お前ら騙しやがったな!
初投稿!
天界。
遥か空の上にある神々の世界。
その中でもひときわ大きな建造物。
神々を統べる者『神王』が住まう『神王城』にて。
その事件は起きていた。
「やっぱりだ!やっぱり逃げやがったぁ!」
「チクショウ!」
「監視役は何をしてたんだ!」
「見事に全員眠らされていたそうです。」
「まだそんなに遠くに行ってはいないはずですわ。」
「城内をアリ一匹通さないようにしろ!」
悪態をつきながら城内を駆け回る兵士たち。怒りで顔を真っ赤にする宰相。その大臣を恐れビクビクと冷や汗をかきながら必死にその人物を探し回るメイドたち。
無論全員神である。
世界でもっとも神聖な場所とされる『神王城』。
そこに勤めることが出来るというのが、神にとって史上最高の栄誉とされるその城は
人探しのため大混乱におちいっていた。
「神王様はどこだぁぁぁぁぁ!!!」
「よし行ったか。」
俺はそう呟き残飯の山の中から顔を出す。
ここは城の食材を扱う調理室、その食材廃棄場。
なぜこんな所にいるかって?追われてて必死だったからだよ!そう、俺こそが噂の逃げ出した神王さまなのでした。
ちなみに追われてる時なんで調理室になんか居たかというと逃げているうちに腹が減っていて何か食べものが欲しかった。のだが、探しに来たメイドが調理室に入ってきたのであわててゴミ箱の中に隠れたのだ。
『神王の力』!とかで適当に食物を作ることも出来るには出来るのだが、天界のルールで勝手に天界のものを創造するのは禁止されている。
王様がルール破るのはいけないよな!
そう誰に言うわけでもなく心の中で状況を語り、調理室の鏡の前で残飯にまみれた残念な身だしなみを整える。
黒髪黒目、顔立ちはまあ恵まれているほうだろう。が、クマがひどい。いやいくらでも顔の造形は弄れるんだけどね?自分ルールでそれはしないようにしている。
だが年齢はとりあえずは18歳の青年くらいの見た目で固定している。
いやなんかイイじゃん?18歳!どっかの世界の、ピンク色の暖簾をくぐるとドキドキできる様な気分になるんだよね!
と、そんなくだらない独り言を呟き、俺はここに至るまでの経緯を思い返した。
数日前
「なぁ宰相よ。」
仕事をしていた俺は宰相に話しかける。
「なんでしょうか?王よ。」
「今までずっと黙ってきたのだが俺の仕事って多すぎやしないか?」
「なっ、そ、そんな事は無いでしょう」
「他の神を見てるとなぁ⋯⋯どうも俺の半分も仕事が無いように見えるんだが?」
「それはですね、やはり王というものはその姿勢で民を率いるものでありましてですね。えぇ。必然的に多くの仕事が割り振られる訳でして⋯⋯」
「(怪しいなぁ)そういうものか」
「えぇ、そうですとも!弟君様や妹君様は王よりも多く働いていますし!そういうものなのです!」
取り繕ったように理由を並べる宰相を見て俺は一つの結論に至ったのだった。もしかして自分は騙されて過剰な量の仕事をしてるんじゃないか?と。
「ここの所デスクワークばっかりだしなー、偶には城から出て体を動かす仕事もしたいんだが。」
「外に出る仕事でしたら、遠方で仕事をしている上級神たちの激励、などでしょうか?」
「お、それいいじゃないか。」
「ただし私たちが作った原稿を完璧に覚えていただき、完璧な王として振舞って頂きますが。」
何それ面倒くさそう!
「いや、やっぱりいいや。」
そう言って俺は首を振った。
「まあとりあえずこの辺で今日の仕事は終わりだな。宰相、おつかれ。」
「はい、お疲れ様でした。」
その一言で、この日の執務は終わった。
そしてその日の深夜。俺が眠る前に一杯の酒を飲もうと調理室へ忍び込もうとする道中のことであった。
「あれ?こんな時間に会議室に電気がついてるな⋯⋯あれは宰相か?こんな遅くまで頑張ってるなんて。どれ、労ってやろうじゃないか。」
そう言って会議室へ入ろうとしたところ、中の会話が聞こえてきた。
「おい財務大臣よ、まずいかもしれない。」
「どうした?宰相殿よ。」
「今日、王がな、自分の仕事が多いと気づき始めたらしい素振りを見せたんだ。」
「それは本当か?せっかく今まで上手く言いくるめて、かなりの量の仕事を処理してもらってたんだが、それは確かにまずいな。」
「だろう?何かいい策はないものか。」
「みんなで王を適当に褒めてみたらどうだ?あの王は単純な人だからな。きっといい気分になって張り切ってくれるさ。」
「そうか。やってみる価値はありそうだな。」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯まじかよ。やっぱり騙されてたんかい!と言うか俺って部下に舐められすぎじゃないか?
俺はそっと会議室の扉から離れ、そのまま自室へと戻った。
「よくもやってくれたな!あいつらめ!どうにかして仕返してやる!」
ほんとに許すまじ!
そう言った俺は具体的な方法を思案した。
「そうだ、あいつら俺にかなりの量の仕事を当てたって言ってたな。俺が急にいなくなったらわりと大変なんじゃないか?」
ちなみに割とどころではなく大問題であったことをこの時の俺は知らなかった。
「よし、ここから居なくなってやろう。今まで働いた分の長期休暇だ。」
そう言って俺は寝所に入りこれから起こる先行き不明の脱走への希望とともに目を閉じた。
そして脱走当日
案の定、部下たちからの賞賛を受けて、俺は気を良くしたふりをしていた。
「なあ宰相よ、俺の自室に仕事の書類を忘れてきてしまってな。小間使いを俺の部屋に入れるわけにもいかないので、取ってきてはくれないか?」
「(仕事に乗り気ということは、どうやら作戦は上手くいったようですね)わかりました、少々お待ちください。」
そう言って俺は執務室から出ていった。
「よし、脱走計画を遂行しよう。警備の者には悪いが眠ってもらうか。」
そして物語は冒頭へ至るのであった。
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