯ありだな!」
こうして俺の人間界行きが決定した。
「さて、人間界に行くにもまずこの城から脱出しないとな。どうしたものか。」
と、少し策を巡らせてから。俺は何かを思いついたようにニヤリと微笑んだ。
「そうだな。人間界に行きさえすれば多くの神は追ってこれないんだ。ここは派手に脱出してやろう。」
そう言うと俺は部屋から廊下へ出て、さらに城の壁近くへ立つ。
「元々ここは俺の家なんだ。なら家主の俺が壊して問題ないだろ。うん。」
そう呟き俺は城の壁を
思い切り吹き飛ばした。
ドカァァァンと轟音を立てて崩れ落ちる城の壁。
この圧倒的な力こそが神々たちに王と認めさせる要因の大きな一つであった。⋯⋯いや力だけじゃなくて人柄もだったと信じたい⋯⋯信じたい!
「何の音だ!」
「向こうから聞こえてきたぞ。」
「あっ!神王様が居るぞ。あそこだ!」
音につられて様子を見に来た兵士たち。そんな彼らに向けて俺は高らかにこう言った。
「はははっ!ざまぁ見ろ!俺を敬わないからこうなるんだ!これより俺は長期休暇のため人間界に下る。せいぜい俺の抜けた穴を埋めるため、必死に働くといいさ!」
その一言を聞き兵士たちはザワザワと騒ぎ始める。
「人間界だって?」
「何でまたそんな所に。天界の方がいい暮らし出来るのになぁ。」
「やはり神王様の考えることはわからん。」
そんな兵士たちを他所に、俺は穴の空いた壁から大きく飛び立った。
「ではな!おそらく1000年後くらいには帰ってくるだろう。俺の休暇を邪魔する奴は許さんと宰相にでも伝えておけ!」
よし、決まったぜ!
兵士たちはしばらく彼が飛び立った城の壁穴を見ていた。
「本当に行ってしまわれたなぁ。」
「この『神王城』はどうなってしまうのやら。」
「それにここの壁の修復も大変そうだ。天界の民にはどう説明するのだ。」
「おい、何やら神王様の飛び立った後に手紙があるぞ。」
そう言って1人の兵士が手紙を拾い上げた。
「なになに?
(お城の壁の修繕費は俺のポケットマネーから持っていっていいので、どうか⋯⋯どうか俺の弟と妹には俺が壁を壊したことを秘密にしておいてください。どうにか取り繕ってくれると嬉しいな!)
だってよ。」
き、決まらなかったぜ!
場所変わって天界と人間界を繋ぐ転移門
俺は久しく感じていなかった未知への希望とともに門へと飛び込む。
「よし、ここから俺の自由な生活が始まるんだ!この身一つで旅に出る不安はあるが、まあ何とかなるだろ!行くぜっ!」
やがて転移門が光に包まれ、その場所に神王の姿はなくなった。
人間界に新たな神が下りるのは数百年ぶり。
しかもその下るという神が、王たる神『神王』であれば、これから起こる波乱万丈は誰にも予想できない。
彼は人間界にてどのような生き様を見せてくれるのか。
神すら知りえない物語が今、紡がれ始めた。